転生したらドラゴンに拾われた

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最果ての森・成長編

98. スパルタ?

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 僕たちは、水柱がザバーンと音を立てて海へ戻るのを静かに見送る。
 間もなくして海は「え、いま何かした?」とでも言いたげに穏やかな波音を立て始めた。 

 つい力んでしまったせいでちょっと海面が爆発しちゃったけど、きっと大いなる海にとっては蚊に刺された程度ですらないはずだ。

 これでライトニングは習得できたよね?と思ってライを見ると、ライの視線はまだ海の方へ向けられていた。

「···あっ」

 ライから小さな声が漏れる。

 僕や他のみんなも、ライの視線をたどる。

「···あ」

 そこで目にしたものに、僕も声を漏らす。

 水柱が上がった場所を中心として、その周囲の海面にいくつもの物体が浮かんでいるのだ。
 こうして見ている間にも、それらの数は増えていく。

「わーい!夜ごはんだー!」

 ファムが歓声を上げてポンポン飛び跳ねる。

「···海の生き物たちだね。ふふふ、どうやら気絶しているみたいだよ」

 なるほど、あのプカプカ浮かぶ物体たちはお魚さんだったのか。···ファムには夜ごはんに見えるらしい。
 ちなみに、ティアからは『···ゴクリ』と聞こえた。そういえばジルが作った魚料理をおかわりしてたっけと思い出す。

 偉大なる海にとっては蚊がとまった程度でも、そこに住む生き物にとっては意識を刈り取られるほどの爆発だったようだ。

「私が気絶していたときも、こんな感じだったのかな···」

 ライが雷の超級魔法に失敗しちゃったときの話かな?

「···現象としては、そうだな」

 ジルが肯定する。
『現象としては』って限定したのが気になる。これって暗に、その他のことに関しては比較にならないってことなんじゃないだろうか。だって超級魔法だし。

「よっしゃー!回収するぜ!」

 放心気味のライをよそに、テムとファムが器用に魔法を操り、魚を次々と浜辺に集め始めた。そしてそれをジルが手早くナイフでシメて血抜きしている。
 ···いつも思う。このジルの動じなさ、素敵だ。

 全部ジルが処理するのかと思っていたが、一部の魚には手を付けていない。

「こいつらはウィルがやった方がいいだろう」

 ジルがそう言って指したのは、大きめの魚ばかりだ。もう気絶から目覚めて元気にバタバタと身をよじっているものもいる。時折見える口の中には、鋭い歯がズラッと並んでいる。
 ···え、僕、こんな怖そうな魚をシメなきゃいけないの?

「ああ、そうだね。ウィル君の獲物だもんね」

 突然のスパルタ教育に戸惑っていると、ライまで賛同し始めた。

「ふふ、ウィル君ならそんなに怖がることはないよ。できるだけ損傷を少なく仕留められるかい?」

 さらに難易度を上げられた。

「まあ、こうして陸に放置しておけばそのうち力尽きると思うけどね。でも質が落ちちゃうから、早いほどいいよ」

 スパルタが止まらない。

 ジルもライも、僕を見守る雰囲気だ。
 ちらりとテムの方を見ると、ファムと一緒に海の上で遊んでいる。
 ティアは自分よりも大きな魚に及び腰だが、キラキラした目で見つめている。きっとその魚の将来の姿に思いを馳せているのだろう。

 僕は助けを求めるのを諦めて、内心震えながら思い切って魚に一歩近づく。
 すると僕の接近に気づいた魚のバタつきが一層激しくなった。

「うあっ」

 怖くなって一歩下がる。

「うん?そんなに近づかなくてもいいんじゃないかな?大丈夫、ウィル君の魔法なら届くよ」

 ライの言葉に、僕は雷に撃たれたかのような衝撃を受けた。
 魔法···そうか、魔法を使えばいいんじゃないか!
 ジルがナイフを使っていたのを見たからか、思考が制限されていたんだ。いかんいかん、柔軟にならないとね。

 僕は魔力を絞ったウィンドカッターを魚に放った。
 見よう見まねで、ジルがナイフを入れていた部位を狙う。最初は魔力の調整が上手くいかずに頭を切り落としちゃうこともあったが、数をこなすうちにちょうど良くシメられるようになった。

「うん、やっぱりウィル君はセンスがあるね。威力や大きさのコントロールをこんなにスムーズに出来るのはすごいよ」

 そんなに褒められると、ドヤ顔したくなるじゃないか。
 ふふん、と得意気になっていると、「上達が早いな」とジルが頭を撫でてくれた。
 ···ドヤ顔の第2形態が必要だ。あとで考えておこう。


「ウィル君、お疲れさま。そんなに強くはないけど、ウィル君が仕留めたのは一応魔物だからね。経験値は入っているはずだよ」

 すべての魚をシメたあとにかけられたライの言葉に驚く。あの大きめの魚たちは、魔物だったのだ。
 つまりジルは経験値になる魚を僕に残して、ほとんど経験値にならないものを処理してくれていたのだ。

 この作業で、僕のレベルは微増した。

 ジルは全然スパルタなんかじゃなかった。むしろ優しさしかなかった。





 名前:ウィル

 種族:人族ヒューマン
 年齢:1
 レベル:57

 スキル:成長力促進、言語理解、魔力操作、魔力感知、テイム
 魔法:火属性魔法(初級)
    水属性魔法(初級)、氷属性魔法(初級)
    土属性魔法(初級)
    風属性魔法(初級)
    光属性魔法(初級)
    火柱フレイム火波ファイアウェーブ洪水フラッド突風ブラスト雷撃ライトニング
 耐性:熱冷耐性

 加護:リインの加護
 称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子、雷帝の愛弟子
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