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別れから始まる物語1&2
秘湯「界の湯」 幼馴染 事件
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別れから始まる物語
秘湯「界の湯」
築400年の秘湯の宿「界の湯」、冬場は道路が閉鎖されるので、湯守りだけが通ってくる。人影の絶えた360度雪景色の露天風呂には 妖と幽霊が入りにくる。霊界では人気ナンバーワンの湯宿も、人間の客は減少傾向で、経営は傾きかけていた。妖や幽霊たちには、人気がないほうが都合がよいが、湯宿が経営破綻すれば、湯守りが来なくなる。温泉の維持管理には人間の手が必要なのだ。細々と湯宿が続けてゆけるにはどうしたらよいか 妖たちも頭を悩ませていた。
幼馴染
「ハグしていい?」
楓佑(かえで たすく)は水島桜(みずしま さくら)の返事を待たずに抱きしめた。
ゆうちゃん(佑ちゃん)、おうちゃん(桜ちゃん)と呼び合い、たいてい一緒に遊んでいる。今日は学校帰りに浜辺におりて ランドセルを下ろして、さんざん波打ち際で、じゃれあった。
佑は桜をハグしながら、明日引越しすることを告げた。言いながら、涙が出てきた。桜は、佑を見つめて「泣いている場合じゃないよ。今すぐ家に帰って、スマホとタブレットを持って、うちに来て」
去年から公立小学校児童ひとりずつに タブレットが配られたことで、家庭では、学校用とは別に 個人用のタブレットを買って、子供に渡したところが大半。大阪万博に家族旅行するにあたり、迷子防止で、スマホを持たせる。で、小1ですら、自分用のタブレットとスマホを持ち、ヘッドホンをつけてオンラインゲームをしている。5年生で持っていないなんて、と親に訴えて、ふたりとも 最近タブレットとスマホを手に入れていた。
引越しのことを言い出せずにいた佑だが、「ラインのビデオ通話、タブレットでオンラインゲーム、夏休みとかには、泊まりに行く」という桜の現実的提案に 気持ちが落ち着いてきた。隣の桜の家で、アカウントなどを確認して、今後のことを話し合った。夏休み、冬休み、春休みはお互いの家を訪問しあって、泊まって一緒に過ごす。高校生になったら、バイトして旅費をつくって、ふたりで旅行する。大学進学で親元を離れることになったら、同棲しよう。等々。先々のことを話していると 離れ離れになる明日からの辛さが和らいできた。
「それとね、」 声を潜めて 桜が続けた。
「親には 僕たちは友達で、友達以上は内緒だよ」
丸の内の書店「丸吉」でさえ、店内の一角は高い天井まで、ボーイズラブの小説と漫画で埋め尽くされる時代だが、親がすんなり我が子のセクシュアリティを受け入れるところまでは、認知されていないと 桜は 感じとっていた。
佑が小学校5年生の夏休みに転校してからは、ふたりは生まれてはじめて離れ離れになった。
桜は地元東京都B区の中高一貫校に、佑は転居先の北海道札幌市の中学校に通うことになり、新しい環境で、忙しない新学期を過ごした。
中学2年夏休み直前、ほとんど毎夜ラインのビデオ通話で話していたのに、桜と連絡がとれなくなった。ラインも既読は一切つかず、スマホにかけても水島家固定電話にかけたても留守設定だった。1分1秒も待てない気分だったが、なんとか2日我慢して、母親に頼み込んで、桜の両親に連絡を取ってもらった。
桜は全治2か月の傷を負ってJ病院に入院中だった。放課後、学校裏門前でトラブルに巻き込まれたとのことだが、佑は居ても立っても居られなかった。夏休み初日に桜を見舞いに行かせてもらうよう両親に頼み込んだ。兄弟同然に育った桜を、両親も見舞いたいと思ってはいるが、日程調整の必要があり、佑だけ先乗りさせることに同意した。
佑は羽田からJ病院に直行した。
病室で桜は眠っていた。右目に眼帯、左腕にギブスをはめていた。母親からの情報では、肋骨もヒビが入り、診断は肋骨骨折。桜が目を覚ましたとき病室には佑だけだった。桜から聞き出した事件の概要に怒りで体が震え、桜の受けた体と心の傷を思うと泣けてきた。桜がこんな酷い目にあったのは、自分が傍にいて守ってやれなかったからだ。
佑に桜は、「引越しの前日、佑の気持ちに気付いたのに、お互いに初めての人になる約束をしただけで、初めてを先送りしたことで、佑との初めてがなくなることが、物凄く怖かったんだ。」
他からの情報が入る前に、きちんと佑に話せたことに桜は安堵した。被害者もネットにさらされる昨今、間違った情報が先に佑に届かなくてよかった。桜は佑に誤解されるのが一番こわかった。なんとかやられずには済んだが、こんな目にあった自分を佑が嫌うかもしれない不安はまだ拭えていなかったが。
事件の1週間前
昼休みに 面識のない中学3年の生徒から声をかけられた。割のいいアルバイトがあるとのこと。桜は、即座に断った。楽して稼げる、しかも中学生のアルバイト、ろくなことはないに決まっている。桜が即断したにもかかわらず、その後も昼休み、放課後とアルバイトの誘いが執拗だった。事件の日、正門付近で、例の中3が待ち伏せしていたので、裏門に回った。門を出たとたん、数人の男たちに 車に連れ込まれた。腹に受けたパンチで気絶してしまった。気付いたときは、ベッドの上だった。男が迫ってくる。精一杯抵抗したのに、もうダメだ と思ったとき、ドアが叩かれた。踏み込んできたのは警官で、桜は毛布にくるまれて救急車に乗せられた。
両親が警察から聞かされた事件の概要は、高校生の間に割りのいいバイトとして、男性に男子を斡旋する暴力団関係組織の存在を捜査中に、中学生拉致の通報があり、助けることが出来たとのこと。アルバイトとして、高校生に声かけしていたが、金払いのいい常連客から、学校近くで見かけた桜を指定してきたので、執拗にアルバイトに誘ったが、応じないし、客からは矢の催促で、桜を攫ったとのこと。それを目撃していた人物がいて、110番通報があり、車のナンバー、拉致するところの動画が送信されてきて、警察が動き、保護に至った。
110番は匿名通報だったが、通報者は、同級生で、1年のときから、桜から目が離せず、事件の日も校舎2階のベランダから自分は隠れるようにして 桜の帰るところを動画撮影していた。桜に話しかけられずに、目で追っていて、スマホで桜を捉えることしかできなかったが、そのことが桜を救うことになって、達成感に満たされた。
事件は当然報じられ、被害者は未成年であり、名前は伏せられだが、ネット上では騒がしかったし、同級生、同窓生は、過たずに人物を特定していた。
骨折は腕はギブス、肋骨はサポーターで、手術を擁するほどではなかったので、入院期間はさほどではなく、退院してギブスとサポーターをつけての自宅療養となった。右目は眼球には異常はなく殴られたことによる目の周りの鬱血による痣で、退院時には眼帯もはずれた。
夏休みに入っていたこともあり、楓家に桜を預かってもらうことになった。佑も大喜びで、桜も同意したので、桜の母親「弥生」が 北海道まで送っていった。
秘湯「界の湯」
築400年の秘湯の宿「界の湯」、冬場は道路が閉鎖されるので、湯守りだけが通ってくる。人影の絶えた360度雪景色の露天風呂には 妖と幽霊が入りにくる。霊界では人気ナンバーワンの湯宿も、人間の客は減少傾向で、経営は傾きかけていた。妖や幽霊たちには、人気がないほうが都合がよいが、湯宿が経営破綻すれば、湯守りが来なくなる。温泉の維持管理には人間の手が必要なのだ。細々と湯宿が続けてゆけるにはどうしたらよいか 妖たちも頭を悩ませていた。
幼馴染
「ハグしていい?」
楓佑(かえで たすく)は水島桜(みずしま さくら)の返事を待たずに抱きしめた。
ゆうちゃん(佑ちゃん)、おうちゃん(桜ちゃん)と呼び合い、たいてい一緒に遊んでいる。今日は学校帰りに浜辺におりて ランドセルを下ろして、さんざん波打ち際で、じゃれあった。
佑は桜をハグしながら、明日引越しすることを告げた。言いながら、涙が出てきた。桜は、佑を見つめて「泣いている場合じゃないよ。今すぐ家に帰って、スマホとタブレットを持って、うちに来て」
去年から公立小学校児童ひとりずつに タブレットが配られたことで、家庭では、学校用とは別に 個人用のタブレットを買って、子供に渡したところが大半。大阪万博に家族旅行するにあたり、迷子防止で、スマホを持たせる。で、小1ですら、自分用のタブレットとスマホを持ち、ヘッドホンをつけてオンラインゲームをしている。5年生で持っていないなんて、と親に訴えて、ふたりとも 最近タブレットとスマホを手に入れていた。
引越しのことを言い出せずにいた佑だが、「ラインのビデオ通話、タブレットでオンラインゲーム、夏休みとかには、泊まりに行く」という桜の現実的提案に 気持ちが落ち着いてきた。隣の桜の家で、アカウントなどを確認して、今後のことを話し合った。夏休み、冬休み、春休みはお互いの家を訪問しあって、泊まって一緒に過ごす。高校生になったら、バイトして旅費をつくって、ふたりで旅行する。大学進学で親元を離れることになったら、同棲しよう。等々。先々のことを話していると 離れ離れになる明日からの辛さが和らいできた。
「それとね、」 声を潜めて 桜が続けた。
「親には 僕たちは友達で、友達以上は内緒だよ」
丸の内の書店「丸吉」でさえ、店内の一角は高い天井まで、ボーイズラブの小説と漫画で埋め尽くされる時代だが、親がすんなり我が子のセクシュアリティを受け入れるところまでは、認知されていないと 桜は 感じとっていた。
佑が小学校5年生の夏休みに転校してからは、ふたりは生まれてはじめて離れ離れになった。
桜は地元東京都B区の中高一貫校に、佑は転居先の北海道札幌市の中学校に通うことになり、新しい環境で、忙しない新学期を過ごした。
中学2年夏休み直前、ほとんど毎夜ラインのビデオ通話で話していたのに、桜と連絡がとれなくなった。ラインも既読は一切つかず、スマホにかけても水島家固定電話にかけたても留守設定だった。1分1秒も待てない気分だったが、なんとか2日我慢して、母親に頼み込んで、桜の両親に連絡を取ってもらった。
桜は全治2か月の傷を負ってJ病院に入院中だった。放課後、学校裏門前でトラブルに巻き込まれたとのことだが、佑は居ても立っても居られなかった。夏休み初日に桜を見舞いに行かせてもらうよう両親に頼み込んだ。兄弟同然に育った桜を、両親も見舞いたいと思ってはいるが、日程調整の必要があり、佑だけ先乗りさせることに同意した。
佑は羽田からJ病院に直行した。
病室で桜は眠っていた。右目に眼帯、左腕にギブスをはめていた。母親からの情報では、肋骨もヒビが入り、診断は肋骨骨折。桜が目を覚ましたとき病室には佑だけだった。桜から聞き出した事件の概要に怒りで体が震え、桜の受けた体と心の傷を思うと泣けてきた。桜がこんな酷い目にあったのは、自分が傍にいて守ってやれなかったからだ。
佑に桜は、「引越しの前日、佑の気持ちに気付いたのに、お互いに初めての人になる約束をしただけで、初めてを先送りしたことで、佑との初めてがなくなることが、物凄く怖かったんだ。」
他からの情報が入る前に、きちんと佑に話せたことに桜は安堵した。被害者もネットにさらされる昨今、間違った情報が先に佑に届かなくてよかった。桜は佑に誤解されるのが一番こわかった。なんとかやられずには済んだが、こんな目にあった自分を佑が嫌うかもしれない不安はまだ拭えていなかったが。
事件の1週間前
昼休みに 面識のない中学3年の生徒から声をかけられた。割のいいアルバイトがあるとのこと。桜は、即座に断った。楽して稼げる、しかも中学生のアルバイト、ろくなことはないに決まっている。桜が即断したにもかかわらず、その後も昼休み、放課後とアルバイトの誘いが執拗だった。事件の日、正門付近で、例の中3が待ち伏せしていたので、裏門に回った。門を出たとたん、数人の男たちに 車に連れ込まれた。腹に受けたパンチで気絶してしまった。気付いたときは、ベッドの上だった。男が迫ってくる。精一杯抵抗したのに、もうダメだ と思ったとき、ドアが叩かれた。踏み込んできたのは警官で、桜は毛布にくるまれて救急車に乗せられた。
両親が警察から聞かされた事件の概要は、高校生の間に割りのいいバイトとして、男性に男子を斡旋する暴力団関係組織の存在を捜査中に、中学生拉致の通報があり、助けることが出来たとのこと。アルバイトとして、高校生に声かけしていたが、金払いのいい常連客から、学校近くで見かけた桜を指定してきたので、執拗にアルバイトに誘ったが、応じないし、客からは矢の催促で、桜を攫ったとのこと。それを目撃していた人物がいて、110番通報があり、車のナンバー、拉致するところの動画が送信されてきて、警察が動き、保護に至った。
110番は匿名通報だったが、通報者は、同級生で、1年のときから、桜から目が離せず、事件の日も校舎2階のベランダから自分は隠れるようにして 桜の帰るところを動画撮影していた。桜に話しかけられずに、目で追っていて、スマホで桜を捉えることしかできなかったが、そのことが桜を救うことになって、達成感に満たされた。
事件は当然報じられ、被害者は未成年であり、名前は伏せられだが、ネット上では騒がしかったし、同級生、同窓生は、過たずに人物を特定していた。
骨折は腕はギブス、肋骨はサポーターで、手術を擁するほどではなかったので、入院期間はさほどではなく、退院してギブスとサポーターをつけての自宅療養となった。右目は眼球には異常はなく殴られたことによる目の周りの鬱血による痣で、退院時には眼帯もはずれた。
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