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番外編※フォルクス
2※フォルクス
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勘のいい女。
こっちが本性を見透かしてんのはしっかりバレてて逆に絡め取ろうとじわじわ締め上げる様は獲物を飲み込む蛇みたいだ。
“小鳥が逃げてしまったのよ”
いきなり、たった一言。
何のことかとぼけりゃいいのに俺と来たらすぐにあの骨と皮の娘がよぎってギクリとする。
目敏く顔の強張った俺を見つめて、目は獲物を見つけたとギラついた。
あの娘を盗み出してから幾日もせず。
王家の親類が揃った昼食の場で。
いつもの各国から集まる来賓の会食より人の少ない昼餐会に俺は気が抜けていた。
咄嗟にバレた恐怖から助けを求めて視線はリカルド王子へと流れた。
それさえも失態。
黒幕が誰かも分かったはず。
「継母上が鳥を飼っていらしたのは初耳ですね」
顔色を変えずにやんわりと答えていた。
「鳥はお好きでしたか?」
「ええ、あれは特別に。とてもいい声で啼いていたのよ。耳さわりが良かった。逃がした者に躾をしなくてはいけないわよねぇ」
「逃げただけなら戻ってくるかもしれませんよ」
王妃が次の言葉を紡ぐ前にすぐさま遮って言葉を塞ぐ。
「父上、新しいペットを探すと仰っていましたがいりません。亡くすと悲しいので」
誰が不手際をしたと探すのもいらないと仰る。
「継母上も可愛がっていたペットを失ってお辛いと思いますが、何かあるとこうやって使用人を責めることになります。王宮で新しく飼うのは控えませんか?それか、飼うなら慣れた者を雇う方がいい」
「そうだな」
「それでしたら、」
陛下の頷きにすぐに縁者の一人がちょうど生き物の扱いに慣れた者がいると勧めてリカルド王子が乗り気になり、呼び寄せるかと話が弾んだ。
周囲は王妃を慰めてリカルド王子には心遣いが素晴らしい皇太子と誉めそやす。
俺は不自然に黙った王妃とリカルド王子と見比べた。
二人とも笑みを浮かべてるが互いの本性は相容れない捕食者同士。
この光景にぞわっとするのと共にあの夜の女のことが頭をかすめる。
ぶつぶつ呟くだけの汚れて呆けた若い娘。
並んだ薬棚。
たくさん並んだ白い陶器のすり鉢。
薬を調合する部屋。
知らぬふりでもう関わらないようにしているが、まさか腹を下して死んだあの犬。
あれもか。
気づきたくなかったが繋がってしまった。
腹を割るなら皇太子。
後継者を守るのも近衛の仕事。
だが王妃のこのおぞましいほどの陰険さ。
産んだ幼い我が子を皇太子にと狙ってるのか。
危険すぎるこの女をどうにかしたいが、だとしても回りが騙され過ぎている。
素晴らしき良き王妃としての評判と信頼は厚い。
陛下へ進言を考えるが証拠を揃えていない今は信用されないと思えた。
俺には相談して後ろ楯になる身内はいない。
育ててやったといつまでも恩着せがましい養父。
俺の出世を妬む義理の兄弟達。
息子より出来がいいことが許せない養母とその親類達。
蔑むくせに金をせびって俺の不幸を願うのあいつらの存在が信用ならねぇ。
俺を守るのは俺ひとり。
俺はどうしたらいい。
陛下や周囲の信任は厚くとも王妃の化けの皮には負ける。
見たものをそのまま口にするだけでは自分の命が危うすぎて躊躇していた。
ぐっと拳を強く握りそうになりそれさえも堪えた。
目敏い王妃の視線が俺の一挙一動に何を察するのか考えるだけで恐ろしかった。
夜になれば近衛隊長専用の仮眠室から抜け出してライオネルさんを訪ねた。
「どうした?」
「抜けてぇっす」
それだけ伝えたら無言。
「無理ですね。俺じゃぁ」
もう嫌だと首を振った。
昼間のやり取り。
この人もあれを側で見ていた。
そして気づいている。
俺のせいであの化け物に事が知られたことを。
鉄面皮は俺の比じゃねぇ。
俺には無理だ。
「あれで俺が絡んでることは勘づかれたはずです。怖じ気づきました。今後、一切関わりたくない。王宮にいるのも嫌だ」
ぶるっと震えて腕を擦った。
「……私に話すということは皇太子を頼るのか?」
「頼らないとヤバいですから」
暗に逃がしてくれと言うことだ。
歴代近衛隊長の中でも最も優秀と囁かれ、近衛いち強くてデカイ大男の俺がこんな夜中におっさんのところに逃げ込んで泣き言だ。
かっこわりぃと思うのに犬と女の姿が俺と重なる。
首筋に走るピリピリは日増しに激しくなって毎日落ち着かなかった。
「分かった。話を通す」
「……通るんですか?」
こんなむちゃくちゃ。
抜けるなら勝手にしろじゃねぇのか。
止めないのか。
俺がいないとって。
「あの方はそういう方だ。側に残ってるのは覚悟ある者だけ。それさえも出ていけと仰っている」
ライオネルさんの真っ直ぐな視線に居たたまれなくて目を伏せる。
先日見かけた歳のいった美人を思い出していた。
女でさえ覚悟を待ってんのに近衛隊長の俺はすごすごと逃げ出すのかと恥ずかしくなった。
「希望は?」
「もちっと穏やかに暮らしたい。それだけです」
言ったからには本音を吐き出す。
「分かった。だがすぐには、」
「分かってます」
打てば響くなんて思ってない。
「根性なしと笑ってください」
「いや。無理させて悪かったと思うだけだ」
自分がみっともなくて自嘲気味に揶揄すると気にするなと気遣う。
「自分を笑うな」
そう言われても気分は持ち直さない。
「……力及ばす申し訳ありません」
頭を下げようとしたら黙って肩を押さえて止められた。
あんたもこういう人だよなと鼻が熱くなった。
役職や立場は違うけど父親か兄貴みたいで気づけばお互いに態度が軟化した。
こうやって砕けて話すのも楽しかった。
この人が王宮の中で一番好きだわとよぎった。
こっちが本性を見透かしてんのはしっかりバレてて逆に絡め取ろうとじわじわ締め上げる様は獲物を飲み込む蛇みたいだ。
“小鳥が逃げてしまったのよ”
いきなり、たった一言。
何のことかとぼけりゃいいのに俺と来たらすぐにあの骨と皮の娘がよぎってギクリとする。
目敏く顔の強張った俺を見つめて、目は獲物を見つけたとギラついた。
あの娘を盗み出してから幾日もせず。
王家の親類が揃った昼食の場で。
いつもの各国から集まる来賓の会食より人の少ない昼餐会に俺は気が抜けていた。
咄嗟にバレた恐怖から助けを求めて視線はリカルド王子へと流れた。
それさえも失態。
黒幕が誰かも分かったはず。
「継母上が鳥を飼っていらしたのは初耳ですね」
顔色を変えずにやんわりと答えていた。
「鳥はお好きでしたか?」
「ええ、あれは特別に。とてもいい声で啼いていたのよ。耳さわりが良かった。逃がした者に躾をしなくてはいけないわよねぇ」
「逃げただけなら戻ってくるかもしれませんよ」
王妃が次の言葉を紡ぐ前にすぐさま遮って言葉を塞ぐ。
「父上、新しいペットを探すと仰っていましたがいりません。亡くすと悲しいので」
誰が不手際をしたと探すのもいらないと仰る。
「継母上も可愛がっていたペットを失ってお辛いと思いますが、何かあるとこうやって使用人を責めることになります。王宮で新しく飼うのは控えませんか?それか、飼うなら慣れた者を雇う方がいい」
「そうだな」
「それでしたら、」
陛下の頷きにすぐに縁者の一人がちょうど生き物の扱いに慣れた者がいると勧めてリカルド王子が乗り気になり、呼び寄せるかと話が弾んだ。
周囲は王妃を慰めてリカルド王子には心遣いが素晴らしい皇太子と誉めそやす。
俺は不自然に黙った王妃とリカルド王子と見比べた。
二人とも笑みを浮かべてるが互いの本性は相容れない捕食者同士。
この光景にぞわっとするのと共にあの夜の女のことが頭をかすめる。
ぶつぶつ呟くだけの汚れて呆けた若い娘。
並んだ薬棚。
たくさん並んだ白い陶器のすり鉢。
薬を調合する部屋。
知らぬふりでもう関わらないようにしているが、まさか腹を下して死んだあの犬。
あれもか。
気づきたくなかったが繋がってしまった。
腹を割るなら皇太子。
後継者を守るのも近衛の仕事。
だが王妃のこのおぞましいほどの陰険さ。
産んだ幼い我が子を皇太子にと狙ってるのか。
危険すぎるこの女をどうにかしたいが、だとしても回りが騙され過ぎている。
素晴らしき良き王妃としての評判と信頼は厚い。
陛下へ進言を考えるが証拠を揃えていない今は信用されないと思えた。
俺には相談して後ろ楯になる身内はいない。
育ててやったといつまでも恩着せがましい養父。
俺の出世を妬む義理の兄弟達。
息子より出来がいいことが許せない養母とその親類達。
蔑むくせに金をせびって俺の不幸を願うのあいつらの存在が信用ならねぇ。
俺を守るのは俺ひとり。
俺はどうしたらいい。
陛下や周囲の信任は厚くとも王妃の化けの皮には負ける。
見たものをそのまま口にするだけでは自分の命が危うすぎて躊躇していた。
ぐっと拳を強く握りそうになりそれさえも堪えた。
目敏い王妃の視線が俺の一挙一動に何を察するのか考えるだけで恐ろしかった。
夜になれば近衛隊長専用の仮眠室から抜け出してライオネルさんを訪ねた。
「どうした?」
「抜けてぇっす」
それだけ伝えたら無言。
「無理ですね。俺じゃぁ」
もう嫌だと首を振った。
昼間のやり取り。
この人もあれを側で見ていた。
そして気づいている。
俺のせいであの化け物に事が知られたことを。
鉄面皮は俺の比じゃねぇ。
俺には無理だ。
「あれで俺が絡んでることは勘づかれたはずです。怖じ気づきました。今後、一切関わりたくない。王宮にいるのも嫌だ」
ぶるっと震えて腕を擦った。
「……私に話すということは皇太子を頼るのか?」
「頼らないとヤバいですから」
暗に逃がしてくれと言うことだ。
歴代近衛隊長の中でも最も優秀と囁かれ、近衛いち強くてデカイ大男の俺がこんな夜中におっさんのところに逃げ込んで泣き言だ。
かっこわりぃと思うのに犬と女の姿が俺と重なる。
首筋に走るピリピリは日増しに激しくなって毎日落ち着かなかった。
「分かった。話を通す」
「……通るんですか?」
こんなむちゃくちゃ。
抜けるなら勝手にしろじゃねぇのか。
止めないのか。
俺がいないとって。
「あの方はそういう方だ。側に残ってるのは覚悟ある者だけ。それさえも出ていけと仰っている」
ライオネルさんの真っ直ぐな視線に居たたまれなくて目を伏せる。
先日見かけた歳のいった美人を思い出していた。
女でさえ覚悟を待ってんのに近衛隊長の俺はすごすごと逃げ出すのかと恥ずかしくなった。
「希望は?」
「もちっと穏やかに暮らしたい。それだけです」
言ったからには本音を吐き出す。
「分かった。だがすぐには、」
「分かってます」
打てば響くなんて思ってない。
「根性なしと笑ってください」
「いや。無理させて悪かったと思うだけだ」
自分がみっともなくて自嘲気味に揶揄すると気にするなと気遣う。
「自分を笑うな」
そう言われても気分は持ち直さない。
「……力及ばす申し訳ありません」
頭を下げようとしたら黙って肩を押さえて止められた。
あんたもこういう人だよなと鼻が熱くなった。
役職や立場は違うけど父親か兄貴みたいで気づけばお互いに態度が軟化した。
こうやって砕けて話すのも楽しかった。
この人が王宮の中で一番好きだわとよぎった。
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