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次の日、朝からメイド長と執事長に囲まれた。
今日から仕事の合間で勉強を教えるって。
「お勉強、ですか?」
「そうです」
なんで?
メイドにもお勉強いるの?
「一週間ほど見させていただきましたが、家庭教師がついたことないのでしょう?」
「……はい」
母国語で書かれた洗剤の説明文がちゃんと読めなかった。
外国語の説明文はもっと分からない。
食器とカトラリーの並べ順を間違えた。
楽器の手入れの仕方を知らなかった。
得意なのは針仕事だけ。
それだって修繕が中心で難しい刺繍なんかは出来ない。
……学んでないのはすぐに分かるよね。
「勤め先を考えるならもう少しマナーと語学のお勉強をしましょうね?」
「……はい」
将来のため、将来のため。
頑張れ、私。
教えてくれるなんてありがたいんだ。
そう思うのに、学んでないことが知られて恥ずかしい。
貴族なのに。
針仕事以外、教えてくれなかった母。
姉達は家庭教師がついたのに。
お金がもったいないから姉達から学べと言われたけど、面倒だから教えたくないと言われた。
時々、気まぐれに教えてくれるけど、見たこともないものを見せて私が分からないとすぐに、あなたには無理よねと笑うし、自分でも努力しないからだと両親はがっかりしてた。
メイド長も執事長も、家族と同じかもしれない。
心臓がバクバクする。
怖い。
でも、何としても頑張らなきゃ。
午後から図書室に呼ばれた。
「り、リカルド王子」
「君がまだいたことに驚いた」
憮然とした態度で私を見てる。
咄嗟に膝をついた。
「申し訳ありません!」
なんで?
見咎められたからこのまま私は追い出されるの?
執事長とメイド長は?
震えて床に頭を擦り付けてた。
「来なさい」
「ですが、」
「勉強するんだろ?この屋敷で暇なのは私だけだ」
頭を上げるとこいこいと手招き。
それからはす向かいの椅子を指さした。
言う通りに座る。
びくびくしてる。
怖い。
「まずはこれから。復唱して」
渡されたのは絵本。
挿し絵がキレイ。
「“昔々、あるところに、”」
「“む、昔々、ある、ところに”」
一文字ずつ指でなぞりながら。
一冊読み終えたら、どの場面が好きだったか聞かれた。
「え、と」
灰かぶりの女の子が幸せになる話。
魔法使いが出てきて野菜の馬車に乗った。
どもってるとズイッと私の目の前に絵本を押し付けて指でページを捲ってる。
「気に入った挿し絵でもいい」
「こ!ここっ、ここの最後にお姫様が踊るところです」
一番、挿し絵がキレイ。
ドレスもキレイ。
髪型も素敵。
この挿し絵のお姫様が一番キレイで好き。
「ふぅん。じゃあ、次はこの絵本にしよう」
いくつかテーブルに乗せていた絵本の中から一つ選んで私の前に置いてくれた。
「わあ、キレイ」
さっきの絵本より色が沢山で絵がすごいキレイなの。
表紙に可愛いお姫様がたくさん描いてある。
レースや花柄のドレスが細かく描いてある。
「“12人のお姫様”」
「“12人、の、お姫様”」
リカルド王子の指と言葉を追いかける。
さっきの絵本より長かった。
読み終えるとリカルド王子も私も喉が軽くむせた。
「こほっ、休憩に、しよう」
「は、い、こほっ」
二人でこんこんと咳をしながら。
手元の呼び鈴を鳴らしてメイド長がカートを押しながらお茶を持ってきた。
「こちらへ。お支度の練習を」
「は、はい!」
メイド長の招きに気持ちが焦ってすぐに立ち上がるとリカルド王子に睨まれた。
「立ち方」
「え?」
「雑。やり直し」
「はいっ」
合格をもらうまでやり直し。
メイド長のお手本を真似してやっと合格。
淹れたお茶はギリギリ飲めると言われた。
でもお世辞。
本当ならアウトだと思う。
自分で飲んでも渋かった。
ちゃんとしたお茶も初めて淹れた。
家じゃ水か出涸らしのお茶だもん。
「リカルド王子、申し訳ありません」
ひどすぎると反省して謝る。
怒ってはないみたいだけど、かなり呆れてる。
追い出されると思ってびくびくしてる。
「……いい暇潰しにはなる」
頬杖をつきながらボソッと呟いてた。
これは予想外。
私のポンコツを気に入った。
今日から仕事の合間で勉強を教えるって。
「お勉強、ですか?」
「そうです」
なんで?
メイドにもお勉強いるの?
「一週間ほど見させていただきましたが、家庭教師がついたことないのでしょう?」
「……はい」
母国語で書かれた洗剤の説明文がちゃんと読めなかった。
外国語の説明文はもっと分からない。
食器とカトラリーの並べ順を間違えた。
楽器の手入れの仕方を知らなかった。
得意なのは針仕事だけ。
それだって修繕が中心で難しい刺繍なんかは出来ない。
……学んでないのはすぐに分かるよね。
「勤め先を考えるならもう少しマナーと語学のお勉強をしましょうね?」
「……はい」
将来のため、将来のため。
頑張れ、私。
教えてくれるなんてありがたいんだ。
そう思うのに、学んでないことが知られて恥ずかしい。
貴族なのに。
針仕事以外、教えてくれなかった母。
姉達は家庭教師がついたのに。
お金がもったいないから姉達から学べと言われたけど、面倒だから教えたくないと言われた。
時々、気まぐれに教えてくれるけど、見たこともないものを見せて私が分からないとすぐに、あなたには無理よねと笑うし、自分でも努力しないからだと両親はがっかりしてた。
メイド長も執事長も、家族と同じかもしれない。
心臓がバクバクする。
怖い。
でも、何としても頑張らなきゃ。
午後から図書室に呼ばれた。
「り、リカルド王子」
「君がまだいたことに驚いた」
憮然とした態度で私を見てる。
咄嗟に膝をついた。
「申し訳ありません!」
なんで?
見咎められたからこのまま私は追い出されるの?
執事長とメイド長は?
震えて床に頭を擦り付けてた。
「来なさい」
「ですが、」
「勉強するんだろ?この屋敷で暇なのは私だけだ」
頭を上げるとこいこいと手招き。
それからはす向かいの椅子を指さした。
言う通りに座る。
びくびくしてる。
怖い。
「まずはこれから。復唱して」
渡されたのは絵本。
挿し絵がキレイ。
「“昔々、あるところに、”」
「“む、昔々、ある、ところに”」
一文字ずつ指でなぞりながら。
一冊読み終えたら、どの場面が好きだったか聞かれた。
「え、と」
灰かぶりの女の子が幸せになる話。
魔法使いが出てきて野菜の馬車に乗った。
どもってるとズイッと私の目の前に絵本を押し付けて指でページを捲ってる。
「気に入った挿し絵でもいい」
「こ!ここっ、ここの最後にお姫様が踊るところです」
一番、挿し絵がキレイ。
ドレスもキレイ。
髪型も素敵。
この挿し絵のお姫様が一番キレイで好き。
「ふぅん。じゃあ、次はこの絵本にしよう」
いくつかテーブルに乗せていた絵本の中から一つ選んで私の前に置いてくれた。
「わあ、キレイ」
さっきの絵本より色が沢山で絵がすごいキレイなの。
表紙に可愛いお姫様がたくさん描いてある。
レースや花柄のドレスが細かく描いてある。
「“12人のお姫様”」
「“12人、の、お姫様”」
リカルド王子の指と言葉を追いかける。
さっきの絵本より長かった。
読み終えるとリカルド王子も私も喉が軽くむせた。
「こほっ、休憩に、しよう」
「は、い、こほっ」
二人でこんこんと咳をしながら。
手元の呼び鈴を鳴らしてメイド長がカートを押しながらお茶を持ってきた。
「こちらへ。お支度の練習を」
「は、はい!」
メイド長の招きに気持ちが焦ってすぐに立ち上がるとリカルド王子に睨まれた。
「立ち方」
「え?」
「雑。やり直し」
「はいっ」
合格をもらうまでやり直し。
メイド長のお手本を真似してやっと合格。
淹れたお茶はギリギリ飲めると言われた。
でもお世辞。
本当ならアウトだと思う。
自分で飲んでも渋かった。
ちゃんとしたお茶も初めて淹れた。
家じゃ水か出涸らしのお茶だもん。
「リカルド王子、申し訳ありません」
ひどすぎると反省して謝る。
怒ってはないみたいだけど、かなり呆れてる。
追い出されると思ってびくびくしてる。
「……いい暇潰しにはなる」
頬杖をつきながらボソッと呟いてた。
これは予想外。
私のポンコツを気に入った。
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