鬼人の姉と弓使いの俺

うめまつ

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68,つんけんした奴

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人が少ないってんでブルクスが深い湯船で泳いでる。

俺も入ったけど足がつかなかった。

側の階段で座って湯船に浸かって過ごす。

「ラオ、ここのサウナ行ってみない?異国式で面白いよ」

「へー、でもサウナ自体が初めてです」

地元になかったんで。

「そうなの?」

じゃあ、行こうとマミヤと二人で立ち上がる。

ブルクスは泳ぎたいらしい。

「デカイひと部屋丸々のサウナとテント式。どっちにしよう」

「両方とも入りたいんですけど」

大きい方が近いってんでそっちから。

「あつ、」

入るとむわーっと熱気と霧?

ミストがすごくて中はよく見えない。

「汗でる」

「適当に温もったら水風呂で冷やすんだよ」

「マジで?こんな寒いのに?」

「マジ」

めっちゃ気持ちいいらしい。

「マミヤじゃん」

適当に並んで座ると声をかけられた。 

俺達の上段に座ってた奴。

誰かは見えない。

「ホッパー、来てたのか」

「悪いかよ。バカにしてんの?」

「そうじゃないよ。すぐ絡むのやめろよ」

「絡んでねぇよ。てめぇが嫌な感じだからだよ」

「はぁ?俺のどこが?ホッパーが突っかかるからだろ」

「自意識過剰じゃね?こっちはお前が嫌そうにするから言い返したんだ」

「そうかよ」

嫌そうなマミヤの声。

相手の顔を見たら昨日、挨拶した教え子の1人。

細眉、つり目の赤毛。

得物は剣。

めっちゃ気が強くてすぐ睨む。

俺にだけ。

そう思ってたけど二人の会話で、マミヤにもそんな感じなんだと分かった。

目が合ったんで軽く会釈した。

「昨日はどうも」

「誰かと思ったら昨日の奴か。そいつとつるんでんの?なんで朝からふたりで?あの短髪の単細胞は?」

「ホッパー、絡むな」

「挨拶じゃん。これからうちも世話になるし。お前らの専属じゃねぇだろ。それともてめぇのもんのつもりかよ?」

「そうじゃないけど、その喧嘩腰はやめてくれよ」

「はん、気のせいじゃね?だりぃ返ししてくんな。会話になんねー奴。あったま悪ぃ」

「……あ"あ"?」

「んだよ?賢いつもりか?ボンボン育ちのお坊ちゃん」

すっげー絡み方する奴だな。

それなりに穏やかなマミヤがキレてきた。

「育ちは関係ないだろ」

「あるよ?てめぇの実家にはうちはお世話になりましたわー。エグい商売してたもんねぇ?」

「……うるせぇ、くそが」

「誉めてんのよ?えげつなさがスゴいねって。そのくせ長男のあんたはボケッとしたおとぼけ君。本当にあの家系の人間?そんな抜け作で海千山千の冒険者家業なんて出来んの?リーダーとかウケる。頼りなさそう。仲間死なせるんじゃね?気を付けろよ?」

「……忠告、どうも。……ありがたく受けとるよ」

「親切で言ってると思ってんの?笑えるわー。紳士面、辞めたら?こっちはバカにしてんのに大人ぶって偉そうにしてんね」

「……はは、てめぇの喧嘩買う気になんねえんだよ」

「喧嘩にならねぇよ。俺の方が強いし。そうだろ?敵わねぇもんな。俺の方が年下なのにねぇ」

マミヤの悔しそうな顔にこいつが上手かと察した。

「ホッパーさん、その内そちらのパーティーに参加するのでよろしくお願いします」

話を変えるつもりで声をかけた。

「ん?あー、よろしく。ハーレム君」

「ハーレム君」

俺にまで絡むか。

「グラナラさん狙いですか?それともオルカさん?」

「あ?短絡的。バカじゃね?」

あっさりした態度に本気でそういうことじゃないのは分かった。

「単純に妬み?」

「そう見える?」

「そうですよ。その態度なら」

「へー、おもろ」

突っかかっての会話しか出来ないタイプか。

めんどくさい奴だな。

「あんたはいいね、鬼人に守られて。楽だったろ」

小馬鹿にした物言いだけど気にするほどじゃない。

「そうですね。高みの見物だったのは認めます」

「ふーん」

霧に隠れてるけど、にやっと笑う気配。

「なんでマミヤとつるんでんの?」

「縁ですね。それにマミヤ達は付き合いやすいですし」

「半端もんなのにか?あいつら、頭も悪いし大して強くもない」

「弓しかない俺と比べたら体格もあるし、剣技もあります」

「俺の方が強いよ。こいつらとの組み合い、全戦全勝。マジ弱い。突っ込むだけの馬鹿」

何の対抗意識か、マミヤを貶して強さをアピールしてきた。

「どんなものなのかいずれですね。今度、見させてもらいます。でもホッパーさんが強いって言っても鬼人ほどじゃないでしょう?新人として強いレベルですよね。掲示板の話題にならないレベル」

「言うねぇ。ムカつく」

不機嫌な声音だけど弾んで嬉しそうだ。

「ええ、はっきりした会話が楽なんだと思いましたけど違いましたか?」

「楽。お前、分かってんじゃん」

「ホッパーさんは屈折してて分かりやすい。でも俺はあなたのペースに合わせるのは面倒です。もう少し人の気持ちを考慮して会話をしてくれませんか。生意気な新入りは弾かれますよ。今後続けるなら横の繋がりも大事でしょうに」

二人とも言い返した俺に驚いてる。

「ハッ、あはは!甘ちゃんと思ったけど辛口だな!はは!」

「自分に合わせようと押し付けて、俺に甘えてるのはホッパーさんですよ」

「はは、分かった。俺、下手くそなんだよね」

「自覚あるんですね」

「あるよ?だって友達いねぇもん」

「よくパーティー組めましたね」

「強いから」

「それだけの繋がりですか?」

仲が悪そうだったのを思い出した。

「そうよ。他に相手がいれば解散するつもりだろ。ソロになろうかな」

「もっと厳しいですよ。その喧嘩腰じゃあ」

チィネェやドリアドスさんくらいの実力ならまだしも。

それにチィネェは無口で無愛想なだけで、こんな喧嘩腰じゃない。

「分かってんだけどねぇ。媚びんの嫌い。でもちょっと無愛想なくらい、いいじゃん?仕事できりゃあ」

「無愛想?ホッパーさんのは無愛想とかを通り越してただのマウンティングです。本当に失礼でひどすぎる」

「マジ?」

「客観性もないんですか」

「……えー?……あるよ?」

「人間関係の洞察力はなさそうですね」

「……ないなぁ。……確かに」

しょぼっと肩を落とした。

「……お前ってそういう奴なのか?」

「あ?何よ、ボンボンのお坊ちゃん。てめぇとはしゃべってねぇ。入ってくんな。黙って置物やってろよ」

「あ"あ"?てめぇ、またそういうことを」

「あ、マミヤが人に好かれやすいからか。ホッパーさんの妬みの原因」

「は?」

「はぁっ!違う!なんで俺がこんな弱い奴を妬むんだよっ」

図星。

マミヤはグラナラさんとブルクスに慕われてる。

親父やドリアドスさんにも気に入られてるし、最初嫌ってたチィネェも会話を重ねて名前を覚える程度に気に入った。

明るくて真面目な性格は好かれやすい。

ホッパーさんの扱いのコツを掴んだのかポンポン言い返してふたりで口喧嘩してる。

「俺より弱いくせに!」

「俺より依頼が少ないくせに!その生意気な口と性格の悪さのせいだろ?!」

「うぐっ!う、うるせえ!」

「ちょっと強いからって偉そうなんだよ!回りから弾かれて困るのはお前だろ?!」

鬱憤を晴らすようにガンガン言い返して、さっきの会話よりマミヤは楽しそうだ。

てか、暑い。

逆上せそう。

もう出たいと言うけど二人とも聞いてねぇ。

「俺、先に水風呂行きます」

聞いてないけど一言断った。

「あつぅ」

水風呂どこよ。

見た目だけじゃどれか冷たい風呂か分からねぇ。

うろついたけど少しふらついたから側のベンチに寝転んだ。

冷たい外気だけでも充分気持ちいい。

目をつぶってごろんと寝転んで涼む。

しばらくして、少しの肌寒さに震えたからそろそろ温もりに行こうと思ったのに、腹にどすんと誰かに乗られた。

「小尻ちゃん見ーっけ」

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