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第二章※イルザン
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身分なんか嫌いだ。
こうやって大事なものを奪っていく。
駆けつけたい衝動を押さえて寮に戻った。
玄関前の階段に座ってムスタファを待つしかできない。
潔癖症なあいつのことだ。
荒れるだろうな。
ここへ来る途中、副団長に咎められたが、事情を伝えた隊長が取りなしてくれて許可を得てここにいる。
「…あいつ、大丈夫かね。」
「…わかりません。暴れないとは思いますけど。」
死体で帰ってくるんじゃないかと隊長も心配していた。
やはり、というか。
ムスタファは遊びがそんなに好きじゃない。
ここ数年は花街に行くと言いながら娼館の往診ばかりしていた。
知らない奴等は遊んでると誤解していたけど。
休みの日は隊員の家族の往診。
真面目にしていた。
そっちの方が落ち着くらしくて表情も穏やかだった。
でも、それじゃあ困る。
穏やかになればなるほど俺から離れていく。
キスの回数も減った。
その度に俺の感情とあいつの熱量の差を感じて悔しくなる。
“キスしても良いと思う程度に気に入ってるだけだ”
その台詞は本物だ。
俺が真剣な素振り見せるといつも可哀想にって面でこっちを見てくる。
“やめるか?”
やめても構わない程度の関係。
そこから進まない。
望むのは俺だけ。
あいつは気ままに許すだけ。
俺ばっかりずるくね?
変えたい。
もっと俺にハマればいいのに。
ぶるっと風の冷たさに身震いした。
ぼたぼたと垂れる水の音と土を踏む音。
はっとして音の方を見ると幽霊みたいなムスタファが上半身裸で立っていた。
「え?あれ?」
思った以上に早い帰宅と水浸しの格好に驚いた。
「何で水浸し?しかも裸で?」
「先に井戸に寄った。」
がらがらの声。
隣に座って覇気なく答えた。
肩に手をやると氷のように冷えていた。
「さすがに風邪引く。中へ行こう。」
頷くだけだ。
部屋で頭を拭いてやろうとするといつもと違って何も言わず静かにしていた。
何があったとは聞かない。
俺はあいつらの好みをよく知ってる。
だいたいの想像はついた。
拭いてやってると腹の辺りにしがみついてでかい声で泣き出した。
濡れた髪の毛の水気が服に染みて冷たいけど構わない。
声の大きさに何があったのかと隣の奴等も見に来たくらい。
回りには急患で不在と伝えていた。
患者のことらしいと濁せば勝手に想像してくれた。
ムスタファを蔑む奴等はうるせぇと怒鳴りに来たが、同じ隊の奴等が庇った。
俺はこの状況を笑った。
まわりは俺にムスタファを頼むと言っていくのを喜んだ。
俺じゃなきゃ。
俺が一番だろ?
優しく慰めて俺にだけとすがれば良い。
それしか考えてなかった。
次の日の、ムスタファの死にそうな顔を見ても嬉しくて仕方なかった。
優しくすれば黙って甘えてきた。
誤算だったのは思った以上に里心がついて、主への想いを強めたことだけだ。
まだ俺だけじゃないことへ嫉妬は出た。
だが今、側にいるのは俺だけだ。
いずれ俺だけになると妙な確信があった。
なのに、甘えてくるのに口数が減った。
尋ねても適当に返事を返されることが増えた。
焦りを感じたけど、嫌われるのが嫌でそれさえも受け入れた。
あの日、俺だけにすがって泣いた。
それだけが俺の気持ちを支えた。
ムスタファと別行動の日、仕事か帰宅し食堂へ行くと大騒ぎだった。
「なんだこれ?喧嘩か?」
騒ぎの中心からムスタファの名前が聞こえて人をかき分けて寄っていくとすげえ可愛く笑うムスタファがいた。
「ムスタファ、なんの騒ぎだ?」
そう尋ねたらまわりがしんと静まり返った。
「あの子供の引き取り先が決まったから機嫌がいいんだ。」
「よかったな。」
反射的に答えた。
その瞬間、幸せそうに。
ふわっと顔がまたほころんだ。
言葉が何も出ないのに驚いてパクパクと口が動いた。
“何でそんな顔をするんだ?”
そう言いたかった。
他の奴等にもニコニコと微笑み、手で顔を隠しても目元は幸せそうに細めている。
7年近い付き合いで初めてそんな顔を見た。
可愛くて胸が苦しいのと、なんで俺がいない時にそんな顔をしてるんだと罵りたいのと。
誰がそんな顔をさせたんだという疑問で頭がぐるぐるした。
宴会のあと、部屋で。
ムスタファを取り返したくて無理やりキスをした。
機嫌の良さから口を使わせてくれたけど。
この状況に納得してない。
誰かに盗られた。
それだけはわかった。
こうやって大事なものを奪っていく。
駆けつけたい衝動を押さえて寮に戻った。
玄関前の階段に座ってムスタファを待つしかできない。
潔癖症なあいつのことだ。
荒れるだろうな。
ここへ来る途中、副団長に咎められたが、事情を伝えた隊長が取りなしてくれて許可を得てここにいる。
「…あいつ、大丈夫かね。」
「…わかりません。暴れないとは思いますけど。」
死体で帰ってくるんじゃないかと隊長も心配していた。
やはり、というか。
ムスタファは遊びがそんなに好きじゃない。
ここ数年は花街に行くと言いながら娼館の往診ばかりしていた。
知らない奴等は遊んでると誤解していたけど。
休みの日は隊員の家族の往診。
真面目にしていた。
そっちの方が落ち着くらしくて表情も穏やかだった。
でも、それじゃあ困る。
穏やかになればなるほど俺から離れていく。
キスの回数も減った。
その度に俺の感情とあいつの熱量の差を感じて悔しくなる。
“キスしても良いと思う程度に気に入ってるだけだ”
その台詞は本物だ。
俺が真剣な素振り見せるといつも可哀想にって面でこっちを見てくる。
“やめるか?”
やめても構わない程度の関係。
そこから進まない。
望むのは俺だけ。
あいつは気ままに許すだけ。
俺ばっかりずるくね?
変えたい。
もっと俺にハマればいいのに。
ぶるっと風の冷たさに身震いした。
ぼたぼたと垂れる水の音と土を踏む音。
はっとして音の方を見ると幽霊みたいなムスタファが上半身裸で立っていた。
「え?あれ?」
思った以上に早い帰宅と水浸しの格好に驚いた。
「何で水浸し?しかも裸で?」
「先に井戸に寄った。」
がらがらの声。
隣に座って覇気なく答えた。
肩に手をやると氷のように冷えていた。
「さすがに風邪引く。中へ行こう。」
頷くだけだ。
部屋で頭を拭いてやろうとするといつもと違って何も言わず静かにしていた。
何があったとは聞かない。
俺はあいつらの好みをよく知ってる。
だいたいの想像はついた。
拭いてやってると腹の辺りにしがみついてでかい声で泣き出した。
濡れた髪の毛の水気が服に染みて冷たいけど構わない。
声の大きさに何があったのかと隣の奴等も見に来たくらい。
回りには急患で不在と伝えていた。
患者のことらしいと濁せば勝手に想像してくれた。
ムスタファを蔑む奴等はうるせぇと怒鳴りに来たが、同じ隊の奴等が庇った。
俺はこの状況を笑った。
まわりは俺にムスタファを頼むと言っていくのを喜んだ。
俺じゃなきゃ。
俺が一番だろ?
優しく慰めて俺にだけとすがれば良い。
それしか考えてなかった。
次の日の、ムスタファの死にそうな顔を見ても嬉しくて仕方なかった。
優しくすれば黙って甘えてきた。
誤算だったのは思った以上に里心がついて、主への想いを強めたことだけだ。
まだ俺だけじゃないことへ嫉妬は出た。
だが今、側にいるのは俺だけだ。
いずれ俺だけになると妙な確信があった。
なのに、甘えてくるのに口数が減った。
尋ねても適当に返事を返されることが増えた。
焦りを感じたけど、嫌われるのが嫌でそれさえも受け入れた。
あの日、俺だけにすがって泣いた。
それだけが俺の気持ちを支えた。
ムスタファと別行動の日、仕事か帰宅し食堂へ行くと大騒ぎだった。
「なんだこれ?喧嘩か?」
騒ぎの中心からムスタファの名前が聞こえて人をかき分けて寄っていくとすげえ可愛く笑うムスタファがいた。
「ムスタファ、なんの騒ぎだ?」
そう尋ねたらまわりがしんと静まり返った。
「あの子供の引き取り先が決まったから機嫌がいいんだ。」
「よかったな。」
反射的に答えた。
その瞬間、幸せそうに。
ふわっと顔がまたほころんだ。
言葉が何も出ないのに驚いてパクパクと口が動いた。
“何でそんな顔をするんだ?”
そう言いたかった。
他の奴等にもニコニコと微笑み、手で顔を隠しても目元は幸せそうに細めている。
7年近い付き合いで初めてそんな顔を見た。
可愛くて胸が苦しいのと、なんで俺がいない時にそんな顔をしてるんだと罵りたいのと。
誰がそんな顔をさせたんだという疑問で頭がぐるぐるした。
宴会のあと、部屋で。
ムスタファを取り返したくて無理やりキスをした。
機嫌の良さから口を使わせてくれたけど。
この状況に納得してない。
誰かに盗られた。
それだけはわかった。
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