人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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執着

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「すぐにクレインから出ていこうと思ったら私の手配書が回っていて街からも出られないの。あれは面白かったわ。私が出る前から周知させていたのよ。手際の良さに感心したわねぇ。仕方ないから泥で髪と肌を変えてついでに盗んだ貴金属をお金に変えて、」
「…盗んだ」
「ええ、帰るのにもお金いるもの。そのくらいいいでしょ?極端に高価なものは盗ってないわよ?」
黙って頷くと当然よねと納得していた。
もらって当然なのか、盗みのマナーが当然なのか判断はしかねたが、品行方正を尊ぶ騎士にしては思いきりのよさが際立つ。
当時はまだ15、6才で若い娘だったのに。
だいたい手配書が配布されたとこを面白いと評せるのも図太い。
「手に入れたお金で染髪して髪も庶民風に切ったわ。金髪は高値ね。半年分の生活費になったわ。それから半年以上、街で住み込みの仕事をしながら暮らしたの。安心したのもつかの間、次はお腹が大きくなってきて妊娠が分かったのよねぇ。仕方がないから住み込みの奥さんに相談したの。望んだ相手との子じゃないけどどうしようって」
「それが、ロバート殿?」
「そう、ロバート。奥さんは世慣れた方で親身になってくれたわ。産んでから考えればいいって、愛着が沸くかもしれない、ダメでもいざとなりゃぁ里子だとあっさり。私に似た子なら貰い手は引く手あまただし将来は顔で食っていけるって。奥さんはお孫さんを亡くしたばかりだったから赤ちゃんの産着をお腹の子に使いたかったみたい。娘さんも世話をしてくれてありがたかった。そうやって回りの協力があったから産んだの。でも、」
次も驚くわよ、と耳の垂れ下がった私を一瞥して囁いた。
「産んだ日にジェラルドが来たの。奥さんも娘さんも懐柔済み。二人が心配しながら子供の父親を名乗る男が毎日のように通っていたって言うの。一度話し合ってみたらって。こっそりどうしても嫌なら逃がすって言ってくれたけど、ジェラルドが領主だと分かっていたわ。逆らえないわよね」
「…それは、把握されていたということですね」
頭を揺らして頷く。
「呆れて言葉も出ないくらい茫然としてたら、無理やり部屋に乗り込んで髪を染めたくらいで隠れられると思うなと凄まれたわ」
傷を何度もさする。
「これがある限り見つけ出すって」
「恐ろしいですね」
「ふふ。それがね、それも悪くないと思ったの。完敗だもの」
こういうところがワルキューレなのよねぇと自嘲ぎみに呟く。
「甘いだけはつまらないわ。今はあの逃亡劇も楽しかった。良い思い出ね」
「そうですね。今は睦まじいご様子ですからね」
そう言うとにっと頬が上がる。
「今はですね。昔は責任を取るとしつこく言われて迷惑でしたの。ジェラルドは堅物でだめね。正直に愛してると言うならもっと早くほだされたのに」
「それがこじれた原因ですか?言葉にされなかった?」
「どんなに言葉にしても責任取るの一言で台無しですわ。私はお荷物ではありませんもの。顔に傷が出来たくらいで剣の腕や培った知識は変わりませんから。当時の私は16歳の女だてらに、国内外に武勇を轟かせたクレイン辺境伯私兵団の副団長ですのよ?務めを果たしただけなのになぜ主に責任を取って貰わねばなりませんの?他にも同じ怪我をした女がいれば同等かしら?私じゃなくて良いのなら構われたくなかった」
ふん、と鼻を鳴らして一瞥をくれる。
「ああ、納得しました。だから受け入れられなかったんですね」
女である前に誇り高き兵士。
顔の傷と処女を散らしたことを理由に迫られたことが夫人のプライドを傷つけたのだ。
戦士を志す女性にこの二つはなくす覚悟を叩き込まれる。
場合によっては先に二つとも捨ててこの世界に身を投じるほど。
その二つに執着することを彼女らは恥としている。
それを理由に求婚して逆に侮られたと怒るのも無理はない。
「お分かりいただけて嬉しいわ」
「それと、追いかけるジェラルド伯の熱意にも満足されたということですか?」
「あら、…うふ、ふふ、そうね、確かにあれでやっと気に入りましたわ」
先程の挑戦的な笑みとは違い、にっこりと華が咲いたように微笑む。
兵士としての高いプライドと、そして自分だけ望まれたいという女性らしい悋気もよく理解できた。
些細な言葉の裏側さえ勘ぐって許せなくなるほど、もとからジェラルド伯を好いてらしたのだ。
気難しいが、意外と可愛らしいと思える。
「しかし、これだけ聞くとエヴ嬢がワルキューレの気質とは思えません」
「あら、どうしてかしら?」
「エヴ嬢は戦が楽しくて飛び込む性質ではありません。ただ囲い込んだ人間を守りたいという献身さで戦い、逆鱗に触れると一気に破裂します。例えば、」
魔獣を前に以前は死なすは忍びないと泣いていたこと、吐きながらも水辺の討伐に参加を続ける理由、激昂するのは必ず他人への理不尽な扱いであること。
強さを誇る面もあるが、エヴの行動理念の基本は他者だ。
話終えると背もたれに寄りかかって片腕を組ませて頬杖をついていた。
「…そうですわね。…お話を聞く限り私も同じ印象を受けました。私とは系統か違います。ワルキューレでないならあの勇猛果敢さはどこからかしら?夢魔?あり得ないわね。自己中心的な気質ですもの。やはり龍なのかしら?逆鱗に、と評したのは納得しますが、献身さはまた違いますものね」
「極端な気質を持たないだけとも思えます」
「かもしれませんね。ワルキューレでないのなら私からの助言は出来なくなりましたわ」
「ワルキューレならどのようにすれば?」
「強さと愛情だけですわ。ワルキューレは英雄を好みますから」
「なるほど。しかしエヴ嬢は尊敬を抱きますが、別に好みはしませんね」
「三人の中ならグリーブス団長が一押しかと思いましたが、そうなるとエヴ次第ですわねぇ。ワルキューレなら自分より強い男に従いますのに」
「…総合的に見てエヴ嬢の方が強いですね」
「日を跨がせなければ大丈夫だわ」
「術式の使用が可能で単純な力比べ以外も許容されるなら勝ち筋はあります。あの長時間の豪腕に付き合うのは骨ですが。…一番の問題は番には長く逆らえないことです」
目をぱちぱちとしばたたかせる。
金の縁取りの睫毛がばさばさと音を立てている。
「つまり?」
「待てと言われたら待ちます。たまに堪え性のない状態になりますが、基本、人狼は番の言いなりです」
「…あら、それは大変ね。…エヴが、結婚を拒否したら、その通りと言うわけかしら?」
「我慢がきかなければ抵抗しますが、良くも悪くも私は我慢強い方です。今もそのせいで大人しくしています」
ふぅん、と小さく鼻を鳴らした。
だから何、と目が問いかけているので不可解さに眉をひそめる。
「夫人?」
「何かしら?」
「…どう問えば良いのか分かりません」
「何が?」
「エヴ嬢に、…エヴ嬢が結婚することは賛成ですよね?」
「ええ」
「ヤンやダリウス、まだ言い出してはいませんが、岡惚れのラウル。他にも縁談の申し込みがあると聞いています。夫人はどうやってその中から相手を選ぶようにエヴ嬢へお話をされますか?」
「…私の経験は奪われることでしたわ。今のところ、娘に伝えようがありませんし、私自身の気質から求める好みははっきりしていましたの」
考えに目をさ迷わせながらこめかみに人差し指を当てて首をかしげる。
「…私からすれば、奪うのは当然かしら。ワルキューレは恋に積極的なので自分に相応しい相手を見つけたら一途です。逆も同じく。情熱があれば応えますわ。まあ、人のものを奪う趣味はないのが救いですわね」
人狼は違いましたねと呟く。
全くのその通りだ。
番と分かれば身分も相手の婚姻も無視だ。
罰が悪くて顔をしかめながら頷き返した。
「幸い娘は独身ですわ。だからお好きになさったら?」
泰然と背もたれに寄りかかったまま。
ご自身の言葉に当然と納得されて、嘘偽りのない眼が私を見据えるのを黙って驚くしかなかった。
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