婚約破棄された公爵令嬢と変身の魔女

うめまつ

文字の大きさ
21 / 45
本編:ミアとアレス

15

しおりを挟む
「こんばんは、メイナード団長。今日はお休みなんですね」

すぽっと被るだけの楽なシャツにだぼっとしたズボン。

髪の毛も緩く結んで肩に垂らしてます。

「今はアレスでいいのかな」

「ええ、そう呼んでください」

挑戦的な物言いと嫌味に内心イラッとしつつ、笑みを返して答えました。

カウンターの端に腰かけて手招きをしています。

「アレス、エールを頼む」

名指して呼ばれたので大人しく酒の支度をします。

異人の集団はお父さんに任せました。

「よく来られるんですか?」

「ああ、最近はな」

「それはご贔屓に、どうもありがとうございます」

テオ兄さんと目が合うと心配そうに見ていたので代われと念を送りますが、外から知り合いが来てそっちに盗られてしまいました。

残念。

「どうぞ」

エールを目の前に置くと頬杖をついて私を指さしています。

「君も飲むか?奢る」

「酒以外なら飲みます。それでよければ」

「好きなのを飲め」

酔いざましに置いている柑橘の果実水をグラスに入れてカウンターに置きました。

「乾杯」

「ご馳走になります」

ご、ご、と勢いよく飲んで美味しそうに顔を歪めて、それを見ながら私は一口だけ飲みました。

すぐに飲み干しておかわりを頼むので、またエールを注いで目の前に置きます。

「ひと月ぶりだな」

「たちましたね」

「改めて食事を誘いたいんだが」

にっと笑って楽しそうに。

でも少しの剣呑さを漂わせて断るなら許さないといった空気を漂わせてます。

そのくらいで怯む私ではありません。

「お休みが不定期ですからお約束出来かねます。お気持ちだけありがたくちょうだいします」

「残念だ」

余裕な態度に見せても声に本音が乗っていますよ。

いら立って不機嫌。

「申し訳ありません。やることがあるので」

私はカウンターの中で団長からはす向かいのボードに背中を預けて耳は異人の会話に集中させていました。

察して静かにしてくれました。

私が何か探っているということは理解したようです。

父を交えて会話が弾み、先程の話題に戻りそうにはありません。

一旦諦めて団長に向き直りました。

「何か摘まみを出しましょうか」

「何かお勧めはあるか?」

「異国の燻製をいくつか揃えました。食べてみますか?」

「ああ、それでよろしく」

食べ比べ出来るように数種類を皿に盛り付けて、少ないけどチーズも乗せました。

「今日はノース兄さんが珍しいチーズを見つけたと言っていました。味見にどうぞ」

「どこの?」

「さあ?詳しく聞いてませんので」

「ふ、そうか」

一口食べてしばらくモゴモゴすると、おそらくあそこのだろうと言い当ててきました。

他のも同じことを言うので答え合わせをしようとノース兄さんにチーズの産地を尋ねます。

「3つ?白っぽいのがガロン地区の牧場のだよ。少し黄色くて硬いのがネクター産の新しく出来たチーズ。青と緑の模様があるのが隣国の伝統の奴」

「へぇ、メイナード団長正解です」 

「ネクター産のチーズは最近ですよ。もうご存知だったんですか?」

「ああ、チーズは好きだ。アレス、おかわりをくれ」

新しく切っていると異人の御仁が同じものをくれと頼んできました。

「初めて見るチーズだ。気になる」

ノース兄さんに聞いた説明をそのまま話します。

目の前に置いてあげるとすぐに手がわらわら伸びて旨い旨いと頬張りました。

異人達の背後からテオ兄さんが手招きしていたので顔を向けると、カウンターから出てこいと手振りで呼び寄せてます。

「何?」

「お前に客」

「私に?」

誰ですか。

ぽっと手伝いに来ただけですけど。

10歳から屋敷勤めの私はこの辺りに友人はいません。

テオ兄さんも微妙な顔つきです。

「誰?」

「すぐそこにいる。なんかもうお前、めんどくさい。いいから行くぞ」

「はあ?」

「こっち」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逃げたい悪役令嬢と、逃がさない王子

ねむたん
恋愛
セレスティーナ・エヴァンジェリンは今日も王宮の廊下を静かに歩きながら、ちらりと視線を横に流した。白いドレスを揺らし、愛らしく微笑むアリシア・ローゼンベルクの姿を目にするたび、彼女の胸はわずかに弾む。 (その調子よ、アリシア。もっと頑張って! あなたがしっかり王子を誘惑してくれれば、私は自由になれるのだから!) 期待に満ちた瞳で、影からこっそり彼女の奮闘を見守る。今日こそレオナルトがアリシアの魅力に落ちるかもしれない——いや、落ちてほしい。

『婚約破棄された聖女リリアナの庭には、ちょっと変わった来訪者しか来ません。』

夢窓(ゆめまど)
恋愛
王都から少し離れた小高い丘の上。 そこには、聖女リリアナの庭と呼ばれる不思議な場所がある。 ──けれど、誰もがたどり着けるわけではない。 恋するルミナ五歳、夢みるルーナ三歳。 ふたりはリリアナの庭で、今日もやさしい魔法を育てています。 この庭に来られるのは、心がちょっぴりさびしい人だけ。 まほうに傷ついた王子さま、眠ることでしか気持ちを伝えられない子、 そして──ほんとうは泣きたかった小さな精霊たち。 お姉ちゃんのルミナは、花を咲かせる明るい音楽のまほうつかい。 ちょっとだけ背伸びして、だいすきな人に恋をしています。 妹のルーナは、ねむねむ魔法で、夢の中を旅するやさしい子。 ときどき、だれかの心のなかで、静かに花を咲かせます。 ふたりのまほうは、まだ小さくて、でもあたたかい。 「だいすきって気持ちは、  きっと一番すてきなまほうなの──!」 風がふくたびに、花がひらき、恋がそっと実る。 これは、リリアナの庭で育つ、 小さなまほうつかいたちの恋と夢の物語です。

聖女の力は使いたくありません!

三谷朱花
恋愛
目の前に並ぶ、婚約者と、気弱そうに隣に立つ義理の姉の姿に、私はめまいを覚えた。 ここは、私がヒロインの舞台じゃなかったの? 昨日までは、これまでの人生を逆転させて、ヒロインになりあがった自分を自分で褒めていたのに! どうしてこうなったのか、誰か教えて! ※アルファポリスのみの公開です。

悪役令嬢に転生したので地味令嬢に変装したら、婚約者が離れてくれないのですが。

槙村まき
恋愛
 スマホ向け乙女ゲーム『時戻りの少女~ささやかな日々をあなたと共に~』の悪役令嬢、リシェリア・オゼリエに転生した主人公は、処刑される未来を変えるために地味に地味で地味な令嬢に変装して生きていくことを決意した。  それなのに学園に入学しても婚約者である王太子ルーカスは付きまとってくるし、ゲームのヒロインからはなぜか「私の代わりにヒロインになって!」とお願いされるし……。  挙句の果てには、ある日隠れていた図書室で、ルーカスに唇を奪われてしまう。  そんな感じで悪役令嬢がヤンデレ気味な王子から逃げようとしながらも、ヒロインと共に攻略対象者たちを助ける? 話になるはず……! 第二章以降は、11時と23時に更新予定です。 他サイトにも掲載しています。 よろしくお願いします。 25.4.25 HOTランキング(女性向け)四位、ありがとうございます!

王太子妃専属侍女の結婚事情

蒼あかり
恋愛
伯爵家の令嬢シンシアは、ラドフォード王国 王太子妃の専属侍女だ。 未だ婚約者のいない彼女のために、王太子と王太子妃の命で見合いをすることに。 相手は王太子の側近セドリック。 ところが、幼い見た目とは裏腹に令嬢らしからぬはっきりとした物言いのキツイ性格のシンシアは、それが元でお見合いをこじらせてしまうことに。 そんな二人の行く末は......。 ☆恋愛色は薄めです。 ☆完結、予約投稿済み。 新年一作目は頑張ってハッピーエンドにしてみました。 ふたりの喧嘩のような言い合いを楽しんでいただければと思います。 そこまで激しくはないですが、そういうのが苦手な方はご遠慮ください。 よろしくお願いいたします。

裏切られた令嬢は、30歳も年上の伯爵さまに嫁ぎましたが、白い結婚ですわ。

夏生 羽都
恋愛
王太子の婚約者で公爵令嬢でもあったローゼリアは敵対派閥の策略によって生家が没落してしまい、婚約も破棄されてしまう。家は子爵にまで落とされてしまうが、それは名ばかりの爵位で、実際には平民と変わらない生活を強いられていた。 辛い生活の中で母親のナタリーは体調を崩してしまい、ナタリーの実家がある隣国のエルランドへ行き、一家で亡命をしようと考えるのだが、安全に国を出るには貴族の身分を捨てなければいけない。しかし、ローゼリアを王太子の側妃にしたい国王が爵位を返す事を許さなかった。 側妃にはなりたくないが、自分がいては家族が国を出る事が出来ないと思ったローゼリアは、家族を出国させる為に30歳も年上である伯爵の元へ後妻として一人で嫁ぐ事を自分の意思で決めるのだった。 ※作者独自の世界観によって創作された物語です。細かな設定やストーリー展開等が気になってしまうという方はブラウザバッグをお願い致します。

冷徹侯爵の契約妻ですが、ざまぁの準備はできています

鍛高譚
恋愛
政略結婚――それは逃れられぬ宿命。 伯爵令嬢ルシアーナは、冷徹と名高いクロウフォード侯爵ヴィクトルのもとへ“白い結婚”として嫁ぐことになる。 愛のない契約、形式だけの夫婦生活。 それで十分だと、彼女は思っていた。 しかし、侯爵家には裏社会〈黒狼〉との因縁という深い闇が潜んでいた。 襲撃、脅迫、謀略――次々と迫る危機の中で、 ルシアーナは自分がただの“飾り”で終わることを拒む。 「この結婚をわたしの“負け”で終わらせませんわ」 財務の才と冷静な洞察を武器に、彼女は黒狼との攻防に踏み込み、 やがて侯爵をも驚かせる一手を放つ。 契約から始まった関係は、いつしか互いの未来を揺るがすものへ――。 白い結婚の裏で繰り広げられる、 “ざまぁ”と逆転のラブストーリー、いま開幕。

【 完結 】「婚約破棄」されましたので、恥ずかしいから帰っても良いですか?

しずもり
恋愛
ミレーヌはガルド国のシルフィード公爵令嬢で、この国の第一王子アルフリートの婚約者だ。いや、もう元婚約者なのかも知れない。 王立学園の卒業パーティーが始まる寸前で『婚約破棄』を宣言されてしまったからだ。アルフリートの隣にはピンクの髪の美少女を寄り添わせて、宣言されたその言葉にミレーヌが悲しむ事は無かった。それよりも彼女の心を占めていた感情はー。 恥ずかしい。恥ずかしい。恥ずかしい!! ミレーヌは恥ずかしかった。今すぐにでも気を失いたかった。 この国で、学園で、知っていなければならない、知っている筈のアレを、第一王子たちはいつ気付くのか。 孤軍奮闘のミレーヌと愉快な王子とお馬鹿さんたちのちょっと変わった断罪劇です。 なんちゃって異世界のお話です。 時代考証など皆無の緩い設定で、殆どを現代風の口調、言葉で書いています。 HOT2位 &人気ランキング 3位になりました。(2/24) 数ある作品の中で興味を持って下さりありがとうございました。 *国の名前をオレーヌからガルドに変更しました。

処理中です...