伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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87、愛着※ロルフ

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「ヘラクレス兄さんが包帯届けてくれたよ。」

「…はい。」  

顔を赤くして小さい声で返答して、こくこくと頭を振る。

振り子みたいだ。

大人しく腕を出して包帯を任せる。

兄達が使う湿布と違って花とハーブみたいな優しい香りがする。

ガレヌスが気を使ったのだろう。

腕も手も小さくて、本当に俺の一つ下なのかな。

「小さいね。」

巻き終わり、手を離さずふにふにと手首や手を握ると、また小さい声で、はいと返事が聞こえる。

首も顔も、体も小さくて触ってみたくなる。

頬っぺたが気になって手を伸ばす。

「あ、勝手にごめん、触っていい?」

怯んだ気がして、怖がらせないように優しく微笑むと少し間を置いて頷く。

「柔い。」

片手で撫でると困った顔で見つめ返され、ふにふにと揉むと薄く目を閉じて気持ち良さそうにしてる。

顎を持ち上げて覗くと母に聞いた通り少し黒くアザが残っていた。

昼間、明るいところでは化粧をしていたのだろう。

食事前に母が顔を抜ぐってしまって白い肌に分かりやすく見えてしまってる。

手の甲でアザをすりすりと擦る。

痛みはなさそう。

嫌がる素振りはなくされるがまま。

ダンスの時も素直に身を任せて、背中を大きく反らせたのを思い出した。

初めてのパートナーであんなに体を任せられるとは思わなくて驚いた。

どこまでも背を反らせて。

怯めば自然と体が動かなくなるのにとても伸びやかだった。

もういいよ、と声をかけるまで。

今も上を向かされ、されるがままだ。

「あの、ロルフ様。」

身じろぎしてこちらを見つめる。

視線が合うと不安そうな瞳が見えた。

ダンスの時のようにはいかないか。

「何?」

「あの…。」

ニコニコ優しく笑うと何も言えないようで口ごもる。

兄達の回りにいる積極的な女性達と違うんだなぁ。

「恥ずかしい?」

こくこくと頷くので手を離す。

「ごめんね、嫌だった?」

「い、いいえ。」

「ロルフ、入るぞ。」

「どうぞ。」

戸を叩く音が聞こえて、兄達がカートに人数分の飲み物を載せて入ってきた。

「果実水でいいか?冷えたお茶もあるが。ここに置くぞ。ロルフ。」

リリィと手を繋いていると、ナヴィーン兄さんが二人分の果実水を俺の隣に置く。

ヘラクレス兄さんが赤いの実を盛った皿を差し出して。

「井戸水で冷やしてたから美味いぞ。ほら、ロルフ。食べさせてやれ。」

飲み物も皿も受けとれず、繋いだ手を離そうと空いた手でリリィが引っ張るが、ぎゅっと掴んで離さなかった。

「ロルフに世話をされとけ。さっき倒されて痛かったろ?」

「さっきは本当にごめんな。まだ痛むか?」

心配そうに覗き混むナヴィーン兄さんにふるふると頭を振ってる。

「ふふ。手を繋がれて嫌だったかな?」

「そうなの?リリィ。」

「いえ、そんなことは。」

「離したくないんだけどだめ?手が柔らかくて気持ちいい。」

「あ、う…はい。」

お願いするとすんなり許してくれた。

本当にこの顔に弱いみたいだ。

リリィを宮殿に返さなきゃいけなくて、アダム兄さんが抱える。

「ヨルンガ、迎えに来てくれたの?」

入口でリリィの侍従が待っていた。

「申し訳ありません。言いつけに背きました。」

深く頭を下げて、護衛からずっと待っていたと報告を受ける。

「そうか。構わない。ふふ、忠義に厚いのだな。」

リリィを渡され、安心したようにお互いを見つめていた。

「アダム様、お許しいただきありがとうございます。」

「良い側仕えだ。感心している。」

アダム様がリリィの頭に手を置き、するっと頬を撫でる。

「はい。」

嬉しそうに微笑むリリィが羨ましくて、この中で背が低いのが悔やまれる。

いや、届くんだけど、あんな上から自然体で触れない。

「リリィ、またね。」

その代わり、目線の高さの顔を覗き混むと顔を赤らめてはい、と応えた。

その場を見送り、プライベートへ戻る。

「気に入ったか?」

「はい、とても。」

「そうか。身分も気質も問題ない。ふふ。だが、怖い忠犬がいる。…どうしようか?」

「…そうですね。どうしましょうかね。」

昨日の激しさを思い出すと、下手に手を出せば噛まれる。

「まずは、逃げられないくらい目一杯、甘やかそうと思います。」

「母は足の怪我が治るまでここに留めるつもりだそうだ。近々、ランディック夫妻とウォルリック卿が見舞いに来るぞ。」

「その、お二方がいらっしゃいましたね。」

父親のサンマルク伯爵より手強い。

ランディック夫妻はまだ友好的だが、ウォルリック卿か。

いたずらに手を出すなと釘を刺されたが、遊びじゃなければ良いのだろう。

「ふ、ふ。外交の仕事は回してやる。よく指導を受けると良い。」

「やっぱりその手しかありませんよね。認められるように頑張ります。アダム兄さん、ご助力ください。」

「ヘラとナヴィに言うと良い。二人なら喜んで仕事を譲るだろうな。ふふ。」

家族だけの時は、愛称で呼ぶ。

「ロル、お前は賢く努力家だ。兄として誇らしい。あいつらも末のお前が可愛いんだよ。」

「ありがとうございます。」

「寂しい気がしたが、可愛がり甲斐のある妹が出来ると思えば。」

「ダメですよ。盗らないで下さい。アダム兄さんにはヒバ皇女がいらっしゃるでしょう。そちらと仲良くされてください。」

三日目のパーティーで、パートナーを務めた。

国内外で婚約の確定を公表した形となる。

二人ともおおらかで気が合う。

今回の演奏会で会う以前から外交の場で交流が続き、水面下で婚約を進めていた。

「念願が叶いましたね。おめでとうございます。」

「ああ。あとはナヴィとヘラだか。どうかな。まだ二人とも剣を持って走り回る方が楽しいらしいし、国内外の圧力がある。…意に染まぬ婚姻だけは避けてやりたいが。」

二人の兄の婚約は、まだ決定にはならず保留となっている。

「自分も、そう思います。」

くしゃくしゃと頭を撫でられる。

「お前達が何をどう選ぼうが、大丈夫だ。私がいる。」

「アダム兄さん、自分もいますよ。まだ頼りないでしょうが、きっと役に立ちます。」

「心強いな。きっと二人も同じ気持ちだろう。ふふ、私は弟に恵まれた。」

「俺達も、同じです。」

癖のある含み笑いを聞きながら、くしゃくしゃと頭を混ぜるのを大人しく身に受けた。
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