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睦まじい
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「お、おう、相変わらず、元気か?」
「ん、イグナスも?」
ニコニコと笑って背の低いイグナスに答えた。
「は、話がしたい。時間はあるか?」
「ない。またね」
「…分かったよ」
素っ気なく背を向けてまた仕事に戻る。
イグナスがしょんぼりと小さく答えるとアグネリアが顔を振り向かせた。
岡惚れかと周囲は失笑を堪えて二人の会話に耳を側立てていた。
たっぷりの髭を蓄えた丸太体格のドワーフと女性にしては秀麗な顔立ち、べっこう肌の肉体美を見せる背の高い鬼人だ。
でこぼこさに回りの注目が集まった。
「…イグナス?どうかした?…あっ、ごめんっ。イグナス。ん、」
落ち込む顔に気づくと何やら慌てて腰を屈めた。
何事かと思ったら胸の高さにあるイグナスの頬にキスをした。
回りは目が点になった。
「い、イグナスの、つ、妻なのにごめん。また、冷たかった?」
コツンと音を立てておでこ同士を当てている。
不安げな声にイグナスはデレッと目尻を下げてアグネリアの背中に手を回してさすった。
「いい、いいんだ。君が俺の妻ってだけであり得ないほどの幸運なんだ。今だって信じられなくて緊張するほどだぜ?邪魔はしないよ。仕事に戻って。いや、待ってくれ。愛してる。アグネリア、それだけ聞きてぇなぁ。答えてくれよ?」
「ここで?やめてよ。こんな鉄仮面の荒くれ鬼女を好むのイグナスくらいで、嫁に貰ってくれて感謝してるけど。今の、キスだって、頑張ったのに。もう、だめ。人前で、恥ずかしいから、ここでは言えない。イグナスも言わないでよ」
顔を真っ赤にしてうつ向くのをイグナスが下から覗きこむ。
「何言ってんだよ?言わなきゃ損だ。見せびらかさねぇと。アグネリアは最高の女じゃねぇか。信じらんねぇが、俺の妻だ」
「あ、ありがとう、イグナス。でも、ほ、本当に、恥ずかしい。やめて欲しい、手も、」
恥ずかしがって後ろに逃げるのを止めずに好きにさせている。
「わりぃ、アグネリア」
でもイグナスが片手を差し出すとアグネリアはすぐに両手で握り返し、またその手を短くて武骨なイグナスの手が包む。
身長さの激しい二人はお互いの手を握って見つめ合った。
私を含めてうちの団員はこの二人が夫婦なのかと手を止めて茫然と眺めた。
そんな中、クレインの団員がひゅうっとからかった。
「熱々だね、イグナス」
「アグネリアさんも相変わらずか、あはは!」
「うるせぇぞ。邪魔すんな。俺達夫婦の時間だっつうの。俺のアグネリアは照れ屋なんだ。茶々入れるな」
「あはは、自慢しいなイグナスにご苦労さんだ。アグネリアさんに嫌われるなよ?」
「うむぅ、それは、…俺を嫌いになるか?アグネリア?」
赤い顔をブンブンと顔を振って否定するからまた回りがどっと喜んだ。
騒いでいたら囲んでいた馬車の裏からベアードが頭を出した。
「アグネリア、久しぶりだな」
「ベアード団長、お久しぶりです。これ、預かって参りました」
赤い顔を手で押さえながら腰に下げた袋を二つベアードに渡す。
受け取った中身を出して手のひらに乗せてると、離れた私の位置から手の中身は分からないが、嬉しそうに顔が緩むのが見えた。
「ラーフさんがお身体に気を付けてと。そちら手ずから集めて作ったそうです。大きいのはベアード団長に、小さい三つは息子達にと言ってました」
「ん、何かあったら食べる。礼を伝えてくれ」
「他に何か伝えますか?」
「愛してると」
「分かりました」
「フェアリーの蜂蜜か。この量をさすがですね、旦那の奥方は」
妖精に当たるフェアリーの蜂蜜は怪我や病気の時に食べると効果がある。
「イグナスにも、ラーフさんから」
「護符か。奥方に礼を送らなきゃな」
葉を一枚、イグナスに渡した。
どうやらそれに護符を付与しているらしい。
「良いものを頼む」
ベアードは眼を細めて笑う。
「希望はありますか?」
「…新しい花の種を欲しがっていた。手に入るか?」
「…奥方はもう何でもお持ちでしょうに。うちの取り扱いより豊富だ。もっと珍しい物となると、遠くから輸入するしかないですね。金もかかるし簡単には手に入りませんぜ?」
「なら、せめて色や形が珍しい物は?」
「…探させますが奥方が驚くほどとなるとなぁ。花の種より育ちきった観葉植物の方がいいかもしれません。それなら突然変異の変わり種が流通してるから手に入りやすい」
「それでもいい。葉も好むから」
「お礼のつもりでしたがそうなるとどうしても値が張ります。出来るだけお安くしますが。それでよろしければ」
「頼む」
「了解しやした」
話の途中で小袋の中から糸で編まれた紐を出して首に結びつけた。
それを見てアグネリアが眉をひそめる。
「以前の護符は?」
「もうない」
「…フェアリーの護符が切れるほどの危険があったんですね。旦那様やダリウス達も?」
「息子らは黒獅子と色々あったからな。予備もない。ラーフには伝えないでほしいが無理か?」
首を振るので分かったとすんなり答えた。
「作るなら葉の護符にしてほしい。そんな一度に強い護符を作っていたら消耗する。ラーフが消えかねん」
「…分かりました」
ベアードの言葉に納得し、うつ向き加減に頷いた。
「話は終わりだ。仕事に戻るぞ」
「はい」
「了解しやした」
さっと三人はそれぞれの持ち場に戻る。
一通り、ベアードは馬車の回りを見渡してからアグネリアのもとに戻った。
「アグネリア、あとで時間を作るからイグナスを驚かせてこい」
「ベアード団長?」
「旦那様と奥様のことだ。きっちり半日休まれる。食料等も多目に見積もってもモンマルトル領へ着くまでの一日分でいい。昼前には積み荷の準備も点検も全て済む。立ち会いが済んだら行け」
伝言の礼だと伝えるとアグネリアは赤い顔をほころばせながら礼を述べた。
ちらちらとそちらに見とれていた団員達の一人が私と目が合うと情けないほど眉を下げた。
「…団長」
「なんだ?」
「…独り身が寂しくなりました」
「…そうか」
気持ちは分かる。
「ん、イグナスも?」
ニコニコと笑って背の低いイグナスに答えた。
「は、話がしたい。時間はあるか?」
「ない。またね」
「…分かったよ」
素っ気なく背を向けてまた仕事に戻る。
イグナスがしょんぼりと小さく答えるとアグネリアが顔を振り向かせた。
岡惚れかと周囲は失笑を堪えて二人の会話に耳を側立てていた。
たっぷりの髭を蓄えた丸太体格のドワーフと女性にしては秀麗な顔立ち、べっこう肌の肉体美を見せる背の高い鬼人だ。
でこぼこさに回りの注目が集まった。
「…イグナス?どうかした?…あっ、ごめんっ。イグナス。ん、」
落ち込む顔に気づくと何やら慌てて腰を屈めた。
何事かと思ったら胸の高さにあるイグナスの頬にキスをした。
回りは目が点になった。
「い、イグナスの、つ、妻なのにごめん。また、冷たかった?」
コツンと音を立てておでこ同士を当てている。
不安げな声にイグナスはデレッと目尻を下げてアグネリアの背中に手を回してさすった。
「いい、いいんだ。君が俺の妻ってだけであり得ないほどの幸運なんだ。今だって信じられなくて緊張するほどだぜ?邪魔はしないよ。仕事に戻って。いや、待ってくれ。愛してる。アグネリア、それだけ聞きてぇなぁ。答えてくれよ?」
「ここで?やめてよ。こんな鉄仮面の荒くれ鬼女を好むのイグナスくらいで、嫁に貰ってくれて感謝してるけど。今の、キスだって、頑張ったのに。もう、だめ。人前で、恥ずかしいから、ここでは言えない。イグナスも言わないでよ」
顔を真っ赤にしてうつ向くのをイグナスが下から覗きこむ。
「何言ってんだよ?言わなきゃ損だ。見せびらかさねぇと。アグネリアは最高の女じゃねぇか。信じらんねぇが、俺の妻だ」
「あ、ありがとう、イグナス。でも、ほ、本当に、恥ずかしい。やめて欲しい、手も、」
恥ずかしがって後ろに逃げるのを止めずに好きにさせている。
「わりぃ、アグネリア」
でもイグナスが片手を差し出すとアグネリアはすぐに両手で握り返し、またその手を短くて武骨なイグナスの手が包む。
身長さの激しい二人はお互いの手を握って見つめ合った。
私を含めてうちの団員はこの二人が夫婦なのかと手を止めて茫然と眺めた。
そんな中、クレインの団員がひゅうっとからかった。
「熱々だね、イグナス」
「アグネリアさんも相変わらずか、あはは!」
「うるせぇぞ。邪魔すんな。俺達夫婦の時間だっつうの。俺のアグネリアは照れ屋なんだ。茶々入れるな」
「あはは、自慢しいなイグナスにご苦労さんだ。アグネリアさんに嫌われるなよ?」
「うむぅ、それは、…俺を嫌いになるか?アグネリア?」
赤い顔をブンブンと顔を振って否定するからまた回りがどっと喜んだ。
騒いでいたら囲んでいた馬車の裏からベアードが頭を出した。
「アグネリア、久しぶりだな」
「ベアード団長、お久しぶりです。これ、預かって参りました」
赤い顔を手で押さえながら腰に下げた袋を二つベアードに渡す。
受け取った中身を出して手のひらに乗せてると、離れた私の位置から手の中身は分からないが、嬉しそうに顔が緩むのが見えた。
「ラーフさんがお身体に気を付けてと。そちら手ずから集めて作ったそうです。大きいのはベアード団長に、小さい三つは息子達にと言ってました」
「ん、何かあったら食べる。礼を伝えてくれ」
「他に何か伝えますか?」
「愛してると」
「分かりました」
「フェアリーの蜂蜜か。この量をさすがですね、旦那の奥方は」
妖精に当たるフェアリーの蜂蜜は怪我や病気の時に食べると効果がある。
「イグナスにも、ラーフさんから」
「護符か。奥方に礼を送らなきゃな」
葉を一枚、イグナスに渡した。
どうやらそれに護符を付与しているらしい。
「良いものを頼む」
ベアードは眼を細めて笑う。
「希望はありますか?」
「…新しい花の種を欲しがっていた。手に入るか?」
「…奥方はもう何でもお持ちでしょうに。うちの取り扱いより豊富だ。もっと珍しい物となると、遠くから輸入するしかないですね。金もかかるし簡単には手に入りませんぜ?」
「なら、せめて色や形が珍しい物は?」
「…探させますが奥方が驚くほどとなるとなぁ。花の種より育ちきった観葉植物の方がいいかもしれません。それなら突然変異の変わり種が流通してるから手に入りやすい」
「それでもいい。葉も好むから」
「お礼のつもりでしたがそうなるとどうしても値が張ります。出来るだけお安くしますが。それでよろしければ」
「頼む」
「了解しやした」
話の途中で小袋の中から糸で編まれた紐を出して首に結びつけた。
それを見てアグネリアが眉をひそめる。
「以前の護符は?」
「もうない」
「…フェアリーの護符が切れるほどの危険があったんですね。旦那様やダリウス達も?」
「息子らは黒獅子と色々あったからな。予備もない。ラーフには伝えないでほしいが無理か?」
首を振るので分かったとすんなり答えた。
「作るなら葉の護符にしてほしい。そんな一度に強い護符を作っていたら消耗する。ラーフが消えかねん」
「…分かりました」
ベアードの言葉に納得し、うつ向き加減に頷いた。
「話は終わりだ。仕事に戻るぞ」
「はい」
「了解しやした」
さっと三人はそれぞれの持ち場に戻る。
一通り、ベアードは馬車の回りを見渡してからアグネリアのもとに戻った。
「アグネリア、あとで時間を作るからイグナスを驚かせてこい」
「ベアード団長?」
「旦那様と奥様のことだ。きっちり半日休まれる。食料等も多目に見積もってもモンマルトル領へ着くまでの一日分でいい。昼前には積み荷の準備も点検も全て済む。立ち会いが済んだら行け」
伝言の礼だと伝えるとアグネリアは赤い顔をほころばせながら礼を述べた。
ちらちらとそちらに見とれていた団員達の一人が私と目が合うと情けないほど眉を下げた。
「…団長」
「なんだ?」
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