伯爵令嬢、溺愛されるまで

うめまつ

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94、外堀※ロルフ

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温室での作業。

学者から提出された報告を眺めていたら、果実を齧りながら声をかけられる。

「良かったのか。婚約まで漕ぎ着かなくて。」

ナヴィ兄さんが頬杖をついて問いかけた。

「ええ、今は。」

ウォルリック卿の横やりを受けつつここまで来れた。

充分だ。

ランディック辺境伯夫妻はどちらでも構わないようだったが。

父親のサンマルク伯爵も思いの外、渋っていた。

王家を受け入れるには爵位が低いと。

確実に俺が婿入りだと考えている。

まだ公言してないだけで国へ貢献している俺は王家から爵位を貰える。

婿入りでも構わないが、最終的にリリィを貰うつもりだ。

サンマルク伯爵には弟夫婦がいるからそちらに継がせても問題ないので、嫁に行くかどうかの細かいことはどちらでも良いはず。

あの呑気な男が渋るのは何か密約が出来ているのかもしれないと思い至る。

そちらの思惑を確認せねばならない。

「いいのかよ。お前は気が長い。何か考えがあるのか?」

「はい。多少は気になることもあるので。」

「ふぅん。俺には分からん。」

でしょうね。

頭を使うのは嫌いだから。

いつものこのこと令嬢の策にはまるから俺のお供がいる。

あいつらは家族ぐるみで羽目に嵌めに来るからな。

なんでも信じるのは止めてほしい。

「大丈夫ですよ。あとはリリィ次第だから。」

「お前、その自信はどこから来るわけ?」

こめかみをとんとんと指でつついて見せた。

「はああ?おまえ、はあ。」

「奥手のリリィは俺にほだされてますから。生真面目だし。あれもこれもって気質じゃありません。」

「顔だろ?」

「初めて母似でよかったと思いました。背が低いのも。」

不思議そうな顔をして見つめてくる。

「釣り合いが取れるでしょう?」

「ああ、二人並ぶと人形みたいだ。可愛い。」

「他に似合う人います?」

「…いないなぁ。」

「顔のおかげで好まれてるし、使えるものはなんでも使わないと。」

手早く報告への返答を書き綴る。

「ナヴィ兄さん、そっちの実はまだ固いですよ。隣の小ぶりの方が熟してます。」

一番大きな実を手に取る兄さんに横目で確認して声をかけた。

「お、そうか。…お前、喋りながら書きながらこっちの行動を見てたのか?」

「はい。」

「はああ。アダム兄さんにそっくりだ。」

「光栄ですね。俺の目標だから。」

次々に書いていく。

これくらいアダム兄さんは軽くこなす。

体がなかなか育たないんだ。

賢くならないと取り柄がない。

アダム兄さんに言わせると同じ年の頃のアダム兄さんより賢いらしいが、それでも安心できない。

賢いものはたくさんいる。

学者達と話せばとても分かった。

一度読んだ本を一言一句間違えずにそらんじる化け者共だ。

その反面、生活力のなさには驚かされる。

出世より研究にはまる彼らのサポートすればかなりの国への貢献となる。

上手いこと付き合って彼らの能力を引き出している。

リリィが俺を貢献していると言ったが、人の扱いが上手いだけだ。

「どう動くんだ?」

「気になりますか?」

「そりゃあなあ。女嫌いのお前が初めて気に入ったから。」

別に女嫌いじゃない。

小柄な体をバカにされて相手にされなかっただけだ。

かと思うと年の離れた色っぽい女性がちょっかいかけてくる。

むせかえるようなのも好みじゃないだけ。

舐めてるのが分かるからご遠慮願う。

「覗きするくらいに皆、気にかけてますからね。」

以前のことをつつく。

「う、気になったから。」

「でも、普通に仲良くするだけです。焦ると逃げられるから。寄ってくるまで粘ります。」

オリガ達と一緒だ。

慣れるまでは警戒される。

荒っぽいのはだめだ。

第二王子の件で男嫌いだ。

少しでも圧があると怯む。

「へえ。色々考えるんだなぁ。」

「そりゃそうですよ。失敗したくありません。」

引き出しから便箋を取り出して、リリィへと綴る。

少し手が止まる。

リリィは今はランディック辺境伯夫妻の屋敷にいる。

俺の止まった手をナヴィ兄さんが覗きに来る。

「何かと思ったら。お前でも悩むのか。」

「はい。失敗したくありませんから。」

「そうか。」

ニヤニヤするのをちらっと睨む。

このままナヴィ兄さんのことを書く。

「あ、こら。何で俺のことを書いてるんだ。普通に好きとか会いたいとかだろう!」

「当たり障りない会話を好むので。言ったでしょう、押しが強いと怖がるって。」

すでに1度怖がらせた。

2度めはだめだ。

1枚の半分に押さえて封筒に入れる。

「たったそんだけか?」

「はい。たまに社交界で会いますし、緑の館にも遊びに来ます。たくさん書くと返事が大変でしょう?」

「なるほど。女への気遣いがすごい。」

「はあ?友人に対しても同じでしょう?」

呆れてしまった。

「う、そうか?」

しょぼくれた様子に言い過ぎたと反省をする。

「でも、ナヴィ兄さんの自由な所は好きですよ。気楽に付き合えるから。」

「誉められた気がしないんだが。」

「誉めてますよ。ひとそれぞれ良さがあると。兄さんには兄さんの良さがあるんです。優しい所とか。」

「ならいいや。」

落ち込んだ肩がもとに戻る。

「でも、悠長すぎないか?あいつも側にいるのに。」

「あいつ?誰?」

「ほら、あの噛み癖のある侍従。」

「は?使用人ですよ?」

何が関係あるのか分からなかった。

「うーん。ちがうかな?」

「何かありました?」

「以前、跡継ぎの話が出たんだ。サンマルク伯爵と。」

「はあ。それで?」

「支度は進めてるって言ってたんだ。」

眉がぴくりと動く。

口元を引き結んだ。

「ナヴィ兄さん、その話、詳しく…」

「いや、俺もそんなに詳しくないぞ。去年、ちらっと聞いただけだ。本当にそれしか知らん!」

ナヴィ兄さんは俺のこの顔が苦手だ。

母上に睨まれた気分になるから。

「だから、てっきりどこか縁続きが決まってるのかと、娘に男を寄らせるのは嫌いな男だったから。今年、リリィの側にあの見目のいいのを置いてるからあれかと思ったんだ。父親は子爵位だし。年も近いし身分としたらおかしくないだろう?」

「…へぇ。そうなんですね。」

そう思えばあれだけ第二王子を痛め付けたのは分かる。

リリィの信頼も高い。

兄さん達が抱えるより侍従の方が顔がほころぶ。

「…詳しいじゃないですか、どこで話を拾ったんですか?」

下から睨むと両手をあげてひきつる。

「いや、あいつ、正直者だから話しやすくて。仕事の時とかよく話すんだ。…はは、はは。」

「腹芸が下手だと父上が言ってましたね。」

「そう、だから気安くてな。…はは。俺、もう行くわ。邪魔して悪かったな。じゃあな。」

「まあ、待ってください。まだ用事が済んでませんから。」

「え、なに?なんで?」

「ウォルリック卿の仕事の引き継ぎ、残ってましたでしょう?今から書斎に伺います。ばんばんやりますよ。」

「わ。わかった。」

「悠長にしていられないようなのでとっとと外堀を埋めます。ナヴィ兄さんのあとはヘラ兄さんに。」

引きずって連れていった。

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