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40,肌の手入れ
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歯噛みしすぎて奥歯が痛い。
力の込めすぎで頭痛もする。
街中の視線も腹が立つ。
「……風呂、ないの?新しいところ」
「あるよ」
「ん?あるならなんで風呂の予約?」
「そろそろ手入れの時期だから。あんたもついでに予約した」
「手入れ?」
「分からない?」
「何?」
「まあ行けば分かるよ」
連れて行かれたのはかなりデカイ風呂屋。
街で一番でかいって。
カウンターでチイネェが予約の確認をしてる。
「チサキの名前で、ロブとエルドラを予約してたんだけど」
「チサキ様、お待ちしておりました。準備は整ってます」
案内された個室がでけぇし豪華。
借りた宿の4、5倍ある。
風呂というには桶やバスタブもないし、大浴場みたいなのもない。
デカイ天窓から光が差し込んで、贅沢にも昼間なのに蝋燭が灯されている。
大きくて装飾の派手な衝立や彫りの細かい木彫りの調度品、藤の寝台や椅子がバランスよく部屋に置かれていた。
部屋の中にはスラッとした上品な男女を中心に数人がお辞儀をして待っていた。
客商売らしく丁寧。
チイネェは顔見知りで付き合いが長いみたい。
「初めまして、エルドラです」
「僕はロブ。よろしく」
綺麗な女性と背の高い細身の男性。
一枚布のワンピースみたいなローブを着ていて、二人ともふわっとした優しげな笑みで声をかけてきた。
「エルドラ、彼を先に担当して」
「はい、支度が出来たらお声をかけます」
そう言うとエルドラさんと数人の女性達が俺の身なりに手をかけてきた。
びっくりして飛び退くとエルドラさん達は首をかしげた。
「お客様?」
「エルドラ、そいつ初めてだから教えてあげて。手入れも初耳」
うちの地元にはないと付け足した。
「そうでしたの」
見るとチイネェはロブさんと他の女性達の手伝いで鎧を脱いでるところだった。
「こちらは遠征などをされる冒険者の方々向けの湯屋になります。ご自身で洗うだけでは取れない肌のアカなどを擦り落とすのが専門です」
何となく聞いたことがあると思ってエルドラさんの説明をひとつひとつ聞いた。
裸で藤の寝台に寝転んで全身の垢擦りをしてもらうものらしい。
終われば好みで湯に使ったりサウナに入ったり。
香油のマッサージもある。
でもなんでロブさんが?男の人だけど?
チイネェ?
衝立は低くて立っているロブさん達の様子は見えるし、横を向けばチイネェの顔も見えた。
チラチラとロブさんと数人の女性に裸の体を擦ってもらう様子が目に入って顔が赤くなる。
裸なのに堂々としたチイネェは衝立の向こうでうつ伏せにくつろいで目をつぶっているのが隙間からみえた。
残った俺もエルドラさんに促されるまま脱いで藤の寝台に転がされた。
恥ずかしいから下半身には短い腰巻きを巻いてる。
寝転んだらエルドラさんがロブさんに声をかけて交代で俺の方へ来た。
目が合うと緊張してるのを理解してニコッと笑いかけてくる。
「緊張しなくてもいいよ?」
「……はい」
気さくに話しかけるけどこういうの初めてでビビってます。
少しとろみのある湯をかけて熱いタオルを背中に乗せて汗がじわりと出るほど体が暖まったら、ごしごしと擦られた。
肌からポロポロと大きな砂粒みたいな粉がたくさん出てくる。
これがアカだと教えられて、少し擦っただけでたくさん出るから自分はこんなに汚れてたのかと恥ずかしくなった。
「チサキ、この子の手入れはどうする?このまま自然体で残す?」
「剃毛もしてやって。今度、遠征があるから」
「すごいねぇ。この子も遠征に行くんだ」
ロブさんが答えて、チイネェはふらふらと手を揺らすとエルドラさんが台に並べたキセルを取ってタバコを摘めて渡した。
うつ伏せたまま少し上体を起こして他の女性が火をつけるのを待っていた。
「ていもう?何ですか?」
「知らない?遠征する冒険者は長旅で不衛生になりやすいから体毛を処理するんだよ。こんな感じ」
袖を巻くって産毛ひとつない陶器みたいなつるつるの腕を見せてくれた。
「ロブさんも冒険者ですか?兼業?」
「違うよ。この仕事だけ。僕が処理してるのは仕事柄だね」
へぇ、と答えて衝立かはみ出て見えるチイネェを振り返った。
ぽん、ぽんと煙の輪っかを作って遊んでる。
「チイネェ、俺も遠征するの?」
「依頼が来たから連れていく」
「いつ?」
「3週間後。期間は2週間。ギルド長の話だとその頃なら連れていけるって」
ふぅん、と返していたらロブさんが仰向けになってと声をかけてきた。
ひっくり返るけど恥ずかしくてノロノロ動いてしまう。
ロブさんの手が腰巻きに手をかけたから慌てて足を曲げて起きた。
「取るんですか?」
「そうだよ?裸にならないと出来ないよ?」
ここに垢擦りはしなくていいと言ったのに、下の毛も剃るからと言われてびっくりした。
皮膚病の予防だと言われたけど、うそだろ?
仕事とはいえ女性もいるのに。
「そんなに恥ずかしがるとこちらが恥ずかしくなります」
困り顔の女性陣に顔が真っ赤になった。
ロブさんが手を振ると皆のクスクスという笑いながら、楽しそうに目を細めて離れていく。
「一人だから時間かかるけどいいかな?」
ロブさんの優しい物言いに、すいませんと尻すぼみで答えた。
力の込めすぎで頭痛もする。
街中の視線も腹が立つ。
「……風呂、ないの?新しいところ」
「あるよ」
「ん?あるならなんで風呂の予約?」
「そろそろ手入れの時期だから。あんたもついでに予約した」
「手入れ?」
「分からない?」
「何?」
「まあ行けば分かるよ」
連れて行かれたのはかなりデカイ風呂屋。
街で一番でかいって。
カウンターでチイネェが予約の確認をしてる。
「チサキの名前で、ロブとエルドラを予約してたんだけど」
「チサキ様、お待ちしておりました。準備は整ってます」
案内された個室がでけぇし豪華。
借りた宿の4、5倍ある。
風呂というには桶やバスタブもないし、大浴場みたいなのもない。
デカイ天窓から光が差し込んで、贅沢にも昼間なのに蝋燭が灯されている。
大きくて装飾の派手な衝立や彫りの細かい木彫りの調度品、藤の寝台や椅子がバランスよく部屋に置かれていた。
部屋の中にはスラッとした上品な男女を中心に数人がお辞儀をして待っていた。
客商売らしく丁寧。
チイネェは顔見知りで付き合いが長いみたい。
「初めまして、エルドラです」
「僕はロブ。よろしく」
綺麗な女性と背の高い細身の男性。
一枚布のワンピースみたいなローブを着ていて、二人ともふわっとした優しげな笑みで声をかけてきた。
「エルドラ、彼を先に担当して」
「はい、支度が出来たらお声をかけます」
そう言うとエルドラさんと数人の女性達が俺の身なりに手をかけてきた。
びっくりして飛び退くとエルドラさん達は首をかしげた。
「お客様?」
「エルドラ、そいつ初めてだから教えてあげて。手入れも初耳」
うちの地元にはないと付け足した。
「そうでしたの」
見るとチイネェはロブさんと他の女性達の手伝いで鎧を脱いでるところだった。
「こちらは遠征などをされる冒険者の方々向けの湯屋になります。ご自身で洗うだけでは取れない肌のアカなどを擦り落とすのが専門です」
何となく聞いたことがあると思ってエルドラさんの説明をひとつひとつ聞いた。
裸で藤の寝台に寝転んで全身の垢擦りをしてもらうものらしい。
終われば好みで湯に使ったりサウナに入ったり。
香油のマッサージもある。
でもなんでロブさんが?男の人だけど?
チイネェ?
衝立は低くて立っているロブさん達の様子は見えるし、横を向けばチイネェの顔も見えた。
チラチラとロブさんと数人の女性に裸の体を擦ってもらう様子が目に入って顔が赤くなる。
裸なのに堂々としたチイネェは衝立の向こうでうつ伏せにくつろいで目をつぶっているのが隙間からみえた。
残った俺もエルドラさんに促されるまま脱いで藤の寝台に転がされた。
恥ずかしいから下半身には短い腰巻きを巻いてる。
寝転んだらエルドラさんがロブさんに声をかけて交代で俺の方へ来た。
目が合うと緊張してるのを理解してニコッと笑いかけてくる。
「緊張しなくてもいいよ?」
「……はい」
気さくに話しかけるけどこういうの初めてでビビってます。
少しとろみのある湯をかけて熱いタオルを背中に乗せて汗がじわりと出るほど体が暖まったら、ごしごしと擦られた。
肌からポロポロと大きな砂粒みたいな粉がたくさん出てくる。
これがアカだと教えられて、少し擦っただけでたくさん出るから自分はこんなに汚れてたのかと恥ずかしくなった。
「チサキ、この子の手入れはどうする?このまま自然体で残す?」
「剃毛もしてやって。今度、遠征があるから」
「すごいねぇ。この子も遠征に行くんだ」
ロブさんが答えて、チイネェはふらふらと手を揺らすとエルドラさんが台に並べたキセルを取ってタバコを摘めて渡した。
うつ伏せたまま少し上体を起こして他の女性が火をつけるのを待っていた。
「ていもう?何ですか?」
「知らない?遠征する冒険者は長旅で不衛生になりやすいから体毛を処理するんだよ。こんな感じ」
袖を巻くって産毛ひとつない陶器みたいなつるつるの腕を見せてくれた。
「ロブさんも冒険者ですか?兼業?」
「違うよ。この仕事だけ。僕が処理してるのは仕事柄だね」
へぇ、と答えて衝立かはみ出て見えるチイネェを振り返った。
ぽん、ぽんと煙の輪っかを作って遊んでる。
「チイネェ、俺も遠征するの?」
「依頼が来たから連れていく」
「いつ?」
「3週間後。期間は2週間。ギルド長の話だとその頃なら連れていけるって」
ふぅん、と返していたらロブさんが仰向けになってと声をかけてきた。
ひっくり返るけど恥ずかしくてノロノロ動いてしまう。
ロブさんの手が腰巻きに手をかけたから慌てて足を曲げて起きた。
「取るんですか?」
「そうだよ?裸にならないと出来ないよ?」
ここに垢擦りはしなくていいと言ったのに、下の毛も剃るからと言われてびっくりした。
皮膚病の予防だと言われたけど、うそだろ?
仕事とはいえ女性もいるのに。
「そんなに恥ずかしがるとこちらが恥ずかしくなります」
困り顔の女性陣に顔が真っ赤になった。
ロブさんが手を振ると皆のクスクスという笑いながら、楽しそうに目を細めて離れていく。
「一人だから時間かかるけどいいかな?」
ロブさんの優しい物言いに、すいませんと尻すぼみで答えた。
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