君は君じゃないけれど

桜月 翠恋

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第2夜

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私と兄…遊夜は5つ歳の離れた兄妹だった

とても仲良く…幼い頃から色んなことで競い合っていた

そんな兄に恋をするまでそんなに時間はかからなかった

幼い頃の女の子なんて単純なもので…
ましてや一番近い異性で、そしてかっこいい理想の兄…

私は恋をしていることを忘れようとしていた


ある日、兄が修学旅行に行ってしまった日の晩…

私は父に言われた



「遊夜はお前のじゃないんだ」


その言葉で私は心が揺れた
兄に恋をしても許されるんだ


そう思っていた
けれど言えずに数年たち、兄が大学生になった頃
兄が家に女性を連れてきた


「俺の彼女なんだ」


その言葉で私の恋は終わったのだ

そしてそれから……それから?
何があったんだろう……


意識が現実に引き戻されていく感覚にそっと身を委ねた























「魅夜、おはよう」


ロウソクが灯った部屋で夢から帰ってきた私を出迎えたのは兄にそっくりな…ゆうだった

まだぼんやりする意識の中、ゆっくりと起き上がる


「今…何時なの?」

「……ごめん、俺にもわからないんだ。ただ、日は落ちてるよ」

「そっか…」


これだけ部屋が暗いんだからそれは日が落ちているに決まっている
ロウソクの灯りで照らされているのは
私とゆう…ゆうが用意してくれたであろうご飯だけだった
あまり部屋の中はどうなっているかがわからない


「ゆう、あの」

「なに?」

「外に出たいんだけれど…」

「……ごめんね、それもできない」


また、……


「じゃあ…私はなんならしていいの…?」

「ゆっくり休んで少しずつ思い出そう?」

「……わかった…」


そう。今の私はなぜこんな状況になっているのかもわかっていない…

そのすべてを思い出す必要があるのだ


「…ゆうは、何か教えてはくれないの?」

「俺が教えたらルール違反だから」

「…ルール…」


この部屋はいつも夜のように暗くて外からの光も入ってこない
地下にある部屋なのだろうか?

明かりはゆうがいつもつけてくれるものだけ

ご飯はお粥を作ってくれている
お粥ではないと飲み込めないくらいに私の体は弱っていたようだ

そして、ここには誰かが決めたルールがあるらしい


「…ねぇ、ゆう。ここは地下なの?」

「ううん。そうではないよ」


地下ではなかったらしい。
ならなんで外からの光が差し込まないのだろう?
いくら窓がないからと言ってもここは木でできた家で少しでも光が差し込みそうな穴は空いているのに…


「…じゃあ、外は晴れてないの?」

「…ここしばらくはずっと曇りだよ」

「そうなの?…今は梅雨?」

「ううん。今は春だよ」


春で曇り続きなのか…
最後の記憶が秋頃

なら冬の間の記憶がないことになる
何かあったのだろうか?


頭をフル回転させるが、やっぱり思い出せない


「魅夜。そろそろおやすみ。」

「…なんでゆうがそう言うと眠くなるの…?」

「…なんでだろうね。おやすみ」


ちゅっ…と額に口づけをされ、そのまま私は意識を手放した


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