どうして人を殺してはいけないのか 令和編

みつきようか

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どうして人を殺してはいけないのか 令和編

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 もう二十年以上前の話であるが、『どうして人を殺してはいけないのか』と言うテーマが一時期メディアを賑わわせた。何が発端だったのかは分からない。私が知っているのは、学生が知識人に質問すると言う趣向のテレビ番組か何かに出演した中学生の一人が、
「『どうして人を殺してはいけないんですか?』と自分が質問したのに対して大人たちが何も答えられないでいたのが心に残った」
 と感想を述べたと言う話だけである。それもある方の著書で知った事だ。
 どうして人を殺してはいけないのか。このテーマを投げかけられた知識人の中には律儀な方が多かったのであろう。テレビに出演していた知識人に留まらず、結構な数の方々が雑誌やテレビや著書で真面目にお答えになっていた。件の中学生がどう言う意図や態度でそのような質問をしたのかは分からない。分からないだらけだが、当時まだ若かった私は質問をした中学生の事を
(そう言う小生意気な事訊いて相手を困らせてほくそ笑む奴か、でなきゃ目立ちたがり屋なのかなー)
 と申し訳ないが勝手に想像していた。しかしながら改めて、どうして人を殺してはいけないのかと思ってみると、
(知らんがな)
 としか言いようがなかった。
 だが興味深い。真面目ではない私も一時考えたり調べたりしてみた。そして出した結論は、
(別に、殺しちゃいけないって規定はないんだよな。殺したらこう言う刑罰を受けますよって規定はあるけど。人間にはそう言う事もあるんだよって前提で出来てる法律だよね)
 と言う、件の中学生への回答にはならないであろう事であった。そして、どうせ答えは分からないからとそれ以上追究せずに、まあ自分は人を殺すような事にならんように気を付けんとなあと思いそれから二十年以上経った今、どうしてこのような事を書き出してしまったのか。――大した理由ではない。ある日ふと思い出した。思い出すと頭の中で勝手に再考が始まり、若かった頃は気付かなかった点が出てきたりして、これ書いてみようかなー、となったのだ。
 まず若い頃の私は殺人罪に対して、前述した通り人にはそう言う事もあると言う前提で出来てる規定だと思っていた。間違いでもないと思う。しかし今思うに、そう言う規定が出来たのは、まずその前にそれなりの事件が起こったからではないか。何もないところから何も生まれはしないだろう。何もなければ前提にしようもない。世界各地でその地における人類最初の殺人事件が起こった後それを罰する法が作られたと考えた方が自然ではないか。こうして書いてみると当たり前のような事を今になってやっと気付くのが私なのである。原初どのような経緯の末に殺人への罰則が出来上がったのかは知る由もない。よってこの考察はここまでである。
 それとは別に思ったのは、もしも今の私が件の中学生から例の質問を受けたのならどう反応しただろうか、である。小生意気なほくそ笑む奴でも目立ちたがり屋でも、どちらでもない全くごく普通の中学生がごく普通の態度で尋ねたとしても。どうするだろう。 
 (こいつヤバい方向に行ってる)
 と一瞬で決めつけて反射的に
「知るかぁそんなん!つまらん事考えんな」
 と言ってしまうか、もう少し冷静に反応出来たとしたら、
「いきなりどうしたの?誰か殺したいの?」
 と訊くか。そこで中学生の返事が
 ①「別にそう言うわけじゃ…」
 もしくは  
 ②「殺したいです」だったとする(その他の返事は挙げればキリがないし、反射的な反応に対しての中学生の反応は予想がつかないので考えない事にする)。
 ①の返事には「そうか、分かった。あなたが誰かを殺したがってるわけじゃないのは分かった」と言い置き、
 ②に対しては「そうか、分かった。誰を殺したいのか知らないけど、ちょっと待て」と言い置く。
 そして「では、」と始める。
「私は法律の専門家ではないから正確な事は言えないけど、素人なりに答えさせてもらいます。どうして人を殺してはいけないのかとあなたは訊きました。でもね、殺したら刑罰を受けると言う規定はあるんだけど、殺してはいけないって言う明確な規定はないんだよね。もちろん、殺していいと言う規定もない。ただ人間はやっぱりね、色々と割り切れない存在だから、時として過ちを犯してしまう事もあるわけよ。動機が怨恨にせよ利害にせよ、理性で制御出来ない部分がどうしても存在するわけ。例え殺してはいけないと言う規定を作っても無駄なんだと思う。規定があろうと殺してしまう人は殺しちゃうし、その人はそれで満足するのかも知れないね。でもずっと満足していられるかどうかは分からないよ。罪悪感とか後悔とか要するに良心の呵責に苦しめられる事はないとは言い切れないかな。中には良心の呵責なんか本当にない人もいるだろうし、あれはあいつが悪かったんだ、だから殺したんだ、自分はむしろ被害者だとか言って自分を正当化する人もいるだろうけどね。
 それにね、もしも今のあなたが誰かを殺したとしても未成年だから軽い罰になる可能性は高いけれど、過去には少年犯罪でも死刑判決が下った例もある。殺した人数によるんだろうけどね。あと、殺して逮捕されたらやがて裁判を受けるのは知ってるよね。この裁判だけど、刑事裁判と民事裁判って言うものがあってね。刑事裁判は殺人等の犯罪を犯したか、その疑いのある人間を裁くもので、民事裁判は公害とか薬害とか賃金未払いとか離婚とか、犯罪以外の色んな紛争を解決するものなんだね。で、仮にだけど、あなたは誰かを殺して逮捕され少年審判を受けて自分が何らかの処分を受ければ、精神面はともかくそれで済むと思ってるかも知れないけど、そうはいかない場合もある。下手したらあなたのご家族が、被害者の遺族から民事裁判を起こされて高額な損害賠償を請求される事だってあり得る。今は民事裁判の他に損害賠償命令制度って言うのがあるんだけど、興味があるなら調べてみてね。…話を戻すけど、その人が生きていれば将来得られたであろう利益の事を逸失利益って言うんだけどね、あなたが殺した相手が若い人、中でもあなたと同じ年頃の人かもっと年下だったらかなり高く算定されるよ。高齢者や障碍者だったら何故か低く算定される場合があって、それは命の選別じゃないかと言う議論も当然あるんだけど、それはここではまあ置いておいて。もっとも遺族側が勝訴して損害賠償を請求されたとしても、『無い袖は振れねーよ』って居直って一円も払わない加害者家族もいるんだけどね。あなたのご家族が常識的な人だったら、一家心中してでも払うんだろうね。あなたがやってしまった事で大事な家族まで破滅させたらいかんでしょう。家族に対して深い恨みがあって、あいつらが破滅しようと知った事じゃないって場合もあるとは思うけど。そう言う場合でもやっぱりしてはいかんよ。何より自分がもったいないでしょう。自分も誰も幸せにしないよ。そう言うわけで、もちろん人道的な意味でも、私は殺してはいけないと思うな。そもそも本当は、殺したいのではなくて、殺意にまでなった憎悪なり悲憤なり何か切羽詰まった事情を、軽減もしくは解消出来るなら殺したくないって言うのが本音じゃない?一時期から激増してる『理由はなかった。誰でも良いから殺したかった』って言うのも、根底には社会への怨嗟とか自分をがんじがらめにしてる圧力への憤懣とか色々理由があると思うよ?そこを何かしらの手段で気付いて受け入れて昇華出来れば殺さなくても済んだんじゃないかな?別に庇うつもりはないけどね。これで、答えになってるかな?」
 ①なら恐らくここで納得してくれるであろう。そして②は。本気で誰かを殺したいと思っているなら、「そこまで言うならあんたが何とかしてくれ」と言うような事を言うかも知れない。そうだったとして考えるなら私は、何とかして助けてくれ、と言う意味に受け取る。
「何か深い事情があるんだね…。後でで良いから、良かったら話してごらん」
 と、言えればいいんですけどね!
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