人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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惚れ薬

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「で、番のレディとはどう?式はいつ?もちろん招待してくれるよね?」
王都とクレインの両方だよね、どちらも出たいと喜んでいた。
余程クレインを気に入ってようだ。
しかし私が答える宛もなく黙っていると気遣いを見せる。
「まさか、慣例破り?昔は何度かあったけど今時珍しい。最後は、いつだっけ?」
「…40年ぶりかと、最後の慣例破りからは、それも末端の男爵家から相手は伯爵家の既婚女性です。時間はかかりましたが、最後は共に過ごしてます」
誤魔化すように食事を口に運ぶ。
「ふうん」
そう言うと、魔導師長は卓の中央に置いたワインを取って自分のグラスへ注いだ。
「惚れ薬か魅了をかけてやろうか?」
「いえ、必要ありません」
犯罪だろうが、何を言い出したんだと内心の忌避から顔をしかめて魔導師長を睨むと肩をすくめた。
「固いね。昔はよく頼まれた」
「…まさか、うちの者が?」
「200年ほど昔ね、何人か」
あの手この手を使うのは知っていたが、まさかそんな方法まで使っていたのか。
「禁止される前だし、問題ないよ。それに手っ取り早い」
「今は問題しかありません」
「大したことないよ。君の命にも関わる」
「嘘や偽りは精霊の加護がなくなるのでは?」
犯罪も同じ類いだろうに。
「精霊の判断は曖昧だ。人間の法律とは違う。それに許可を取ればいいだけだよ。陛下と伯から。国一番の剣豪で忠誠心も厚い君の命が陛下直属の辺境伯令嬢1人なら釣り合う」
「…彼女も有力者です。王命に異を唱えることが出来るほどの」
「しかも相手は別にいるからね。使い魔の証を受け取ってるから無理にでも何かするしかないよ」
「使い魔の証?何ですか?それは」
「首に使い魔を預かってる。あれは使い魔を操る種族にとって恋人や妻へ送る愛情表現だよ。特に首への付与は命を捧げるって意味がある。レディが受け取ったってことはそれに答えるって意味だ。エルフもウィッカーも、血が薄れた今は使い魔を扱いこなせなくなったし、廃れてやる者は少ないけど。彼、相当やるねぇ。うちにほしいよ」
あの、岡惚れが。
こっそりそんなことをしていたのかと眉をひそめて歯噛みに口からぐう、と唸り声がこぼれた。
「…エヴも、ジェラルド伯もご存じないでしょう。…許す筈がない」
「なぜ?」
「エヴの豪腕を理由に、グリーブスの栄誉を反故にしています。本人の意思に委ねると。もしエヴがラウルを認めているならジェラルド伯が受け入れるはずです」
「ふーん、…あむ、もぐ、」
二人黙々と食事を進めると、魔導師長が私のグラスへとワインを傾けたのでグラスを向けて中身を受け取る。
「かもね。かなり古い儀式だ。彼は知ってそうだけどね」
「…どうも」
ワインの礼を述べて続けて飲む姿をじっと見つめて何か考え込んでいる。
「伴侶選びはレディ次第なわけか。だからレディに細工してあげると言ってるのに。意地を張るねぇ。こうやって、簡単だ」
短く何かを呟くと私の飲んでいたワインが薄く光り、味が変わったので急いで口を離す。
少し飲んだそれをテーブルナフキンに吐き出し、向かいの魔導師長を睨むと顎に手をついて考え込んでいる。
「うーん、久々だと上手くいかないか。発光をどうにかしないと仕掛けにくい」
食事と共に置かれた水差しを片手にうがいをし、窓から吐き捨てる。
「何したんですか?」
「即席の惚れ薬」
口内がすっきりしてから問うと、当たり前に答える。
「…まさか、見た者をか?目の前にあんたがいるのに?馬鹿か?」
「人狼には大して効かないから大丈夫。少し気分が高陽するくらい。以前、大公が退位される直前に頼まれて飲ませたけどやっぱり効果なかった」
「ふざけるな!そんなことしてたのか!」
「うん」
「くそが!」
しれっと答える魔導師長に腹が立って思わず壁を殴る。
ヒビが入ってポロポロと崩れて穴が空いた。
「効かなかったからいいだろう?」
「効いたらどうするんだ!?」
「効くわけない。分かってたから仕掛けた」
何か短く呟くと棚から新しいグラスがふよふよと飛んで来る。
浮いているグラスを乱暴に受け取って水差しから水を注いでテーブルに戻る。
「穴を開けてもらうと困るよ。借りてるだけなのに」
指をさしてまた短く呟くとぴしぴしと軋み音を立てながら壁の穴が修復していく。
「…あんたはふざけすぎだ」
「若いころの態度に戻ったねぇ。懐かしいなぁ。10年?20年前かな?反抗期で可愛かった」
「…親戚面で笑うな」
10代のころは若さから突っ張って態度が悪かった。
そのことをからかわれて眉をひそめる。
「ふ、ふふ」
にんまりと笑って鼻の眼鏡を軽く押し上げた。
「伯のご息女にも効くか怪しいけどね。伯にも効かなかった」
「は?」
「そっちは先々代の陛下の命令でね。大公のお父上。末の王女が当時の伯に恋をされて、人柄と能力の高さから婚姻の打診を出した。なのに、貴族籍を抜けても望まれるなら結婚してもいいって断ったんだよ。もう、皆びっくりだよ?理由を尋ねたら、クレインは魔獣が多い。前線を引くようなことがあればすぐに籍を抜けて次の者へ統主は譲る、妻には身体が千切れて顔がつぶれようと構わず側にいる者と結婚すると堂々と宣言していた。あんな尊大で情熱的な男、初めて見た」
彼を射止めた奥方を見たいとはしゃぐ。
「情熱的なのは分かりましたが、惚れ薬が効かないというのは?」
「それね。無理にでも諾と言わせようと伯にこっそり飲ませて魅了をかけたのに全く。彼は本当に人族かい?鬼や竜の、神族の加護があるのは見えるけど、そういう類いを跳ね返す力はないのに」
「見えるんですか?」
「見えるよ。私は精霊との親和性が高い最高のウィッカーだから。伯の側に鬼神の霊体、ご子息とご令嬢には龍神。お三方の側をうろうろして過ごされる。特に以前、一服盛った私がいるから気が立ってらっしゃる。謝ったけどまだ無理みたいだね。それにしても、クレイン家で神体を祀ってるのかと思ったけどそれもない。単純に地脈が濃いだけ。この地は不思議だね」
エヴ達の能力の発現や血筋ということは感づいていなさそうだ。
そうだとしても、この調子だと研究対象としか見なさないかもしれない。
「神族の霊体に許されていないのに、またエヴにも仕掛けるつもりだったんですか?」
「だから伯の許可を得ればいいって言ったんだよ。それなら大丈夫。試すだけでもやりたい。全員が効かないなら血筋だ。原因を知りたい。ご子息にも協力願いたい」
アホな魔導師長に呆れる。
他にもウィッカーの知り合いがいるが、ここまで身分や都合を無視した魔術馬鹿はいない。
「…袈裟斬りにされる覚悟で伯にお話になったらどうですか?」
「そのつもりだ。レディの件を絡めてるんだから、カリッドが取りなしてくれ。君にも利があるんだから」
「絶対嫌ですよ!」
「強情だなぁ。仕方ない」
諦めたのかと思ったら違った。
「直接頼む」
手に白い鳥を作って直ぐ様跳ばした。
慌てて立ち上がって追うが、壁をすり抜けてしまう。
魔導師長の鳥は多種多様な特別仕様で壁や夜などの障害は関係ない。
壁に張り付いたまま振り返って叫ぶ。
「どこに飛ばした!?」
「伯へお願い申し上げた」
「まさか私まで巻き込んだのか?!何と伝えた?!このっ、くそじじぃ!」
私が頼んだように伝えたかもしれない。
扉に飛び付いてノブを回すが開かない。
「開けろ!」
「あーごめん、ごめん。閉めてたんだった。急かされると開けづらいなぁ。そんなガチャガチャ回したら鍵が開かないよ」
「嘘つけ!」
「私は嘘つかないよ?昼間、聞いたろ?」
息を荒げたまま手を離して待つが、いつまでも開けない。
「開けてやるとは言ってない」
「性格くそだ」
「そんなの求めてるのかい?回復の白魔法も得意だが、私の根本は黒のウィッカーだよ?狂乱のサバト好き。レディは処女の良い匂いがする。サバトの生け贄に似合いそうなレディが欲に溺れるのを見たい。直接乱れた姿を見れなくても、性欲旺盛な人狼相手に花開く変化を見たい。処女と情欲の混ざった匂いが楽しみだ」
にたりと笑う顔に腹が立つ。
下品な内容なのに年寄りとはいえ整った顔から清々しさを醸し出していた。
ひとつ、深く呼吸を整える。
ウィッカーであることを考えれば、性格が悪いことも若く美しい処女を好むのも分かる。
「そんなことさせるわけないだろう。しかも守護持ちだ」
「知ってる。報告来てるからね。君と二人、祭壇で乱れたらさぞ壮観だろう。出来るなら今年、私の開くサバトにお招きしたいくらい。しかし残念。露出趣味のない君だから無理そうだね。それに守護持ちだから破瓜の血は妙薬にもなるのに得られないとはねぇ。あれほどの高魔力の血だからとても惜しい」
至極残念そうに何度も頷いて食べてしまった空の食器を横に避けるとテーブルに並べて置いていたガラス瓶を手に取って中身を摘まんでいる。
「旨いな、これ」
ぽりぽりと噛んでにっこりと笑った。
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