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謁見
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エヴが手を振ると騎手の指示を聞いてワイバーンが渋々羽を広げた。
「すごい!格好いい!」
拍手をして喜ぶエヴに満足げに胸を張って見せびらかすから私達が不安定になって鞍の持ち手にしがみつく。
「こ、こら、のけ反るんじゃない」
騎手の叱り声に大人しく身体を地面と平行に戻った。
「ふー、マルクスがここまでのぼせるのは初めてです」
額の汗を拭いてため息を吐いた。
「お嬢さーん、そんだけ竜に好かれるなら乗り手になれますよぉ!仕事探すならうち来てください!自分、王宮に勤めるカール・エスキースです。名を出してくれればすぐに会えますから!」
「はぁい、ありがとうございます。カール・エスキースさんですね。覚えましたぁ」
「うわあ、なにあの子、可愛い。すげえ美人だし、」
気さくに手を振り返すエヴに鼻の下を伸ばした気配。
カールの背中を掴んで引っ張った。
「私の番に馴れ馴れしい。それとクレインの姫君だ。勧誘はやめろ」
「え」
「早く飛べ」
「は、はいぃ!」
すぐに飛び立つのにいつまでも上空を旋回して進まない。
「おい」
「すいません、マルクスがよほど気に入ったみたいです」
「また来ればいい。帰りがある」
そう言うとマルクスは分かるのかすんなりと王都へと頭を向けた。
小さくなるエヴ達に眼を向けるといつまでも手を振っていた。
「マルクスはこちらの言葉が分かるのか?」
「分かりますよ。賢いし100歳の長寿ですから。この子の世話は私で五代目になります」
ふうんと返すとおしゃべりらしいカールの話はまだ続いた。
「あの子、いえ、クレインのお姫様は言葉が分かるみたいですね。たまにいるんですよね。竜種とやり取り出来る方が。さっきもマルクスが気に入ったと喜んで落ち着きなくなってしまって」
「カールも言葉が分かる訳か」
「乗り手ですから。世話人も分かる者しかなれません。あそこまで密な会話は難しいですけどね。いくら分かると言ってもイエスかノーの分かりやすい会話しか無理です。不思議なお姫様ですね。犬や猫とも会話出来るんですか?動物の言葉が分かるなら妖精族?」
「人族だ」
「へえー、何か能力持ちですか?」
「王宮で話題の鬼姫だ」
「え?!」
ばっとこちらを振り返った。
「姉妹とか、そんなんじゃないんですか?本当にご本人?」
「クレインの姫は一人だ」
「はー、へえええ」
感心から長い相槌が返ってくる。
「あ、おめでとうございます」
「ん?」
「ご結婚です。いつごろご予定ですか?」
「まだ先だな」
本人の許可がない。
だいぶ先になる。
「そうですね、まだスタンビートが落ち着いてませんし」
「そうだな。それで王都はどのくらいで着く?半日ほどか?」
適当に相槌を返して話を変える。
「夕刻には到着しますよ。それでこの若い男は誰ですか?」
「魔導師長だ」
「は?」
「他言無用で頼む。おしゃべりは寿命を縮めるぞ」
「…はい。肝に命じます」
それからは王都に到着するまで静かになった。
途中、魔導師長の起きた気配に気づいて後頭部を殴って気絶させた。
「だ、団長。背中からなんか衝撃が来たんですけど?」
「気のせいだろう」
「そ、そうですかねぇ」
「気にするな」
「あーもう。何でもいいですが、運転しづらいようなことは止めてください」
「善処する」
バレていたがお互いになかったことにして通した。
「もう着きますよ」
日が暮れて辺りはオレンジの光に包まれている。
街からはちらほらと明かりが見えた。
王宮の裏にあるワイバーン専用の広場に降り立つ。
「みぁぁ…」
「そのまま隠れていろ。連れていくから」
疲れたのか少し力のない声がする。
背中から前に引っかけて腰ベルトにマントを挟んでその隙間に抱えていた。
不安定さと暑さにうんざりしたようだ。
魔導師長を肩に担いでワイバーンから降りた。
カールが手伝いに手を貸してくれたが一人で担いだ方が楽だからと断った。
ワイバーンの世話人達が数人現れてそのうちの一人に陛下への謁見を頼む。
ワイバーンからの来訪者は優先的に謁見が通るのですぐにお目通り出来ることになった。
魔導師長を担いだまま応接室に向かうのは止められたが必要だからと返すと戸惑いに案内人が焦る。
身分の分からない男を連れて、しかも腹にかけた袋状のマントも不敬と咎められた。
それもお目こぼしいただきたいと頼む。
「陛下へお尋ねください。この男は陛下のご存じの者です。腹の袋はジェラルド伯からの預かりものなので手放すわけにはいかない」
年嵩の執事長が男を改めますと覗き込んで魔導師長の顔を見るなり、ぎょっとして慌てていた。
昔はこの顔を晒していたのだから誰かすぐに分かったのだろう。
「な、何があったんですか?!この方が、このようなことになるなんて!」
「陛下に直接ご報告します」
駆けていく執事長の後ろ姿を眺めてその間に戸板が運ばれて乗せるように言われたが断った。
逃がすつもりはない。
このまま陛下の御前に巻き込んでやる。
すぐに執事長が駆けて戻ってきて応接室に通された。
長椅子が部屋に運ばれてそこに魔導師長を寝かせてソファーに座る。
全く起きない気配と青白い顔に力が強すぎたと反省した。
「すごい!格好いい!」
拍手をして喜ぶエヴに満足げに胸を張って見せびらかすから私達が不安定になって鞍の持ち手にしがみつく。
「こ、こら、のけ反るんじゃない」
騎手の叱り声に大人しく身体を地面と平行に戻った。
「ふー、マルクスがここまでのぼせるのは初めてです」
額の汗を拭いてため息を吐いた。
「お嬢さーん、そんだけ竜に好かれるなら乗り手になれますよぉ!仕事探すならうち来てください!自分、王宮に勤めるカール・エスキースです。名を出してくれればすぐに会えますから!」
「はぁい、ありがとうございます。カール・エスキースさんですね。覚えましたぁ」
「うわあ、なにあの子、可愛い。すげえ美人だし、」
気さくに手を振り返すエヴに鼻の下を伸ばした気配。
カールの背中を掴んで引っ張った。
「私の番に馴れ馴れしい。それとクレインの姫君だ。勧誘はやめろ」
「え」
「早く飛べ」
「は、はいぃ!」
すぐに飛び立つのにいつまでも上空を旋回して進まない。
「おい」
「すいません、マルクスがよほど気に入ったみたいです」
「また来ればいい。帰りがある」
そう言うとマルクスは分かるのかすんなりと王都へと頭を向けた。
小さくなるエヴ達に眼を向けるといつまでも手を振っていた。
「マルクスはこちらの言葉が分かるのか?」
「分かりますよ。賢いし100歳の長寿ですから。この子の世話は私で五代目になります」
ふうんと返すとおしゃべりらしいカールの話はまだ続いた。
「あの子、いえ、クレインのお姫様は言葉が分かるみたいですね。たまにいるんですよね。竜種とやり取り出来る方が。さっきもマルクスが気に入ったと喜んで落ち着きなくなってしまって」
「カールも言葉が分かる訳か」
「乗り手ですから。世話人も分かる者しかなれません。あそこまで密な会話は難しいですけどね。いくら分かると言ってもイエスかノーの分かりやすい会話しか無理です。不思議なお姫様ですね。犬や猫とも会話出来るんですか?動物の言葉が分かるなら妖精族?」
「人族だ」
「へえー、何か能力持ちですか?」
「王宮で話題の鬼姫だ」
「え?!」
ばっとこちらを振り返った。
「姉妹とか、そんなんじゃないんですか?本当にご本人?」
「クレインの姫は一人だ」
「はー、へえええ」
感心から長い相槌が返ってくる。
「あ、おめでとうございます」
「ん?」
「ご結婚です。いつごろご予定ですか?」
「まだ先だな」
本人の許可がない。
だいぶ先になる。
「そうですね、まだスタンビートが落ち着いてませんし」
「そうだな。それで王都はどのくらいで着く?半日ほどか?」
適当に相槌を返して話を変える。
「夕刻には到着しますよ。それでこの若い男は誰ですか?」
「魔導師長だ」
「は?」
「他言無用で頼む。おしゃべりは寿命を縮めるぞ」
「…はい。肝に命じます」
それからは王都に到着するまで静かになった。
途中、魔導師長の起きた気配に気づいて後頭部を殴って気絶させた。
「だ、団長。背中からなんか衝撃が来たんですけど?」
「気のせいだろう」
「そ、そうですかねぇ」
「気にするな」
「あーもう。何でもいいですが、運転しづらいようなことは止めてください」
「善処する」
バレていたがお互いになかったことにして通した。
「もう着きますよ」
日が暮れて辺りはオレンジの光に包まれている。
街からはちらほらと明かりが見えた。
王宮の裏にあるワイバーン専用の広場に降り立つ。
「みぁぁ…」
「そのまま隠れていろ。連れていくから」
疲れたのか少し力のない声がする。
背中から前に引っかけて腰ベルトにマントを挟んでその隙間に抱えていた。
不安定さと暑さにうんざりしたようだ。
魔導師長を肩に担いでワイバーンから降りた。
カールが手伝いに手を貸してくれたが一人で担いだ方が楽だからと断った。
ワイバーンの世話人達が数人現れてそのうちの一人に陛下への謁見を頼む。
ワイバーンからの来訪者は優先的に謁見が通るのですぐにお目通り出来ることになった。
魔導師長を担いだまま応接室に向かうのは止められたが必要だからと返すと戸惑いに案内人が焦る。
身分の分からない男を連れて、しかも腹にかけた袋状のマントも不敬と咎められた。
それもお目こぼしいただきたいと頼む。
「陛下へお尋ねください。この男は陛下のご存じの者です。腹の袋はジェラルド伯からの預かりものなので手放すわけにはいかない」
年嵩の執事長が男を改めますと覗き込んで魔導師長の顔を見るなり、ぎょっとして慌てていた。
昔はこの顔を晒していたのだから誰かすぐに分かったのだろう。
「な、何があったんですか?!この方が、このようなことになるなんて!」
「陛下に直接ご報告します」
駆けていく執事長の後ろ姿を眺めてその間に戸板が運ばれて乗せるように言われたが断った。
逃がすつもりはない。
このまま陛下の御前に巻き込んでやる。
すぐに執事長が駆けて戻ってきて応接室に通された。
長椅子が部屋に運ばれてそこに魔導師長を寝かせてソファーに座る。
全く起きない気配と青白い顔に力が強すぎたと反省した。
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