人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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「やはり俺はお宅を気に入ってますよ」
「…は?」
「オーガは好き嫌いが激しいんでね」
腰から下げた袋から一枚の葉っぱを私へ寄越した。
「妻のラーフお手製の護符です。一回きりで少し弱いが守護になります」
「貰っていいのか?」
何の変哲もない一枚の葉っぱだ。
目に魔力を込めて見つめると葉脈に白く輝く魔力がたっぷり溜まっている。
「これなら息子らのを含めても余分にあります。それにあなたは王都兵団の要です。頼りにしている状況で失いたくありません。それ、心臓の辺りに挟むといいですよ」
止まった心臓が動くくらいの効果はありますと笑った。
「フェアリーの護符は初めて見た。かなり効果があるじゃないか。ありがたく受けとる」
「はは、どうぞ」
ではまた夜にとその場を離れて行く。
昼前には馬車の支度が済んであとは彼らを乗せて出立するだけだ。
久々に昼食を外の食事処で取る。
「団長、こちらでしたか」
「斥候はどうだった?」
午前中、エドはスミスを連れて複数の部隊を指示して斥候に出していた。
「失礼します」
向かいに座って給仕に手を振るとスープとパンが運ばれ、私と同様に食事を始めた。
「昨日のどしゃ降りで河の氾濫がひどいですね。魔獣も増えてます。濡れた川原に上がってきてて気づかず近づいてしまい数人が怪我をしました。打撲程度なのですぐに隊に戻れます」
さっさとパンを千切ってスープに浸す。
そのまま匙ですくって口に運んだ。
「ガードの判断は?」
半分ほど食べてしまった私は一度手を止めてエドの話に集中した。
「水量が落ち着くまで無理だそうです」
「陸上と街道は?」
「そちらも増えてます。街道の方も積んでいた木材の倒壊とまた新しく倒木の被害がありました。進捗は半分ほど後退したと判断します」
ふう、と軽くため息を吐いた。
「分かっていたが聞くと残念だ」
「はい」
神妙な顔付きに状況が良くないと理解する。
「分かった。水辺討伐は氾濫が落ち着くまで待機だ。今週中には動けるだろう」
「やはり、二人がいないのが痛いですね」
「かなり」
わざわざリーグはかくし球として取っておいたのに。
あいつ一人いるだけで専門の動きが違う。
水に引き込まれてもあいつが助けに来ると知っているから強引に彼らもいけた。
そのために水辺は後回しにダムや捕獲用の囲いを設けてそこに追いやるように集めていた。
その状況でこうも先伸ばしになると種類によっては繁殖する心配が出てくる。
「囲いを壊すか」
「二度手間ですが、それがいいかもしれません。いくつか流されて壊れていましたし、また折を見て新しく設置する方が管理しやすいかと思います」
「ああ、そうだな。…いや、待て。それも川沿いから隣国や国内に流れる」
「ええ、ですが、」
「少数精鋭で討伐に行く。囲いを壊すのは中身はどうにかしてからだ」
「そうなると、人員はどうされますか?」
「うちの専門全員。エヴとダリウス、ヤン、スミス。…お前も来い」
整備は囲いの破壊を終えてからやると言うと納得に首を揺らした。
「…そう考えるが一度、保留だ。火力に問題はないが経験が浅すぎて悩む」
やりようによっては問題ないと思うが、絶対ではない。
確実に安全な方法で間引きしたい。
「分かりました」
「あと今夜はあちらを招いて自陣で酒宴だ。ベアードやジェラルド伯の奥方自慢を聞けるぞ。面白そうだ」
「フェアリーの?本当ですか?」
喜色を浮かべて興味津々と目を輝かせた。
「興味あるだろう?」
「かなりありますっ」
「あと、この砦にワルキューレの奥方とイグナスの奥方も来ている」
「え?!辺境伯夫人が?!イグナスは結婚していたんですか?!」
好奇心にテーブルを揺らして前のめりになる。
「エヴにそっくりで美しかった。イグナスの奥方も、そうだな。立派な角と肉体美を誇る方だな。どちらも睦まじいご夫婦とお見受けした。ただどちらのご婦人も夫以外に素っ気ない。馴れ馴れしくすると二つに斬られるから気を付けろ」
それだけ伝えて黙って食事を続けるとエドが根掘り葉掘り聞きたがった。
「あとはそれぞれのご夫君に酒宴で尋ねればいい。必要なことは伝えた」
「ええ~、聞きたいのに。でも、夜の酒宴に奥方達も参加されるんですよね?歓迎会を兼ねてるんですか?」
「午後に出立される。タイミングが良ければ挨拶くらい出来るだろう」
「え?帰るんですか?」
「大公の送迎だ」
事情を話すと感心に大きく息を吐いた。
「はぁ~、なるほど。隣領のモンマルトル伯爵を連れてですか。しかし、判断と動きが素早い。ご夫人と言うより武官の勘の良さですね。いくらワルキューレとは言え普通のご夫人に出来ることではありませんよ」
「もとはベアードの副官だ。納得するものがある」
「は?」
「聞いてなかったか?」
「初耳ですよっ、何ですか?その話は」
「クレインでは周知だ。聞けば知れることだ」
「普通、領主の奥方が団に勤めていたか尋ねることはないでしょう?ありますか?」
「ないなぁ」
くく、と顔を歪ませて答えた。
私も知ったのは偶然だ。
「まあ、いい。気にするな。他にはないか?」
「もうそのことが気になって思い浮かびません。うーん…他には、そうですね。ダンスの相手でしたよね。ヤンとダリウス相手に希望者が多くて話が進みません」
「ふっ、…くく、そうか」
「笑い事じゃありませんよ。やりたがる者から適当に選ぼうと思ったのに。いくらクレインの出世頭と懇意になれるからとは言え行き過ぎですよ、あれは」
不満そうなエドに笑いが止まらず肩を揺らした。
「岡惚れが多い」
貴族出のうちの奴らがそれだけの理由で名乗り出るはずがない。
プライドが高い。
それに休みの合間に教えると伝えてある。
貴重な休みを潰して平民相手に教えるなど普通なら嫌がるはずだ。
「岡惚れ?…ああ、そう言うことでしたか。…想定外です」
エドの鈍さに余計笑いが止まらない。
「逆に名乗り出てない奴は?」
「いますよ。しかしあまり教えるのが向かない腕前です」
「そうか、ならその岡惚れか懇意狙いの怪しい奴らから選ぶか。単純に教えるのが上手い奴を選べ。練習がてら次々相手を変えればいい」
「分かりました、あ!」
「ん?」
「ガードがいました!」
何のことか分からず首を捻るとエドが納得に一人で頭を揺らしている。
「あいつなら上手いし、危なくもない。性格も揉めようがないから安心だ」
「講師にガードを選ぶのか?部隊長に?」
「でもしばらく暇ですよね?」
「…そうだな。…あいつと、スミスも連れて行く。上手く恩を売れば二人がラウルに取りなして貰えるだろう」
「ダンスはかなり上手いですが、教えるのは下手くそですよ?」
「あまりにもひどかったら外す。二人への伝達は頼む。スミス本人に忠告しとけ。下手くそな指導をしたらラウルと会えないと。あいつはプライドが高くて短絡的だからしっかり説明しておくんだ」
水泳の時のような無茶な指導をしたら即刻外そうと考えたが、意外とダリウスはこなしていた。
今回も上手くこなすかもしれない。
食事を終えて立ち上がる。
話に集中していたこともあり、エドも同じタイミングで匙をテーブルに置いた。
「午後はエヴのところに寄る」
「え?もう来るなと、」
「言われたのは夜の警護だ。ダンスは頼まれている」
被せぎみに答えて睨み付ける。
「あ、はい。そうでしたね」
「今後のスケジュールを聞いて見る。おそらく午前の討伐後、午後からとなるが。人選もガードとスミスで変えないつもりだと伝える」
「分かりました。あいつらに拒否権無しですね」
「ああ、そうだ」
働き次第でスミスに利点があるし、ガードもリーグの件を絡めれば手間ばかりではない。
それに本人に許されたとは言え以前の非礼の詫びとしてちょうどいい。
石鹸ひとつで許すほど私は寛容にはなれない。
スミスも他人に頼むばかりで腹が立つ。
二人とも断ったらどの口が言っていると叱るつもりだ。
エドにそう話すとなるほどと一言呟いた。
「断れば死ぬと言っておきます」
「は?叱るだけだと言ったろう?」
死にはしない。
殺すつもりはないのだから。
「二人とも番を巻き込んで団長の不興を買ってるんです」
馬鹿だなぁと小さく呟いた。
「人狼の基準は全て番です。その次に群れですよ。番が関われば親でも殺すと言われているのに。あいつら、用心が足りません」
「…ふうん」
エドの軽口は合わないが、気を付ける点は合っている。
「そう考えるとエヴ嬢は群れを優先する方ですね。お母上とは気質が違うようです。ワルキューレは意外と恋に生きる種族ですから」
「英雄と呼ばれるほどの強い男を好むのだろう?」
「はい、有名ですからね」
思い付いたように目を輝かせてエドが顔を寄せる。
「エヴ嬢もきっとそうですよ。団長ほどの方ならきっと。ああ、でもヤン達が側にいる。彼らも相当な手練れだから、まさか彼らに、」
勝手に想像して狼狽えるエドに呆れた。
「彼らとは何もない」
「なんでそんな言い切れるんですか?信じられませんよ」
勘違いの激しいこいつにどう説明したものか。
女が絡むとなぜそんなに検討違いになる?
「あり得ない。エヴより強い者がいない」
「え?」
「どんなに戦っても日を跨げばエヴの勝利だ。たとえ私でも危うい」
正直、勝てる気がしない。
強化なしで捕らえるのは無理だ。
捕まえてかなり強固な封印を施すまで勝てない。
それならやりようは幾らでもあるが、一対一の勝負の采配にはならない。
策略に負けたと感じても力に負けたとは思わないだろう。
「あ、…なるほど。…それは、確かに」
気まずそうに顔をそらし、私も気遣われる居心地の悪さに顔を背けた。
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