伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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85、食事

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室内に入りますと、簡素なワンピースを着た王妃がカートに湯桶を乗せて運んでました。

湯上がりのようで髪がしっとり濡れて頬が上気しています。

「母上。」

「こちらの部屋に運んでちょうだい。身支度をさせるから。」

「はい。」

「あなた達もキレイになっていらっしゃい。あとで食事の用意は手伝いに行くから。」

「今日はナヴィーンが張り切っていたから楽しみですね。」

「ええ。」

運ばれた部屋はダイニングのようで、隣からは陛下が顔を出して来られました。

陛下もまた湯上がりのようで、簡素な装いを召しています。

腕捲りをしてカゴを抱えて楽しそうに笑ってました。

「リリィ嬢、終わったらこれを切れ。」

カゴを返して、テーブルにゴロゴロと濡れた野菜が転がります。

触るとひんやりして、流水で冷やされていたと気づきました。

「終わったら私もするわ。早く出て。女の子の着替えに立ち会わないで。」

「ああ、終わったら呼べ。」

楽しそうに温かいタオルで顔と髪を拭われ、服を脱がされました。

「草だらけですから。食事の前に服だけ着替えましょう。」

こんなところでと恥ずかしがるのを宥められ、大人しく体を拭かれます。

王妃に大丈夫と微笑まれると、不思議とそんな気がしてしまいます。

頭からすっぽり被るワンピースに着替えをすませ、髪の毛をひとつの大きな三つあみに編んでくださいました。

首もとがゆったりとして、二の腕までかかる大きめの袖は、腕の包帯が見えてしまいます。

「腕が見えてしまいますが、よろしいですか?」

「男の子は怪我が多くて。ヘラクレスなんか訓練でいつも怪我だらけよ。細かいことは気にしないわ。」

お腹にだけある編み上げをきゅっと締めました。

王妃に教えてもらいながらナイフで野菜を切ります。

「その持ち方だと怪我するわ。ナイフを、こうやって握って。…こう切るの。」

するすると野菜の皮を剥いていきます。

ナイフの刃に当てて、手で転がしてるだけにしか見えません。

「最初は難しいから、少しずつ、こう、皮を削るみたいに切って。ゆっくりね。」

「はい。」

私がひとつ、皮を向いている間に王妃は3つ目を剥いています。

「上手ね、ナイフを扱ったことあるのかしら?」

「小さい頃、厨房の料理人や下働きに習って芋の皮剥きをさせてもらってました。一回だけ、お母様達には内緒で。庭師に庭のリンゴの剥き方を習ったり、孤児院の手伝いをしたり。そういうのが好きでしたので。」

隣が賑やかになり、陛下の声が聞こえました。

「終わったなら呼べと言ったであろう?」

「ふふ、良いじゃない。見て。リリィが剥いたのよ。上手でしょう。」

「上手いな、褒美をやろう。口を開けろ、ほれ。」

「あーん。」

赤い実を口に放り込まれ、甘酸っぱくて美味しかったです。

残りを手に持たされてモグモグ食べました。

「ん、王妃にはこっちだ。」

「まあ、陛下ったら。ふふ。」

チュッとお二人がキスをされて、あまりに自然なお二人の様子にあまり気にならず、隣で私は貰った赤い実に夢中でした。

「母上、皮剥きは終わりました?もうスープに入れないと固くなるってナヴィーン兄さんが、って。おっと。もう、本当に仲が良いんだから。」

隣からこちらへ来られたロルフ様が恥ずかしそうに視線を背けました。

「うふふ。」

「おお、すまん。取りに来たんだった。貰っていくぞ。」

「ここで切ったら?リリィが驚くわよ。」

「うむ。見せてやろう。」

陛下自ら手際よく野菜を刻んでいます。

「皆様、なんでも出来ますのね。」

「いつも誰かがいるわけではないからな。」

そんな時なんてあるのでしょうか。

「父上は母上に自分の作ったものを食べさせたいんだよ。」

不思議にしてるとロルフ様が刻んだ野菜をお皿に集めながら仰っていました。

「まあ、そうだな。」

「ふふ。」

すかさずキスをされて。

隣からはナヴィーン様が、まだかー?と叫んでます。

皆様でわいわいと食器を並べ、出来上がったスープをテーブルの中央に乗せてナヴィーン様がひとりひとりに注いで、焼いたお肉や魚をアダム様が取り分けて下さいます。

陛下は王妃の世話を焼いて、嬉しそうにされてました。

私は、ロルフ様に世話を焼かれて魚の小骨まで取ってくださるのを止めました。

「ロルフは父上似だな。ふふ、ふ。」

「皆、似てますよ。お世話をするの好きですから。」

「そうだな。どれ、ロルフの魚の骨は俺が取ってやろう。お前はリリィのをしてやれ。」

「あ?そしたら、俺がナヴィーンの骨取りか。よし。任せろ。」

「あ、では、私。アダム様の。」

「え、私のか?」

「何でアダム兄さんの?」

「え?アダム様はヘラクレス様の骨取りをされるのかと。」

順番的にそうかと。

「はははっ。お前達は自分のを食べなさい。私が王妃の骨を取るのは、昔、小骨を理由に断られたからだ。」

「そ、それは昔の話ですのよ?ここで言わなくても。」

「お前達も結婚したら気を付けろ。喉に小骨が刺さって、ね、やが、できない。もがもが。モグモグ。」

「陛下、あーんして差し上げますわ。たくさん召し上がって。」

「うむ。モグモグ。うまい。」

王妃が陛下に食べさせてあげて、本当に仲が良いです。

嬉しそうな陛下とは対照的に、赤い顔で王妃は怒ってらっしゃるようですけど。

「くくっ。ロルフはリリィの世話をしてやれ。年下の世話が楽しいのだろう。私達は気にするな。ふくくっ。」

「リリィ、気にしなくていいからね。俺がしたいだけだから。」

「…はあ。」

ロルフ様は末っ子で、年下のお世話に憧れがあるのでしょうか。


食後も皆様と片付けをします。

私は、座ったままですが、テーブルを拭きます。

終わると別室のソファーで、それぞれごろ寝し、陛下は相変わらず王妃の膝で心地良さそうにされてます。

私達は火の着いていない暖炉の前の絨毯に皆で転がってボードゲームをします。

ナヴィーン様とアダム様が対戦されて、ヘラクレス様とロルフ様。

まだしたことのないゲームなので見て覚えます。

「どうしてこんなに自分達でされるのですか?」

「そんなの、自分達でした方が安全だからだよ。なあ。」

「ああ。俺は軍隊にいるし、戦時になれば自分で何でもしなきゃいけないし。」

「くふふ。単純に父と母の趣味だよ。丸1日二人っきりで過ごしたいが為の。」

「たまにだから気楽で楽しいんですよね。床に寝転んでも怒られないし。」

「たまにですか?」

「うん、俺達の予定が合う時は皆で集まるんだ。…リリィ、ヘラクレス兄さんがこの駒はそこに動かしたから、こっちで取るんだよ。そしたら、こことここががら空きになる。」

「あ、なるほど。」

「あ、くそ。負けそう。」

「ここから、そことここに攻められたらひっくり返るんだけど。」

「お、なるほど。じゃあそこに…。」

「あ、ヘラクレス兄さん、待って。そこに置くと。」

「あー、また負けた。そっちはどうだ?…ヘラクレス兄さんが優勢かな?」

「ふふ。いや、そこを攻めてもまたひっくり返されるぞ。ロルフが優勢のようだな。」

「え?なんでだよ?」

ヘラクレス様が驚いてアダム様を見やり、教えろと引き寄せます。

「ほら。ここを攻めてもこっちから駒が来る。こっちも。…な?」

「だから説明しようとしたのに。ヘラクレス兄さん、聞かないから。」

「え?え?…あー!なんだよこれ!もう無理じゃないか!!」

「まだ手はあるぞ。代われ。」

アダム様が交代されて二人で黙って打ちます。

余ったボードを使って3人で打つことにしました。

「二人はこういう頭を使うのが得意なんだよ。さっきもアダム兄さんに秒殺だぜ。」

ナヴィーン様が盤に駒を並べ、私と一緒に打ってくれるそうです。

「まだアダム兄さんが強いけど、毎日温室の学者と練習してるからなぁ。いつ負けてもおかしくないって言ってた。」

「努力家ですのね。…この駒は、この動きで良かったですか?」

「そこでいいよ。…あいつ、小さいの気にしててさ。代わりに頭鍛えるって。」

「らしいね。色々、嫌な目にあってるからなぁ。」

「…小さいと侮られますものね。」

私も心当たりあります。

迎賓館で子供がいると何度もからかわれました。

「でも、私より大きいです。男の子の成長期は青年になるまで続くのでしょう?私なんか年齢的に終わってしまいました。もう育つ望みがありません。」

不貞腐れてるとお二人に笑われてしまいました。

「まだ育つさ。肉を食え肉を。鳥の餌ほどの量だから育たんのだ。さっきも母上の半分も食べなかっただろ?」

「はは、ナヴィーン、良いじゃないか。ロルフと並ぶと大きさがちょうどいいし。」

「そりゃそうだが。ほら、こんなに細いと心配になるじゃないか。怪我の治りも遅くなるかもしれん。」

ナヴィーン様が私の手を引いてヘラクレス様にかざしました。

「いたっ。あっ!」

思ったより強く引かれてそのまま盤の上に転びます。

「おい、ナヴィーン!荒くするな!」

「わ、すまん!大丈夫か?」

「何してる?」

がしゃっと大きな音をたててしまい、寝そべっていた陛下に見咎められきつく睨まれました。

「申し訳ありません、父上。」

ナヴィーン様に助け起こされ、私も頭を下げます。

「く、ふふ、ナヴィーンはオリガ達の歓迎と変わらぬようだな。昼間見た光景だ。まだ小さいのだから丁寧に扱え。」

「はい。気を付けます。」

「包帯がほどけてしまったようね。巻き直してあげて。」

「分かりました。」

王妃がゆったりと告げて、ナヴィーン様が丁寧にほどいていきます。

王妃はまた、ゆったりとソファーに寄りかかって陛下を抱き締めるように寛ぎました。

お二人は、ダーシャとネロが寛いでる時のようです。

「すまんかった。痛かったろう。」

「いえ、私が転んだせいです。ナヴィーン様、申し訳ありません。」

「転ばせたのはナヴィーンだ。」

「そんな強くしたつもりなかったんだ。こんな簡単に転ぶとは思わなくて。」

「大きさが違うんだからしょうがないですよ。俺のこともよく転ばせるでしょう。」

「う、それもすまん。」

「ナヴィーン、ロルフと代われ。ヘラクレスの部屋に新しい包帯があっただろう。取って来てやれ。」

「ん?あ、ああ。分かった。ロルフ、頼む。」

「俺も行く。」

ナヴィーン様とヘラクレス様が部屋を出て、ロルフ様が代わって下さいました。


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