月の雫と星屑と~有栖川橙の難儀な恋愛模様~

sakura2025

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月の雫と星屑と  4

第4章 真夜中のヒッチハイク

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今回恋愛関係の修羅場を初体験する自分を俯瞰で観察していた。



 真夜中のヒッチハイク

 十数年の時が経ったのに いまだに 消えない記憶があった。

 十代後半、カナダ、ブリティッシュコロンバン大学夏季セミナーに参加したとき、授業のない日にバンクーバーアイランドまで出かけた。街燈に花籠をさげたとても愛らしい町ヴィクトリアの観光を堪能して。帰路についた。夕食はフェリーの中で摂り、バンクーバーまで戻ったとき午前零時に近かったが、最終バスに間に合うはずだった。
バス停で、ホテルのネオンを横目に、ヒッチハイクを試みた。
広大な敷地を擁する大学は、ひとつの街の様相を呈し図書館、劇場はむろんのこと、スーパーマーケットも郵便局もそろっていたが、町に出るには、公共交通機関も少なく、ヒッチハイクは学生たちの足として定番だった。真夜中に試みるのは初めてなので、運転している人、乗っている人数、様子をよく見て、選んだ。こちらが止めようとして止まってくれたのは、赤いオープンカーに金髪の美青年の一人乗りだった。
目的地は告げたが、ヒッチハイクなのでどこで降ろされるか不安だった。町を出ると、道路の両側は漆黒の闇、街路灯もなく、車のヘッドライトが前方を照らすだけ。こんなところで、何かされたらと思わないでもなかったが、もともとつたない英語では話かけることもままならなかった。子供だから相手にしないと思ってもらえるかとの期待だけが救いだった。小柄な秋月は、カナダで8歳用の短パンを買ってはいているくらいだった。8歳以下の子供服は非課税だったので、試着してみたのだ。
闇と沈黙のドライブだったが、学生寮まで送ってくれた。真夜中なのにかなりの学生が寮の前でたむろしていた。かれらの口笛の嵐の中に停車した。金髪の美青年は、逸物をあらわにして、秋月に視線で合図を送ってきたが、秋月は首を左右にして車を降りた。御礼も言い損ねた。

 秋月萩の自由という青春の支柱は、カナダでの体験が大きく影響していた。
ヒッピーが若者の間でもてはやされたころ、大学近くのビーチは、「ヌーディストビーチ」として知られた存在だったし、大学の劇場で上演された「ハムレット」はオフェリアが全裸だった。既成概念をぶち壊す若者たちの熱気というか静かなる体現というかを肌で感じ取った。

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