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土産
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扉を叩くとしばらくしてから戸が開いた。
「オオ…オー…」
「やぁ、ククノチ」
「オオオオ…」
魔導師長の身の回りを世話する使い魔。
手の形に掘った枝で器用にもドアノブを回して、表面は全てごつごつの木肌をしている。
空洞のふたつの目が私の腰より下から見上げて大きな口から風鳴りの返事をしている。
当初、木だから無口なのかと思っていたのに、空洞の音に慣れれば独特な風のイントネーションでよく話す。
今も、いらっしゃい、元気か、手土産はなんだ、と矢継ぎ早に問う。
主人そっくりのおしゃべりだ。
後ろを振り返ったので箱を持ったままあとに続く。
頭の大振りな葉をゆさゆさと左右に繁らせながら、土のついた根をもぞもぞとうねらせて歩いている。
山で気に入る苗木を探して鉢に移して持ち帰り、何年も魔力を注いで育てたそうだ。
薄暗い虚ろな穴から風が低く通るだけで普通の会話は出来ない。
中に入ると魔導師長がおられないのでまだラウル達の治療中だと察した。
慣れたもので勝手にテーブルへ箱を置いて中身を並べる。
「ククノチ、グラスを頼んでいいか?」
ごおごおと風の音で返事が聞こえた。
慣れたとはいえ聞き取りづらい。
「ククノチ?グラスを頼みたいんだが、おい?」
耳をパタパタさせながら聞いていたら、自分でやれと返ってきて手が止まった。
声の方を向くと、部屋の隅に置かれた大きな鉢の中に根を潜らせて背を向けて知らんふりだった。
気に入った土産がなかったからだろう。
「今回は悪いな」
がさがさと繁みが返事がわりに揺れた。
かなり不機嫌な様子に苦笑いをして、ならばと調理場に向かう。
「はああ?グリーブス様、そんなもんをどうされるんですか?」
料理番に欲しいものを2つ頼むと呆れた声が隣り合わせの使用人ホールにまで響いた。
「少しでいい。どちらもひと握りほど。友人に渡す」
「はぁ、変わった人ですね。そのご友人は。生ゴミなんか欲しがるなんて」
人族ではないからと答えると不思議そうにしながらも納得し、奥に引っ込んで支度する。
興味を持った団員らからも尋ねられて、ククノチが来てると言うとうちの者は納得し、クレインの者は首を捻った。
団員同士で問いかける声が聞こえる。
「どなたっすか?その人」
「人じゃないんだよ、魔導師長の木の使い魔でククノチってのがいるんだ」
「き?きってなんだ?森とか林の木か?」
ホールのあちらこちらからそんな会話が広まっていく。
料理番から皿に盛られたそれを受け取ってホールを出ると、遠くから女性の悲鳴が響いた。
回りが総立ちになり走っていく。
声の方向は二階の客間。
魔導師長の部屋の方向からだった。
「…まあ、初見なら驚くか」
人が溢れた階段を抜けて二階の賑わう通路に差し掛かると腰を抜かしたご婦人を背負った若い団員が通りすぎていった。
部屋の前にはジェラルド伯やエヴ達も集まってククノチを囲んで口々になんだこれはと戸惑いを隠せずにいる。
人波を掻き分けていくとククノチを知るうちの団員らが説明をしているのが見えた。
その側には通路に置かれたままのカートと、その上に湯気の立つ食事と水差しが載せられていた。
やはり食事を運んで部屋のククノチに驚いて叫んだようだ。
「伯よ、申し訳ない!」
奥から急いで走ってきたのは魔導師長だった。
「私の使い魔です」
「噂の、手ずからお育てになったという、」
この子ですか、とジェラルド伯が問うと魔導師長は嬉しそうにこの子ですと返す。
エヴはククノチの前にしゃがんで初めましてと挨拶をする。
「ヒムド、出てきて。挨拶してくれる?」
にゅっと髪と首の隙間から顔を出してひと声鳴くと降りてククノチの幹に身体を擦る。
「レディ?使い魔を使役されるのですか?人族と聞いておりましたが、」
「いえ、ラウルから預かってます」
ここに、とうなじを片手で触れて場所を示す。
「ほおお?ほおおお?」
目を丸めて何度も頷いて声は梟のようだ。
「魔導師長」
声をかけると皆が振り返って私を見た。
「やあ、カリッド。すまないね、また騒ぎを起こして」
隣のジェラルド伯へ視線を向けると苦笑いに頷いて気にした風はない。
「私共は見慣れていたのでお知らせを怠ってしまいました。ジェラルド伯、申し訳ない」
「いえ、驚きましたが珍しい使い魔と会えて、私共はいい経験となりました」
会話をしていると、ククノチが私のもとに寄ってきて手の皿を欲しがる。
渡すとスキップしながら部屋に戻る。
「何ですか?先程渡したのは」
「砕いた骨と油粕です。ククノチの好物なので渡すといつも自分で土に混ぜます」
ジェラルド伯とエヴが二人並んで扉から鉢の土を混ぜるククノチの背中を見つめた。
その隙間から他の者も背伸びしたり屈んだりと覗いて興味津々の様子。
「可愛いですね、お父様」
「そうだな。植物もああやって感情を表現すると興味深い」
「オオ…オー…」
「やぁ、ククノチ」
「オオオオ…」
魔導師長の身の回りを世話する使い魔。
手の形に掘った枝で器用にもドアノブを回して、表面は全てごつごつの木肌をしている。
空洞のふたつの目が私の腰より下から見上げて大きな口から風鳴りの返事をしている。
当初、木だから無口なのかと思っていたのに、空洞の音に慣れれば独特な風のイントネーションでよく話す。
今も、いらっしゃい、元気か、手土産はなんだ、と矢継ぎ早に問う。
主人そっくりのおしゃべりだ。
後ろを振り返ったので箱を持ったままあとに続く。
頭の大振りな葉をゆさゆさと左右に繁らせながら、土のついた根をもぞもぞとうねらせて歩いている。
山で気に入る苗木を探して鉢に移して持ち帰り、何年も魔力を注いで育てたそうだ。
薄暗い虚ろな穴から風が低く通るだけで普通の会話は出来ない。
中に入ると魔導師長がおられないのでまだラウル達の治療中だと察した。
慣れたもので勝手にテーブルへ箱を置いて中身を並べる。
「ククノチ、グラスを頼んでいいか?」
ごおごおと風の音で返事が聞こえた。
慣れたとはいえ聞き取りづらい。
「ククノチ?グラスを頼みたいんだが、おい?」
耳をパタパタさせながら聞いていたら、自分でやれと返ってきて手が止まった。
声の方を向くと、部屋の隅に置かれた大きな鉢の中に根を潜らせて背を向けて知らんふりだった。
気に入った土産がなかったからだろう。
「今回は悪いな」
がさがさと繁みが返事がわりに揺れた。
かなり不機嫌な様子に苦笑いをして、ならばと調理場に向かう。
「はああ?グリーブス様、そんなもんをどうされるんですか?」
料理番に欲しいものを2つ頼むと呆れた声が隣り合わせの使用人ホールにまで響いた。
「少しでいい。どちらもひと握りほど。友人に渡す」
「はぁ、変わった人ですね。そのご友人は。生ゴミなんか欲しがるなんて」
人族ではないからと答えると不思議そうにしながらも納得し、奥に引っ込んで支度する。
興味を持った団員らからも尋ねられて、ククノチが来てると言うとうちの者は納得し、クレインの者は首を捻った。
団員同士で問いかける声が聞こえる。
「どなたっすか?その人」
「人じゃないんだよ、魔導師長の木の使い魔でククノチってのがいるんだ」
「き?きってなんだ?森とか林の木か?」
ホールのあちらこちらからそんな会話が広まっていく。
料理番から皿に盛られたそれを受け取ってホールを出ると、遠くから女性の悲鳴が響いた。
回りが総立ちになり走っていく。
声の方向は二階の客間。
魔導師長の部屋の方向からだった。
「…まあ、初見なら驚くか」
人が溢れた階段を抜けて二階の賑わう通路に差し掛かると腰を抜かしたご婦人を背負った若い団員が通りすぎていった。
部屋の前にはジェラルド伯やエヴ達も集まってククノチを囲んで口々になんだこれはと戸惑いを隠せずにいる。
人波を掻き分けていくとククノチを知るうちの団員らが説明をしているのが見えた。
その側には通路に置かれたままのカートと、その上に湯気の立つ食事と水差しが載せられていた。
やはり食事を運んで部屋のククノチに驚いて叫んだようだ。
「伯よ、申し訳ない!」
奥から急いで走ってきたのは魔導師長だった。
「私の使い魔です」
「噂の、手ずからお育てになったという、」
この子ですか、とジェラルド伯が問うと魔導師長は嬉しそうにこの子ですと返す。
エヴはククノチの前にしゃがんで初めましてと挨拶をする。
「ヒムド、出てきて。挨拶してくれる?」
にゅっと髪と首の隙間から顔を出してひと声鳴くと降りてククノチの幹に身体を擦る。
「レディ?使い魔を使役されるのですか?人族と聞いておりましたが、」
「いえ、ラウルから預かってます」
ここに、とうなじを片手で触れて場所を示す。
「ほおお?ほおおお?」
目を丸めて何度も頷いて声は梟のようだ。
「魔導師長」
声をかけると皆が振り返って私を見た。
「やあ、カリッド。すまないね、また騒ぎを起こして」
隣のジェラルド伯へ視線を向けると苦笑いに頷いて気にした風はない。
「私共は見慣れていたのでお知らせを怠ってしまいました。ジェラルド伯、申し訳ない」
「いえ、驚きましたが珍しい使い魔と会えて、私共はいい経験となりました」
会話をしていると、ククノチが私のもとに寄ってきて手の皿を欲しがる。
渡すとスキップしながら部屋に戻る。
「何ですか?先程渡したのは」
「砕いた骨と油粕です。ククノチの好物なので渡すといつも自分で土に混ぜます」
ジェラルド伯とエヴが二人並んで扉から鉢の土を混ぜるククノチの背中を見つめた。
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