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腕相撲
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「何でそんなに可愛いんだ」
「えー?ありがとうございます?」
先に歩みを進めながらボソッとこぼすと隣を歩くエヴが首をかしげながらこちらを見上げた。
「拐いたい」
「嫌です。次は閉じ込めたいでしょう?」
むぅっと唇を突き出して睨まれた。
「ああ、閉じ込めたい」
「尻尾も耳も切らないでくださいね」
たった今、襟巻きの話は考えていなかったが、先に言い出しておかしかった。
「分かった。喜びそうな毛皮を仕留めて、…やっぱりやめた。私以外の毛皮に夢中になるのは嫌だ」
「別に毛皮を集める趣味はありません。団長のがいいんです。ふわふわ動くからいいんです」
それかヒムドがいいと答える。
「そう言うことか」
分かったとこちらも頷いて返すとほっとした気配が漂う。
「やっと通じた」
ぼそっと呟いて大きくため息を吐くので、今までの察しの悪さを謝ると苦笑いをしていた。
「団長は何でも分かるけどやっぱり気質には勝てないんですね。それだけなかなか分かってくれないからどうしようと思っていました」
「人狼にしては我慢してる」
「私、他の人狼が怖いです。団長で我慢してるなら他の人はどうなるんですか?」
「あー、それは、」
誘拐、拉致、監禁と言おうとして止めた。
イメージが悪すぎる。
「誘拐婚とは知っていたのだろう?」
「知りませんよ。番に選ばれたら、ただ結婚するとしか習ってません。選ばれると思わなかったし」
王都なら本で溢れているし、いくつか芝居小屋の題材になっている。
昔は公爵家から金を出してやらせていたが、今はどこも逆に金を出してやりたがる。
「この辺には王都から芝居小屋は来ないのか?」
「…さぁ?来てるのかな?私は見たことないです。前に竜退治の話をしたでしょう?それもあの時は知らなかったです。あとで皆に聞いてそういう本やお芝居もあるって聞きました」
「そうか」
軽々しく外へ出掛けられなかったのだろう。
聞くのは野暮だったと反省した。
思ったより知らないことが多いらしい。
酒宴の場所へ近づくと騒ぎが大きくなる。
そろそろ三人目当ての勝負が終わってもおかしくないのにまだ続いていたのかと意外さに興味を持った。
「誰が勝ったかな」
順当に魔導師長とスミスだろう。
ヤンを狙いの奴らは把握してないので誰かは分からない。
もとの場所に戻るとロバート殿はおらずブラウンがのんびり中央の喧騒を見ながら酒を飲んでいた。
こちらに気づくと意外そうに目を丸めて近くへと場所を譲った。
「お戻りですか?もう戻らないかと」
「エヴの怒りが治まった」
ブラウンが目を丸めてエヴを見つめるとエヴはむぅっといじけた態度を取る。
「考えが浅いって」
「言ってない」
「遠回しに言ってました」
「やり方を諌めただけだ」
「むぅ、分からなかった自分が嫌になるんです」
ぷんと頬を膨らませて八つ当たりに尻尾を掴んで引っ張った。
痛くない程度なので放って好きにさせる。
ブラウンは私とのやり取りに苦笑いをしながら、杯を手渡してくる。
「旦那様方の意を汲んだのですね」
「分からないわけじゃないの。すぐに分からなかった自分が嫌だけど。今はもっと他にないのか不満なだけ」
「緩めると効果がなくなるそうです。あれでぎりぎりだとか」
「むうう、また団長の言う通り」
ブラウンの言葉にますます渋面になり、ブンブンと乱暴に尻尾を揺する。
不思議そうにするブラウンに拗ねた理由を告げると海千山千の団長に敵うわけありませんよと呆れていた。
「歳も経験も差がありますから」
「…はぁい」
諦めるとクッションを集めて座り、私の背中にもたれ尻尾を巻き付けて遊んでいる。
ヒムドも出てきてねだるのに任せて、その辺の皿を引き寄せて蒸し肉を与えてくつろぐ。
「それで結果はどうなった?」
人だかりの背中を見ながら問うとブラウンは楽しそうに笑った。
「混戦中です。うちの団員の力自慢の他に、ロバート様とベアード団長と旦那様が参戦されてますよ」
「ぶ、なんで、そうなった」
吹き出して顎に伝った滴を拭いながら尋ねた。
「魔導師長とスミスさんが順調に勝ち進んで、うちの団員らが二人と力比べしたがったんですよ。男からのキスはいらんがやりたいってことで。イグナスが賭けの一部から褒賞を出すということになって額がかなり大きいんです。キスのついでに旦那様が何かしらの褒美を出すと言うし」
戦闘種の混血や獣人達も負けん気を起こして終わらないそうだ。
「だから、なんで三人が?」
「さあ、そこは見てなかったのですが。ロバート様は起きた時に騒ぎのもとが姫のキスだと聞いてお嬢様と勘違いされたんでしょう。もう事情が分かっても今さら後戻りできませんし」
ゲラゲラ笑って楽しんでいる。
「たまーに短絡的になられるからおかしくって、あはは」
落ち着いたとは言えまだまだ若いですねぇと年長者の余裕からロバート殿の成長に笑みをこぼす。
「私も参加したい」
強化ありならいけるし、と呟くとブラウンがそうですねと軽く納得する。
「いいと思いますよ。勝ったら何をお願いします?旦那様がご褒美をお許しになると言ってました」
「別に欲しいのはないけど楽しそう」
「私とエヴは場荒らしになる」
強化が強すぎる。
対抗出来る者がいない。
「そうですかねぇ。瞬発力ならお嬢様に勝る奴らが多いのでお互いにいい勝負をすると思いますけど」
そう言われるとエヴの鈍さに思い至る。
「ルールは?常時強化じゃないのか?」
「いえ、開始と共にかけます」
それならエヴには不利だと納得した。
「とりあえず魔導師長とは直接、接触しない方がいい」
「ああ、そう言うことですね」
「はぁい」
エヴも寄るなと言われているのだろう。
素直に返事をする。
「えー?ありがとうございます?」
先に歩みを進めながらボソッとこぼすと隣を歩くエヴが首をかしげながらこちらを見上げた。
「拐いたい」
「嫌です。次は閉じ込めたいでしょう?」
むぅっと唇を突き出して睨まれた。
「ああ、閉じ込めたい」
「尻尾も耳も切らないでくださいね」
たった今、襟巻きの話は考えていなかったが、先に言い出しておかしかった。
「分かった。喜びそうな毛皮を仕留めて、…やっぱりやめた。私以外の毛皮に夢中になるのは嫌だ」
「別に毛皮を集める趣味はありません。団長のがいいんです。ふわふわ動くからいいんです」
それかヒムドがいいと答える。
「そう言うことか」
分かったとこちらも頷いて返すとほっとした気配が漂う。
「やっと通じた」
ぼそっと呟いて大きくため息を吐くので、今までの察しの悪さを謝ると苦笑いをしていた。
「団長は何でも分かるけどやっぱり気質には勝てないんですね。それだけなかなか分かってくれないからどうしようと思っていました」
「人狼にしては我慢してる」
「私、他の人狼が怖いです。団長で我慢してるなら他の人はどうなるんですか?」
「あー、それは、」
誘拐、拉致、監禁と言おうとして止めた。
イメージが悪すぎる。
「誘拐婚とは知っていたのだろう?」
「知りませんよ。番に選ばれたら、ただ結婚するとしか習ってません。選ばれると思わなかったし」
王都なら本で溢れているし、いくつか芝居小屋の題材になっている。
昔は公爵家から金を出してやらせていたが、今はどこも逆に金を出してやりたがる。
「この辺には王都から芝居小屋は来ないのか?」
「…さぁ?来てるのかな?私は見たことないです。前に竜退治の話をしたでしょう?それもあの時は知らなかったです。あとで皆に聞いてそういう本やお芝居もあるって聞きました」
「そうか」
軽々しく外へ出掛けられなかったのだろう。
聞くのは野暮だったと反省した。
思ったより知らないことが多いらしい。
酒宴の場所へ近づくと騒ぎが大きくなる。
そろそろ三人目当ての勝負が終わってもおかしくないのにまだ続いていたのかと意外さに興味を持った。
「誰が勝ったかな」
順当に魔導師長とスミスだろう。
ヤンを狙いの奴らは把握してないので誰かは分からない。
もとの場所に戻るとロバート殿はおらずブラウンがのんびり中央の喧騒を見ながら酒を飲んでいた。
こちらに気づくと意外そうに目を丸めて近くへと場所を譲った。
「お戻りですか?もう戻らないかと」
「エヴの怒りが治まった」
ブラウンが目を丸めてエヴを見つめるとエヴはむぅっといじけた態度を取る。
「考えが浅いって」
「言ってない」
「遠回しに言ってました」
「やり方を諌めただけだ」
「むぅ、分からなかった自分が嫌になるんです」
ぷんと頬を膨らませて八つ当たりに尻尾を掴んで引っ張った。
痛くない程度なので放って好きにさせる。
ブラウンは私とのやり取りに苦笑いをしながら、杯を手渡してくる。
「旦那様方の意を汲んだのですね」
「分からないわけじゃないの。すぐに分からなかった自分が嫌だけど。今はもっと他にないのか不満なだけ」
「緩めると効果がなくなるそうです。あれでぎりぎりだとか」
「むうう、また団長の言う通り」
ブラウンの言葉にますます渋面になり、ブンブンと乱暴に尻尾を揺する。
不思議そうにするブラウンに拗ねた理由を告げると海千山千の団長に敵うわけありませんよと呆れていた。
「歳も経験も差がありますから」
「…はぁい」
諦めるとクッションを集めて座り、私の背中にもたれ尻尾を巻き付けて遊んでいる。
ヒムドも出てきてねだるのに任せて、その辺の皿を引き寄せて蒸し肉を与えてくつろぐ。
「それで結果はどうなった?」
人だかりの背中を見ながら問うとブラウンは楽しそうに笑った。
「混戦中です。うちの団員の力自慢の他に、ロバート様とベアード団長と旦那様が参戦されてますよ」
「ぶ、なんで、そうなった」
吹き出して顎に伝った滴を拭いながら尋ねた。
「魔導師長とスミスさんが順調に勝ち進んで、うちの団員らが二人と力比べしたがったんですよ。男からのキスはいらんがやりたいってことで。イグナスが賭けの一部から褒賞を出すということになって額がかなり大きいんです。キスのついでに旦那様が何かしらの褒美を出すと言うし」
戦闘種の混血や獣人達も負けん気を起こして終わらないそうだ。
「だから、なんで三人が?」
「さあ、そこは見てなかったのですが。ロバート様は起きた時に騒ぎのもとが姫のキスだと聞いてお嬢様と勘違いされたんでしょう。もう事情が分かっても今さら後戻りできませんし」
ゲラゲラ笑って楽しんでいる。
「たまーに短絡的になられるからおかしくって、あはは」
落ち着いたとは言えまだまだ若いですねぇと年長者の余裕からロバート殿の成長に笑みをこぼす。
「私も参加したい」
強化ありならいけるし、と呟くとブラウンがそうですねと軽く納得する。
「いいと思いますよ。勝ったら何をお願いします?旦那様がご褒美をお許しになると言ってました」
「別に欲しいのはないけど楽しそう」
「私とエヴは場荒らしになる」
強化が強すぎる。
対抗出来る者がいない。
「そうですかねぇ。瞬発力ならお嬢様に勝る奴らが多いのでお互いにいい勝負をすると思いますけど」
そう言われるとエヴの鈍さに思い至る。
「ルールは?常時強化じゃないのか?」
「いえ、開始と共にかけます」
それならエヴには不利だと納得した。
「とりあえず魔導師長とは直接、接触しない方がいい」
「ああ、そう言うことですね」
「はぁい」
エヴも寄るなと言われているのだろう。
素直に返事をする。
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