人狼の団長、見つけた番はすでに溺愛されている《団長はお預け中、たまに待てが出来ないで押し倒す》

うめまつ

文字の大きさ
272 / 315

謁見

しおりを挟む
エヴが手を振ると騎手の指示を聞いてワイバーンが渋々羽を広げた。
「すごい!格好いい!」
拍手をして喜ぶエヴに満足げに胸を張って見せびらかすから私達が不安定になって鞍の持ち手にしがみつく。
「こ、こら、のけ反るんじゃない」
騎手の叱り声に大人しく身体を地面と平行に戻った。
「ふー、マルクスがここまでのぼせるのは初めてです」
額の汗を拭いてため息を吐いた。
「お嬢さーん、そんだけ竜に好かれるなら乗り手になれますよぉ!仕事探すならうち来てください!自分、王宮に勤めるカール・エスキースです。名を出してくれればすぐに会えますから!」
「はぁい、ありがとうございます。カール・エスキースさんですね。覚えましたぁ」
「うわあ、なにあの子、可愛い。すげえ美人だし、」
気さくに手を振り返すエヴに鼻の下を伸ばした気配。
カールの背中を掴んで引っ張った。
「私の番に馴れ馴れしい。それとクレインの姫君だ。勧誘はやめろ」
「え」
「早く飛べ」
「は、はいぃ!」
すぐに飛び立つのにいつまでも上空を旋回して進まない。
「おい」
「すいません、マルクスがよほど気に入ったみたいです」
「また来ればいい。帰りがある」
そう言うとマルクスは分かるのかすんなりと王都へと頭を向けた。
小さくなるエヴ達に眼を向けるといつまでも手を振っていた。
「マルクスはこちらの言葉が分かるのか?」
「分かりますよ。賢いし100歳の長寿ですから。この子の世話は私で五代目になります」
ふうんと返すとおしゃべりらしいカールの話はまだ続いた。
「あの子、いえ、クレインのお姫様は言葉が分かるみたいですね。たまにいるんですよね。竜種とやり取り出来る方が。さっきもマルクスが気に入ったと喜んで落ち着きなくなってしまって」
「カールも言葉が分かる訳か」
「乗り手ですから。世話人も分かる者しかなれません。あそこまで密な会話は難しいですけどね。いくら分かると言ってもイエスかノーの分かりやすい会話しか無理です。不思議なお姫様ですね。犬や猫とも会話出来るんですか?動物の言葉が分かるなら妖精族?」
「人族だ」
「へえー、何か能力持ちですか?」
「王宮で話題の鬼姫だ」
「え?!」
ばっとこちらを振り返った。
「姉妹とか、そんなんじゃないんですか?本当にご本人?」
「クレインの姫は一人だ」
「はー、へえええ」
感心から長い相槌が返ってくる。
「あ、おめでとうございます」
「ん?」
「ご結婚です。いつごろご予定ですか?」
「まだ先だな」
本人の許可がない。
だいぶ先になる。
「そうですね、まだスタンビートが落ち着いてませんし」
「そうだな。それで王都はどのくらいで着く?半日ほどか?」
適当に相槌を返して話を変える。
「夕刻には到着しますよ。それでこの若い男は誰ですか?」
「魔導師長だ」
「は?」
「他言無用で頼む。おしゃべりは寿命を縮めるぞ」
「…はい。肝に命じます」
それからは王都に到着するまで静かになった。
途中、魔導師長の起きた気配に気づいて後頭部を殴って気絶させた。
「だ、団長。背中からなんか衝撃が来たんですけど?」
「気のせいだろう」
「そ、そうですかねぇ」
「気にするな」
「あーもう。何でもいいですが、運転しづらいようなことは止めてください」
「善処する」
バレていたがお互いになかったことにして通した。
「もう着きますよ」
日が暮れて辺りはオレンジの光に包まれている。
街からはちらほらと明かりが見えた。
王宮の裏にあるワイバーン専用の広場に降り立つ。
「みぁぁ…」
「そのまま隠れていろ。連れていくから」
疲れたのか少し力のない声がする。
背中から前に引っかけて腰ベルトにマントを挟んでその隙間に抱えていた。
不安定さと暑さにうんざりしたようだ。
魔導師長を肩に担いでワイバーンから降りた。
カールが手伝いに手を貸してくれたが一人で担いだ方が楽だからと断った。
ワイバーンの世話人達が数人現れてそのうちの一人に陛下への謁見を頼む。
ワイバーンからの来訪者は優先的に謁見が通るのですぐにお目通り出来ることになった。
魔導師長を担いだまま応接室に向かうのは止められたが必要だからと返すと戸惑いに案内人が焦る。
身分の分からない男を連れて、しかも腹にかけた袋状のマントも不敬と咎められた。
それもお目こぼしいただきたいと頼む。
「陛下へお尋ねください。この男は陛下のご存じの者です。腹の袋はジェラルド伯からの預かりものなので手放すわけにはいかない」
年嵩の執事長が男を改めますと覗き込んで魔導師長の顔を見るなり、ぎょっとして慌てていた。
昔はこの顔を晒していたのだから誰かすぐに分かったのだろう。
「な、何があったんですか?!この方が、このようなことになるなんて!」
「陛下に直接ご報告します」
駆けていく執事長の後ろ姿を眺めてその間に戸板が運ばれて乗せるように言われたが断った。
逃がすつもりはない。
このまま陛下の御前に巻き込んでやる。
すぐに執事長が駆けて戻ってきて応接室に通された。
長椅子が部屋に運ばれてそこに魔導師長を寝かせてソファーに座る。
全く起きない気配と青白い顔に力が強すぎたと反省した。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

淫らな蜜に狂わされ

歌龍吟伶
恋愛
普段と変わらない日々は思わぬ形で終わりを迎える…突然の出会い、そして体も心も開かれた少女の人生録。 全体的に性的表現・性行為あり。 他所で知人限定公開していましたが、こちらに移しました。 全3話完結済みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

没落貴族とバカにしますが、実は私、王族の者でして。

亜綺羅もも
恋愛
ティファ・レーベルリンは没落貴族と学園の友人たちから毎日イジメられていた。 しかし皆は知らないのだ ティファが、ロードサファルの王女だとは。 そんなティファはキラ・ファンタムに惹かれていき、そして自分の正体をキラに明かすのであったが……

追放された悪役令嬢はシングルマザー

ララ
恋愛
神様の手違いで死んでしまった主人公。第二の人生を幸せに生きてほしいと言われ転生するも何と転生先は悪役令嬢。 断罪回避に奮闘するも失敗。 国外追放先で国王の子を孕んでいることに気がつく。 この子は私の子よ!守ってみせるわ。 1人、子を育てる決心をする。 そんな彼女を暖かく見守る人たち。彼女を愛するもの。 さまざまな思惑が蠢く中彼女の掴み取る未来はいかに‥‥ ーーーー 完結確約 9話完結です。 短編のくくりですが10000字ちょっとで少し短いです。

五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……? ~ハッピーエンドへ走りたい~

四季
恋愛
五人姉妹の上から四番目でいつも空気だった私は少々出遅れていましたが……?

お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。

下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。 またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。 あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。 ご都合主義の多分ハッピーエンド? 小説家になろう様でも投稿しています。

処理中です...