伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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97、約束

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あれから領地に戻って去年と同じように過ごしてます。

孤児院に行って、刺繍をして。

ロットバルト夫人のレッスンを受けて。

ロットバルト夫人とシスターレイにそれぞれに王都でのいざこざをお話ししました。

ロットバルト夫人は頑張りましたねと労ってくれました。

シスターレイは社交界は相変わらずなのねと呟いて、ご自身のお話をされました。

生まれつきと思っていた足は、男女のいさかいで悪くしたそうです。

「あちらから婚約解消してくださって構わなかったのに、馬車に細工されてしまったのよ。」

青ざめて話を聞きました。

相手方のお家にシスターレイのご実家が援助されていたそうで、向こうからの解消を渋って命を狙われたと。

「どうにも好いていた方いらしたようで。相手の仕打ちをいまだに辛く思うこともあります。」

「…はい。」

こんなに、お優しい方がどうして?

ほろほろと涙が出ました。

「あら、泣かせてしまいましたね。もう昔のことです。この事が公になり相手は没落してしまったし、憎む相手もいないのですよ?」

「…はい、ひっく、」

「ウォルリック卿の薦めでキンバリー様に預けられて守られました。」

「ひいお祖母様をご存じだったのですか?ぐす。」

「ええ、強い方。でも、お優しくて。心の頼りにさせて頂いてます。」

私が生まれるとうの昔に亡くなっています。

「どんな方?」

屋敷に残る絵画はお若い頃の、私と変わらないくらいのものばかりでした。

どんな風にお年を召して過ごされたのか、皆さんのお話を聞くしか手だてはありません。

「そうねぇ、おおらか?大雑把?荒っぽい?」

「え?悪口?」

「ああ、違いますよ。…でも本当に苛烈なところがあって、ウォルリック卿に相手の男を叩きのめせとすごい剣幕で恐ろしかったわね。私が泣いてばかりだとうるさいと怒鳴られたり。」

「え、怖い。」

ウォルおじ様からそんな話は聞いたことありません。

他の方も。

あ、でも、皆さん口を揃えて逆らえなかったと仰っていました。

「長生きするぞ、幸せになって見返すぞって。」

逆らえないとはこういうことでしょうか。

「若い時はもっとたおやかだったそうですよ。年々、気が強くなられて、他人が理不尽な目に遭うことが大層お嫌いでしたね。ご本人も昔の方が穏やかだったと仰っていました。ふふ。」

怖そうなのにシスターレイは楽しそうに微笑みます。

「キンバリー様がね、私のもとに来たからには幸せにしてやるって。足の治療を手ずから施されて、暮らしやすい修道院も。治療が済んで暇ならと、こちらの孤児院の仕事も。」

「まあ。」

「一度、殿方と結婚するかという話もありましたが、この足では思って悩みました。そしたらキンバリー様がね、それもいい選択だって後押ししてくださったんです。どちらを選んでも幸せかどうかは自分次第だからと仰って。」
 
結婚されて幸せだったそうです。

ただ残念なことに仕事中の事故で旦那様を亡くなられ、一人寂しかったのでまたこの孤児院に戻ったと。

「私の人生はとても幸せでございます。短いながらも諦めていた人生の伴侶と暮らせて、今はここの子供達に囲まれて。」

シスターレイの笑顔が眩しくて目を細めて見つめました。

「リリィ様、あなたも結婚に悩んでるのでしょう?」

「…はい。戸惑ってます。…怖いです。」

「キンバリー様なら何て仰るかしら?同じようにお話しされるかも。ふふ。」

手招きをされるので近寄ると頬にキスをされました。

「あなたのお心のままに。どちらも、どれも。あなたに幸せがあります。」

「はい。」

手を握られて私もきゅっと指に力を込めました。

屋敷に戻ると今日も手紙が届いていました。

クリス様、アンバー様、それとロルフ様。

1番にロルフ様の手紙を開けます。
 
内容は遊びに来ていいかと。

それだけでした。

私は走ってお母様に報告をしてお返事の相談をしました。

慌てて屋敷に支度を整え、一応の為にお父様にも早馬でお知らせします。

お返事はお母様が書きました。

おそらくこちらに寝泊まりということになります。

今回のやり取りは親を介した方が良さそうだ判断されました。  

3日ほどたってお返事が来たかと思えば数人の護衛と馬に乗ってロルフ様本人が来られました。

「すぐ帰るよ。」

驚く私たちにいつもの穏やかな微笑みでした。

お母様が戸惑ってます。

「急なことで、お支度が間に合わず申し訳ありません。」

「いえ、こちらの方が急に申し訳ありません。」

「せめて暖炉の前でおくつろぎくださいませ。」

暖炉の前に椅子を置いてそちらへとご案内しました。

「休んだらすぐ帰るよ。」

頷くとまた笑みがこぼれました。

「あ、背が。」

「わかった?少しずつ伸びてるんだ。」

「はい。」

3ヶ月ぶりに会うと体つきも変わられたような気がします。

椅子には腰かけず暖炉の火に手をかざして温めてました。

背中を眺めていると、顔が振り返りました。

「来年、会ったら嫌われる気がして。早く見せたかったんだ。」

「え?」

「最近は毎日、夜になると体の骨がきしんで伸びる感覚があって、まだ伸びそうなんだよね。」

「痛い、ですか?」

「痛い。夜は寝れない。」

「背が高いのも、す、素敵だと思います。」

「本当に?背が近い方が好きかと思ってたけど。」

「え、あ、…はい。」

下を向くとクスクス笑い声が聞こえました。

以前より高い位置から。

「どちらも、好きです。高くても、低くても。ロルフ様は変わられないから。」

「え、あ、そ、そうかな?」

「はい。好きです。」

暖炉のせいじゃありません。

顔が熱いのはロルフ様のせいです。

「あー、あ、うん。」

しゃがみこんで顔を両手で隠していらっしゃいます。

「外套をお預かりしても、よろしいですか?」

「い、今はダメだ。顔が熱くて。見ちゃダメだ。」

赤い耳が見えます。

「暖炉のせいです。私も、同じですから。」

「…わかった。」

立ち上がって前のボタンを外されてるようです。

腕を広げたのでゆっくりと肩から取りました。

ちらっと盗み見すると、緊張したお顔が見えてまた胸が苦しくなりました。

お母様がお茶の支度をしてくれたので、私が注ぎました。

「これを、サンマルク伯爵夫人。」

お詫びにと新作の茶葉を頂きます。

「これなら気にせず持ってこれた。」

「リリィにはこれ。先生達から。」

紙に包まれて開けるとゴロゴロと丸いものが。

「…球根と、種ですか?」

「ああ、宿題だって。」

「ふふ。嬉しいです。」

「飲んだら帰るよ。顔を見たかっただけたから。」



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