人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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嫁探し

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「モルガナも、あの短時間でその手を飲み込ませた手腕は奥様も誉めておられました。いくら細腕とは言え手首まで。そんなことが出来る淫魔も聞いたことはありません」
「ありがとうございます。それなりに長く生きていますから」
「今度、機会があったら教えてもらえますか?」
新しい拷問は好きですと喜んでいる。
「分かりました。良ければトリスと交代で同行いたします。…まだ足りませんから」
めらめらと瞳を滾らせ大公を睨んだ。
「奥様に確認してみましょう」
穏やかに目を細めて微笑むが内容の苛烈さに周囲を囲む男らは息をひそめて気配を消していた。
後方には真っ青でふらつく宰相が団員の肩を借りて立っていた。
「…ブラウン」
「…何ですか?」
呼ばれて迷惑そうに顔をしかめた。
「これが日常か?」
「…ここまで奥様方を怒らせた奴は初めてです。百叩きも本当に執行したのは初めて。普段は四、五発ほど。泣きが入ったら終わりですからね。思い出すと、気持ち悪、うぷ、」
ブラウンだけではなく数人が顔色悪く吐き気を堪えている。
「部隊長ぉ、俺喜んでたんですよぉ。淫魔だし、おこぼれあるかもって。せっかく可愛い子が増えたと思ったのに。拷問官が増えちゃったぁ」
「モルガナちゃんだっけ?奥様の私兵団に入るんじゃねぇかな。あっちが向いてるよ」
「奥様とアグネリアが気に入ったからそうかもしれない。だけど今はお嬢様の側仕え兼護衛だ。危ねぇから周知しとけ。羽根組二人の既婚者に舐めたことするとケツに腕を突っ込まれるって。下手したら肩まで入れる」
ブラウンの言葉にそれぞれぶるっと震えて寒そうに腕をさすった。
「あんなの、玉ひゅんっすよ」
「恐ろしい。もう見たくねぇし捕まりたくねぇ」
だいたいの仕打ちの予測がついて年配の大公の身体が気がかりだった。
「…大公は大丈夫なのか?」
「新しい扉、開いたみたいですよ。それはもう、」
「いや、身体が無事なのかと」
心臓発作でも起こすんじゃないかと思っただけだ。
「無事ですよ。アグネリアの拷問の腕はクレインでもピカいちです。爪剥ぎが得意なんて言ってるけど、関節や閉め技やら傷を残さないやり方はあいつにしか出来ません」
「奥様もその辺は得意ですからねぇ」
「騎士だと拷問出来ないからうちに来たって仰ってたくらいだから」
「初耳だ」
「でしょうね。ベアード団長と旦那様でそれは仕付けたらしいですから。入団してすぐは討伐以外に賊の拿捕やら拷問を嬉々としてやっていたそうです。勤めて長い奴に聞けばかなり壮絶だったって話です」
「俺は覚えてますよ。その頃から小間使いとして勤めてるんで」
一人の男が、こんくらいと手を腰より下に当てる。
「今だから言えるけど、そう言っとけば無駄に手を出す馬鹿が減るって。俺達みたいなチビにはそう言ってました。彼女の庇護にいましたし」
なるほどと皆が頷いた。
「発現も貴族籍もない傍流のワルキューレってことで入団試験に来ましたもんね。ワルキューレの美貌と魔力はあるってんで大騒ぎで、」
話の途中、ロバート殿の声が響いた。
「母上!何てことを勝手に決めるんですか!?彼らの好きにさせろなど!」
「あら、ロバートは嫌なのね。ジェラルド、あなたは何か言える?力ずくで奪ったのよね?」
「ぐ、」
「ワルキューレには間違えてないわ。だから私も許している。エヴも力があるのだから母親と同じ道を進んで何か問題かしら?」
「エヴにはそれほどの闘争心はありません!お人好しで流されてしまいます!だいたい伯爵家の籍を捨てた母とは立場が違う!」
ロバート殿と夫人の対立にジェラルド伯が何も言えずにため息を吐いている。
団員らは何のことかと首をかしげたが、続く二人のやり取りを聞いてヤンとダリウスが求婚者に名乗りをあげたことと押し倒してでも情熱を見せることを許すと夫人が宣言して仰天していた。
「そ、そんなことになったんですか?団長は、知ってたんですか?そんな、平然と、」
ブラウンが口をあんぐり開けて私を見た。
「私も先程聞かされて驚いている。奥方は本当にさばけた方だ」
ヤンとダリウスは初耳だったらしくあからさまに狼狽えてお互いに見合せ目を丸くしていた。
「妹の婚姻を構う前に自分をどうにかなさい。あなたもそろそろ妹離れをするべきね。度が過ぎるわ。二十歳にもなるのに自分の結婚は考えているの?」
「クレインに嫁げるほどの力量のある方なら考えます。今はエヴのはな、し、」
エヴの話は終わりだとロバート殿の言葉を遮った。
「貴族籍にそうそういるわけないのよ。この国の趣味は深窓の令嬢なのだから。だから隣国へ留学してこいと言ってるの。あちらは姫騎士が多い。事が収まり次第あちらへ留学させます」
行けるとしたら来年だと答えた。
「ジェラルドのような幸運があると思わないことよ」
反論に口を開く前にピシャッと叩き伏せた。
「お兄様、いなくなるの?」
「嫁探しの旅行に行かせるだけよ?私達にとっては新しい娘、エヴには新しいお姉様を見つけてくるの」
「お姉様を?」
パアッと顔を輝かせた。
「お兄様、私いい子にするから。お姉様を見つけたら仲良くさせてくださいね」
腕に引っ付いてねだるとロバート殿は不満そうエヴの肩に手を置いた。
「エヴや私ほどとなるとそうそう見つからないでしょうね」
「…せめてワルキューレから探したいとお願いしているのに」
「実家からはもう出せないわ。均衡が崩れるもの。あちらに行けば他家に嫁いで血を継いだ者を見つけられるわ。行ってらっしゃい」
「行くなら王都の招致を終えてからだ。ロバート、行くか?」
観念して頷くとため息を吐いてエヴの頭に顔を埋めた。
「貴族籍でなくてもモンマルトル伯爵が引き受けるわ」
「分かりました。そこまで留意されてるのに否とは言えませんね」
ジェラルド伯と夫人が歩を進めると二人もそれに従う。
通路に戻り先頭を歩く。
「問題は孫かしら。その頃にはいい加減国内から選ばないと」
「ああ、二代続けて隣国からの選出となると敵視される」
「産まれた子がワルキューレ好きじゃなければいいけど」
「エヴが国内の有力者を選ぶなら多少、緩衝材となるわ」
ジェラルド伯とロバート殿が立ち止まって私を見つめた。
「…そう言うことか」
「母上は気に入られた訳ですね」
剣呑な二人に軽く頭を下げた。
「そうよ?素晴らしいじゃない。国一番の剣豪。手合わせするのも気後れするほどの覇気を持ってらっしゃる。この私がよ。エヴ、お母様のお勧めはグリーブス団長よ」
「え?あ、はい。とっても強いですもんね」
じゃあ団長のお嫁さんになった方がいいですかと問うと、ヤンとダリウスが一瞬殺気だった。
すぐに気配を察して夫人が振り向く。
「やはり事を乗り越えた二人も成長してるわね。鋭くていい殺気。悪くないわ」
エヴに顔を向けて、どの男も悪くないと微笑む。
「気が変わったわ。求婚者の中から好きな相手を選びなさい」
「は、はい」
勢いにエヴも返事を返す。
後方の団員は賭けが分からなくなったぞと小声で囁きあっていた。
相変わらず賭けは続行らしい。
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