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「変わったお姫様ねぇ」

「姫じゃありません。ただの伯爵家の娘です」

「庶民からしたら貴族のお嬢様なんて皆お姫様よ」

ここで仲良くなったルーラさん。

私の先輩。

最初ツンツンしてたのに後輩が出来て嬉しいみたい。

こっそりお菓子をくれるし、夜になると部屋に顔を出しておしゃべりして行く。

ついでに仕事も押し付ける。

今もカーテンの修繕を押し付けて私がチクチク縫ってる横でおしゃべり。

「ラインは働き者ね」

「便利と思ってるでしょ?」

「ふふ?そうね、なんでも引き受けてくれるし」

「なんでもやらなきゃです。いずれここから追い出されるんですから。ルーラさん、ここはこれでいいですか?」

「んー?……いいわよ。針仕事も上手ね。早いし」

「実家でも縫い物ばかりでした」

家計の足しに。

「苦労人なのねぇ。貴族なのに」

「そういう巡り合わせと諦めました」

チクチク、チクチク。

隣でルーラさんはナッツをポリポリ摘まんでる。

「休憩したら?」

「もう少し」

「急がなくていいのよ?それ、シーズンオフのカーテンだし。ほら、口開けなさい」

口をツンツンとナッツでつつかれてる。

「ん、あむ」

「頑張りすぎよ?」

「もぐ……だって、気が急きます」

だってずっとここに居られるつもりはないし。

リカルド王子の目につかないように毎日ひっそり。

そうなるとハウスキーパー的な仕事だったり下働きみたいなのが多い。

「まだ出ていくつもりなの?ずっといればいいのに」

「リカルド王子次第です」

「んー、でもライン次第なところもあるのよ?」

「え?」

「ここに居たいならそう言わなきゃ。ここは嫌い?」

「……皆さんは好きだけど、リカルド王子は怖いから苦手です。顔も見ずに帰れって」

嫌い。

すっごい嫌い。

「あら、泣くほど怖かったの?」

「ふ、ぐすっ。……だって怒鳴られました」

帰るところもないのに帰れって。

行く宛がなくて惨めで辛かった。

それに馬鹿って言われた。

馬鹿じゃないもん。

泣きじゃくりながら説明したら頭を撫でられた。

「今日のお仕事は終わりよ?もう寝なさい」

「ふえっ、ひっく、……ずずっ、は、はい」

「泣き止んだら?目が腫れるわよぉ?」

「は、はい」

止まらないぃ。

そんな自由自在じゃないよぉ。

泣くのは大っ嫌いなのに。

見られたくないのに。

「もう。……仕方ないなぁ。特別よ?ちゅ、」

「ふえ?」

「ちゅ、ぺろ」

「……舐めた」

目元をぺろんって。

「泣き止んだわね?」

「……はい」

びっくりしすぎて。

なんですか、これ。

ぽかんとしてたらルーラさんは恥ずかしそうに苦笑い。

「内緒よ?うちの親、泣くとこうやって泣き止ませてたの。小さい頃よ?」

「……はぁ」

庶民の普通なのかな?

じゃーね、おやすみとすぐに部屋を出ていった。

舐められてびっくりしたけど嫌じゃなかった。

泣いたらああいう風にするんだ。

我が家だと私が泣いたら皆笑ってた。

私が泣くと楽しいんだよって。

つまらないことで泣くって。

皆に囲まれて笑われてた。

“またこの子は馬鹿ね”

姉の笑い声が聞こえてきた。

“もっと泣け”

そう言って笑いながらほっぺをつねったり小突く兄達。

だから泣くのは嫌い。

怖い。

でもルーラさんのあったかい舌と唇は気持ちよかった。

泣いたのに初めて辛くなかった。

胸が暖かくて気持ちいい。
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