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「取れないかなぁ、この飴も」

夏の暑さで引っ付いた飴。

いくつもある。

どれも棒でごんごんとつついたけどだめだった。

料理番のシェフに頼んだら湯煎で溶かして皆のお茶に混ぜて飲ませてくれた。

ほんのり甘くて美味しいって喜んでて嬉しかった。

溶かした飴を混ぜた最後の一杯。

それを持ってメイド長のところへ。

「メイド長の体調はお変わりありませんか?」

「え?ええ、何もありませんけど?」

そう言うけど顔色がやっぱり悪い。

「そうですか。良かったらどうぞ。暖かいうちに。飴入りのお茶です」

「まあ」

頂きますわと微笑んで受け取った。

「ラインさんもいらっしゃって。こちらへ」

手招きされて着いていくけどどこに?

「どこに行くんですか?」

「ふふ、差し入れにしようかと思いまして」

ここって、リカルド王子の寝室。

中に入ると青白く目の下に隈のあるリカルド王子が寝台の背もたれに寄りかかって座ってた。

蝋人形みたい。

怖い。

それになんだか鼻がツンッてする。

染みて痛い。

目がうるうるしてきた。

「どうした?」

「奥様からの差し入れです。飴入りのお茶にございます」

違うのに。

奥様じゃないし、メイド長にあげたのに。

納得出来なくてムッとするとリカルド王子は私の顔を見て笑った。

「はは、ありがたく受け取ろう」

甘くて美味しいって。

運ぶ間に少し冷めたけどちょうどいい温度みたい。

それに暖かいものを飲んで顔色が少しだけ良くなった気がする。

婚約破棄のポンコツ王子だけど私には優しい雇い主だし勉強の先生。

元気になってほしい。

あ、書類上は私の旦那か。

忘れてた。

「お前も顔色が悪いな。渡した薬は飲んでるか?」

「飲みました」

「……あまり効いてないように見える」

量を減らしたからかも。

「リカルド王子が心配だからです。皆も同じ顔色をしてます」

「そうか。それは悪かったな。……回りを巻き込むつもりはなかったんだがなぁ」

「早く元気になってください」

「……元気になった方がいいか?」

「はい」

「私がいないなら自由になれる」

「……自由に?」

今も自由にしてるのに?

これ以上何するの?

「私がいなくなれば私の妻でいる必要がない。好きなところに行ける。もうメイドとしてどこででも働ける。マナーと勉強も頑張ったから下位の貴族や大きな商家の家庭教師を出来るくらいにはなった。一年も経たずによく努力したな」

「あ、ありがとう、ございます」

鼻のツンッが強くなる。

リカルド王子は元気にならないつもりなの?

このままがいいの?

笑ってるのに、青白く怖い顔のまま。

屑だけど、私には屑だったことはないのに。

お屋敷の人達もリカルド王子が好きだし。

私も好き。

手を怪我したら本を支えてくれた。

絵本を読めたら誉めてくれた。

勉強が分からなくても不味いお茶を出しても怒らないし、馬鹿にしない。

なんであんな騒動を起こしたのか分からないけどリカルド王子は優しい。

「ま、た、お勉強を見てください。飴がほしいです。ぐすっ」

皆にあげてなくなっちゃたもん。

またご褒美の飴がほしい。

「珍しくねだるが、また飴か。本当に食い意地が張ってる。ふふ」

「だって、他に分からない。思い付かない」

じわじわ濡れてきた目尻を指で擦った。

「飴じゃなくてもいいです。リカルド王子のご褒美なら何でもいい。何かください。ずっとご褒美ください。何でもいいから。だから、お願いだから元気になってくださいっ。死んじゃ嫌ですっ」

ボタボタ泣いて恥ずかしい。

一気に言ってしまったら前が見えないくらい涙があふれた。

「うっ、ふえっ、……ひっく、ず、ずっとお仕えしたい、です」

「……妻から泣いてねだられたら否とは言えんなぁ。よし、本腰入れて働くか」

よっ、とと掛け声で勢いつけて寝台から降りてきた。

起きて大丈夫なの?

「おっと、」

「やっぱり、具合が悪いのにっ」

ふらついたリカルド王子の側へ駆け寄って肩を支えようとしたのに。

引っ付いて並ぶの初めて。

大きくて肩が届かなかった。

ポンポンと頭を叩いて?撫でて?

とりあえず身長を確認して私を見下ろしてる。

「小さいな」

「まだ成長途中ですから」

15才です。

先月なりたてのほやほや。

背はもう少し伸びます。

……多分。

「そうだといいな。私も顔を覗くのにいちいち屈むのが面倒だ。それよりライン、便箋の用意」

「はい。どの様式のものでしょうか?」

「王妃宛に書く」

ということは王族用の便箋。

机に支度をすると手をぱきぱき鳴らして笑ってる。

なんか、悪どい顔。

悪い魔女みたい。

絵本のお姫様みたいにキレイな顔なのになんか残念。

「さぁて、久々に怖い継母に手紙を書くか」
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