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番外編※ラド
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屋敷の奥で雇った男という奴にも会った。
通称、烏。
俺より少し上の年齢。
黒い地味な色の服装。
だけどシルクの布地、高価だと分かる純金の装飾を身に付けている。
黒いカラスを模した仮面には黒曜石。
そして部屋には気持ち悪い数の人形が置かれていた。
少女の形をした陶器の人形。
よく見たら全部同じ顔。
服と髪型だけ違う。
俺達が部屋に入るまでアディくらいの人形を膝にのせて髪を解かして、義父に気づくと人形に“パパはお仕事だ、いい子にね?”と人形を抱き締めてソファーに座らせていた。
キモすぎる。
それから義父が俺を跡継ぎだと言うとにぃーっと口許は歪んで小馬鹿にしてた。
「どうも。二代目」
お互いに仮面をつけたまま。
「俺は金さえもらえれば梟が誰かなんてどうでもいい」
俺には興味がないとはっきり態度で示して、それよりお知らせが、とすぐに話を変えた。
「今夜、蝙蝠が来てますよ」
「蝙蝠が?」
「珍しいと思って見てたんですよ。てか、梟が来たからなんか予定かと思ってんですけど違うんですね」
「ふぅむ」
顎をさすって唸ると呼んでくれと一言。
銀の盆にカードを載せて花瓶から花を一輪抜いて部屋を出ていった。
「彼の特技だ。顔を隠して服装を変えてもひと目で見抜く。一度見たら忘れない。そのかわり少し心が壊れてる」
「なんですか?」
「そこに座らせた人形は死んだ娘だ」
「は?」
「それ以外はまともだから気にするな」
「ま、まともなんですか?」
「ああ、優秀なくらいだ。その人形を作らせるのに金がいるからねぇ。そうそう、彼の大事な娘を丁重に扱いなさい。そんな顔で見るのはいけない。一歩間違えれば私達は彼と変わらないのだからね」
嫁と娘に何かあれば正気でいられない。
そうよぎったら男に同情がわく。
でも部屋に大小合わせて200、300も並んだおなじ顔の人形は怖い。
やっぱりとてつもない狂気を感じてビビってしまう。
「お招きいたしました」
「う、わぁぉ」
なにこの美人。
フルフェイスの仮面で隠れてるけど。
溢れる色気に圧倒されて声はこぼれるし後ろに後ずさりしてた。
「今夜いらっしゃるとは思わなかった」
口許にはふわふわと大振りの羽扇を当てて口許を隠す。
でも声には蕩けるような甘さとぞわぞわと這う低さ。
鼻に少しかかった音が耳に残る。
うわお、刺激的。
「蝙蝠羽根のサキュバス殿、久しゅう」
「梟のあなたもお元気そう。以前より逞しくなられたのではなくて?冬だからかしら?フフ」
「羽毛を蓄えた訳ではないよ。それより君の羽根は折れたと聞いていたのに舞い戻るとはどういうことかな。二度と飛べないと聞いてる」
「一晩だけよ。今夜限り」
「……相手はどんな人物かな?」
義父の問に烏が反応した。
こめかみに拳を当てて、コツ、コツ、というリズムで叩く。
「……貴族、商会、犯罪者、全てのリストに該当しません。……顔は見覚えある。……下町の、ペスカトレ通りあたり。あの辺の店主どもは集まって昼間から飲む。そのうちの一人ですね。普通の商売でうちの業界とも関わりはない。……他に何も記憶ありませんね」
「……平凡な、普通の男のようだね。君が出る理由が分からない」
「……まさかお前一人の私怨じゃねぇよな?あんなしょうもなさそうなの。どういう関わりだ?」
義父は首をかしげて思案げに顎をさすり、そして眉をひそめた烏は問いかける。
二人の視線を口許に弧を描いて蝙蝠は目をそらす。
「フフ、違うわよぉ。でもいいじゃない。気にしなくて。少し遊ぶくらい好きにさせて」
魅惑的な甘えた声と仕草。
それだけで腹がそわっと撫でられる。
存在に吸い込まれて気づかないうちに生唾を飲んでいた。
「『飛ばない』とは『飛ばせない』という意味か。主人の命を無視して抜け出したのなら止めなさい。烏、帰りの馬車を、」
「じゃあこの子を壊してから帰るわね」
素早く取ったのは烏の人形だ。
「私に触れたら叩き割るわよ」
「このバカ女ぁ!娘を離せぇ」
「梟が悪いのよ?邪魔するから」
嫌だと突っぱねて激昂した烏が口から泡を飛ばしながら罵り、ナイフを振りかざしていた。
でも怖いのが蝙蝠だ。
怒鳴る烏を目の前に人形を片手に振りかざして平然としている。
俺は目の前の修羅場が恐ろしくて体を引いて震えたのに。
「まあまあ、待ちなさい。烏、それを仕舞いなさい。烏がナイフを納めたら彼の娘を下ろして。丁重に扱いなさい。いいね?」
苦しげに唸る烏がナイフから手を離すと蝙蝠はそれを見届けてから人形を赤子を抱くように両手に抱えた。
「君に乱暴なことや無理強いはしたくない。来たことを黙っておくから大人しくお帰り」
嫁とマイラの喧嘩を止めるのと同じ調子で二人を宥める義父の胆力。
「だめ。今夜はその目を閉じて黙っててよ」
「蝙蝠、ワガママはやめろよ。久々に淫乱の虫でも騒いだのか」
「あなたの嫌味が懐かしくて戻ってきたと思わないで」
そういうのじゃないと一言。
「あの男は止まり木に傷をつけたの。たとえマスターが見過ごしても私は許さないわ。使い魔らしく私がお礼をするの」
「搾り取らないと気がすまないか」
「ええ、そうよ。マスターに報告するなら勝手にして。でも、私は今夜中に復讐は終えるわよ。邪魔をするなら梟のあなたでも許さない」
「バカな男がいたようだね」
「そうよ」
ゆらっと首をかしげて部屋に飾られた人形を見渡した。
「ねぇ、烏。あんたならこの娘達を汚されて許せる?」
「いいや。殺すね」
「あんたの娘達を守ってるのは誰?」
「……マスターだ」
「そうよねぇ」
賛成するなら返すわよと言うと、烏はあっさり頷いた。
「先に言えよ。それなら協力した」
「そうなの?ごめんなさいね。でもあの男くらい一人でやるつもりだったから。ミシェエラちゃんも怖かったわね?怖い目に合わせて本当にごめんなさい」
烏は人形を受け取り、蝙蝠は崩れた髪と服を整えてやっている。
本物の子供と扱う蝙蝠に満足そうだった。
「梟、あなたはまだ反対する気?」
義父が黙ってると烏は笑った。
「マスターの止まり木に傷をつけた輩を庇う理由がありませんよね?蝙蝠、お前は淫乱の大嘘つきだが忠誠心は本物だよ」
「誉め言葉ね」
「烏、蝙蝠のサポートは任せるよ。会場は君らの縄張りだ」
二人は満足げに口許を歪めて頷いた。
「それで、その連れは何?」
いきなり俺へと矛先が向いて瞬間的にビクついた。
「跡取りにするらしい」
烏の応えに女は軽く鼻を鳴らし、俺を一瞥して目をそらした。
「……殻を割ったばかりの雛鳥?まだ目も開いているように見えないけど」
「フッ、ピヨピヨしてるのは間違いないね。だけど見えちゃいるよ。だから俺達にビビってる。ククッ」
「言えてる」
サキュバスと呼ばれる美女にガキと貶されて烏に嘲笑われても怒りは湧かない。
ただ恐ろしいと顔がひきつった。
三人が対等なのは“マスター”と呼ばれる男への忠誠心と度胸。
新入りの俺はこの中で小物だ。
通称、烏。
俺より少し上の年齢。
黒い地味な色の服装。
だけどシルクの布地、高価だと分かる純金の装飾を身に付けている。
黒いカラスを模した仮面には黒曜石。
そして部屋には気持ち悪い数の人形が置かれていた。
少女の形をした陶器の人形。
よく見たら全部同じ顔。
服と髪型だけ違う。
俺達が部屋に入るまでアディくらいの人形を膝にのせて髪を解かして、義父に気づくと人形に“パパはお仕事だ、いい子にね?”と人形を抱き締めてソファーに座らせていた。
キモすぎる。
それから義父が俺を跡継ぎだと言うとにぃーっと口許は歪んで小馬鹿にしてた。
「どうも。二代目」
お互いに仮面をつけたまま。
「俺は金さえもらえれば梟が誰かなんてどうでもいい」
俺には興味がないとはっきり態度で示して、それよりお知らせが、とすぐに話を変えた。
「今夜、蝙蝠が来てますよ」
「蝙蝠が?」
「珍しいと思って見てたんですよ。てか、梟が来たからなんか予定かと思ってんですけど違うんですね」
「ふぅむ」
顎をさすって唸ると呼んでくれと一言。
銀の盆にカードを載せて花瓶から花を一輪抜いて部屋を出ていった。
「彼の特技だ。顔を隠して服装を変えてもひと目で見抜く。一度見たら忘れない。そのかわり少し心が壊れてる」
「なんですか?」
「そこに座らせた人形は死んだ娘だ」
「は?」
「それ以外はまともだから気にするな」
「ま、まともなんですか?」
「ああ、優秀なくらいだ。その人形を作らせるのに金がいるからねぇ。そうそう、彼の大事な娘を丁重に扱いなさい。そんな顔で見るのはいけない。一歩間違えれば私達は彼と変わらないのだからね」
嫁と娘に何かあれば正気でいられない。
そうよぎったら男に同情がわく。
でも部屋に大小合わせて200、300も並んだおなじ顔の人形は怖い。
やっぱりとてつもない狂気を感じてビビってしまう。
「お招きいたしました」
「う、わぁぉ」
なにこの美人。
フルフェイスの仮面で隠れてるけど。
溢れる色気に圧倒されて声はこぼれるし後ろに後ずさりしてた。
「今夜いらっしゃるとは思わなかった」
口許にはふわふわと大振りの羽扇を当てて口許を隠す。
でも声には蕩けるような甘さとぞわぞわと這う低さ。
鼻に少しかかった音が耳に残る。
うわお、刺激的。
「蝙蝠羽根のサキュバス殿、久しゅう」
「梟のあなたもお元気そう。以前より逞しくなられたのではなくて?冬だからかしら?フフ」
「羽毛を蓄えた訳ではないよ。それより君の羽根は折れたと聞いていたのに舞い戻るとはどういうことかな。二度と飛べないと聞いてる」
「一晩だけよ。今夜限り」
「……相手はどんな人物かな?」
義父の問に烏が反応した。
こめかみに拳を当てて、コツ、コツ、というリズムで叩く。
「……貴族、商会、犯罪者、全てのリストに該当しません。……顔は見覚えある。……下町の、ペスカトレ通りあたり。あの辺の店主どもは集まって昼間から飲む。そのうちの一人ですね。普通の商売でうちの業界とも関わりはない。……他に何も記憶ありませんね」
「……平凡な、普通の男のようだね。君が出る理由が分からない」
「……まさかお前一人の私怨じゃねぇよな?あんなしょうもなさそうなの。どういう関わりだ?」
義父は首をかしげて思案げに顎をさすり、そして眉をひそめた烏は問いかける。
二人の視線を口許に弧を描いて蝙蝠は目をそらす。
「フフ、違うわよぉ。でもいいじゃない。気にしなくて。少し遊ぶくらい好きにさせて」
魅惑的な甘えた声と仕草。
それだけで腹がそわっと撫でられる。
存在に吸い込まれて気づかないうちに生唾を飲んでいた。
「『飛ばない』とは『飛ばせない』という意味か。主人の命を無視して抜け出したのなら止めなさい。烏、帰りの馬車を、」
「じゃあこの子を壊してから帰るわね」
素早く取ったのは烏の人形だ。
「私に触れたら叩き割るわよ」
「このバカ女ぁ!娘を離せぇ」
「梟が悪いのよ?邪魔するから」
嫌だと突っぱねて激昂した烏が口から泡を飛ばしながら罵り、ナイフを振りかざしていた。
でも怖いのが蝙蝠だ。
怒鳴る烏を目の前に人形を片手に振りかざして平然としている。
俺は目の前の修羅場が恐ろしくて体を引いて震えたのに。
「まあまあ、待ちなさい。烏、それを仕舞いなさい。烏がナイフを納めたら彼の娘を下ろして。丁重に扱いなさい。いいね?」
苦しげに唸る烏がナイフから手を離すと蝙蝠はそれを見届けてから人形を赤子を抱くように両手に抱えた。
「君に乱暴なことや無理強いはしたくない。来たことを黙っておくから大人しくお帰り」
嫁とマイラの喧嘩を止めるのと同じ調子で二人を宥める義父の胆力。
「だめ。今夜はその目を閉じて黙っててよ」
「蝙蝠、ワガママはやめろよ。久々に淫乱の虫でも騒いだのか」
「あなたの嫌味が懐かしくて戻ってきたと思わないで」
そういうのじゃないと一言。
「あの男は止まり木に傷をつけたの。たとえマスターが見過ごしても私は許さないわ。使い魔らしく私がお礼をするの」
「搾り取らないと気がすまないか」
「ええ、そうよ。マスターに報告するなら勝手にして。でも、私は今夜中に復讐は終えるわよ。邪魔をするなら梟のあなたでも許さない」
「バカな男がいたようだね」
「そうよ」
ゆらっと首をかしげて部屋に飾られた人形を見渡した。
「ねぇ、烏。あんたならこの娘達を汚されて許せる?」
「いいや。殺すね」
「あんたの娘達を守ってるのは誰?」
「……マスターだ」
「そうよねぇ」
賛成するなら返すわよと言うと、烏はあっさり頷いた。
「先に言えよ。それなら協力した」
「そうなの?ごめんなさいね。でもあの男くらい一人でやるつもりだったから。ミシェエラちゃんも怖かったわね?怖い目に合わせて本当にごめんなさい」
烏は人形を受け取り、蝙蝠は崩れた髪と服を整えてやっている。
本物の子供と扱う蝙蝠に満足そうだった。
「梟、あなたはまだ反対する気?」
義父が黙ってると烏は笑った。
「マスターの止まり木に傷をつけた輩を庇う理由がありませんよね?蝙蝠、お前は淫乱の大嘘つきだが忠誠心は本物だよ」
「誉め言葉ね」
「烏、蝙蝠のサポートは任せるよ。会場は君らの縄張りだ」
二人は満足げに口許を歪めて頷いた。
「それで、その連れは何?」
いきなり俺へと矛先が向いて瞬間的にビクついた。
「跡取りにするらしい」
烏の応えに女は軽く鼻を鳴らし、俺を一瞥して目をそらした。
「……殻を割ったばかりの雛鳥?まだ目も開いているように見えないけど」
「フッ、ピヨピヨしてるのは間違いないね。だけど見えちゃいるよ。だから俺達にビビってる。ククッ」
「言えてる」
サキュバスと呼ばれる美女にガキと貶されて烏に嘲笑われても怒りは湧かない。
ただ恐ろしいと顔がひきつった。
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