人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

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開始

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案内されて盛り上がる人だかりの中へ入ると中央に樽がひとつ、エヴ達は先に待っていた。
イグナスの紹介と周囲の歓声を受けながら促されて樽を挟んで立つ。
「よろしくお願いします」
前に進み出たダリウスが頭を下げた。
「こちらこそ」
先にヤンが来るかと思ったら。
そう心の隅で考えつつ樽に肘をつけた。
「ヤンからと思った。ダリウスが初手か」
「あいつと能力ありで勝てたことないんで」
「ドレインは厄介だからなぁ」
「でしょ?」
軽くにこやかにしゃべりながらお互いの手を組んでいたら目の前に布が垂れてきた。
「いきますよ?用意はいいですかい?お二方」
勿体ぶったイグナスの声に了承を返すと布の奥から同様にダリウスの返答が聞こえた。
ぎりぎりと手のひらを絞められて私も強く握り返す。
強さに顔をしかめたが、どうにも口角が上がる。
わくわくが止まらない。
楽しい。
久々に高揚している。
エヴもこいつらも、何でこんなに私を楽しませてくれるんだろう。
「始め!」
さっと布が翻って目の前に歯を剥き出しにして戦闘に血走った凶悪面。
かっとお互いの発光と喧騒に負けないほどの金鳴り。
一瞬身体が傾くほど腕を倒されたが、押し返して支えに握っていた樽の木枠がバキンと割れた。
がくっと樽の底面が抜けてお互いの肘が落ちる。
「ストップ、ストーップ」 
「ああ、やっぱり樽じゃ持たねぇか。仕方ねえ。お嬢、あれ運んでもらえねぇすか?」
いいよと軽く返事をしてヤンと数人で人だかりを抜けて行く。
戻ってくるとどこからかテーブル代わりになりそうな岩をエヴが一人で担いで戻ってきた。
「あとでまた片付けるね」
鍛練所の隅にあった腰かけ用の岩だそうだ。
ど、と衝撃と共に地面に下ろしてそれを挟んでまたいちから仕切り直しとなった。
少し高さがあるが樽より腰を屈めずに立ちやすく使いやすい。
ダリウスも同じように考えているようで、屈む位置が楽になり顔が緩んでる。
イグナスの誘導に合わせてまた同じように手を組んだ。
「さっきよりいいですね」
「ああ、同感だ」
機嫌のいい声に私も頷く。
再度、始めの合図で先程と同じような流れになる。
二度めの経験から腕より足だと下半身に強化を強めて踏ん張る。
「ふ、く、」
「くぅ~っ」
お互いぎちぎちと力を込めて牽制し合う。
ゆっくり、ゆっくりとダリウスの手が倒れる。
だが、時折強く押し返されてなかなか勝負が決まらない。
今は夏。
熱帯夜とお互いが血管切れそうなほどのぶつかり合いに汗が額から汗が滴る。
ダリウスがこちらを睨んだり目を強く瞑って力を込めたりと分かりやすく表情が変わりおかしくて顔が緩む。
「はは、」
声が漏れてダリウスが汗を垂らして疑問符を浮かべた視線と真っ赤になった顔をこちらに向けた。
「楽しいなぁ」
「…ですねぇ」
お互い力は緩めないが、へらっと顔が緩む。
押し返す腕力のばらつきに継続して強化を乗せることと力を込め続けることのは苦手かと判断して一瞬、力を緩めると、かくっと勢いに飲まれた。
その瞬間を狙って一気に押し返して勝敗を決した。
「ああ!くそぉ!」
悔しそうに岩のテーブルを叩く。
勝敗をイグナスが高らかに宣言する横でダリウスの肩を叩いた。
「面白かった」
「俺もです。またお願いします。次の健闘を祈ります」
「うーん、打開策がない」
ヤンのドレインはどう対処したものかと首を捻る。
次にヤンが私の前に立つとダリウスと同じようによろしくお願いしますと頭を下げて、私も同じ流れで返す。
「苦肉の策は手袋かな?」
だが、それで勝っても面白くないし、ヤンも対策をしていそうだ。
普段、素肌を通して魔力のやり取りをするが布一枚の差を出来ないなど回りからは聞いたことはない。
これだけ強力ならそれさえも平気かもしれん。
「布越しでもドレインが出来るのか?」
「多少出来ますよ」
「そうか。そうだよな」
お互いばか正直に尋ねて答える。
エヴを挟んで揉めてはいるが、どうにもお互いの力量に一目を置いて険悪になるほどいがみ合うこともない妙な関係だ。
特に三人の中でヤンは一番私の立場を考慮して妙に同情している。
身を弁えることを大事にしている男だから立場が上の私がエヴに顎で使われているのを内心痛いものを見る目で眺めている。
ラウルならザマァと喜ぶしダリウスならただ笑うだけだ。
三者三様の中で最も気が優しい。
エヴの側で長く勤め、強引に奪うことも騙すことも一番簡単に出来たのにエヴのためにやらなかった。
おそらくこれからもだ。
番は奪うものと考える人狼からしたら崇高というか漬け込みやすいというか。
何にしろヤンが最も警戒するライバルと分かっているのに、エヴの回りの中で特に信頼に足る男だと気に入っている。
「高さはいいか?」
互いの腕を組んで岩のテーブルの感想を尋ねた。
「ええ、でもエヴ様には高すぎですね」
「そうだな。だが、それはあとで考えればいい。今は目の前に集中しよう。どうにも打開策がない」
「一気に注ぐか抜くかします。それだけです」
「恐ろしいなぁ」
以前の魔力のやり取りで吐いたのを思い出した。
今回もかと苦笑いをこぼす。
ヤンの手を握りしめるとダリウスほどの強さは返ってこない。
力押しで一気に勝負が決めよう。
吐こうが倒れようが身体はこの手を倒すことだけをイメージした。
「さて、第二試合です。団長、ヤンもそろそろ?」
先程のダリウスとの対戦より気持ちに余裕がない。
「ん」
「はい、大丈夫です」
小さく喉を潰すような声で返事を返す。
私の静かな集中にヤンも口許を引き締めてきつく私達の握った手元を睨んだ。
布で隠されイグナスの掛け声で布が消えた。
次の瞬間、地面に叩きつける勢いで倒した。
念じた通りに動くが、一気に吸われた気分の悪さからその場でえずいてヤンを引きずりながら倒れた。
周囲のどよめきとでかい声がぐらぐら回る頭に響くのに耳鳴りがして遠くから聞こえてくる。
仰向けに倒れるのも辛くて何とかよつんばに這う。
「…気持ち悪い、吐きそうだ」
ダリウスが空のバケツを持って顔に寄せるから掴んで顔を突っ込む。
「う、え、おお」 
どぼ、どぼと腹の中がひっくり返る。
「吸ったくらいじゃ、びくともしませんね、いた、た」
ヤンは肩をさすりながらゆっくりと起きた。
強化で耐えるつもりだったそうだが、先にドレインに集中して反応が遅れたそうだ。「団長の反応が早すぎて気づいたら視界が斜めにくるっと傾いてました」
私の下敷きになり肩をぶつけたようで軽く腕を回したら土埃を払っている。
テーブルから引き倒した時に揃って地面に倒れたせいだ。
ヤンは余裕があるが私にはない。
腹の筋肉が勝手にぼこんぼこん動いてまだ口から垂れ流してる。
前回の比じゃない。
魔力もほぼ空だ。
おそらく魔力枯渇の症状も出て吐き気が収まらないんだ。
「う、お、おえっ」
やっと息を整える余裕が生まれてバケツから顔をあげようとしたら止められた。
「次の試合があるので魔力をお返しします」
「ちょ、と、待て」
「続けてやる方がいいですよ。どうせまた吐くんですから」
「…分かった」
魔力を返されたがまた嘔吐が続いた。
落ち着いたら水をもらい顔を洗って身綺麗にする。
嘔吐は一過性のものなのに思ったよりキツくて動けなかった。
「やはりお前達の相手はきつい」
特にヤンのきつさは格別だ。
面白いと楽しむ余裕もない。
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