伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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59、隣国

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給仕は先ほどと違うケーキを持ってきてくれました。

でも、正直に言いますともうかなり疲れてしまってあまり食欲も沸かず、ぼんやりと過ごしていました。

「良かった、まだこちらにいらっしゃった。」


先ほどの外交官が待たせて申し訳ないと大変恐縮され、私はその後ろの第二王子と第三王子の存在に目が点になりました。


この狭いテーブルに外交官は椅子を二つ追加して、それでは失礼しますと下がっていきますし、お二人は当然のように座って飲み物を頼んでいます。

反応する気力がなくて静かに見つめていますと、第二王子が元気がないと心配されました。

「どうした?疲れてるのか?」

ふるふると頭を振り、何か答えたいのですが、下を向いてしまい言葉が出ません。
私の様子に気分を害したようで、第二王子はそっぽを向いてしまわれました。

「…申し訳ありません。先ほど色んな人に会ってびっくりしていまして。」

「おまえがか?そんな奴じゃないだろう。おまえは、」

「兄上、約束したはずですよ。態度を改めてください。」

第三王子が遮って言葉を止めます。

「嫌われても知りませんよ。」

その言葉に悔しそうな第二王子がますます体を背けて不機嫌になりました。

やはりこの人はわざわざ国を跨いで何しに来たのでしょう。

良くわからない人です。

第三王子は今までの非礼を詫びたいということと、国への陳情を避けたことへの感謝を仰っていました。

私が止めたことになってますが、私は初耳です。

私が泣いたり怒ったりしなかったので丸く治まったということでしょうか。

その話題が広がらないように曖昧に微笑んで誤魔化しました。

第三王子は外交慣れしていて穏和な方なので話しやすく会話が進みます。

私個人の好みや家族の話をお聞きになるので、出来るだけ当たり障りないようにお話しします。

ほぼ第三王子と会話をするばかりで、第二王子は顔を背けたまま黙って同じテーブルにいます。

私から話を振ってみますと、時折ああ、とかそうだとか一言二言お返事をされます。

非礼を詫びて態度を改めたことを周囲へアピールしたいのかと考えました。

それならわざわざ私へ話しかけたことも納得いたします。

「参考までお尋ねしますが、リリィ嬢は嫁ぐならどんな所が理想ですか?」

「嫁ぐなら、ですか?」

「ええ。今回、こちらで婚約者探しを兄としてますが、この国の女性のお話を聞いてみたくて。ご友人も多いですし、ぜひリリィ嬢の意見を聞きたいのですよ。」

「嫁ぐなら、そうですねぇ。ランディックご夫妻が仲睦まじくて女性の間では有名です。あんな風に大事にされたいとよくお話を聞きます。」

「なるほど、確かにお二人は有名ですからね。リリィ嬢の国で、他国の王族に嫁ぐことはどう思われます?良いばかりでなく苦労もありますから。」

「皆様、立派にお役目をお務めになられるかと思います。我が国の女性の多くは優秀ですから。」

ニコッと笑うと、第三王子がニコニコ微笑む。

「リリィ嬢がもし他国の王族に嫁ぐなら、どうですかね?」

「私ですか?私は、さあ…。私は皆様と違って苦手なことが多いですし、身分も釣り合いません。そんな恐れ多い。」

かなり歴史があるとは言え、しがない伯爵位、簡単な日常会話の外国語しかマスターしてないし、馬にしか乗れないので論外とはっきり言いたいです。

書類選考落ち間違いないと思います。

「そんなことない!お前にだって充分!そう!充分…」

「大きな声で立ち上がらないでください。座ってください。兄上は苦手なことがあっても周りを頼ればいいと言いたいのですよ。」

お優しいのですね、と立ち上がったまま母国語で何やら呟く第二王子に微笑んだ。

「リリィ嬢は理想の男性とかは?若い女性の率直な意見をききたい。」

お姉様達と色々お話ししたことはありますけど、自分の理想となると、まだはっきりと想像できず首をかしげました。

「どうでしょう。お姉様たちからはまだ子供だから分かってないと言われてますので。」

「でも、背が高いとか優しいとか、何かあるのでは?」

隣の第二王子が食い入るように見つめますし、第三王子は穏やかに会話しながらも誤魔化しの聞かない雰囲気が滲んできてますし、熱量の違いに戸惑ってしまいました。
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