伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

文字の大きさ
55 / 98

55、思惑※アンバー

しおりを挟む
舞台袖に隠れたアンバーを、先に演奏を終えた令嬢達が出迎えた。

「あの!アンバー様、素敵でしたわ。」

若い可愛らしい令嬢達は頬を染めて囲む。

「ありがとう。」

ニコッと微笑めば、令嬢達はキャッと甲高い声で恥じらった。

ここは邪魔になるから早めに退きましょうと優しく諭すと若いご令嬢たちは嬉しそうにパタパタと走っていく。

「ねえ~、アンバー。会場がスゴいことになってるわよ~。」

順番を待つ席には隣国の侯爵令嬢が楽しそうに声をかける。

まだ誰も立っていない舞台からはまだ観客の歓声が聞こえていた。

「……本当ね。」

「迎賓館で会った時からぁ、少し雰囲気が変わったのは気づいてたけどぉ。」

以前、両親について外交団に参加した際に知り合った侯爵令嬢ロイス。
多少我が儘なところがあるが、身分にあまり拘りがなく同い年ということもあり親しくしている。


『なにも変わってないわよ。今日はちょっと調子に乗っただけ。』


こちらの国の発音が苦手で少し舌っ足らずにしゃべるので、アンバーはロイスに合わせて言葉を変える。

『そう?あんな大胆なパフォーマンスを?調子に乗っただけ?ふふっ。』

クスクス笑いながら、先ほど舞台上の真似をしてキスを投げるロイスにアンバーは曖昧に微笑む。

舞台袖の暗がりで顔が見えないはず。

今のアンバーは顔が真っ赤になっていた。

なぜあんなことをしたんだと自分で思っている。

『恋人?ねえ、そうでしょ?私のところからは誰に向けたのか全然分からなくて気になってたの。』

アンバーの腕に絡んで甘えるようにせがむ。
どうせ、明日のパーティーで耳にするのだと観念した。

『仲の良い女の子よ。』

『女の子?まさか迎賓館で良く一緒にいる小さい子?』

『ええ。』

『あんな子になんで?パーティーでも二人のこと薔薇と妖精なんて言っちゃってさ。ただの噂と思ってたのに。アンバーはあの子のこと、私より気に入ってるの?ねぇ。』

『そういうことじゃないわよ。ちょ、ちょっと顔が近いわ。』

アンバーは私のお気に入りなのにと唇を尖らせて、垂らした赤い髪を一房、指に絡めて弄ぶ。
髪が崩れると嫌がるが、やめてくれない。

『ひどい。アンバーは私の1番なのに。』

『ロイス、機嫌治してくれない?』

『だってズルいもの。私が先にアンバーを見つけたのに。なんで他に仲いい子ができるの?』

『友達に後も先もないわ。私はあなたも大事な友達と思ってるのよ?』

『分かってる。でもイヤなの。』

私のアンバーなのにとごねるロイスにため息が出た。
普段から我が儘なところがあるが、こんなにひどいのは初めてだった。

もうすぐ順番だと言うのにご褒美がないなら演奏もしたくないと言い出し、無理やりご褒美の約束をさせられた。


疲れて足早に控え室を目指して通路を抜けると楽譜を持ったウルリカに会う。

確か、公爵令嬢達と合奏をするはずだと思いだし、アンバーはウルリカに素敵な演奏だった、次の合奏もがんばってと愛想笑いで濁し、隣を抜けようとすれ違う。

「あなたも上手でしたわ。」

微笑むウルリカの唇が歪み、あなたには敵わないと返すと謙遜な態度を取りつつも瞳から優越感が滲んでいる。
二人きりだから油断して明け透けになっていると冷静に観察をする。

「リリィから聞きましたの。あなたは才能があるだけではなく何時間も努力されてると。それを聞いて感動しましたのよ。」

アンバーは心からウルリカの努力を称えるつもりで伝えた。

敵ながら才能が素晴らしいと心底思っていた。

それなのに、ウルリカは今まで見たことないほど顔を憎々しげに歪め、アンバーは驚いた。

「まぁ…。あの子ったら。嫌だわ、本当にお喋りで。」

楚々と微笑むが先ほどの表情はなんだったんだと戸惑った。

「あの子はちょっと…。今は社交界で持て囃されてますけど。時間がたてばどうなることやら。残念ながらああいうところがありますから。本当に家族は心配してますの。」

さも心配だという様子でため息を吐く。

「…アンバー様もお分かりになるでしょう?あの子がああいう子だと。」

ウルリカの眼差しに冷たいものを感じ、ただ曖昧に微笑むと、同意を得られなかったことを不服に感じたように見えた。
ともすれば、ただ心配そうにも見えた。
アンバーの培った経験を持ってしてもウルリカの感情の流れは分かりづらかった。

「私はアンバー様を心配していますのよ。」

親しくするならお気を付けてと心配そうに去っていく姿をアンバーはただ見つめるだけだった。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

【完結】消された第二王女は隣国の王妃に熱望される

風子
恋愛
ブルボマーナ国の第二王女アリアンは絶世の美女だった。 しかし側妃の娘だと嫌われて、正妃とその娘の第一王女から虐げられていた。 そんな時、隣国から王太子がやって来た。 王太子ヴィルドルフは、アリアンの美しさに一目惚れをしてしまう。 すぐに婚約を結び、結婚の準備を進める為に帰国したヴィルドルフに、突然の婚約解消の連絡が入る。 アリアンが王宮を追放され、修道院に送られたと知らされた。 そして、新しい婚約者に第一王女のローズが決まったと聞かされるのである。 アリアンを諦めきれないヴィルドルフは、お忍びでアリアンを探しにブルボマーナに乗り込んだ。 そしてある夜、2人は運命の再会を果たすのである。

【完結】地味な私と公爵様

ベル
恋愛
ラエル公爵。この学園でこの名を知らない人はいないでしょう。 端正な顔立ちに甘く低い声、時折見せる少年のような笑顔。誰もがその美しさに魅了され、女性なら誰もがラエル様との結婚を夢見てしまう。 そんな方が、平凡...いや、かなり地味で目立たない伯爵令嬢である私の婚約者だなんて一体誰が信じるでしょうか。 ...正直私も信じていません。 ラエル様が、私を溺愛しているなんて。 きっと、きっと、夢に違いありません。 お読みいただきありがとうございます。短編のつもりで書き始めましたが、意外と話が増えて長編に変更し、無事完結しました(*´-`)

婚約破棄されるはずでしたが、王太子の目の前で皇帝に攫われました』

鷹 綾
恋愛
舞踏会で王太子から婚約破棄を告げられそうになった瞬間―― 目の前に現れたのは、馬に乗った仮面の皇帝だった。 そのまま攫われた公爵令嬢ビアンキーナは、誘拐されたはずなのに超VIP待遇。 一方、助けようともしなかった王太子は「無能」と嘲笑され、静かに失墜していく。 選ばれる側から、選ぶ側へ。 これは、誰も断罪せず、すべてを終わらせた令嬢の物語。 --

ストーカー婚約者でしたが、転生者だったので経歴を身綺麗にしておく

犬野きらり
恋愛
リディア・ガルドニ(14)、本日誕生日で転生者として気付きました。私がつい先程までやっていた行動…それは、自分の婚約者に対して重い愛ではなく、ストーカー行為。 「絶対駄目ーー」 と前世の私が気づかせてくれ、そもそも何故こんな男にこだわっていたのかと目が覚めました。 何の物語かも乙女ゲームの中の人になったのかもわかりませんが、私の黒歴史は証拠隠滅、慰謝料ガッポリ、新たな出会い新たな人生に進みます。 募集 婿入り希望者 対象外は、嫡男、後継者、王族 目指せハッピーエンド(?)!! 全23話で完結です。 この作品を気に留めて下さりありがとうございます。感謝を込めて、その後(直後)2話追加しました。25話になりました。

絶望?いえいえ、余裕です! 10年にも及ぶ婚約を解消されても化物令嬢はモフモフに夢中ですので

ハートリオ
恋愛
伯爵令嬢ステラは6才の時に隣国の公爵令息ディングに見初められて婚約し、10才から婚約者ディングの公爵邸の別邸で暮らしていた。 しかし、ステラを呼び寄せてすぐにディングは婚約を後悔し、ステラを放置する事となる。 異様な姿で異臭を放つ『化物令嬢』となったステラを嫌った為だ。 異国の公爵邸の別邸で一人放置される事となった10才の少女ステラだが。 公爵邸別邸は森の中にあり、その森には白いモフモフがいたので。 『ツン』だけど優しい白クマさんがいたので耐えられた。 更にある事件をきっかけに自分を取り戻した後は、ディングの執事カロンと共に公爵家の仕事をこなすなどして暮らして来た。 だがステラが16才、王立高等学校卒業一ヶ月前にとうとう婚約解消され、ステラは公爵邸を出て行く。 ステラを厄介払い出来たはずの公爵令息ディングはなぜかモヤモヤする。 モヤモヤの理由が分からないまま、ステラが出て行った後の公爵邸では次々と不具合が起こり始めて―― 奇跡的に出会い、優しい時を過ごして愛を育んだ一人と一頭(?)の愛の物語です。 異世界、魔法のある世界です。 色々ゆるゆるです。

申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。

芹澤©️
恋愛
王太子の元へ側室として嫁いだ伯爵令嬢は、初夜の晩に宣言した。 「申し訳ありませんが、貴方様との子供は欲しくありません。」

逆行転生、断罪され婚約を破棄された落ちこぼれ令嬢は、神の子となり逆行転生したので今度は王太子殿下とは婚約解消して自由に生きたいと思います

みゅー
恋愛
アドリエンヌは魔法が使えず、それを知ったシャウラに魔法学園の卒業式の日に断罪されることになる。しかも、シャウラに嫌がらせをされたと濡れ衣を着せられてしまう。 当然王太子殿下との婚約は破棄となったが気づくと時間を遡り、絶大な力を手に入れていた。 今度こそ人生を楽しむため、自分にまるで興味を持っていない王太子殿下との婚約を穏便に解消し、自由に幸せに生きると決めたアドリエンヌ。 それなのに国の秘密に関わることになり、王太子殿下には監視という名目で付きまとわれるようになる。 だが、そんな日常の中でアドリエンヌは信頼できる仲間たちと国を救うことになる。 そして、その中で王太子殿下との信頼関係を気づいて行き……

処理中です...