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本編:ミアとアレス
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入り口にもテーブルと椅子を置いて店の酒を飲めるようにしています。
その奥で鎧を着た長身の方々の手を振っていました。
「アレス、久しぶりですね」
「ノーフォークさん。こんばんは、皆さんも」
先頭にノーフォークさん。
他には詰所で会った方々です。
「先日はお世話になりました」
お辞儀をすると頭上からそれぞれ話しかけてきます。
「久々。悪いな仕事中に。俺達も巡回中なんだけどさ、いるって聞いたから顔見ようってなったんだ」
「よお、元気か?テオ達の弟にしちゃぁ本当に行儀いいな。あはは、いい子いい子」
「あ、わ、ちょっと、」
「ちょ、うちのチビにやめてくださいっ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でてるのか掴んで振り回してるのか。
テオ兄さんが慌てて止めてくれてますが、よたよたと足元から転んでノーフォークさんに腕を掴んで支えられてしまいました。
「荒い、やめろ」
ぱしんと手をはたいて叱ってます。
「いて、すんません。ノーフォーク隊長」
「いえ、大丈夫です。逆に非力で申し訳ありません」
「あー、もしかして気にしてたか?ごめんな。でも、まだもう少しくらい伸びるよ。飯も食えばがたい良くなるし」
いえ、女だからこのくらいで構いません。
窪地が平原になるならありがたいですが。
苦笑いで首を横に振りました。
「お気遣いなく。生まれつきと思って気にしてませんから」
そう言うと眉を下げて頭をかいています。
「本当にテオやノースと似てねぇな。親父さんとも。テオ、本当にお前の弟?」
「こいつは母親似なんです」
「へぇー、まぁお袋さんに似てるっちゃあ似てるけど」
テオ兄さんとおしゃべりを始めていつまでもノーフォークさんに腕を捕まれたままと気づいてやんわり断りました。
「支えてくれてありがとうございました。もう大丈夫ですので」
「そうですね」
そう言ってじっと見つめる視線は外れません。
「湿布をありがとうございました。テオ兄さんに目薬も」
あのあと私の不在に湿布を届けてくれたそうです。
親切心より下心と判断しています。
申し訳ありませんが。
「見せてもらえますか?」
自分の腕を指でとんとんとつついて、私の怪我の跡を指します。
「はい」
どうせ腕捲りしてますし。
腕を上げて正面に見せましたが、勝手に手首を掴んでひっくり返されます。
「まだ打撲の色が黄色く残ってますね」
ぐっ、ぐっと親指で薄い痣を押さえています。
少しじわっとする痛みに顔を歪めますが、声を出すほどではありません。
「あとは自然治癒ですね」
「診察をありがとうございます」
そう答えて手を引くのに捕まれた手から抜け出せません。
むっとして顔を睨みますけど、満足そうににこっと笑うだけ。
「またお会いしたいのですが。ゆっくり話をしたい」
圧が強めですね。
捕獲された状態だと少し怖くなります。
「そうですね、機会があればいつか」
社交辞令にそう答えて手を引きますが、なかなか。
痛くはないけど逃げられないというのは居心地が悪い。
「テオ兄さん!そろそろ中に戻るよっ」
そう強めに言うとおしゃべりに夢中だったテオ兄さん達の視線がこちらへ集まり、ノーフォークさんに両手を捕まれて逃げ腰になる私に全員がぎょっとしています。
テオ兄さんは慌ててノーフォークさんの間に割り込んで引き剥がしてくれました。
「中戻ってろっ」
言われた通り、さっと店へと走りました。
背中から、うちのチビで遊ばないでくださいと厳しく釘を刺す声が聞こえます。
普段は温厚です。
久しぶりに刺々しい声音を聞きました。
「アレス、どうした?」
ノース兄さんがこっそり尋ねて来たので正直にノーフォークさんに絡まれたと答えました。
「……お前も年頃だしなぁ」
「疲れるからやめてよ」
「メイナード団長もカウンターに陣取ってるし。どっちがいい?団長と先生は」
「今は考えてないよ」
先にヒスティアスお嬢様です。
幸せを見届けてからでないと自分のことを考える気になりません。
「金回り的には団長かな。先生もいいけど」
「無理でしょ。嫡男じゃないけどどっちも貴族だし。ご令嬢の縁談があるよ。気に入ったからって、どうせ平民相手の遊びだよ」
「そうだな。カウンターはいい。ホールやれ」
「了解」
酒をテーブルに配りながら注文を取ってるとテオ兄さんがぷりぷり怒りながら戻ってきました。
「ったく」
「ごめん、テオ兄さん」
「ミアは悪くねぇよ」
注文の波が引いて暇になったので二人で壁にもたれてこそこそ会話です。
「お前、男の格好もやめた方がいいわ」
「なんで?」
「男色」
「……は?」
「兵団、マジで多いんだよ。お前くらいのが好かれるらしい。マジで根掘り葉掘りの奴らが多すぎ」
「……へぇ」
そんなに男に見えますか。
悲しいと言うか居たたまれないと言うか。
「適当なところでやめるよ」
「そうしろ」
その奥で鎧を着た長身の方々の手を振っていました。
「アレス、久しぶりですね」
「ノーフォークさん。こんばんは、皆さんも」
先頭にノーフォークさん。
他には詰所で会った方々です。
「先日はお世話になりました」
お辞儀をすると頭上からそれぞれ話しかけてきます。
「久々。悪いな仕事中に。俺達も巡回中なんだけどさ、いるって聞いたから顔見ようってなったんだ」
「よお、元気か?テオ達の弟にしちゃぁ本当に行儀いいな。あはは、いい子いい子」
「あ、わ、ちょっと、」
「ちょ、うちのチビにやめてくださいっ」
ぐしゃぐしゃと頭を撫でてるのか掴んで振り回してるのか。
テオ兄さんが慌てて止めてくれてますが、よたよたと足元から転んでノーフォークさんに腕を掴んで支えられてしまいました。
「荒い、やめろ」
ぱしんと手をはたいて叱ってます。
「いて、すんません。ノーフォーク隊長」
「いえ、大丈夫です。逆に非力で申し訳ありません」
「あー、もしかして気にしてたか?ごめんな。でも、まだもう少しくらい伸びるよ。飯も食えばがたい良くなるし」
いえ、女だからこのくらいで構いません。
窪地が平原になるならありがたいですが。
苦笑いで首を横に振りました。
「お気遣いなく。生まれつきと思って気にしてませんから」
そう言うと眉を下げて頭をかいています。
「本当にテオやノースと似てねぇな。親父さんとも。テオ、本当にお前の弟?」
「こいつは母親似なんです」
「へぇー、まぁお袋さんに似てるっちゃあ似てるけど」
テオ兄さんとおしゃべりを始めていつまでもノーフォークさんに腕を捕まれたままと気づいてやんわり断りました。
「支えてくれてありがとうございました。もう大丈夫ですので」
「そうですね」
そう言ってじっと見つめる視線は外れません。
「湿布をありがとうございました。テオ兄さんに目薬も」
あのあと私の不在に湿布を届けてくれたそうです。
親切心より下心と判断しています。
申し訳ありませんが。
「見せてもらえますか?」
自分の腕を指でとんとんとつついて、私の怪我の跡を指します。
「はい」
どうせ腕捲りしてますし。
腕を上げて正面に見せましたが、勝手に手首を掴んでひっくり返されます。
「まだ打撲の色が黄色く残ってますね」
ぐっ、ぐっと親指で薄い痣を押さえています。
少しじわっとする痛みに顔を歪めますが、声を出すほどではありません。
「あとは自然治癒ですね」
「診察をありがとうございます」
そう答えて手を引くのに捕まれた手から抜け出せません。
むっとして顔を睨みますけど、満足そうににこっと笑うだけ。
「またお会いしたいのですが。ゆっくり話をしたい」
圧が強めですね。
捕獲された状態だと少し怖くなります。
「そうですね、機会があればいつか」
社交辞令にそう答えて手を引きますが、なかなか。
痛くはないけど逃げられないというのは居心地が悪い。
「テオ兄さん!そろそろ中に戻るよっ」
そう強めに言うとおしゃべりに夢中だったテオ兄さん達の視線がこちらへ集まり、ノーフォークさんに両手を捕まれて逃げ腰になる私に全員がぎょっとしています。
テオ兄さんは慌ててノーフォークさんの間に割り込んで引き剥がしてくれました。
「中戻ってろっ」
言われた通り、さっと店へと走りました。
背中から、うちのチビで遊ばないでくださいと厳しく釘を刺す声が聞こえます。
普段は温厚です。
久しぶりに刺々しい声音を聞きました。
「アレス、どうした?」
ノース兄さんがこっそり尋ねて来たので正直にノーフォークさんに絡まれたと答えました。
「……お前も年頃だしなぁ」
「疲れるからやめてよ」
「メイナード団長もカウンターに陣取ってるし。どっちがいい?団長と先生は」
「今は考えてないよ」
先にヒスティアスお嬢様です。
幸せを見届けてからでないと自分のことを考える気になりません。
「金回り的には団長かな。先生もいいけど」
「無理でしょ。嫡男じゃないけどどっちも貴族だし。ご令嬢の縁談があるよ。気に入ったからって、どうせ平民相手の遊びだよ」
「そうだな。カウンターはいい。ホールやれ」
「了解」
酒をテーブルに配りながら注文を取ってるとテオ兄さんがぷりぷり怒りながら戻ってきました。
「ったく」
「ごめん、テオ兄さん」
「ミアは悪くねぇよ」
注文の波が引いて暇になったので二人で壁にもたれてこそこそ会話です。
「お前、男の格好もやめた方がいいわ」
「なんで?」
「男色」
「……は?」
「兵団、マジで多いんだよ。お前くらいのが好かれるらしい。マジで根掘り葉掘りの奴らが多すぎ」
「……へぇ」
そんなに男に見えますか。
悲しいと言うか居たたまれないと言うか。
「適当なところでやめるよ」
「そうしろ」
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