うちの妻はかわいい~ノンケのガチムチ褐色が食われる話~

うめまつ

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第二章※イルザン

8

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出会ってから8年、ムスタファに片想いしてる。

手元に置きたくて優しくしたり拗ねて冷たくしたり。

それでも故郷がいいと離れていった。

また側にいたくて追いかけた。

この勝負に勝てばまたムスタファと組めると思ってた。

そしたらまた元通り。

ちょっかいかけて、キスして。

いずれ俺だけのムスタファになると思った。

なのに、ビスとの勝負に負けた。

負けるとは思わなかった。

悔しくて泣きそうなのを堪えて笑う。

「悔しいですね。不合格ですか。」

それでも勝手についていく気だった。

「残念ながらね。同行はやめた方がいい。」

「そうだな。」

頭を下げる。

顔を見せられない。

「ムスタファ、僕の分のガーゼ持ってきてよ。」

鼻を押さえて血だらけのガーゼを換えたいとビスがムスタファに言う。

「わかった。俺もガーゼが足らん。」

「折れたかな?」

「血が治まったら診てみてやるよ。」

「そうだね、僕もあとで診てあげる。」

裏口から中へ入るムスタファの背中を眺めた。

とん、と首に何か感触を受けて振り返るとビスが俺の首に手刀を当てていた。

不思議に思って顔を見ると冷たい視線。

「本当に、殺るのは簡単だね。」

「え?」
 
目の前に手のひらをかざして、その中に小さな細いナイフがあった。

驚いてさっと下がり、刺されたのかと首に手を当てて確認する。

「この程度で追いかけちゃダメだよ。」

ビスの動きに警戒していたはずなのに、また距離を一瞬で詰められて反対側のがら空きになっている首筋に手刀の感触。

先程より大きく下がって、ビスのかざす手にはまたナイフがある。

「な、なんで、」

「その程度でついてくる気ならやめてくれるかな。」

「え?あ、ちが、」

見透かされて言い訳しか頭に浮かばない。

「あいつを楯にする気?守らせるの?はは、笑える。」

「ちが、」

「目の前で死んで思い出の男になりたいとか?どういうつもりか教えてほしいね。」

言い返そうとするのにパクパク動くだけで思い付かない。

今度は腹に、つんとつつく感触。

いつの間に出したのか細長い両刃の剣が腹部に当たっていた。

「付きまとうの、やめてね?」

ニコニコ笑っていた。

俺は頷くだけだ。

「そんなに怖がらなくていいよ。殺らないから。ただの友達ならね?」

「は、い。」
 
ひゅっと、息を飲む。

怖い。

逆らう気にならない。

「ムスタファもチェックが甘いよね。」

先程のムスタファの行動は身体検査だったと気づく。

「どこから、それを。」

「どこからでも。君は知る必要ないよ。」

先程のナイフが消えたことにも驚いた。

今は、かちっと音をたてて刃先が柄に収まる。

仕込み杖。

それもどこから出したのか検討つかない。

「来ちゃダメだよ?わかった?」

子供に諭すような優しい声音なのに、怖くて鳥肌が立つ。

「もし、」

ついてきたら、どうする?

「ふ、ふふ。度胸は認めるかな。結果がどうであれ。」

勝手に死ぬと言いたいんだろう。

自ら殺す気はないと。

ついていきたい。

ムスタファの側にいたい。

ここまで来たのに。

短めの杖が消えたあと、家からムスタファが出てきた。

「あ、ムスタファ。ありがとう。」

戻ってきたムスタファから濡れたタオルを受け取ってる。

「冷やせ。患者が怖がる。」

「君もね。」

「ああ。」

二人で自分の鼻を押さえてる。

ムスタファの鼻血はまだ治まらないらしい。

捲れた袖から、縄の跡が見える。

顔にも。

気づかない素振りを見せていたけど気になって目線がそっちにいく。

「ビス、もう一回したい。」

「ハンデいる?」

「いらん。」

「ふふ、勝てる?」

「引き分ければ上等。今はな。」

にぃっと目を細めて笑う。

「やらせろ。」

「ねだられると気分いいね。鼻血止まった?」

「…まだだ。」

「じゃあ、次回ね。」

「わかった。」

俺がムスタファを見ても視線は絡まない。

ムスタファが見てるのはビスだ。

ビスも俺を見ない。

二人の眼中にない。

二人がお互いのを鼻の診察してる間も。

「折れてない。よかったな。」

「お互いね。」

ムスタファは頭にスカーフを巻いて残った布で顔を隠した。

「お前に勝たないと一人立ちの許可が出ない気がする。」

「いや、別にそんなことないと思うよ。地理に問題なければお嬢様はお許しになるんじゃないかな。」

「そうならいいが。お前に勝てる見込みが今のところ薄い。」

「そうかな?僕はそろそろ難しい気がしてきたけど。」

「ああ、初めてお前に怪我をさせた。」

「機嫌いいね。珍しくおしゃべりだ。」

「そうだな。引き分けたからかな。」

久しぶりに見る饒舌なムスタファ。
 
ビスが妬ましくてじっと見ると、こちらに視線を返すことなくまたどこから出したのか手の隙間から刃先が光る。

「イルザン、これからどうする?」

「何も、ついていけないなら。」

投げやりに答えた。

強気を装うが内心、ムスタファの隣に立つビスが怖かった。

嫉妬混じりに睨めば目を合わさないのに指の隙間が光る。

ムスタファでさえ気づかない。

俺にだけ見せびらかしている。

遊ばせとくのは勿体ないとビスの薦めでこの街の護衛をすることになった。

給料もいい。

二人の推薦ということですんなり決まった。

ムスタファが書類の手続きをしている隙にビスにこっそり話しかけた。

「二人で旅を続けるんすか?」

「何か問題?」

「いえ、強いのは分かるけど。」

羨ましいだけだ。

「僕も聞きたいんだ。なんで食わなかったの?」

「え?」

「食いたかったんでしょ?」

「殺されますよ。」

「僕は生きてるけど?」

「あ、え、まあ。」

やっぱり。

「まあ、いいや。」

憎まれ口のひとつでも叩きたいけど二度と安眠できない気がする。

「綺麗だよね、ムスタファ。」

「そっすね。」

一目惚れするくらい。

「これから虫退治で忙しくなりますよ?」

「みたいだね。」

ビスの目線の先はムスタファ。

カウンター向かいの、手続きを手伝う男が顔を赤らめてる。

他にも遠目から視線を集めて目立ってる。

異国の服だからじゃない。

唯一、見える目線だけでまわりを惹き付けてる。

「…ビスも一目惚れっすか?」

「さあ?こういうの、初めてだから分からないけど。」

「そっすか。…俺は一目惚れでした。」

「ふぅん。」

好きだったと。

ポロポロと言葉が続く。

簡単な相づちが返ってくるだけだが、言葉が止まらなかった。

「そう、お気の毒。」

割り込みの張本人から慰められる奇妙なやり取り。

勝てない相手に喧嘩を吹っ掛けるほど命知らすじゃない。

仕方ないとも思えた。

引き際は大事だ。

そうやって生きてきた。

「何にしろ俺じゃ役不足ってことですかね。」

「…さあね。」

濁すビスの言葉は慰めなのだと伝わった。






~終~
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