白黒の猫~ずっと可愛い黒猫が欲しかったのに、気づけば茶とらの毛並みを撫でていた~

うめまつ

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「どうせ非力だよ。俺、兵士は向かない。無理だよ」

はあ、と俺の腕を巻いたまま椅子にもたれてデカイため息。

俺にもたれかかればいいのに。

そう思ってすんなりダグの肩を引いて胸に倒した。

特に抵抗なく文句も言わないから俺の機嫌がよくなる。

「ああ、くそぉ、俺小せぇ。さすがに将来不安なんだけど?マジで」

「あ?なんで?」

ダグが俺の胸の中で顔をあげるからダグの顔を見下ろすと思ったより不機嫌全開で顔をしかめていた。

「当たり前じゃん?俺が団に残ってるのがおかしい。体格に不利がありすぎる。15才の新入りにも追い抜かれてずーっと最弱兵士だよ?年取ってからどうすんの?」

「あー、まあねぇ」

こいつの力説に納得して頷いた。

言いたいことは分かる。

ぶっちゃけカナン様の都合で団に残してある。

なんでこいつを残すんだって振り落とされた奴らと何度か揉めた。

二十歳という成長の止まった年齢で本来なら残れない体格と体力。

それもキツいんだろうな。

こいつはなんで残されてるの分かってねぇし。

親父や団長に聞いた話なら使用人向きらしいけどカナン様が無駄に襲うからで本邸で雇えないって。

しかもカナン様の我が儘で団長以外に預けるのは許さないらしい。

「いつまでも閨の世話も無理だし、これが特技なら将来、なんかの役に立つかと思ったけどなぁ。あいつの汚いケツ見て無理って分かった。客や罪人を選ぶならそういう仕事も無理だし」

「あ"あ"?客ぅ?罪人って何のことだ?」

何を言い出した。

「俺って役職がない下級兵士だよ?最弱の。体格が育つ見込みもないし、通常の鍛練に耐えるほどの筋肉もつかない。このままなら規定通り25になる前に強制退団だろ?それから仕事を何するか考えてんの。ロニーとカナン様に誉められたから、意外とそれ専門の拷問官に向いてるかと思ったけど」

それか男娼と大声で断言するから焦った。

「お、おい」

「なんで俺ってこんなにちっちゃいんだろ!団に残れないし!あー、もう!てか、男娼するにしても俺の歳なんかもうじじぃだし!他に誰かに誉められたことなんかない!なーにも特技がない!」

ぐずぐずと鼻声になってきた。

顔を覆って目元をぐりぐりとこする。

「皆だったらさ、退団後も実家とか親戚とかあるじゃん?体格がもう少し良ければ自警団に入れるし、力仕事とか色々。俺、家族も体格も学もない。でも、自分で何でもやらないとさ」

慌てて懐から手拭いを出して顔を拭いてやろうとしたら、ありがとうと言いながら手を押し返された。

「自分の使ういいよ」

腰に挟んでた手拭いを取ると、ずびーっと勢いよく鼻をかむ。

「鼻水出てるし、ずずっ、ぐず、」

顔をさっと拭いたら、今度はいきなり俺の飲んでいたワインを掴んで俺のコップにドボドボと注いだ。

「ロニー、飲めっ」

「おお、飲むから。こら待て、お前は薄いのを飲め」

「もうこれ飲む」

取り上げようとするのにがっしりボトルを抱き込んで離さない。

「止めとけ、そんな薄いので飲んだくれてんだから」

女子供が飲むワインをたった二杯でこの有り様だ。

「よっと」

「あ!こら!」

なだめてる隙にダグのコップにドボドボ。

「勿体ないから飲もうっと。ねぇ?ロニー、いいよね?ねー?」

「ぐっ、ううっ」

こいつが小さいせいだとは分かってるけど。

ちらちらと上目遣いするな、この馬鹿。

もう二十歳だろうが。

こっちも酔ってるせいかいつも以上に腹の底から、ぐわっと来る。

あー、くそ!

だめって言えねぇ!

うう、……もとの薄いのと半々くらいで混ざってるから、まだましか?

「……吐くなよ」

「はぁい、うふふ」

少しずつ飲むのかと思ったら、くぴくぴとコップを煽って飲み干して唖然となった。

こっちの酔いが覚めるわ。

俺のボトルに手を出すから、空になったグラスに急いで薄いワインを注ぐけど、負けじとダグも注いでる。

手に持ったボトルを取り上げるのに唇をムッとするから頬がふくれて可愛い、……じゃねぇよ。

そんなもんに気づくな、俺の馬鹿たれ!

「こら、ダグ。このアホ」

「やけ酒。たまにはいいでしょ?」

くびくび煽ってるコップと口の隙間に手をかざした。

「うわ、こぼれた」

ダバッと胸から腹にワインがかかり慌ててる。

「マジでアホ、やめろ。な?いい子だから、やめよう?」

「分かったから、ちょっとどいて。やべ、借りもんなのに」

予備服は団の所有。

使ってんの、ほぼこいつだけど。

椅子から降りて急いで手桶の水を小ぶりの洗面器に移して石鹸を出した。

「よ、」

あっさり俺の前で脱いで洗面器でざばざば洗い始めた。

「代わるぞー、酔っぱらい」

「酔ってるのは認めるけど別にいいよ」

気丈に振る舞うが残念。

足元がフラフラしてる。

蝋燭の明かりに白い裸の上半身がゆらゆら魚みてぇ。

白い肩と背中。

腰から背中、真ん中にかけてのデカイ青アザは痛々しいけど。

つるんとした凹凸の少ないなめらかさ。

張りのある筋肉の乗った薄い体格とくびれた横腹。

「お前、マジで背中が色っぽいなぁ」

ぞくぞくする。

「何?急に。女、足りてないの?」

「まあ、足りてねぇな」

「はは、ロニーかわいそー」

ぼろっとこぼした本音を軽くあしらわれた。

気楽でいいけど寂しい。

「俺にはもうアリィって嫁ちゃんいるけど」

「……あ"?……よめ?……あいつが?」

「そう、嫁ちゃーん。めっちゃ可愛いの」

「……あいつは、奴隷だろ?」

頭、沸いてんのか?

継ぎはぎの俺より背の高い、デカイがたいの。

金髪碧眼のイケメンだ。

顔の傷さえファッションに見えるくらいの。

雪の女王って異名の美形イケメンのカナン様と並んで対になるくらい。

夏の太陽が似合う雄々しいイケメン。

全く可愛くはねぇ。
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