白黒の猫~ずっと可愛い黒猫が欲しかったのに、気づけば茶とらの毛並みを撫でていた~

うめまつ

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マジでぼろぼろ。

死ぬ。

医務室の定位置にぐったりとうつ伏せた。

殺されるかと思った。

さすがもと騎士、奴隷からの成り上がり、団長代理は伊達じゃねぇなぁ。

すげぇのは怪我がないこと。

あっちこっち痛いのに目立つ打撲も流血もない。

しかも見ていた奴らは俺が上手いこと粘って組手を勤めたと思ってる。

いたぶられたなんて思ってない。

それに、本当に手も無事。

あいつ、上手いわ。

「お前、何した?」

「……聞かんでください。俺がアホだったので」

この人は察してるけど。

俺の背後にベイル部隊長。

庶民に多い濃い茶色の髪と赤みがかった琥珀の瞳。

あっさり顔のほどほどイケメン野郎。

色も顔も羨ましくなんかない。

嘘、羨ましい。

周りに溶け込む色と顔が。

部隊長の地位だけど団長の重用具合はほぼ副官。

私兵団のナンバー2。

顔を見れば感情の読みづらいうっすい目をもっと細めてやがる。

絶対、暇潰しにここに来た。

この人はダグにしか興味ないし、共通の話題なんかない。

「アリオンが怒るならダグだろ?カナン様も怒らせたわけか。このドジ」

「……聞かんでくださいってば」

くく、っと笑い声。

俺の受けた仕打ちに、ざまぁってところか。

「ばーか」

「部隊長、勘弁してくださいよ」

振り向けば扉を背もたれに寄りかかって肩を揺らしている。

どうせあとで団長から話が回ってくるくせに。

わざわざ来んな。

「夜、付き合え」

「飲みですか?」

「発散」

どうせ手ぇだしたんだろと言い当てて女でも抱けと笑っている。

「そっちは無理ですよ、嫌がられるんで」

断られるし嫌々相手されておっきしない。

「気にしなさそうなの見つけといた」

なんだって俺に手間をかける?
 
今までそんなこと気にかけたことないのに。

ちろっと睨むと変わらず小馬鹿にした笑み。

「なんだ?」

「どういう風の吹き回しかと」

顔色を伺うともっと目を細めて肩をすくめた。

「……別にお前がダグに懸想しようがどうでもいい。ダグがお前を頼りにしてたし。でも、だからと言ってお前の年相応な性欲をあいつに当てられちゃ困るんだよ、馬鹿が」

「……はぁ」

領主の囲い者に手を出すなと言いたいんだろう。

今回は事故だ。

いや、俺の迂闊さが招いたことだけど。

「今頃、またカナン様が焼きもち起こして寝込ませてるはずだ。さっき団長がアリオンを連れて回収に行った」

想像してむぅっと顔を歪めたら、俺の態度に眉をひそめた。

「ダグに偉そうにしてるくせガキだ。これ以上周りをごちゃごちゃさせるな」

そう言ってさっさと外へ出た。

くそっ、28のあんたに比べればガキだよ。

ダグの頼りにしてる兄貴分。

亡くなったルガンガ兄さんの友人でダグの兄貴代わり。

俺はそんなに親しくない。

おじさん達の話をたまにする程度。

ベイル部隊長もよく家にお邪魔して仲が良かったらしい。

お互い懐かしくてそういうを話を少し。

ルガンガ兄さんやおじさん達のこと。

話した内容や旨かったメニューとか。

ダグは家族を亡くしたショックがデカすぎて子供の頃の記憶が結構飛んでる。

なんとなくしか覚えてないらしい。

昔の話をしても、そうだったっけと首を捻る。

ベイル部隊長も俺もそれが少し悲しい。

覚えてないダグが辛くて。

悲しがる俺達の顔にいつも眉を下げて、ごめんって謝るからあまり昔話は出さないようにしてる。

痛めた体をひねってほぐしていると親父が医務室に来た。

「この馬鹿が」

「いでっ」

ついでに親父からも拳骨。

団長から報告行った。

弟には黙ってくれるらしい。

あいつは向こうの領地に残って怪我で動かせない兵士の治療と罪人の躾で忙しい。

「アリオンの躾がなかったら間違いなく他の処分をカナン様は選択していた。うちの治験体の一人になりたいのか」

「すいません、馬鹿やりました」

頭を下げるとため息を吐いた親父が黙って俺の手に財布を握らせる。

今日、発散に行くからって。

部隊長と団長から話聞いてるんかい。

いらねぇってのに。

部隊長のお供って名目だし行くのは仕方ないとしてこんなことで親の世話になりたくないわ。

「多少はよそに目を向けろ。何か縁があるかもしれん」

黙って親父の顔を見つめた。

心配そうな気の毒がるような表情。

ダグ以外を考えろってことか。

「……親父、……いで!」

無言で肩を殴られた。

「私もダグ坊は可愛い。我が子のお前も」

「……あ、ああ、そう」

殴られた肩を撫でながら意味も分からず頷いた。

「潮時だ」

「……なんで?」

分からないほど馬鹿じゃないけど諦めたくない。

アリオンにカナン様。

どちらを敵に回しても命がない。

「状況が変わった。お前が将来、カナン様がダグを手放した時の受け皿になるのは反対ではなかった」

今はアリオンがいるから俺は必要ないと付け足した。

「今度、見合いをさせる。いくつか見繕う」

「……はっ、冗談、ぐっ!」

「逃げるなよ?」

頭を鷲掴みに脅されたらもう黙るわ。

反発はあるが、親心が分からない馬鹿じゃないっつーの。

結婚させるとは言わなかった。

まだ多少選ぶ余地を残してるし、俺には強気なくせに目の奥に恐怖が浮いてる。

雑巾みたいな治験体達の隣に並ぶ俺を想像してるんだろう。

我が家は冷血な拷問官の家系だが、家族の団結は濃い。

親父の愛情を疑ったことはねぇ。

「見合いは分かった。あと、今後は気を付ける」

「そうしてくれ」

掴んでいた手を緩めて、子供の頃のように頭を撫でてる。

「……結婚までは約束出来ねぇけど。……ごめん」

「だろうな。分かっちゃいる」

言い訳に口をモゴモゴしながら言うと特に怒る様子はなく納得していた。

笑顔で罪人の皮を削ぐのに俺達子供に甘い。

俺がダグの払い下げを待ちたいと土下座した時は頭を抱えていたが、悩みながらも許してくれた。

カナン様が手放すのを待って5年。

自覚したのは7年前。

本邸の出入りを許されて二人の生の現場を見てから。

15になってすぐ。

鬼畜を止めに行くから手伝えとブチキレた親父に連れられて行った中庭で。

衝撃的すぎてあいつしか頭になかった。

俺の2つ下だから、あいつはあの時13才か。

目立つ黒髪と瞳の色にすぐに誰か分かった。

それと同時に、まだ今よりもっと華奢で、外で肌を日差しに白く反射させて長くてたっぷりの黒髪をさらさら揺らして。

今より細いあいつは痛みで呻いて泣いてんのに鼻にかかった甘さの声で。

若い俺には刺激的すぎた。

あの美形の領主様に貪られてエロくて綺麗だった。

結婚してまともに女を抱けるかどうかも自信ねぇや。

いつも頭にあれを思い浮かべながらだし。

「……すいません」

頭を撫でる優しい親父の手に罰が悪くて謝ると首を振った。

「私もあの子を引き受けるなら我が家しかないと私も思ったのだがなぁ」

親父もダグを可愛がっていて養子にしたいと言っていた。

俺が引き取ることに内心は賛成だった。

「候補は多いだろ」

懸想してるのは俺だけじゃない。

ベイル部隊長なんか特に。

「そうでもない。それより仕事だ」

俺から離れて棚の未処理の書類をどさっと机に放った。

弟も含めて三人でやる量。

「一人でやれ。治験のまとめも。期日が夕刻のものもあるから急げ」

「え、」

「私からの躾だ」

「……はい」

諦めてせっせと働く。

親父は優雅にお茶を飲んで俺の背中を眺めていた。

親父、自分が楽をしたいからじゃないよな?

「失礼します」

ノックに顔を上げたらアリオンがダグを背負っていた。

ため息をついたアリオンと真っ青な顔で目をつぶるダグ。

いつものと理解して親父が受け取り診察台へ乗せた。

俺は棚からガーゼと消毒用の薬湯。

噛み傷と所々腫れた白い肌のために用意した。
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