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本編:ミアとアレス
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「こんばんは、メイナード団長。今日はお休みなんですね」
すぽっと被るだけの楽なシャツにだぼっとしたズボン。
髪の毛も緩く結んで肩に垂らしてます。
「今はアレスでいいのかな」
「ええ、そう呼んでください」
挑戦的な物言いと嫌味に内心イラッとしつつ、笑みを返して答えました。
カウンターの端に腰かけて手招きをしています。
「アレス、エールを頼む」
名指して呼ばれたので大人しく酒の支度をします。
異人の集団はお父さんに任せました。
「よく来られるんですか?」
「ああ、最近はな」
「それはご贔屓に、どうもありがとうございます」
テオ兄さんと目が合うと心配そうに見ていたので代われと念を送りますが、外から知り合いが来てそっちに盗られてしまいました。
残念。
「どうぞ」
エールを目の前に置くと頬杖をついて私を指さしています。
「君も飲むか?奢る」
「酒以外なら飲みます。それでよければ」
「好きなのを飲め」
酔いざましに置いている柑橘の果実水をグラスに入れてカウンターに置きました。
「乾杯」
「ご馳走になります」
ご、ご、と勢いよく飲んで美味しそうに顔を歪めて、それを見ながら私は一口だけ飲みました。
すぐに飲み干しておかわりを頼むので、またエールを注いで目の前に置きます。
「ひと月ぶりだな」
「たちましたね」
「改めて食事を誘いたいんだが」
にっと笑って楽しそうに。
でも少しの剣呑さを漂わせて断るなら許さないといった空気を漂わせてます。
そのくらいで怯む私ではありません。
「お休みが不定期ですからお約束出来かねます。お気持ちだけありがたくちょうだいします」
「残念だ」
余裕な態度に見せても声に本音が乗っていますよ。
いら立って不機嫌。
「申し訳ありません。やることがあるので」
私はカウンターの中で団長からはす向かいのボードに背中を預けて耳は異人の会話に集中させていました。
察して静かにしてくれました。
私が何か探っているということは理解したようです。
父を交えて会話が弾み、先程の話題に戻りそうにはありません。
一旦諦めて団長に向き直りました。
「何か摘まみを出しましょうか」
「何かお勧めはあるか?」
「異国の燻製をいくつか揃えました。食べてみますか?」
「ああ、それでよろしく」
食べ比べ出来るように数種類を皿に盛り付けて、少ないけどチーズも乗せました。
「今日はノース兄さんが珍しいチーズを見つけたと言っていました。味見にどうぞ」
「どこの?」
「さあ?詳しく聞いてませんので」
「ふ、そうか」
一口食べてしばらくモゴモゴすると、おそらくあそこのだろうと言い当ててきました。
他のも同じことを言うので答え合わせをしようとノース兄さんにチーズの産地を尋ねます。
「3つ?白っぽいのがガロン地区の牧場のだよ。少し黄色くて硬いのがネクター産の新しく出来たチーズ。青と緑の模様があるのが隣国の伝統の奴」
「へぇ、メイナード団長正解です」
「ネクター産のチーズは最近ですよ。もうご存知だったんですか?」
「ああ、チーズは好きだ。アレス、おかわりをくれ」
新しく切っていると異人の御仁が同じものをくれと頼んできました。
「初めて見るチーズだ。気になる」
ノース兄さんに聞いた説明をそのまま話します。
目の前に置いてあげるとすぐに手がわらわら伸びて旨い旨いと頬張りました。
異人達の背後からテオ兄さんが手招きしていたので顔を向けると、カウンターから出てこいと手振りで呼び寄せてます。
「何?」
「お前に客」
「私に?」
誰ですか。
ぽっと手伝いに来ただけですけど。
10歳から屋敷勤めの私はこの辺りに友人はいません。
テオ兄さんも微妙な顔つきです。
「誰?」
「すぐそこにいる。なんかもうお前、めんどくさい。いいから行くぞ」
「はあ?」
「こっち」
すぽっと被るだけの楽なシャツにだぼっとしたズボン。
髪の毛も緩く結んで肩に垂らしてます。
「今はアレスでいいのかな」
「ええ、そう呼んでください」
挑戦的な物言いと嫌味に内心イラッとしつつ、笑みを返して答えました。
カウンターの端に腰かけて手招きをしています。
「アレス、エールを頼む」
名指して呼ばれたので大人しく酒の支度をします。
異人の集団はお父さんに任せました。
「よく来られるんですか?」
「ああ、最近はな」
「それはご贔屓に、どうもありがとうございます」
テオ兄さんと目が合うと心配そうに見ていたので代われと念を送りますが、外から知り合いが来てそっちに盗られてしまいました。
残念。
「どうぞ」
エールを目の前に置くと頬杖をついて私を指さしています。
「君も飲むか?奢る」
「酒以外なら飲みます。それでよければ」
「好きなのを飲め」
酔いざましに置いている柑橘の果実水をグラスに入れてカウンターに置きました。
「乾杯」
「ご馳走になります」
ご、ご、と勢いよく飲んで美味しそうに顔を歪めて、それを見ながら私は一口だけ飲みました。
すぐに飲み干しておかわりを頼むので、またエールを注いで目の前に置きます。
「ひと月ぶりだな」
「たちましたね」
「改めて食事を誘いたいんだが」
にっと笑って楽しそうに。
でも少しの剣呑さを漂わせて断るなら許さないといった空気を漂わせてます。
そのくらいで怯む私ではありません。
「お休みが不定期ですからお約束出来かねます。お気持ちだけありがたくちょうだいします」
「残念だ」
余裕な態度に見せても声に本音が乗っていますよ。
いら立って不機嫌。
「申し訳ありません。やることがあるので」
私はカウンターの中で団長からはす向かいのボードに背中を預けて耳は異人の会話に集中させていました。
察して静かにしてくれました。
私が何か探っているということは理解したようです。
父を交えて会話が弾み、先程の話題に戻りそうにはありません。
一旦諦めて団長に向き直りました。
「何か摘まみを出しましょうか」
「何かお勧めはあるか?」
「異国の燻製をいくつか揃えました。食べてみますか?」
「ああ、それでよろしく」
食べ比べ出来るように数種類を皿に盛り付けて、少ないけどチーズも乗せました。
「今日はノース兄さんが珍しいチーズを見つけたと言っていました。味見にどうぞ」
「どこの?」
「さあ?詳しく聞いてませんので」
「ふ、そうか」
一口食べてしばらくモゴモゴすると、おそらくあそこのだろうと言い当ててきました。
他のも同じことを言うので答え合わせをしようとノース兄さんにチーズの産地を尋ねます。
「3つ?白っぽいのがガロン地区の牧場のだよ。少し黄色くて硬いのがネクター産の新しく出来たチーズ。青と緑の模様があるのが隣国の伝統の奴」
「へぇ、メイナード団長正解です」
「ネクター産のチーズは最近ですよ。もうご存知だったんですか?」
「ああ、チーズは好きだ。アレス、おかわりをくれ」
新しく切っていると異人の御仁が同じものをくれと頼んできました。
「初めて見るチーズだ。気になる」
ノース兄さんに聞いた説明をそのまま話します。
目の前に置いてあげるとすぐに手がわらわら伸びて旨い旨いと頬張りました。
異人達の背後からテオ兄さんが手招きしていたので顔を向けると、カウンターから出てこいと手振りで呼び寄せてます。
「何?」
「お前に客」
「私に?」
誰ですか。
ぽっと手伝いに来ただけですけど。
10歳から屋敷勤めの私はこの辺りに友人はいません。
テオ兄さんも微妙な顔つきです。
「誰?」
「すぐそこにいる。なんかもうお前、めんどくさい。いいから行くぞ」
「はあ?」
「こっち」
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