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番外編※ラド

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社会勉強だと狡猾な烏と妖艶な蝙蝠を見学することになった。

特にサキュバスの手腕を学んでおけって。

そして似た女には気を付けろと言う。

会場を上から見渡すバルコニーでオペラグラス片手に蝙蝠と烏を眺めていた。

義父は慣れてるようで後ろのソファーでお茶を飲んでる。

酒好きなのにここで酒は飲まないらしい。

不思議にしていたら察した義父は仕事中に飲まないと答えていた。

隠しても溢れる美貌で目立つあの女は場にそぐわない下町風な大男を相手にしなだれてギャンブルを誘う。

何もかも彼女の思う通り。

遠目から眺めてるけどよく見ればテーブルの下で女の手が何してんのか分かる。

こんなのずっと眺めてて鼻血出そう。

スッカラカンで泣いてるのを蝙蝠は体を使って慰めて隙を見て烏が金を貸してる。

それを繰り返す。

見ていてゾッとする。

蟻地獄だ。

出そうだった鼻血も引いていく。

「あの男、けっこう持ってたなぁ」

金の話。

烏が出張るまでかなりかかった。

「終わったかな?」

「みたいです」

担保になりそうなものを書面にして烏に金を出させてた。

今はもうそれもないみたいだ。

「これからが本番だよ。次は借金をこさえさせる」

「え?」

「蝙蝠はそこまでする気だよ。かなりご立腹だったからねぇ」 

「一晩でですか?」

「そうだよ。蝙蝠と烏ならね。歯向かったのが運の尽きだ。あの方は慈悲深いからこの程度の小物を相手にしていない。だけど付き従う私達まで甘くなる必要はない」

「……」

低く呟く声音に怒気が透けて見える。

三人が呼ぶ“マスター”。

聞くまでもない。

リカルド王子のことだろう。

想像以上の信頼と心酔が三人にある。

資格がなければ辞退すると言っていたのは、俺を含めて新たな皇太子に向けての言葉なんじゃないかとよぎる。

烏は金がもらえれば主人が誰だろうが本当に構わないかもしれないが手を抜くだろう。

蝙蝠は命令もなく体を張って復讐なんかやりそうにない。

自分のためにってのしかなさそうな連中。

巻き上げられたあの男はけっこう持っていたようだが、こんな貴族相手にゲスい商売をできる烏と蝙蝠にとって小金持ちの大金なんかはした金だ。

ここから見えたチップの量を換算してこの部屋のインテリアくらいにしかならない金額。

動くのは金以外の価値があるからだ。

俺にもそれがなければこの仕事の跡継ぎは無理だ。

あの方に注ぐだけの何があるんだと自問する。

そして義父の言う通りまだ賭け事は続行していた。

蝙蝠と烏に挟まれた大男は震えて泣いているように見えた。

「これからだよ」

見もせずに義父は呟く。

「死ぬまで働かせればいいし、妻子がいるなら売ればいい。親兄弟も全てね。あの男に繋がるものは全てだ」

ズズッとお茶をすする。

「蝙蝠の言った通り、主人を守る大事な止まり木に傷をつけて私も黙る気はないねぇ。彼は主人を守る要だ。そして私達の守りでもある。梟は目を光らせてホーホーと鳴くだけでなく、全体の調整を言われているが今日は曇っていて視界が悪いようだ。ふふ、烏が立ったら教えてくれ。獲物の断末魔は聞きたい」

知らなかった義父の一面に緊張から生唾を飲む。

娘に不誠実な男なら腰のモノを刻んで捨てるつもりだったと話していたのは本気だったのかも。

「マスターと呼ばれるのがリカルド王子ですよね?それで止まり木とは誰ですか?」

答え合わせをしたくて尋ねた。

「軽々しくその名を言ってはいけないよ。どこにでも耳がある」

「は、はい。すいません」

「止まり木は主人の代理だ。彼の意見は全て主人の意向だと考えていい」

「ここのボス、ということですか?」

「そう」
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