転生したらドラゴンに拾われた

hiro

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最果ての森・成長編

99. ライブクッキング

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 魚をシメる作業が終われば、魔法の練習の再開だ。
 ライトニングの一発目は不発、二発目は爆発。···まだまだ練習が必要だ。

 ライにアドバイスをもらいながら、威力に気をつけて魔法を放つ。最初は弱めで、安定して放てるようになったら少しずつ強弱をつけていく。

 なんとなくコツを掴んできたかなと思ったとき、ほんの少しだが疲れを感じた。

「ウィル君、お疲れさま。今日の練習はここまでにしようか」

 ライに声を掛けられ、集中を解く。ふうっと息を吐いて体に意識を向けると、やはりどことなく疲れているような気がする。

「そろそろ疲労を感じるころだと思ったんだけど、どうかな?体調に違和感はないかい?」

 ライの言葉に驚く。やっぱりこの疲労感は気のせいじゃなかったんだ。

「ちょっと、ちゅかれた」

 そう言うとライが優しく微笑んで僕を抱えてくれる。

「今日はいつもよりたくさん魔力を使ったからね。体内魔力が少なくなると、疲れを感じるんだ。そこから更に無理して魔力を消費すると、気絶しちゃうこともあるんだよ。危険な場所で意識を失うなんてことがないように、この疲労感を覚えておいてね」

 そう言われてみれば、今日は中級や上位属性の魔法をたくさん使った。
 今まで感じたことがなかったけど、今回自分の魔力の限界を知ることができて良かったと思う。

 今はジルやライ達が近くにいてくれるけど、いつも、いつまでもそうだとは限らない。
 自分がどれくらいの魔法を何回使えるのか、きちんと把握しておくのは大事なことだ。

 コクコクと頷くと、ライがそっと頭を撫でてくれた。

「ふふ、いい子だね。夜ごはんまではもう少し時間があるから、ちょっと寝ておこうか。睡眠中は魔力の回復がいくらか早まるんだよ」

 ライの穏やかな声に眠気が誘われる。
 疲れもあるせいか、僕はあっという間に熟睡してしまった。


 目が覚めたとき、僕はジルに抱えられていた。

「起きたか?」

「···じる?」

 あれ?
 確か寝る前はライが抱っこしてくれていたはず···違ったっけ?
 
 寝起きで混乱していると、ティアと一緒にいたライがこちらへやって来た。

「ウィル君、おはよう。私がティアに魔法を教える間、抱っこを代わろうってジルが言ってくれたんだよ」

 なるほど。そういうことだったのか。

「疲れはとれたかい?時間はまだあるから、もうひと眠りしても大丈夫だよ」

 ライはそう言ってくれるが、爆睡できたおかげで体調はすこぶる良い。

「ちゅかれ、とれた!」

 元気に言うと、ライはニコッと笑って「良かった」と言ってくれた。

「それなら、そろそろ夕食にするか」

「わーい!お腹空いたよー!」

「だな!」

 ジルの一言で、海の上で遊んでいた二人がぴゅーんと飛んできた。
 分かりやすい二人の様子に、思わず笑ってしまう。

「せっかくだから、ここで食べるか」

 そう言うとジルは僕を砂浜にそっとおろし、マジックバッグからテーブルやイスなどを次々と取り出し始めた。

 テーブルのセッティングが終わると、今度は近くに台を置いて鍋やフライパンなどを乗せている。

 これってもしや、浜辺でディナーというオシャレ度が半端ないやつ?
 しかもすぐ近くで料理してくれる感じ?

 前世では想像すらしたことがなかった夜ごはんに、心が踊るのを感じる。それはもう、元気いっぱいに踊っている。

 ファムとティアからの熱い要望に応えて、今日の夜ごはんは魚料理だ。

 ジルが台の上に今日捕ったばかりの魚を置き、鮮やかな包丁さばきで次々と解体していく。

「おお~」

 思わずぱちぱちと拍手をする。だってそれくらい凄いんだ。
 ···心なしか、解体スピードが上がった気がする。

「あはは!すごいねー!楽しいねー!かわいいねー!」

 ファムがとても楽しそうだ。誰が可愛いかは···うん、やっぱりスピードが上がったのは気のせいじゃなかったみたいだ。

 そういえば、ジルの料理姿をちゃんと見るのは初めてだ。いつもキッチンで作ったものを持ってきてくれるから、出来上がりしか見たことがなかったんだ。

 魚料理を何品か作るようで、それぞれの料理を並行して調理している。
 そうだろうなとは思っていたが、やはり手際がいい。見ている方が追いつかないくらい、どんどん出来上がっていく。
 時折『ファイア』とか『ウォーター』とか言っているが、あれは魔法を使いながら料理をしているのだろう。

 驚異的なスピードで料理をするジルは、ものすごく格好いい。
 僕の父親は、可愛くて格好いいのだ。


「ふわあー、いい匂いがしてきたぜ!」

「もう、お腹ぺこぺこー!」

「···ゴクリ」

「ふふ、美味しそうだね」

 それぞれが目をキラキラさせて料理の完成を待っている。
 
 ふと、テキパキと動いていたジルが手を止める。

「···よし、完成だ」

 ジルが呟いた瞬間、みんながわあっと歓声を上げる。そして今度はみんながテキパキと動き、料理をテーブルへと運び始めた。

 席につくと、みんなのキラキラした視線がジルに向けられる。

「食べよう」

 ジルの一言で再び歓声が上がり、みんなモリモリ食べ始める。

 よし、僕も食べよう。まずは気になっていたサラダからだ。

「これか?」

 僕の視線に気づいたジルが、サラダをとってくれた。

「あいあと!」

 これ、サラダなんだけど魚が入っているんだ。蒸した白身魚の身をほぐして、葉野菜の上に散らしてある。
 野菜のシャキシャキみずみずしい食感と、魚の柔らかい食感がよく合っている。それに噛めば噛むほど魚から旨味がジワッと出てきて、ドレッシングがいらないくらい美味しい。

「ふふ、それはウィル君が仕留めた魚が使われているんだよ。美味しいかい?」

 なんと!旨味あふれるこの白身は、あの魔物のお魚さんだったのか!
 ありがとう、美味しくいただいているよ、という気持ちがこみ上げる。

「おいちい!」

 命をいただいたんだから、大事に美味しく食べようと思う。
 ニコニコモグモグ食べていると、ライが「ふふ」と柔らかく笑い、ジルは頭を撫でてくれた。

 他に、リゾットやスープにも魚が入っていたし、ムニエルや煮物など色々な魚料理があった。


「美味しかったー!ジル、ありがとー!」

「やっぱジルの料理は最強だな!」

「満足なのだ!美味かったのだ!」

「ふふ、ごちそうさま。美味しかったよ」

 お腹いっぱい食べて、みんな幸せそうな表情を浮かべている。
 僕も満腹で幸せだ。

 食後にゆったりおしゃべりしていると、ふと空の色が変わっていることに気づいた。
 さっきまで食べることに夢中で、全然気づかなかった。

「ああ、そろそろ日が沈む時間だね」

 抜けるような青が、今では少し白みがかっている。
 そして水平線の向こうから徐々に茜色が広がっていく。

 赤、黄、白、青、紫···いろんな色がグラデーションになって空を染めている様は、なんとも幻想的だ。
 刻一刻と配色が変わる。この景色はこの瞬間だけのものだと思うと、見逃すまいとじっと見つめてしまう。

 雲を金に染め、空を赤く照らす力強い光もやがて弱まる。日が沈み夜が近づくこの時間も、僕は好きだ。

「さて、そろそろ戻ろうか」

 ライに促され、別荘へ戻ることになった。

 お散歩がてら、みんなで歩く。ぽつぽつとおしゃべりしながら歩くこの穏やかな時間も、僕は好きだ。

 別荘に着く頃には、すっかり水平線は見えなくなっていた。

 僕達は転移の魔法陣に入る。

「ウィル君、ティア、今日は一日お疲れさま。家に帰ったらたっぷり寝るんだよ」

 ライが僕とティアに声を掛けて、魔法陣に魔力を流し始めた。

 今朝と同じように陣の模様がだんだん光り、眩しさに目をつぶる。

「みんな、お疲れさま。家に着いたよ!」

 ライの声で目を開ける。
 僕の、家だ···!

 一瞬の移動だけど、いつものリビングにいることで、帰って来たという実感がじわじわと湧いてくる。

「わーい!今日は楽しかったー!ライもお疲れさまー!」

「だな!転移陣、すげーな!」

「そうなのだ!ライはすごいのだ!」

 ファム達の言葉に、ライは少し照れくさそうだ。

「ライ、助かった。お前も今日は早く休めよ」

「ふふ、ありがとう」

 その後いくつか言葉を交わし、今日は解散となった。


「今日は疲れただろう。ゆっくり寝てくれ」

 僕とティアをベッドに運んでくれたジルが、僕達を撫でながら言う。

「じる、あいあと。おあしゅみ!」

「おやすみなのだ!」

 今日は本当に楽しい一日だった。
 また明日からも、みんながいればきっと楽しいんだろうな。
 そう思いながら、僕は眠りについた。
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