伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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95、手紙

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あのパーティーを最後にまた屋敷に引きこもっています。

高位の方のお誘いは出ますけど。

出来るだけ引きこもりです。

肩の赤みは引きましたが、まだアザが残ってます。

今、お世話になってるランディック辺境伯様のお屋敷は来月の婚約式の支度で大忙しです。

私達もお手伝いをして過ごします。

「私、お邪魔になってませんか?」

大して出来ることはありません。

「いいのよ、リリィ。あなたがキューピッドなのよ。」

「そうだよ、おかげで以前より話をするようになってプロポーズを受け入れてくれた。」

バン様が嬉しそうに仰っています。

本当に、私は何もしていないのですが。

婚約期間が過ぎれば結婚式は年内に領地で。

そして来年の王都でもう一度行うそうです。

私にもベールを持つか指輪を運ぶか何をしてもらおうかとお話しされてます。

私は何でもよろしいです。

お役に立てるならとても嬉しいですから。

マリエおば様が届いた手紙の分類をされます。

「アンバー嬢から二人とも届いてるわよ。」

アンバー様とバン様は頻繁にお手紙のやり取りをされて、いつも私の分も一緒に届きます。

たまに私にだけ届きます。

「薔薇の妖精とまた言われるね。はは。」

「何が違うのですか?ちょっと違うだけじゃないですか。」

「アンバーは俺のだろ?」

「はい。バン様の奥様になります。」

「君のじゃないよね?リリィもアンバーのものじゃないだろ?」

「はい。…あ!はい!わかりました!はい!」

薔薇の妖精だと、私はアンバー様の物と言うことです。

「熱烈な投げキッスもして二人の仲はみんな興味津々だよ。あはは!」

「ええ、そんな。え?え、ご、ごめんなさい。」

「大丈夫。アンバーのお気に入りだとは分かってるから。妹みたいに思ってるよ。」

「焦ってたくせに。それでやる気になったのよ!ほーっほほほ!」

「母さん!言うなって!口が軽すぎるんだよ!」

「言葉遣い!バン!はしたない!」

「はい!」

ぴしゃりと一言で背筋を伸ばして居ずまいを正します。

「これから麗しの赤薔薇の夫になるのよ。しっかりなさい!」

「はい。肝に命じます。申し訳ありません。」

「侯爵令嬢が伯爵位よ。昔の地位と同じと言っても今は侯爵令嬢。格が下がってしまうの。他の高位の方々を退けてお前を選んで頂いた。不自由させないようになさい。妻を不自由させる夫なんてダメよ。わかった?」

「はい。」

「あなたと結婚して薔薇がくすんだと言われたら我が家の恥。しっかりお心を射止めて大事にするのよ。…もし何かあれば覚悟なさい。いいわね?」

「…はい。」

バン様が青ざめていらっしゃいます。

私も、マリエおば様が怖くて震えました。

とっとと返事を書いてこいと部屋を追い出されてバン様が走っていきます。

「あら、こちらも熱心ね。リリィによ。」

「え?」

受け取ったのはロルフ様からのお手紙です。

顔がどんどん熱くなりました。

「あらまあ。真っ赤。」

「あ、はい。申し訳ありません。」
 
声まで震えて恥ずかしです。

「ふふ、いつも愛を囁かれるのかしら?中身は?」

気になるようで覗きこまれて、大人しくその場で開封しました。

ナヴィーン様と温室で果実を食べた、私にもまたご馳走したい、と簡潔に書かれてました。

「まあ、兄弟仲がよろしいのね。でも、愛の囁きはかかれてないわ。」

「わ、私。…書かれてたら、返事を書けません。」

「…そうね、…その様子では。」

真っ赤なのでしょう。

恥ずかしくて体も苦しいです。

「わた、し、返事を書いてきます!」

「あらあら。」

ばたばたと走ってマリエおば様から逃げました。

ロルフ様からのお手紙はアンバー様より控えめです。

でも、薔薇は相変わらず毎日。

一緒にカードと届きます。

いつも届けてくださる使いの方にお礼を言おうとしたら、その日はロルフ様本人で驚いて逃げてしまいました。

お出掛けの途中だから寄ったと笑って。

ドアの後ろから隠れてお話を聞きました。

二、三言葉を交わしてすぐにお帰りになり、私は緊張してその場にしゃがみこみ、ヨルンガに心配されてしまいました。

何かされたかと聞かれ、私が勝手に緊張しただけと答えると少し不機嫌な顔をしてまたもとの穏やかな表情に。

後ろからサラとディーナも心配して見つめるので、出来るだけ明るく振る舞いました。

「…ヨルンガ様、お気の毒に。」

「…そうね。」

「何が?」

分からずサラとディーナに尋ねましたが、苦笑いをするばかり。

「リリィ様は気にせずお心のままに過ごされてください。」

ディーナの言葉にサラも頷き、二人は困った顔でした。

何か失敗してしまったのか不安でヨルンガにも声をかけました。

「私、何か失敗した?」

「何もございませんよ。」

「…不機嫌そうだから。」

目を見開いて驚いて、それから首を振りました。

「何もございません。リリィ様は充分頑張っておられます。」

そう言われて、私はうつ向いて頭をすっと出しました。

察してくれてぽんぽんと優しく撫でられます。

「本当に?ヨルンガもサラ達も。私に甘いから心配。」

「…他の方と仲良くなるのが気になるだけです。」

私の青毛と性格が似てるのを思い出しました。

「だめ?いやだった?」

腕の隙間からちらっと見上げると、ぐっと息を詰めてため息を吐いてます。

呆れられたかなぁと悲しくなりました。

「いいえ、何もお気になさらず。…お心のままに過ごされてください。悲しそうにしないでください。いじめてる気分になります。」

「…うん。ヨルンガはいじめてない。」

頭の上の手が離れそうなのでつい、押さえてもう少しとねだりました。

「…うう、ん。」

咳払いが聞こえて、だめかなと思い、大人しく離れました。

「怒ってない?」

「…怒ってません。リリィ様に、怒るようなことは全くありません。」

何度も咳払いをして背中を向けてしまいました。

「…ごめん。」

「怒ってません。いいから下から見てこないでください。まっすぐ向いてください。」

「はーい。」

「言葉は伸ばしませんよ。」

ちらっと振りかえって叱られて、それも嬉しくてニコニコ笑うとまた咳払いをして目を反らされました。
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