婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

文字の大きさ
56 / 120

56※ルーラ

しおりを挟む
部屋へ入ってすぐいきなり肩を掴まれて頭をひっぱたかれた。

引きずられて呆然とするとメラメラと感情の滾った視線で私を見下していた。

「な、ぜ」

「分からないか」

何を気取られて機嫌を損ねたのか分からず焦った。

内心の毛嫌いが知られたのかも。

「も、申し訳ありません」

「分からないという意味か」

「は、い」

そっくり。

冷たく見下ろすその目。

馬鹿にして歪む口元。

寝台で動けなかった時に何度も見た。

忘れられずに夢にまで出てくる。

全身が心臓になったみたいに激しく暴れてる。

恐怖と緊張で体は動かない。

あの時のように指ひとつ動かせない。

「許されたつもりか。父上と兄上が許したからと僕もお前を許したと思ったのか」

何を?

何のこと?

「風見鶏みたいにふらふらして母の次は兄上、今は義姉。ついでに近衛隊長か。上に取り入るのが上手いんだね」

王妃?

なぜ今になってそんな話が出るの?

何か答えなくては。

でも分からない。

言葉の棘に臆して理解できずにいる私にもっといら立ってる。

「母と一緒になって薬作りをしたこの女のどこを信用したんだ。あの頭がおかしくなる薬もお前だな」

その一言でハッとした。

飲まされてたのは自分だと語気を荒げて怒鳴った。

母の言うことを聞かねばとそればかりだったと。

催眠効果のある薬も作ったのを覚えてる。

回りの使用人に使ってるとばかり思ってたのに、飲まされていたのはこの人だったの?

あの女は実の息子にも飲ませていたの?

私にあんなものを作らせて。

何も言えずにパクパクと息を探して固まる私を床に投げ捨てると床に這いつくばる私から目をそらしてふう、と息を吐いた。

「お前が僕を見下しているのも分かってる。改めろ」

「申し訳ありません。態度を改めます」

知られていたなら言い訳してはいけない。

無駄だもの。

むしろ怒らせてしまう。

今までにないくらい気を張りつめて言葉を探して答えた。

「お前を僕は信用してないからな」

「申し訳ありません」

もう一度謝罪を口にした。

「さてと」

その間に机の引き出しを開けて漁ってる。

「鏡はそっちにある。さっさと身だしなみを整えろ。早く戻りたいんだから」

見るとスケッチブックを手に持っていら立ってる。

「すぐに」

簡潔に答えて急いで崩れた髪をまとめ直してコームを刺した。

「……叩いてもすっきりしないな。つまらないことをした」

暴力で解決しないってこういうことかと呟いてる。

何のことか分からないけどもう叩かれる心配はないらしい。

「どこで私のことを知り得ましたか」

「お前に質問を許した覚えはない。黙れ」

「ご報告がありますから」

そう言うと何か感心した様子でそらしていた視線を私へと戻した。

「……度胸がある。本当に兄上は使用人の躾が上手い」

お礼を込めて型通りに頭を下げた。

あなた様もいい度胸。

使用人とはいえ女性に手を挙げたことに全く後悔も忌避もないご様子。

怖い方だと思い知らされた。

「政務に携わるようになったら書類を触る。はっきりと書かれたものがなかったから全貌が掴めなかったけど、昔、母のもとにいた使用人が関わったと把握できた。目星がついたのは数年分の雇用記録。平民なのに一人だけ優遇されておかしかったし、年齢と容姿の記載ですぐに分かった」

私が離宮に入ったのは10年も昔。

その資料。

それを全てひっくり返したの?

かなりの量があるのに。

根気強い、というより本当に粘着質。

「報告するなら好きにしろ。こっちもお前を解雇しろって言いたいからちょうどいい。こんな者がライン義姉様の側にいるのが間違いなんだから」

いいえ、それでも奥様は私を大事にしてくださる。

自信がある。

言葉の棘を気にせず報告についてだけと割りきって頷くとそれが気に入らない様子で柳眉を寄せて私をねめつける。

じっくりと勿体ぶった冷たい眼差し。

それだけでぐわっと心臓を捕まれたような恐怖で足が震えた。

「あの回りでお前だけが薬臭かった。苦い嫌な臭いで鼻が曲がりそう。その臭いが移るからライン義姉様に寄るな」

薬じゃなくて死臭かなと嘲笑った。

「何人殺したのかな」

「っ!」

刺さった。

胸が痛くて苦しい。

この方はやはり王妃の御子。

鼻が熱くて唇が震える。

「僕はライン義姉様に綺麗なこの絵を見せてあげよう。きっと喜ぶ。お前はどこかに行けば?その顔じゃ戻れないから。ふふ」

すっきりしたお顔で笑い、手元のスケッチブックを大事そうに抱き締めて涙を流して頷く私に満足されていた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

公爵家の次女ですが、静かに学園生活を送るつもりでした

佐伯かなた
恋愛
王国でも屈指の名門、公爵アルヴィス家。 その家には、誰もが称賛する完璧な令嬢がいた。 長女ソフィア。 美貌、知性、礼儀、すべてを備えた理想の公爵令嬢。 そして──もう一人。 妹、レーネ・アルヴィス。 社交界ではほとんど名前も出ない、影の薄い次女。 姉ほど目立つわけでもなく、社交の中心にいるわけでもない。 だが彼女は知っている。 貴族社会では、 誰が本当に優れているのかは、静かな場面でこそ分かるということを。 王立学園に入学したレーネは、 礼儀作法、社交、そして人間関係の中で、静かに周囲を観察していく。 やがて── 軽んじていた者たちは気づく。 「公爵家の妹」が、本当はどんな令嬢だったのかを。 これは、 静かな公爵令嬢が学園と貴族社会で評価を覆していく物語。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

婚約破棄されたので、とりあえず王太子のことは忘れます!

パリパリかぷちーの
恋愛
クライネルト公爵令嬢のリーチュは、王太子ジークフリートから卒業パーティーで大勢の前で婚約破棄を告げられる。しかし、王太子妃教育から解放されることを喜ぶリーチュは全く意に介さず、むしろ祝杯をあげる始末。彼女は領地の離宮に引きこもり、趣味である薬草園作りに没頭する自由な日々を謳歌し始める。

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

乙女ゲームは見守るだけで良かったのに

冬野月子
恋愛
乙女ゲームの世界に転生した私。 ゲームにはほとんど出ないモブ。 でもモブだから、純粋に楽しめる。 リアルに推しを拝める喜びを噛みしめながら、目の前で繰り広げられている悪役令嬢の断罪劇を観客として見守っていたのに。 ———どうして『彼』はこちらへ向かってくるの?! 全三話。 「小説家になろう」にも投稿しています。

手放したのは、貴方の方です

空月そらら
恋愛
侯爵令嬢アリアナは、第一王子に尽くすも「地味で華がない」と一方的に婚約破棄される。 侮辱と共に隣国の"冷徹公爵"ライオネルへの嫁入りを嘲笑されるが、その公爵本人から才能を見込まれ、本当に縁談が舞い込む。 隣国で、それまで隠してきた類稀なる才能を開花させ、ライオネルからの敬意と不器用な愛を受け、輝き始めるアリアナ。 一方、彼女という宝を手放したことに気づかず、国を傾かせ始めた元婚約者の王子。 彼がその重大な過ちに気づき後悔した時には、もう遅かった。 手放したのは、貴方の方です――アリアナは過去を振り切り、隣国で確かな幸せを掴んでいた。

お前など家族ではない!と叩き出されましたが、家族になってくれという奇特な騎士に拾われました

蒼衣翼
恋愛
アイメリアは今年十五歳になる少女だ。 家族に虐げられて召使いのように働かされて育ったアイメリアは、ある日突然、父親であった存在に「お前など家族ではない!」と追い出されてしまう。 アイメリアは養子であり、家族とは血の繋がりはなかったのだ。 閉じ込められたまま外を知らずに育ったアイメリアは窮地に陥るが、救ってくれた騎士の身の回りの世話をする仕事を得る。 養父母と義姉が自らの企みによって窮地に陥り、落ちぶれていく一方で、アイメリアはその秘められた才能を開花させ、救い主の騎士と心を通わせ、自らの居場所を作っていくのだった。 ※小説家になろうさま・カクヨムさまにも掲載しています。

処理中です...