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ハニートラップ
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二人の会話に時折相槌を入れて過ごす。
今は久々の再会に水をさすより添え物として二人のお話に耳を傾けた。
「アグネリアも後で会えます?元気?」
「ええ、相変わらずよ?」
五人いるという他の女性兵士の名を出して近況を問いかけている。
ふと、疑問になりどう尋ねようか迷った。
「夫人、四人も腕のある女性兵士がおられるのに、ヤン達を専属に起用しているのには訳があるんですか?」
「私の私兵は精神感応の耐性が薄いので夢魔などの護衛には向きませんの。唯一アグネリアがましですけどヤン達ほどじゃありません。以前の夢魔化したエヴ相手にしくじりましたし、既婚者ばかりなので間違いを恐れています」
「…アグネリアに嫌われてるかなぁ」
「嫌ってないわよ?あなたが強すぎただけ」
「もうしない。やだぁ」
腕に顔を埋めてぐりぐりとおでこをこすっていじけている。
「いいのよ?どうせ間違ってもヤン達相手なら」
「は?」
「そのままエヴが望めば嫁にして構いませんでしょう?あの三人も内心は欲しがっていましたし、エヴも三人が好きよね?」
夫人の問いかけに顔を上げて頷く。
「好きなの選んで良いのよ?今はグリーブス団長も望まれているわ」
「1人を選べって言われても。喧嘩になるの嫌だし、嫌われるのも嫌。皆大好きだもん」
「エヴ、その皆には私も入ってるか?」
「え?」
きょとんとした顔を振り向かせて、ヤンとダリウスらと同じでないのを察して耳と尻尾が下がる。
「団長は人狼ですもん」
首をかしげて悩んでいる。
「番だから嫌ったりしないんでしょ?」
「ああ、そうだ」
意図が分からず戸惑いながらもそう答えると、にぱーっと笑って満足そうにまた夫人の腕に顔を隠した。
「…嬉しいぃ」
ぽそっと呟いてゆらゆらと軽く足を揺らす。
「まあ、エヴったら恥ずかしがってるの?」
「エヴ、嬉しいのか?」
腰かけていた椅子から中座し、前のめりにエヴへと問いかけると、エヴはうんうんと顔を隠したまま頭を揺らす。
バタバタと自分の尻尾がやかましい。
暴れる尻尾にぶつかった勢いで椅子がガタンガタンと揺れた。
「お母様達と一緒。嬉しい。ありがとうございます、団長」
隙間から瞳を覗かせて心底嬉しいと笑みで細める目をこちらを向けるから心臓がぎゅうううっと締まった。
「ぐ、」
耐えれずに大きく息を飲んでよろめく。
それを見て夫人はまたころころと笑った。
「まあ、よろしいこと」
「エヴ、結婚をしてほしい」
「え、」
「嫌うなんてことはあり得ない。好きだ、愛してる」
「まあ、熱烈だわ。さすが人狼ね」
「望むなら私がクレインに来る。今の地位も身分もいらない。エヴだけいればいい」
ぽかんと見上げるエヴがハッとして首を振る。
「それ、歴史で習いました!それは傾国の悪い女性です!」
「は?」
「あら?」
話を聞くと他国から仕掛けられたハニートラップで国を傾けかけた古い事案のことだった。
他国でも取りざたされたが我が国も例外ではない。
一番大きいもので、たった一人の相手に大勢の有力者が翻弄されてしまい驚くほど国力を削がれて侵略を許してしまった。
いまだに水面下ではそう言ったことは多々繰り返されているので、教訓として教育に出てくる。
「…違う」
「確かに違うわねぇ、ほほ、ほほっ」
落ち込む私と笑いが止まらない夫人。
「違うのぉ?なんでぇ?団長が国防の要だから辞めたら大変なことになるって副団長やお父様が言ってました」
そこまでジェラルド伯に評価されているとは知らなかった。
誇らしい気持ちに面映ゆい。
「だから私のせいで団長が辞めたら私、国から悪い人と思われるかも」
「そうねぇ。私が隣国の出ですし、領内は隣国との交流も深いわ。いらぬ疑いは用心すべきね」
エヴは賢いわぁ、と頭を撫でて誉めている。
「…また振り出しか」
どう言葉にしたらエヴの心に響くプロポーズになるのか全く分からない。
気難しい夫人の沸点は理解出来るのに、肝心のエヴへの対処が上手くいかない。
ジェラルド伯も四苦八苦しながら毎日プロポーズされていたのではないかとよぎった。
今は久々の再会に水をさすより添え物として二人のお話に耳を傾けた。
「アグネリアも後で会えます?元気?」
「ええ、相変わらずよ?」
五人いるという他の女性兵士の名を出して近況を問いかけている。
ふと、疑問になりどう尋ねようか迷った。
「夫人、四人も腕のある女性兵士がおられるのに、ヤン達を専属に起用しているのには訳があるんですか?」
「私の私兵は精神感応の耐性が薄いので夢魔などの護衛には向きませんの。唯一アグネリアがましですけどヤン達ほどじゃありません。以前の夢魔化したエヴ相手にしくじりましたし、既婚者ばかりなので間違いを恐れています」
「…アグネリアに嫌われてるかなぁ」
「嫌ってないわよ?あなたが強すぎただけ」
「もうしない。やだぁ」
腕に顔を埋めてぐりぐりとおでこをこすっていじけている。
「いいのよ?どうせ間違ってもヤン達相手なら」
「は?」
「そのままエヴが望めば嫁にして構いませんでしょう?あの三人も内心は欲しがっていましたし、エヴも三人が好きよね?」
夫人の問いかけに顔を上げて頷く。
「好きなの選んで良いのよ?今はグリーブス団長も望まれているわ」
「1人を選べって言われても。喧嘩になるの嫌だし、嫌われるのも嫌。皆大好きだもん」
「エヴ、その皆には私も入ってるか?」
「え?」
きょとんとした顔を振り向かせて、ヤンとダリウスらと同じでないのを察して耳と尻尾が下がる。
「団長は人狼ですもん」
首をかしげて悩んでいる。
「番だから嫌ったりしないんでしょ?」
「ああ、そうだ」
意図が分からず戸惑いながらもそう答えると、にぱーっと笑って満足そうにまた夫人の腕に顔を隠した。
「…嬉しいぃ」
ぽそっと呟いてゆらゆらと軽く足を揺らす。
「まあ、エヴったら恥ずかしがってるの?」
「エヴ、嬉しいのか?」
腰かけていた椅子から中座し、前のめりにエヴへと問いかけると、エヴはうんうんと顔を隠したまま頭を揺らす。
バタバタと自分の尻尾がやかましい。
暴れる尻尾にぶつかった勢いで椅子がガタンガタンと揺れた。
「お母様達と一緒。嬉しい。ありがとうございます、団長」
隙間から瞳を覗かせて心底嬉しいと笑みで細める目をこちらを向けるから心臓がぎゅうううっと締まった。
「ぐ、」
耐えれずに大きく息を飲んでよろめく。
それを見て夫人はまたころころと笑った。
「まあ、よろしいこと」
「エヴ、結婚をしてほしい」
「え、」
「嫌うなんてことはあり得ない。好きだ、愛してる」
「まあ、熱烈だわ。さすが人狼ね」
「望むなら私がクレインに来る。今の地位も身分もいらない。エヴだけいればいい」
ぽかんと見上げるエヴがハッとして首を振る。
「それ、歴史で習いました!それは傾国の悪い女性です!」
「は?」
「あら?」
話を聞くと他国から仕掛けられたハニートラップで国を傾けかけた古い事案のことだった。
他国でも取りざたされたが我が国も例外ではない。
一番大きいもので、たった一人の相手に大勢の有力者が翻弄されてしまい驚くほど国力を削がれて侵略を許してしまった。
いまだに水面下ではそう言ったことは多々繰り返されているので、教訓として教育に出てくる。
「…違う」
「確かに違うわねぇ、ほほ、ほほっ」
落ち込む私と笑いが止まらない夫人。
「違うのぉ?なんでぇ?団長が国防の要だから辞めたら大変なことになるって副団長やお父様が言ってました」
そこまでジェラルド伯に評価されているとは知らなかった。
誇らしい気持ちに面映ゆい。
「だから私のせいで団長が辞めたら私、国から悪い人と思われるかも」
「そうねぇ。私が隣国の出ですし、領内は隣国との交流も深いわ。いらぬ疑いは用心すべきね」
エヴは賢いわぁ、と頭を撫でて誉めている。
「…また振り出しか」
どう言葉にしたらエヴの心に響くプロポーズになるのか全く分からない。
気難しい夫人の沸点は理解出来るのに、肝心のエヴへの対処が上手くいかない。
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