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96、嫉妬※ヨルンガ
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失敗したな。
目の前ではリリィ様と第四王子。
緑の館に来ている。
学者達に囲まれ、研究論文を見たり講義を聞いて過ごしている。
リリィ様の眼差しが柔らかい。
第四王子と目が合うと赤らめて薄く目を伏せる。
少し前は第四王子がしつこく手を触れていたのに。
今はそんな素振りを見せずに隣に寄り添うだけだ。
それが寂しいのか、リリィ様から手の甲に手を当ててる。
腹が立ってしょうがない。
どこで間違えたか、どこから巻き返すかそれが頭の中でぐるぐる回る。
感情を消す為に薄く目を伏せる。
追いかけられてるうちは追い払えばいい。
だが、リリィ様が望めばその限りではない。
俺の腕に閉じ込めるつもりだったのに。
やりやがった。
このくそチビめ。
取り返したいのに手だてがない。
思い浮かばない。
出会って10年。
可愛らしくて型破り。
初めて世話をした時は頭が痛かった。
それでも笑顔が可愛くてこの子しかいないと思った。
まだ小さい頃、俺の手を掴んでいつも眺めてた。
『私と色が違う。不思議ね。日焼け?私もおんなじになれる?』
そう言ってしげしげと見つめ、水色の瞳をキラキラと目を輝かせていた。
昔の方が今より色が濃かった。
黒っぽい肌はウルリカ様に汚いと嫌がられた。
母はそれをこっそり憎らしげに見ていた。
落ち込む俺にリリィ様のもとにいなさいと離されて、また汚いと言われるか心配したら、何のことはない。
外国の王子さまだと喜んだ。
ターバンを巻いた異国の物語。
何度も読み聞かせをねだられて、主人公を真似てスカーフを持ち出して頭に巻くと、棒を振り回して海賊ごっこ。
仕舞いには肌にインクをつけて木登り。
ここは船だ、海賊だと笑って。
面白くて船長と呼んで庭を走って他の子供達と遊んだ。
男の子も女の子も一緒に遊んだ。
それもウルリカ様と奥様に見つかってえらい怒られた。
リリィ様は自分がさせたと謝っていた。
遊んで怒られたらいつも俺達を庇う。
だが、あまり懲りていなくて、毎日怒られそうなことにばかり興味を示した。
厨房に寄れば料理をしたがり、庭で遊べばタットじいさんの仕事を真似た。
奥様にちゃんと見張りますと約束をしてやりたいようにさせて怪我をしないように大人と見張ったが、ウルリカ様は許してくれず、王都の父のもとへ移動させられた。
毎日楽しかったのに。
いつも、手を重ねて色が違うと喜んでいる顔が好きだった。
そういえば黒パンと呼ばれた。
『固いけど日持ちがしてすごいんだって!色が一緒!』
『…リリィ様は白パンですね。』
誉められた気がしないとムッとして言い返すとけたけた笑っていた。
『日持ちしない!私と一緒だ、あはは。』
『黒パンは庶民のものですね。俺にぴったりと言うこと?』
『みんな食べるよ?美味しいよ?』
『美味しくないですよ。固いしすっぱい。』
『おいしいのに。白パンより皆の役に立ってるよ?ぱく、モグモグ。はい、あげる。』
半分もらって食べたらその黒パンは美味しかった。
どや顔のリリィ様にむっとしたが、黒も悪くないと思えた。
覚えてるのは無邪気な顔ばかりだった。
王都の屋敷に預けられてからは戻りたくてがむしゃらに働いた。
勉強も、格闘技も。
父や他の者に師事を受けて何でもした。
旦那様に戻りたいと願うが男は近づかせんと一蹴されて、どうしたらいいか粘った。
年々、王都の奥様からリリィ様を心配する手紙とウルリカ様はお怒りの手紙ばかり溜まって、旦那様はリリィ様の将来を悲観する愚痴が増えた。
体も育たない心も幼いと。
なら、俺が貰うと思った。
今まで以上に働いた。
父を越えた実力を認められて、少しずつ誘導して。
リリィ様の貰い手を望めなさそうだから俺にと、やっとその気に出来た。
それが去年だ。
やっと。
そう思ったのに。
このぽっと出のチビに引っくり返されそうだ。
悔しいが、俺はリリィ様に望まれていない。
使用人と主人の壁の厚さにいら立つ。
それさえも吐露出来ずにただ感情を隠してリリィ様の赤ら顔を見るしかなかった。
「ヨルンガ、私失敗した?」
「え?」
帰りの馬車で外を眺めるリリィ様に尋ねられた。
その質問は2度めだ。
「何もございません。」
声が固くなる。
「…そうかな?…ごめん、自信ない。」
「ございませんよ。ご令嬢としてちゃんと過ごされてました。」
「…うん。…でも子供の頃からヨルンガは甘いからなぁ。本当かな。」
「信用ありませんか?」
「ちょっとだけね。甘いから。蹴っても怒らないし。」
ダンスの練習を思い出して口元が緩んだ。
「あのくらい平気ですよ。」
「強いね。ふふ。」
こちらを一切向かないリリィ様に不安になる。
「何か心配ですか?」
「…何で怒ってるのかなぁって。」
「誰が?」
「…ヨルンガ。…不機嫌そうだった。なんか、ごめん。」
リリィ様は妙に敏い。
気づかれたことに顔が歪む。
「…いいえ、自分の不甲斐なさを恥じてるだけです。リリィ様に一切忌避はございません。」
くるっと向きを変えて見つめられる。
じっと見つめられ己の邪さを見透かされる気がして怖くなった。
「本当に?」
「はい。問題は己です。」
「…ふぅん。…わかった。」
必死で表面を取り繕う。
ご存じなのかと心の蔵が早鐘のように打つ。
「何もお気になさらず、お心のままに。」
しばらく黙ってから、うつ向いてすっと頭を向けるのでいつものようにぽんぽんと頭を撫でる。
昔のように、が正解だろう。
この距離から縮まる気配はない。
近いのに。
信頼から愛になると思ってた。
触れたい。
だが、求められていない。
ここまでの距離だ。
馬車が屋敷に戻るまで優しく撫で続けた。
目の前ではリリィ様と第四王子。
緑の館に来ている。
学者達に囲まれ、研究論文を見たり講義を聞いて過ごしている。
リリィ様の眼差しが柔らかい。
第四王子と目が合うと赤らめて薄く目を伏せる。
少し前は第四王子がしつこく手を触れていたのに。
今はそんな素振りを見せずに隣に寄り添うだけだ。
それが寂しいのか、リリィ様から手の甲に手を当ててる。
腹が立ってしょうがない。
どこで間違えたか、どこから巻き返すかそれが頭の中でぐるぐる回る。
感情を消す為に薄く目を伏せる。
追いかけられてるうちは追い払えばいい。
だが、リリィ様が望めばその限りではない。
俺の腕に閉じ込めるつもりだったのに。
やりやがった。
このくそチビめ。
取り返したいのに手だてがない。
思い浮かばない。
出会って10年。
可愛らしくて型破り。
初めて世話をした時は頭が痛かった。
それでも笑顔が可愛くてこの子しかいないと思った。
まだ小さい頃、俺の手を掴んでいつも眺めてた。
『私と色が違う。不思議ね。日焼け?私もおんなじになれる?』
そう言ってしげしげと見つめ、水色の瞳をキラキラと目を輝かせていた。
昔の方が今より色が濃かった。
黒っぽい肌はウルリカ様に汚いと嫌がられた。
母はそれをこっそり憎らしげに見ていた。
落ち込む俺にリリィ様のもとにいなさいと離されて、また汚いと言われるか心配したら、何のことはない。
外国の王子さまだと喜んだ。
ターバンを巻いた異国の物語。
何度も読み聞かせをねだられて、主人公を真似てスカーフを持ち出して頭に巻くと、棒を振り回して海賊ごっこ。
仕舞いには肌にインクをつけて木登り。
ここは船だ、海賊だと笑って。
面白くて船長と呼んで庭を走って他の子供達と遊んだ。
男の子も女の子も一緒に遊んだ。
それもウルリカ様と奥様に見つかってえらい怒られた。
リリィ様は自分がさせたと謝っていた。
遊んで怒られたらいつも俺達を庇う。
だが、あまり懲りていなくて、毎日怒られそうなことにばかり興味を示した。
厨房に寄れば料理をしたがり、庭で遊べばタットじいさんの仕事を真似た。
奥様にちゃんと見張りますと約束をしてやりたいようにさせて怪我をしないように大人と見張ったが、ウルリカ様は許してくれず、王都の父のもとへ移動させられた。
毎日楽しかったのに。
いつも、手を重ねて色が違うと喜んでいる顔が好きだった。
そういえば黒パンと呼ばれた。
『固いけど日持ちがしてすごいんだって!色が一緒!』
『…リリィ様は白パンですね。』
誉められた気がしないとムッとして言い返すとけたけた笑っていた。
『日持ちしない!私と一緒だ、あはは。』
『黒パンは庶民のものですね。俺にぴったりと言うこと?』
『みんな食べるよ?美味しいよ?』
『美味しくないですよ。固いしすっぱい。』
『おいしいのに。白パンより皆の役に立ってるよ?ぱく、モグモグ。はい、あげる。』
半分もらって食べたらその黒パンは美味しかった。
どや顔のリリィ様にむっとしたが、黒も悪くないと思えた。
覚えてるのは無邪気な顔ばかりだった。
王都の屋敷に預けられてからは戻りたくてがむしゃらに働いた。
勉強も、格闘技も。
父や他の者に師事を受けて何でもした。
旦那様に戻りたいと願うが男は近づかせんと一蹴されて、どうしたらいいか粘った。
年々、王都の奥様からリリィ様を心配する手紙とウルリカ様はお怒りの手紙ばかり溜まって、旦那様はリリィ様の将来を悲観する愚痴が増えた。
体も育たない心も幼いと。
なら、俺が貰うと思った。
今まで以上に働いた。
父を越えた実力を認められて、少しずつ誘導して。
リリィ様の貰い手を望めなさそうだから俺にと、やっとその気に出来た。
それが去年だ。
やっと。
そう思ったのに。
このぽっと出のチビに引っくり返されそうだ。
悔しいが、俺はリリィ様に望まれていない。
使用人と主人の壁の厚さにいら立つ。
それさえも吐露出来ずにただ感情を隠してリリィ様の赤ら顔を見るしかなかった。
「ヨルンガ、私失敗した?」
「え?」
帰りの馬車で外を眺めるリリィ様に尋ねられた。
その質問は2度めだ。
「何もございません。」
声が固くなる。
「…そうかな?…ごめん、自信ない。」
「ございませんよ。ご令嬢としてちゃんと過ごされてました。」
「…うん。…でも子供の頃からヨルンガは甘いからなぁ。本当かな。」
「信用ありませんか?」
「ちょっとだけね。甘いから。蹴っても怒らないし。」
ダンスの練習を思い出して口元が緩んだ。
「あのくらい平気ですよ。」
「強いね。ふふ。」
こちらを一切向かないリリィ様に不安になる。
「何か心配ですか?」
「…何で怒ってるのかなぁって。」
「誰が?」
「…ヨルンガ。…不機嫌そうだった。なんか、ごめん。」
リリィ様は妙に敏い。
気づかれたことに顔が歪む。
「…いいえ、自分の不甲斐なさを恥じてるだけです。リリィ様に一切忌避はございません。」
くるっと向きを変えて見つめられる。
じっと見つめられ己の邪さを見透かされる気がして怖くなった。
「本当に?」
「はい。問題は己です。」
「…ふぅん。…わかった。」
必死で表面を取り繕う。
ご存じなのかと心の蔵が早鐘のように打つ。
「何もお気になさらず、お心のままに。」
しばらく黙ってから、うつ向いてすっと頭を向けるのでいつものようにぽんぽんと頭を撫でる。
昔のように、が正解だろう。
この距離から縮まる気配はない。
近いのに。
信頼から愛になると思ってた。
触れたい。
だが、求められていない。
ここまでの距離だ。
馬車が屋敷に戻るまで優しく撫で続けた。
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