婚約破棄騒動を起こした廃嫡王子を押し付けられたんだけどどうしたらいい?

うめまつ

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番外編※ラド

烏と梟の小話

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小さな二人のりの馬車。

向かいに座ったクドーの体は細身のハイステッドと比べて狭そうだった。

「あんなのをこんな世界に引き込んでどういうつもりですか?」

「ラドのことか?」

「婿養子って言ってましたね。年齢的に長女の?」

「あぁ、そうだよ」

「いい奴っぽいですけどね。向かんでしょ」

「少しおっちょこちょいで困るよ」

「ふっ」

「目端が利くタイプではない。だけど、」

「信用できる、でしょ?」

「立派な婿どのさ。君もそう思うだろう?」

「どうだか。ビビりだし、頭もよくなさそうってのしか思いませんでしたから。あいつの何がいいんですか?」

「簡単だよ。彼ならこの世界を見て戻りたがらないだろう」

「ああ、そういうことですか」

「欲に浸りたがるなら追い出す。家庭をないがしろにし、金に溺れて色を求めるならね。娘がそれでも共にいるなら一緒にかなぁ。……寂しいが」

「手厳しいですね」

「養ってるのは家族ばかりじゃないからねぇ。使用人や従業員達がいる。もしバカな男を選んで娘が離れるなら。そうなったら寂しいが、覚悟するしかない。子はいずれ親から離れるものだよ。あの子も大人だから道は自由にするさ。親は見守るだけ」

クドーの言葉にフゥン、小さく鼻を鳴らす。

もっともだと会得したから。

「あと、婿どのは賢いぞ。8ヶ国の読み書きが出来る。数字にも強い。そういう賢さならは君くらいかな」

「意外ですね。さすがあの人の息子と言ったところでしょうか」

「客に気に入られてるし、従業員達も頼りにしてる」

「……人望もあるんですか」

「羨ましいか?」

「いや、全然。度胸がなさすぎますから。あれじゃデカイ取引は扱えないでしょう?」

「まあね。でもあとを任すに充分な男だろう?」

「昼間なら、ですね」

「まだ若い。あの年で昼間でも充分すぎる。娘は見る目があると思わんか?」

「……確かに」

面白くなさそうに顔を歪めて黙った。

逆にクドーは笑みを返す。

「なんですか?」

「別に何もないよ」

ますます笑みを深める。

ハイステッドは余計に不機嫌になるのに気にしない。

「ないなら笑わないでください」

「もとからこの顔だよ。何か笑われた気がするのか?」

「いーえ、別にっ」

「ぷっ、」

睨むと、膝のミシェエラに笑われるぞとまたからかう。

「いい加減、話題を変えましょう」

「いいぞ。ふ、くくっ」

笑い続けるのが不満でとっさの思い付きを尋ねた。

もとから気にはしていたこと。

「次の主人についてどう思われますか?」

「弟君か?」

「ええ、弟君のこと」

「どうだろうねぇ。先日、見たかぎりだと清廉さはありそうだ」

「潔癖そうでしたね」

俺はあの存在自体が嫌いですけどと付け足した。

「……行き過ぎて、血を喜びそうだと感じたよ。白黒はっきりしていて極端な気がした。何かあれば一気にこうかな」

とんとんと首に手刀を当てる。

「……身近な人間で言うと俺に似てますかね」

「似てるね」

「主人が歯止めでしょうね」

「いや、奥方らしい」

「……奥方?……未婚でしょう?」

「孤児院通いの奥方のことだ。娼婦と噂された例の」

「あぁ、あの奥方ですか」

思い出して頭を揺らす。

身元を調べたのは烏と梟。

罠は烏の縄張りで。

主人が自ら猟に出た。

「奥方が白を黒と言えば頷くほどべったりだそうだ」

「ふーん、母親代わりに慕ってるんですかね。意外と子供なのか」

「……どうかなぁ。あの方は不必要に品のない冗談を仰らない。“夜這い“など。それに年頃の弟君に会場を見せたのもどういうお考えなのかと思っていた。色々と考えて”“子供のふりをするな”とは本音だろう。察するに義弟の関係で義姉を慕いすぎているようだ」

クドーの言葉にハイステッドは固まった。

「……まさか、夜這いに来そうって。あれはマジのことか。……他人のものを羨むのは母親譲りですかね」

あからさまに嫌悪感を見せるハイステッドにさあね、とこぼす。

「貴族のわりに奥方は恵まれない方だったようだか、すれたところがないようだ。何にも染まってないらしい。ご家族のひだまりになってるとお聞きした」

「……どうだが。女は嘘つきですから」

「男も同じだろう」

「男は好いた女には嘘はつきません。女は愛を言い訳につまらない嘘をつきます。嘘がうますぎて偽物かどうか見分けようがありませんし、女は自分が可愛いと思ってる奴らばかりです」

「極論だ。男女の違いというよりここの違いだと思うね」

こんこんとこめかみを指でつつく。

「小賢しい者は欲のために嘘で身を固め、聡い者は嘘ではなく知恵を使う。性別は関係なく」

ミシェエラと蝙蝠がいるだろうと返せば、グッと唸る。

「その説に合わせるなら俺達は全員小賢しい人間ですか?」

「冷酷でずる賢い雪女を相手にしてたからだ。知恵と嘘を使わねば勝てんよ。私達は相手の土俵に合わせてやっていたんだよ」

そう答えれば静かに頷いた。

「物は言いようですね。口じゃ敵いません。それにしてもやっと殺せましたね」

「うむ」

互いの沈黙。

それぞれに忘れられない想いが沸き起こるが、今もなお苦しげな男と終わったことと目をつぶり過去と割りきる男に大きな違いがある。

「……お宅の跡取りに何かあったら協力しますよ。弟君にもそのつもりです。気に食わない二人ですが」

跡取りのことはそういうつもりで紹介したことを察した。

「頼むよ。私達も君になにかあれば駆けつける」

「何度も助けていただきました。もう充分ですよ。ありがとうございます」

「君は私の弟だ。何度でも頼ってくれ」

「大袈裟ですよ。近所のガキだっただけですし」

「そう言うな。ふふ」

「もういいって言ってるのに。ガキ扱いされてる気がします」

「ふふ、そうかもしれん。私は昔のままの気分だ」

「……ありがとうございます。色々と変わったと思うのに。何もかも昔の俺じゃない。幸せそうなガキを見れば悔しくなる。なんでうちの子がって。華やかな女を見ればあの女達の同類に見える」

あの屋敷で辛そうに働く女子供を見るのが楽しみだったと呟く。

「糞ですよねぇ、俺は。肥溜めのカスだ」

「そのわりには可愛がっていた」

「どこが」

「もっと劣悪な環境に変えて厳しくできたのにしなかった」

「あいつらの色艶が悪いと客の入りが悪くなるでしょう」

「仕事以外は自由にさせていた」

仕事の時間でなければ子供達は番犬に置いていた犬達とじゃれあったり、屋敷でかくれんぼしたりと子供らしく。

病気になれば他の子供や客に移るからと言って医者に見せて休ませた。

唯一許さなかったことはミシェエラのことだけ。

注意を無視してミシェエラを持ち出した子供はその日のうちに他へ売った。

「他にさせることありますか?」

分からないという表情に苦笑いを返す。

用心棒の男達と娼婦の女達はそれを眺めたくて入り浸っていた。

大人達から食事や洗濯の方法を学んで住みやすく。

大人が子供を乱暴に扱うことはなかった。

仕事仲間として、幼いながら堪えてることに同情していた。

子供達は仕事を抜けば暮らしに満足そうだった。

閉めると知って先を不安がって泣いた子供達。

働いた分だからと金を渡して、どこかに身請けされたいか仕事を続けたいか、辞めて昼の人間として生きるか自由に選ばせていた。

まとめて処分しようしたら娼館に足元を見られたと理由をつけて。

「根が悪人じゃないから思い付かないんだよ。やはり思い出は変わらんよ。昔のままだ。君から兄と呼ばれてた頃が懐かしい」

またそう呼ばれたら嬉しいよと呟く。

向かいの膝に抱かれたミシェエラと名前のついた人形に手を添えて、手入れされた髪を撫でた。







~終~
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