転生したらドラゴンに拾われた

hiro

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最果ての森・成長編

100. お菓子作り

 ライの所有する島へ行った日の翌日。

 今日は何をして過ごそうか。
 昨日遠出をしたせいか、なんとなく家の中にいたい気分だ。まあ、移動はライのおかげで一瞬だったけど。

 ということで、この午前中は家の中で過ごすことにした。
 
 昨日ジルが料理中に魔法を使っていたので、それをまた見たいとお願いしたところ、ジルがキッチンの見える場所に椅子を置いてくれた。
 ティアの椅子もちゃんと隣に置いてくれるところが、ジルのさり気ない優しさだ。

「昼食にはまだ早いから···お菓子を作ってみるか」

 お菓子···!
 ああ、なんて幸せな響きなんだろうか。

「お菓子、お菓子!いい言葉なのだ!」

 ティアも僕と同じ気持ちらしい。
 尻尾のフリフリが視界の隅に見え、隣から楽しみにしている雰囲気が伝わってくる。

 ジルがキッチンに立ち、早速マジックバッグから材料を取り出し始めた。
 あれはカボチャかな?それからサツマイモ?
 あとは、白い粉が入った容器と、液体の入ったボトル。

 ジルはカボチャを手に取ると『ウォーター』と呟いた。水を出して表面を洗っている。サツマイモも同様だ。
 そしてそれぞれを一口大に切る。皮と、カボチャの種は除いている。
 全部は使わないようで、残りはまたマジックバッグにしまっている。時間経過を気にしなくていいという点で、テム特製のマジックバッグは前世の冷蔵庫よりも優秀だ。
 ジルは切ったカボチャとサツマイモを別々の鍋に入れ、そこにマジックバッグから取り出した水を入れている。
 
 ···あれ?
 『ウォーター』の魔法じゃなくて、わざわざ水を取り出したのは何故だろうか。

「うぉーたー、ちがう?」

「ん?···ああ、この水は汲んできたものだ。森の少し奥に水の湧き出る場所がある。魔法を使ってもいいんだが、こちらの方が美味いからな」

 なんと!森の湧水!

 ジルは食材を洗うのに魔法を使い、料理には汲んできた湧水を使っているということか。
 より美味しくするために手間をかけてくれていることを知り、感動する。

「わきみじゅ!おいちい!」

 思わず椅子に立ち上がる。感動を表したくて、万歳までしてしまった。

「···フッ。興味があるなら、行ってみるか?」

 え、いいの?湧水を汲みに?
 それは是非とも行ってみたい!

 また勢いよく万歳をする僕を見てジルが再び笑う。

「それなら、昼食後に行くか」

「あいあとー!」

 やったー!
 僕の希望を早速実現してくれるのが嬉しい。

 ワクワクが高まり過ぎて椅子の上で飛び跳ねたくなったので、気持ちを落ち着かせるためにティアをナデナデする。

「森の奥···。未知の領域なのだ···」

 ティアはというと、森の奥と聞いてちょっと緊張しているようだ。

 今度はティアを落ち着かせるためにナデナデする。

「ご主人、ありがとうなのだ。ご主人とジルがいれば、ワレは大丈夫なのだ!」

 気丈に振る舞うティアは、本当にいじらしい。
 もっと撫でたくなって、思わずワシャワシャしてしまった。

「さて、再開するか」
 
 ジルの声で、名残惜しいがティアから手を離す。
 そうだ、そういえばお菓子作りの途中だったんだ。

 ジルが『ファイア』と呟き、鍋を火にかけた。どうやら湧水でカボチャとサツマイモを茹でるようだ。

 しばらくして火を消し、鍋の中から茹でたカボチャとサツマイモを取り出す。
 湯気が出ていて、見るからにホクホクしている。茹でる前よりも色が鮮やかになっていて、もうこのまま食べてしまいたいくらい美味しそうだ。

 茹でて柔らかくなったカボチャとサツマイモをそれぞれ潰し、裏ごしする。
 カボチャとサツマイモ、それから2つを混ぜ合わせたもの。計3種類のペーストができた。
 そこに白い粉を加えてよく混ぜる。あの粉は小麦粉···いや、片栗粉かな?
 次に透明の液体を少々。ちょっとトロッとしていたから、きっと油なのだろう。

 生地がまとまるまで混ぜたら、それを少し取って小さく丸めている。小さいコロコロを作る作業は楽しそうだ。

「···やってみるか?」

 僕の熱視線に気づいたのか、丸める作業を一緒にさせてもらえることになった。

「『クリーン』」

 ジルが僕の手を綺麗にして、少量の生地を手に乗せてくれた。

「こうやって両手で丸められるか?」

 そう言いながらジルが手をゆっくりとクルクル回して小さなコロコロを作る。
 僕はそのお手本を見ながら手をクルクルする。

 ジルが作るコロコロよりちょっと不格好だけど、なんとか作ることができた。

「上手だ」

 ジルに見せると、そう褒めてくれた。
 嬉しくなって、もう一回、もう一回、とコロコロをたくさん作る。
 ティアもやりたそうにしていたけど、生地が可愛い肉球の隙間に埋まっちゃうからね。今回は我慢だ。その代わり、ティアはたくさん応援をしてくれた。
 
「あとは焼くだけだ。手伝ってくれて助かった」

 気づいたら結構な量のコロコロができあがっていた。
 本当はジルだけでやった方が早く済んだのだろうと思うが、それを言わない優しさがじんわり染みる。

 ジルがコロコロを天板の上に綺麗に並べる。その天板を箱のような物の中へ入れて蓋をする。そして、蓋に付いているダイヤルをいくつか回して操作している。

「これは魔道具だ。この箱の中が熱くなって、食材を焼くことができる」

 つまりオーブンのようなものだろうか。
 この世界にも、便利な魔道具があるんだな。

「これで終了だ。焼き上がりまではリビングにいるか?」

 ジルはそう言うが、洗い物が残っているし、リビングにいてもソワソワするだけになりそうな予感がする。
 
「くりーん?」

 僕は洗い物を指差して首を傾げる。

「ああ、そうだな。···練習してみるか?」

 ジルは僕が次に言いたいことまで察してくれたようだ。

 以前から、クリーンを習得したいと思っていたのだ。
 これが簡単なようで、意外と難しい。
 汚れを『落とす』ことは知っていても、汚れが『消える』現象というのをどうも上手く想像できないのだ。
 前世の記憶が変に影響しているのだろうか。

「ワレも!ワレも練習したいのだ!」

 先ほどのコロコロ作りに参加できなかったティアが、今度こそはと参加を表明する。
 
「分かった。だが俺は教えるのは苦手だからな···」

 それは重々承知しているが、少しでもアドバイスをもらえたら嬉しい。

 期待を込めてジルを見ていると、ジルが少し考えて、口を開いた。

「···『クリーン』と唱えると綺麗になる」

 ···うん、これだから天才は。

 結局、僕とティアで、ああでもない、こうでもないと頭を捻りながら練習をすることとなった。

 色々とイメージを巡らせてみたのだが、僕にとって一番しっくりきたのは、汚れを目に見えないレベルにまで分解するイメージだ。
 これでクリーンをかけると、とりあえず目に見える汚れはなくなる。ただ、分解された汚れがどうなったのかは分からない。というか、本当にイメージ通り分解されているのかも分からない。
 改良の余地はありそうだ。

 そしてなんと、ティアもティアなりに考えてクリーンを成功させていた。

「やった!ご主人、やったぞ!成功したのだ!」

 ティアが魔法を成功させたのは、おそらくこれが初めてだ。
 その喜びようは、言うまでもない。

「『クリーン』!おおっ!すごいのだ!『クリーン』!どんどん綺麗になるのだ!」

 ティアが目をキラキラさせてクリーンを連発する。
 洗い物では飽き足らず、目につく物に片っ端からクリーンをかけている。

 そんなティアを見守るジルの瞳が温かい。

 なんだか幸せな時間だ。

 僕が穏やかな幸せを満喫していると、キッチンの方でチリンという軽快な音が鳴った。
 これはもしかして、あの音なんじゃないだろうか。きっと、さらなる幸せを告げる音だ。

 チリンという音に誘発されるように、グゥ~という音が鳴った。
 僕は静かにお腹を押さえて、ジルが動くのをじっと待った。
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