白黒の猫~ずっと可愛い黒猫が欲しかったのに、気づけば茶とらの毛並みを撫でていた~

うめまつ

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重たくて眠れなかった。

「ふあ、あ」

欠伸が止まらん。

さすがにベイル部隊長ののし掛かった重さで体が痛いし。

狭い長椅子の上で軽く抱きついて俺の胸を枕に寝てる。

「……くそ」

「なんですか?朝っぱらから」

起きた気配がしたと思ったらいきなり悪態ついてやがる。

俺を抱き枕にしたのはあんただ。

俺じゃねぇ。

「どいてくださいよ。本当にいい加減重いです」

俺と変わらない体格なんですからね。

「……動けねぇ」

「はぁぁ?」

「あったま、いてぇ、気持ち悪い。うえ、」

「ちょ、吐かないでくださいよ」

動こうとするのに重い。

なんとか隙間からずりずりと体を引きずって這い出て長椅子にベイル部隊長を転がした。

「うおおお、気持ち悪い」

急いで洗面器を用意する。

「飲み水は?」

無言で指をさした先はチェストに並んだ酒の山。

その中から薄い果実酒を見つけた。

水代わりに飲む奴。

「どうぞ」

受け取ったけどボトルを握ったままうつ伏せに寝込んでる。

放って帰るかと思ったけど近所の井戸まで行って水を汲んで通り道の店で朝飯を買った。

部屋に戻ってもまだボトルを握って死んでる。

「ベイル部隊長、朝飯です。あと水を汲んで来ました」

「……う、」

手を振って了承を返す。

「ルガンダ兄さんが見たら呆れますよ。あの人、真面目だったから」

ちゃんとしなきゃだめだよと耳障りのいい声で叱る姿が目に浮かんだ。

「ん、……だな。身だしなみにはうるさかった」

濡らした手拭いを渡すと大人しく顔を拭いてのそのそと起き上がった。

「どんな関係だったんですか?友達ってだけですか?」

好奇心だ。

今なら答えそうな気がして尋ねると死にかけた顔でちらっと俺を見て目をつぶった。

「……あいつのイメージ壊れるぞ。優しくて、頼りがいのある奴と思ってるだろ?」

「まあ、そうですね。格好いい兄貴でした。うちの姉は惚れてましたし」

子供の相手が上手い優しいお兄さんだったイメージだけど、友人関係ならまた違った一面もあるんだろうな。

「……あの、女ったらし。見境ねぇ」

「え?」

最も清純派のイケメン、ルガンダ兄さんに不釣り合いな単語に思えて声を漏らした。

「やっぱり知らないか。ルガンダ、馬鹿みたいに女がいたんだよ。二股、三股。もっとか。ガキの頃から押されると断れなくて。この辺の奴ら、ほぼあいつの元カノ。あいつが成人してから女達は何番目でもいいから入れてくれって状態。10人20人取っ替え引っ替え。マジでハーレムだよ」

「はい?!はぁぁ?!」

俺の大声が頭に響いたらしく前のめりに苦しんだ。

「いてて、言っとくがチビのダグも変わんねえからな。ガキだけど結婚してって追い回されてた」

時々男の子も混じって、近所の女の子達の取り合いだったらしい。

「二人とも回りの騒ぎを面倒くさがって俺のところに逃げてた。親に似てたからなぁ。お袋さんは異国からの旅芸人で看板女優してたし、親父さんも昔からあの店でモテモテだったって親から聞いた。この辺じゃ有名人」

「初耳です」

おばさん似のダグとおじさん似のルガンダ兄さんの顔を思い浮かべた。

「だろうね。お前はあそこで飯を食うくらいだったろ?」

「そうですね」

わざわざ自分からモテるとは言わないか。

「そんな奴に好きだ、愛してるだの強引に来られても信じられん」

「誰がですか?」

「……ルゥが、俺に」

ルガンダ兄さんが?

ベイル部隊長を?

ポカンとして顔を見つめた。

「俺なんかに笑うだろ。派手なあいつと不細工な俺じゃ不釣り合いで」

あんた、地味だけどイケメンよ?

もしルガンダ兄さんが生きて隣に並んでても悪くないと思う。

「いえ、そう言うことではなく、ただ驚いただけです」

自嘲気味な笑みに首を横に振った。

「……恋人ですか?」

確かに色々とイメージ壊れたわ。

「……いや、そういう付き合いはない。俺が信じなかったせいで、最後に馬鹿な喧嘩した。それきり。あの火事で最後」

目を見開いた。

ただの友人だと思ってたら、ルガンダ兄さんに好かれてて、ベイル部隊長も好いてたっぽいのに成就しなかったのか。

かける言葉が思い付かず、しばらく黙っていたら、二日酔いで真っ青な顔を隠すように項垂れて、もう帰れと呟いた。

「またルガンダ兄さんとベイル部隊長の話、聞かせてください。……俺の話も聞いてくれたらありがたいです」

何も言わずに追い払うように手だけ振ってる。

同情から話し相手くらいって気持ちだった。

家に帰っても、隠す前に見えた泣きそうな顔になんかしてやろうって気になった。

ベイル部隊長のあの立場で、10年も燻ったルガンダ兄さんへの恋愛感情を聞いて理解できるのは俺くらいだからな。

なんたって俺は領主の溺愛する愛人に7年も片想いだ。

お互い、いい勝負してる。
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