人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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駄々っ子

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「…そんなに、惜しんでくださるとは。…エヴ様、私はエヴ様に求婚を願う所存です。お慕い申し上げます」
「へ、」
顔を上げたエヴに、愛してますと恥ずかしそうに呟く。
「成長されても泣き虫なところも、愛情深いところもずっと好ましく思っておりました。側に置くのなら夫として選んでいただきたく思います」
柔らかな眼差しで見つめる。
「…では、父にそう伝えよう」
「はい。私の方からもご報告に上がりたいと思います」
「ヤン、おい、」
「悪い、ダリウス。私が一番口うるさかったのに。あとは頼む」
戸惑うダリウスに頭を下げた。
「エヴ、おいで」
ロバート殿が目をさ迷わせ狼狽えるエヴの手を引いて立ち上がらせると、ダリウスが追うように飛び出して二人の前で頭を下げた。
「お、俺は、」
頭を下げたまま、ぎゅっと絨毯の毛足を握りしめた。
「俺は、エヴ様はグリーブスの番だから、諦めて、仕えるだけのつもり、でした。お側にいられるなら、それでいいと、」
大きな体格を縮ませ肩を震わせる。
「でも許されるなら、結婚のお許しを、
エヴ様に男として選ばれたいっ。そのために側仕えを外れろというなら俺も!」
視線が定まらずぽやっとするエヴと考え込むロバート殿に見つめられてお願いしますと声を上擦らせながら叫んだ。
「分かった。二人とも話は伝えるが期待はするな。エヴはグリーブスの番でもある」
その様子にふう、とため息が出た。
予測できなかったわけではない。
いずれとは思っていた。
自分の突発的な行動に刺激されてこうも二人が変わるとは。 
「い、いやだぁぁぁ!や、ヤンとダリウスに、き、嫌われたぁぁ!うわああん!」
いきなり激しく号泣するエヴに皆でぎょっとする。
「エヴ?違うよ?二人とも、エヴを愛してるから、」
「だったらなんで、離れるの!好きなら一緒にいるんでしょ?!ずっと一緒がいい!」
地団駄を踏んで怒鳴るのを呆気に取られて見ていると先に正気づいたヤンが声をかけた。
「副官は続けますから。警護も。身の回りのお世話を辞めるだけです」 
「自分で出来るもん!一緒にいたいから自分でしてたんだもん!大好きだもん!」
「エヴ、二人ともプロポーズをしているんだ。好きだから誰か一人を伴侶に選んでほしいと願ってる。二人が主従を越えて婚姻を求めるなら外して距離を取らないと、」
「結婚なんかしない!なんで一人を選ばなきゃいけないの?!やだやだ!」
結婚なんか嫌だとわんわん泣くエヴを眺めてロバート殿に視線を向けた。
「…どういう結婚観を教育したんですか?」
「…母に一任してます。…父も私も携わっていません」
途方に暮れた様子のロバート殿が片手で額を覆って上を見上げた。
「…ロバート様、エヴ様はだだをこねているだけです。分かってらっしゃいます」
こめかみを揉みながらヤンが呟くと、エヴがきっと睨む。
「違う!」
「いいえ、ご結婚とは旦那様と奥様とのように睦まじく暮らすこととよく分かってらっしゃるでしょう?ご自分でもそう仰っていた」
「ずっと皆といる。いやだ」
「それは子どものうちです。年頃の女性となられたら男女お二人で家庭を築いて、」
「結婚したってお母様みたいに、他の人みたいに子ども出来ないもん!最初から分かってるのに何で私が結婚するの?!意味ない!ヤンは意味があるの?!ダリウスも!団長も!お兄様も!分かってるの?!」
厭う理由が分かりヤンがはっと固まった。
きつい眼差しで私達の顔を一瞥する。
「エヴ、結婚はそれだけじゃないよ?父も私も好いた者と添い遂げればいいと思ってる」
「俺は、エヴ様が好きです。すごく。それだけじゃだめですか?」
「…私も子を成せなくても、夫婦ふたりで共に過ごしたいと思っています。それだけでは、いけませんか?」
周囲の気遣う態度にも首を振って頑なさは崩れない。
むしろ反抗的に目を吊り上げて歯噛みしている。
「私は最初からずっと出来ないって気にしなきゃならないの?なんで私なの?」
「怪我や病気で出来ないと分かってる者もいる。夫婦のあり方はそれぞれだ」
そう言うと回りも同意に首を揺らす。
「それはよそのことでしょう?!守護持ちの私の話をしてるの!だからなんで私なの?意味ないのに。貴族だから?お金があるから?16と年が若いから?物知らずで扱いやすい?それともこれ?胸が大きいなら楽しめるんでしょ?もう服脱がせて好きに触ったよね。楽しかった?そんなに気に入ったの?立派ですもんね。私より大きい人中々いないし。ああ、団長は番だからですよね?誰でもいい。結婚しますか?いいですよ?好きにすれば?」
ロバート殿がポンポン出てくる言葉に圧倒されて二の句を継げずにいる。
私は半笑いの投げやりな態度に眉をひそめた。
「断る」
驚く四人の眼差しを見返した。
断るなど思わなかったようで柳眉に亀裂を入れたエヴが訝しげに睨む。
「なんでですか?」
「番だから、と言ったな」
「番なんでしょ。間違ってない」
「その捨て鉢な態度が気に入らない。今は番だから愛してるだけじゃない。子どもっぽいくせに背伸びしようとするところも周囲を愛する優しさも、濡れた紫の瞳と滑る黒髪も好きだ。泣くのも笑うのも、全てだ。番じゃなくても心が動いたと思うほど。なのにあなたはどうでもいいという態度で私の想いを馬鹿にしてる。番だから誰でもいいと思ってる」
軽く見るなと一瞥するとびくっと肩をすくませて戸惑った。
「それにあなたも自身を傷つけている。形ばかりの婚姻だけでもしたい。だが番が傷つくようなことはしたくない。そのくらい好きだ。自分の望みよりあなたが幸せであることが大事だ」
ぴしゃりと言い捨てたら顔をくしゃくしゃと歪めた。
目に溜まった涙がこぼれる。
本当なら、このまま諾と答えたい。
だが、今の投げやりな気持ちで婚姻を進めてもこの笑顔が消えそうで恐ろしい。
それが嫌だ。
「番には服従する。趣向や性格の不一致で意に染まなくとも逆らえない。ここまで好ましい相手だったことに感謝している。努力家なあなたとお育てしたご家族、仕える彼らにも。あなたは周囲への感謝と愛が深いから彼らもあなたを愛した。そうは思えないか?」
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