転生したらドラゴンに拾われた

hiro

文字の大きさ
101 / 115
最果ての森・成長編

98. スパルタ?

しおりを挟む
 僕たちは、水柱がザバーンと音を立てて海へ戻るのを静かに見送る。
 間もなくして海は「え、いま何かした?」とでも言いたげに穏やかな波音を立て始めた。 

 つい力んでしまったせいでちょっと海面が爆発しちゃったけど、きっと大いなる海にとっては蚊に刺された程度ですらないはずだ。

 これでライトニングは習得できたよね?と思ってライを見ると、ライの視線はまだ海の方へ向けられていた。

「···あっ」

 ライから小さな声が漏れる。

 僕や他のみんなも、ライの視線をたどる。

「···あ」

 そこで目にしたものに、僕も声を漏らす。

 水柱が上がった場所を中心として、その周囲の海面にいくつもの物体が浮かんでいるのだ。
 こうして見ている間にも、それらの数は増えていく。

「わーい!夜ごはんだー!」

 ファムが歓声を上げてポンポン飛び跳ねる。

「···海の生き物たちだね。ふふふ、どうやら気絶しているみたいだよ」

 なるほど、あのプカプカ浮かぶ物体たちはお魚さんだったのか。···ファムには夜ごはんに見えるらしい。
 ちなみに、ティアからは『···ゴクリ』と聞こえた。そういえばジルが作った魚料理をおかわりしてたっけと思い出す。

 偉大なる海にとっては蚊がとまった程度でも、そこに住む生き物にとっては意識を刈り取られるほどの爆発だったようだ。

「私が気絶していたときも、こんな感じだったのかな···」

 ライが雷の超級魔法に失敗しちゃったときの話かな?

「···現象としては、そうだな」

 ジルが肯定する。
『現象としては』って限定したのが気になる。これって暗に、その他のことに関しては比較にならないってことなんじゃないだろうか。だって超級魔法だし。

「よっしゃー!回収するぜ!」

 放心気味のライをよそに、テムとファムが器用に魔法を操り、魚を次々と浜辺に集め始めた。そしてそれをジルが手早くナイフでシメて血抜きしている。
 ···いつも思う。このジルの動じなさ、素敵だ。

 全部ジルが処理するのかと思っていたが、一部の魚には手を付けていない。

「こいつらはウィルがやった方がいいだろう」

 ジルがそう言って指したのは、大きめの魚ばかりだ。もう気絶から目覚めて元気にバタバタと身をよじっているものもいる。時折見える口の中には、鋭い歯がズラッと並んでいる。
 ···え、僕、こんな怖そうな魚をシメなきゃいけないの?

「ああ、そうだね。ウィル君の獲物だもんね」

 突然のスパルタ教育に戸惑っていると、ライまで賛同し始めた。

「ふふ、ウィル君ならそんなに怖がることはないよ。できるだけ損傷を少なく仕留められるかい?」

 さらに難易度を上げられた。

「まあ、こうして陸に放置しておけばそのうち力尽きると思うけどね。でも質が落ちちゃうから、早いほどいいよ」

 スパルタが止まらない。

 ジルもライも、僕を見守る雰囲気だ。
 ちらりとテムの方を見ると、ファムと一緒に海の上で遊んでいる。
 ティアは自分よりも大きな魚に及び腰だが、キラキラした目で見つめている。きっとその魚の将来の姿に思いを馳せているのだろう。

 僕は助けを求めるのを諦めて、内心震えながら思い切って魚に一歩近づく。
 すると僕の接近に気づいた魚のバタつきが一層激しくなった。

「うあっ」

 怖くなって一歩下がる。

「うん?そんなに近づかなくてもいいんじゃないかな?大丈夫、ウィル君の魔法なら届くよ」

 ライの言葉に、僕は雷に撃たれたかのような衝撃を受けた。
 魔法···そうか、魔法を使えばいいんじゃないか!
 ジルがナイフを使っていたのを見たからか、思考が制限されていたんだ。いかんいかん、柔軟にならないとね。

 僕は魔力を絞ったウィンドカッターを魚に放った。
 見よう見まねで、ジルがナイフを入れていた部位を狙う。最初は魔力の調整が上手くいかずに頭を切り落としちゃうこともあったが、数をこなすうちにちょうど良くシメられるようになった。

「うん、やっぱりウィル君はセンスがあるね。威力や大きさのコントロールをこんなにスムーズに出来るのはすごいよ」

 そんなに褒められると、ドヤ顔したくなるじゃないか。
 ふふん、と得意気になっていると、「上達が早いな」とジルが頭を撫でてくれた。
 ···ドヤ顔の第2形態が必要だ。あとで考えておこう。


「ウィル君、お疲れさま。そんなに強くはないけど、ウィル君が仕留めたのは一応魔物だからね。経験値は入っているはずだよ」

 すべての魚をシメたあとにかけられたライの言葉に驚く。あの大きめの魚たちは、魔物だったのだ。
 つまりジルは経験値になる魚を僕に残して、ほとんど経験値にならないものを処理してくれていたのだ。

 この作業で、僕のレベルは微増した。

 ジルは全然スパルタなんかじゃなかった。むしろ優しさしかなかった。





 名前:ウィル

 種族:人族ヒューマン
 年齢:1
 レベル:57

 スキル:成長力促進、言語理解、魔力操作、魔力感知、テイム
 魔法:火属性魔法(初級)
    水属性魔法(初級)、氷属性魔法(初級)
    土属性魔法(初級)
    風属性魔法(初級)
    光属性魔法(初級)
    火柱フレイム火波ファイアウェーブ洪水フラッド突風ブラスト雷撃ライトニング
 耐性:熱冷耐性

 加護:リインの加護
 称号:異世界からの転生者、黒龍帝の愛息子、雷帝の愛弟子
しおりを挟む
感想 380

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

三歳で婚約破棄された貧乏伯爵家の三男坊そのショックで現世の記憶が蘇る

マメシバ
ファンタジー
貧乏伯爵家の三男坊のアラン令息 三歳で婚約破棄され そのショックで前世の記憶が蘇る 前世でも貧乏だったのなんの問題なし なによりも魔法の世界 ワクワクが止まらない三歳児の 波瀾万丈

どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~

涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中に呆然と佇んでいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出したのだ。前世、日本伝統が子供の頃から大好きで、小中高大共に伝統に関わるクラブや学部に入り、卒業後はお世話になった大学教授の秘書となり、伝統のために毎日走り回っていたが、旅先の講演の合間、教授と2人で歩道を歩いていると、暴走車が突っ込んできたので、彼女は教授を助けるも、そのまま跳ね飛ばされてしまい、死を迎えてしまう。 享年は25歳。 周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっている。 25歳の精神だからこそ、これが何を意味しているのかに気づき、ショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

転生ヒロインは不倫が嫌いなので地道な道を選らぶ

karon
ファンタジー
デビュタントドレスを見た瞬間アメリアはかつて好きだった乙女ゲーム「薔薇の言の葉」の世界に転生したことを悟った。 しかし、攻略対象に張り付いた自分より身分の高い悪役令嬢と戦う危険性を考え、攻略対象完全無視でモブとくっつくことを決心、しかし、アメリアの思惑は思わぬ方向に横滑りし。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

処理中です...