伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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79、性質※陛下

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面白い娘だ。

王妃のお気に入りのリリィ嬢は、ライオンに手を咥えられて喜ぶ神経の持ち主だ。

逆に、芸術家気質で才媛と名高い姉はどんな娘かと思ったら。

従順で大人しいという噂とは、全く違うようだ。

淑女の仮面を備えながら、他人を従えさせる圧を持ち、どうにも、なぜ私が、とメラメラと燃えた瞳で余を見据えている。

隠していても顔全面に感情が漂っている。

無表情を保つが、神経質な顔立ちにピリピリと圧を混めて空気を震わせる。

人の良い両親を翻弄して、修羅場馴れしたザボン公爵も姉君の一挙一動に注意を払ってる。

なんとまあ、気を使わせる娘だ。

目立たない見た目の風貌からは想像できないほど内面の苛烈さが伝わる。

将来の公爵夫人と呼べば、喜色を浮かべる両親を一瞥し、臆することもなく平然と受けとる。

生意気で気に食わんが、目立たない見た目に隠された尖った切れ味が興味深い。

冴えない外見から、女王然とした振る舞い。

不健康に青白く、コルセットで締め上げてるはずなのに大した胸も括れもなく対照的に大きく張る腰が、座って体を動かさずにいたのだと察せられる。

堂々と王族と対峙する様は傲慢で尊大。

たかが伯爵令嬢の身分で気位の高さは一級品だ。

ちらりと隣の王妃を見やれば、扇で隠しつつも横顔から娘への感心が見える。

「そういえば、あれは。ウルリカ嬢と同じ頃にデビューしたのは、新興侯爵家のご令嬢はアンバー嬢だったかしら。陛下。」

唐突にここに関係のない令嬢の名前を出す王妃に目をやる。

「ねえ、ウルリカ嬢。アンバー嬢と親しかったわね。」

「…当時はお優しくて、よく気にかけてくださってました。今は、残念ながら、身分違いとなりまして。」

悲しげに目を伏せる姿に含みを感じる。

王妃は穏やかに目を細めて淑やかに言葉を続ける。

「第三王子に、最初はアンバー嬢をお勧めしたのよ、私。」

去年ならアンバー嬢は姉君と同等の伯爵位、語学の堪能さは変わらない程の名声だった。

細かく分ければ外交の実績と見目はあちらの令嬢が目立っていた。


「そう、でしたか。アンバー様に。」

めらっと一層揺らぐ瞳に王妃の口元が緩む。

「少し社交界から離れていたけど、美しくて、才能もあられるから申し分ないと思ったのよ。離れていたのはどこかの誰かと誤解があったようだけど、ね。」

「そうでしたか。どなたかしら。私ったらご存じありませんで。ふふ。」

「そう?ふふふ。」

二人お互いに含みを持たせて笑うが、関わりがあると察した。

デビュー当時から深紅の髪を目立たせて薔薇と呼ばれた令嬢が、なぜか不自然に長く社交界から締め出されていたのはこの娘の手腕かと感心して、ほう、と息を吐く。

女同士、魑魅魍魎の争いだ。

男が関与することではない。

隣の両親はハラハラと娘を見つめ、空気に徹するランディック辺境伯爵夫妻とザボン公爵。

「私は相応しいと思って勧めたけど、あちらから断られてしまって。残念ながらアンバー嬢は殿方の好みではなかったのね。でもこうして相談があったと言うなら、どうやらあなたのような才気溢れるお淑やかな令嬢を求めてらっしゃったのね。」

くくと笑う。

「そのような…私などアンバー様に比べたらお恥ずかしゅうございます。」

謙虚な言葉を飾りながら微かに優越が浮かぶ。

「賢く謙虚なご令嬢が側にいれば殿方も喜ばしいでしょう。陛下。」

当たり障りなく応えておく。

「ああ。そうだな。家の繁栄は内助の功で決まると言える。」

「私としても、ぜひね。国益の為にも、あなたを頼りにしたいのよ。ねえ、ウルリカ、あなたはどう思う?」

「私には何とも。父の選ぶ所へ嫁ぐだけかと。」  

一般的な模範解答だ。

「これ以上のご縁が来てるのかしら?選ぶほど沢山あるの?サンマルク伯爵。どうなのかしら?」

「…い、いいえ。何も。」

「まあ、ないの?」

「何も、か?誠か?」

「は、はい。陛下。」

簡単に口を滑らせたサンマルク伯爵に余も驚いた。

この男は勤勉で賢いがどうにも腹芸が下手だ。

「あなたっ!陛下の御前でそんな話をっ。」

蒼白になるサンマルク伯爵夫人を見つめ、そういうことかと気づく。

年頃になって浮いた話のない娘を不憫に思って二人は振り回されているのか。

「お父様。ないとはどう言うこと?そんなはずはないわ。」

「あ、あぁそうだよ。高位の方から多くの話は出ているよ!まだ釣書は…届いてないだけだ。」

「…そ、れって。」

社交辞令。

多少の才能があろうと、一文官の娘、たかだか一介の伯爵令嬢。

他人を魅了させるより周囲の高位令嬢達の影に徹し、他人を蹴落としていたのだ。

まわりの輝きがなくなって自分が輝く訳ではない。

悲壮感漂う娘に母が気遣うが、俯きながら父親を睨み付けプライドを傷つけたことを恨んでる。

いや、これは父親のせいと恨んでる。

そう気付き、思わず舌を巻く。

ここまで己を省みず、他人に責を求めるかと驚いた。

くつくつとランディック辺境伯爵夫人が笑う。

「そんな、気にやむことありませんわ。王族からの申し込みがありましたでしょう?サンマルク伯爵、おめでとうございますわ。」

ランディック辺境伯爵は隣で目を瞑り、石のように固まってる。

こいつは、見なかったことにするのだろう。

「そうね、おめでたいわ。これ以上のご縁はなかなかないですものね。サンマルク伯爵夫人も喜ばしいことでしょう。」

「え、ええ。本当に。」

固まる娘を気遣いつつ、王妃に微笑みを返すサンマルク伯爵夫人。

「でも、嫌かしら?ウルリカ嬢は喜んでないみたい。」

「まさか、そのようなことは。ねえ、ウルリカ?ありがたい話に驚いているのよね。」

「…。」

「王妃、ウルリカ嬢ならきっと良いご選択をなさるかと。」

「ふふ。そうだと嬉しいわ。」

献身的な謙虚さなどなく、気に入らなければ身内でさえ冷淡に切り捨てられる性分。

ここまで尖った気質なら、国内に留めるより外に仕込む方が何かと便利だ。

「ああ、この縁談。そなたの才気に相応しい。いかがかな?サンマルク伯爵。」

余が自ら後押しすれば、否とは言えない。

サンマルク伯爵は、当主として是と唱える。
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