6 / 14
風雅の都
第四話 闇に紛れて
しおりを挟む
「瀬兎、闇市に着いたぞ。起きれるか?」
「んー、起きる」
もう真夜中だ。
真っ暗な道に街灯や妖火の赤い光が灯る、妖が妖に物を売る市場。妖達はみんなお面を付けている。万が一人間に見つかった時のために。
「歩けるか?」
さっきまで重かった身体がびっくりするほど軽いのはなぜだろう。きっと、あの死体の山から抜け出せたからだ。
「うん。多分」
「じゃあ降りてくれ、重い」
「あ、失礼しちゃうわ!乙女に重いだなんて」
「お前なんかが乙女であってたまるか!」
こいつちゃっかり「お前」って言ってるし。あんたの主人は私なのに…
「んじゃ、爺さんのところ行くか」
「そうね」
本調子に戻ってきた私の様子を見ながらそう言った。どうやらあの戦いも、稷が死んだ事も事実らしい。私の血塗られた着物がそう物語っていた。芹は本当に慣れているのだろう。私は今でも身体が震えているのに…
「言っておくけど、俺だって稷が居なくなったのは心苦しい。けどそれ以上に、瀬兎が生きていて良かったと思っている。瀬兎が居なければ、俺が旅に出る意味がないからな。」
そう言いながら芹は、震える私を慰める様に、優しく手を握ってくれた。きっと、この先も、そんな事を言ってくれるのは、芹だけなのだろうと、この時も思ったのだ。
「ありがとう。これからも一緒にいてね」
私はそんな芹に微笑みながら感謝した。でもまだ旅は始まってすらいない。この先何が起こるかはわからない。いつか芹も居なくなって、私の旅自体が終わる事だってあり得るかもしれない。そう思うと怖くて、芹と繋いだ手を強く握り返した。
「当たり前だろ。俺には瀬兎の側以外行くところなんて無い。瀬兎が俺を必要としなくなるまでずっと側に居てやるさ」
お互いを信頼しあっていれば、きっとこの先も同じ道を歩ける。
「おーい爺さんいるかー?」
「んー、なんじゃ?」
やってきたのは私達の目的の店。
店の中から少し背の高めな背筋のまっすぐ伸びたお爺さんが出てきた。
このお爺さん、見た目よりずっと歳をとっているのよね。妖の中で生きているから普通の人間より少し寿命が長くなってるみたい。
「おおおー瀬兎ちゃんか」
「久しぶりね。お爺さん」
「今日は何の用じゃ?」
「爺さん、瀬兎に新しい着物を、それから霊符を多目にくれ」
「着物?動きやすい方がええかのぉ」
「そうね。出来るだけ」
「うーん。まっとれ」
そう言って店の奥に入っていく。
「ん、あれ?瀬兎様?」
私に声をかけてきたのは、薬師の妖、水蛇だ。
「王様、変わったんだって?噂になってるよ。でもやだなー。俺らは瀬兎様のおかげで商売出来る様になったのに、新しい王様、妖に対して厳しそうだしなー」
そんな事を言いながら隣に座る。
「どうかしら、私もあんまり知らないから」
「え?そうなのかい?君の義妹だろ?」
「ええ…ほら私、人より妖が好きだし」
事実、私は華流亞の事を何も知らない。妖が好きでは無い事はすぐにわかるのだが…
確か、私がこの国の王になってから、妖達に商売をする事を認めたんだっけな?それまでは裏でひっそり暮らしていた妖達が商売を始めた。妖達は人間に無いものを作り出す事に秀でている。だから、人間達も助かっているはずなのに、昼間商売をしている彼らを誰も妖だと思っていないから、感謝できないのも仕方ないか…
「ほれ、これならどうじゃ?」
「お、いいじゃん!動きやすそうだな」
お爺さんが持って来てくれた着物はやっぱり、私の髪色に合う赤がベース。足の方が馬袴になっていて、足が動きやすいデザインね
「それにしてもどうして着物なんか?」
「え、それは…服に血がついちゃって」
驚いた顔をする水蛇、そりゃそうだろう。
「え!?怪我したの?どこ?」
「大丈夫よ。怪我をした訳じゃなくて、返り血だから」
「ふふふ。やはり、強くなりましたね。瀬兎」
聞き覚えのある声が近くで聞こえる。
近くにいた妖達が一斉に、「赤城様」と言い出した。
「赤城様!偵察ご苦労様です!」
偵察?なんの?
私がキョトンとしていると
「王が変わるので、彼女がどんな人なのか見に行っていたのです。そしたら、あなたが大変な事に巻き込まれているではありませんか」
この赤城様、この辺の妖達のリーダー。
そして、私の師匠であり、妖の王に並ぶ凄い方。上空からふわりと降りてきて、九本の狐の尾をゆさゆさと動かしている。
今王都はあなたを探す為に大変なことになっているわと、さっきから大事な話をしているはずなのにさらりとしている。
「ねぇ師匠、稷は!?」
「稷?あぁこれのこと?」
師匠が二つに切れた霊符を出してヒラヒラと見せる。
「式神…なの?」
「言ってなかったかしら」
聞いてないぞ?師匠。それならそうと早く言ってくれればよかったのに…
むすぅっと、頬を膨らませ、師匠を見た。
「そんな顔しないの」
「稷は師匠なら治せるって言ってたわ」
「あら、稷は本当にそう言った?」
師匠は、手を顔に当てながら不思議そうな顔をしていた。
私は稷の言った事を思い返す。稷が消えた記憶が邪魔してなかなか思い出せない中やっと出てきたのは、あの言葉
「あのお方ならって言ってたわ」
「そうでしょう。あの方って言うのは私じゃ無いわ。我らが王は稷の主人よ。稷を直せるのはあの方だけだもの」
「え、じゃあ…稷はもう一生…」
「あら?それをあなたが探しに行くのでしょう?瀬兎。」
師匠は少し食い気味に、私に近寄りながら言った。正直、探し出せる自信は無い。そもそも探しに行くと言っていたのは、私がこの国を早く出たかったからだ。ただの興味で探せるほど甘い訳が無い。だけど…
「…そ、そうよ!必ず探し出して、稷を私が治すんだから!」
稷のためならやってやる!
「治すのはあなたじゃ無いでしょ?」
「そうだけど…私が王様を探し出すんだから同じことでしょ?」
「そうね…ある意味ではね。じゃあ、期待しているわ。さぁ悠長にしてる時間はないわ!あと一日経てば門が開くから私の家に行きましょう」
そういえば武器を買ってない。
でもきっと闇市を出たら家に行くつもりだったのだろう。師匠は家で鍛治をやっているから、欲しい武器はそちらの方が手に入る。
闇市を離れ、森の中に入っていく。夜の森は暗くて何も見えない、だけど師匠や芹の出す狐火が明るくて夜の森だという事を忘れてしまった。
「さぁ、着いた。少し寝るといいわ」
…落ち着かない、眠れない。
芹はもう眠ってしまった。
「眠れないの?」
眠れないに決まっている。今日はいろんなことが起きすぎた。
それに、師匠に聞きたいことも沢山あるから
「そうねぇ、話してあげたい事は沢山あるけど、芹も起きてからではないと話を進められないから、寝てしまいなさい」
フッと急に眠気が襲ってくる。
きっと師匠が言霊か何かを使ったのだろう。すっと視界が暗くなり…
そのまま朝まで眠ってしまった。
「おはよう子供達」
師匠は寝たのか寝てないのかわからない。私達が王都から逃げて来たから、見張りをしていたのかもしれない。
「さて、今日は沢山話すことがあるわ」
そう言って棚の上にあった写真を見せる。
「これはね、妖の四人の王様、つまり四天王が結成した時の写真」
右から、鳥のような白い羽が生えた妖。
そして師匠、その隣に師匠そっくりな白い九尾狐。
そして一番左に赤髪の鬼だ。
この人達を私は見た事あるかもしれないとふいに思ってしまう。でもいつかはわからない。もしかしたら、この家でこの写真を見た時の記憶かもしれないし…
「この左の鬼が千年前の闘いの最中に死んでしまってね。でも死んでないかもしれないと噂が立っているの」
そう…ただの噂。王が復活すると予兆が起こるらしいが、ここでは何も起きていない。私はこれからこの本当かもわからない噂を探そうとしているの。
「この子はいるかわからないわ。でも、他の二人は今もどこかで生きてる。この二人を探し出せばきっとあなたを導いてくれるはずよ?」
「なぁ赤城様、この二人がどこにいるのかはわからないのか?」
ええ、それは私も聞きたかった。
「わからないわ。妖の国にいるのかもしれないし、人間と共にいるのかもしれない」
師匠はきっとこの人達に会いたいはずだ。
それでもここにいるのは、ここがあの鬼が死んだ場所、千年前の闘いがあった場所。そして今もなお、多くの妖がいるから、それをずっと守っているの。
「そうそう、瀬兎にこれを渡しておかなきゃ」
そう言って取り出したのは随分と大きな箱。その中に入っていたのは、また新しい着物、それの上に羽織る羽織りや、小さな宝石があしらわれた綺麗な指輪。
それともう一つ。水色の紙に赤い血で『風』と書かれた霊符。いつのものだか分からないくらい古い。それでもこの赤は鮮血な赤い色をしている。
「師匠この霊符何?」
「これはね。この鬼が持っていた霊符よ」
と、写真も指差しながら言う。
この鬼が持っていた霊符ということは、この赤い血はこの子のものだということ。普通、妖は霊符に字を書いてから使う事はない。白い札を使った時に自分の血で術が浮かび上がり術を使い終わった後切れて散っていくのだと聞く、私もやった事がある。いや、いつもやっている。なのにこの札は使った形跡があるのにまだ残っているの。おかしいの他に何も無いわ。
確か鬼は人間の憎悪の塊により、人間が鬼へと姿を変えたものだというから、人間の術の可能性はあるけれど、その人間のほとんどが、霊符を使わない。妖ですら、特別な術を使う時以外は使わないのだ。
「これはね、何回でも使える術もかかっているの。この子はそれほど優れた妖術が使えたのよ」
なるほど、それなら納得がいく。
「ねぇ、師匠それならどうして私に渡すの?」
「え?だって瀬兎はその子を探しにいくのでしょう?なら持っていて損は無いわ」
あ、確かにそうでした。他二人を探すということに意識を持ってかれて、本来の目的をすっかり忘れていました。
「赤城様はどうして俺らがこの妖を探す旅を許可したんだ?」
「私も聞きたい!」
「私もね。もう一度この子に会いたいし、きっと眷属達も会いたがってる。だけど、あれから千年。生きて何処かにいるのかも知れないと、何度思ったことか…
人間達の間で噂になるくらいだもの。私はここを離れるわけには行かないから、あなた達が適任だと思ったのよ」
師匠はそれほどこの鬼を心配しているんだね。
必ず探し出して妖の国に行くよ!
「あ、そうそうこれは瀬兎にあげるわ」
渡してくれたのは長い刀と槍。少し年季の入った刀だが、初めて使った時から不思議と手に馴染むのだ。
師匠に教えてもらったのは刀と弓、それから槍だった。
槍は、戦い用では無い為、折りたたみ式だ。私は、槍を地面に突きつけて、そこを中心に結界を張るのを得意としている。そのために必要なのだ。
「芹はこれね」
「あぁ、懐かしいな」
「ふふ、妖の王が直々に貴方にあげた刀。千年経った今でもその輝きは保たれている。本当に凄いわ」
芹が渡された刀は千年前からの自分のものだと言う。何か特殊な能力が有るらしいが、その時まで秘密と、二人に言われてしまった。
「さて、これで準備は整ったわね。門は今日の夕方から明日の夜までしか開いていないから、上手くいけば奴らは追って来れない。けど万が一の時があるかも知れないから気をつけなさい」
「分かってるわ。夕方までは大人しく待ってるわよ」
いよいよだ。これから始まる私の旅。何が起こるかはその時のお楽しみ。
「んー、起きる」
もう真夜中だ。
真っ暗な道に街灯や妖火の赤い光が灯る、妖が妖に物を売る市場。妖達はみんなお面を付けている。万が一人間に見つかった時のために。
「歩けるか?」
さっきまで重かった身体がびっくりするほど軽いのはなぜだろう。きっと、あの死体の山から抜け出せたからだ。
「うん。多分」
「じゃあ降りてくれ、重い」
「あ、失礼しちゃうわ!乙女に重いだなんて」
「お前なんかが乙女であってたまるか!」
こいつちゃっかり「お前」って言ってるし。あんたの主人は私なのに…
「んじゃ、爺さんのところ行くか」
「そうね」
本調子に戻ってきた私の様子を見ながらそう言った。どうやらあの戦いも、稷が死んだ事も事実らしい。私の血塗られた着物がそう物語っていた。芹は本当に慣れているのだろう。私は今でも身体が震えているのに…
「言っておくけど、俺だって稷が居なくなったのは心苦しい。けどそれ以上に、瀬兎が生きていて良かったと思っている。瀬兎が居なければ、俺が旅に出る意味がないからな。」
そう言いながら芹は、震える私を慰める様に、優しく手を握ってくれた。きっと、この先も、そんな事を言ってくれるのは、芹だけなのだろうと、この時も思ったのだ。
「ありがとう。これからも一緒にいてね」
私はそんな芹に微笑みながら感謝した。でもまだ旅は始まってすらいない。この先何が起こるかはわからない。いつか芹も居なくなって、私の旅自体が終わる事だってあり得るかもしれない。そう思うと怖くて、芹と繋いだ手を強く握り返した。
「当たり前だろ。俺には瀬兎の側以外行くところなんて無い。瀬兎が俺を必要としなくなるまでずっと側に居てやるさ」
お互いを信頼しあっていれば、きっとこの先も同じ道を歩ける。
「おーい爺さんいるかー?」
「んー、なんじゃ?」
やってきたのは私達の目的の店。
店の中から少し背の高めな背筋のまっすぐ伸びたお爺さんが出てきた。
このお爺さん、見た目よりずっと歳をとっているのよね。妖の中で生きているから普通の人間より少し寿命が長くなってるみたい。
「おおおー瀬兎ちゃんか」
「久しぶりね。お爺さん」
「今日は何の用じゃ?」
「爺さん、瀬兎に新しい着物を、それから霊符を多目にくれ」
「着物?動きやすい方がええかのぉ」
「そうね。出来るだけ」
「うーん。まっとれ」
そう言って店の奥に入っていく。
「ん、あれ?瀬兎様?」
私に声をかけてきたのは、薬師の妖、水蛇だ。
「王様、変わったんだって?噂になってるよ。でもやだなー。俺らは瀬兎様のおかげで商売出来る様になったのに、新しい王様、妖に対して厳しそうだしなー」
そんな事を言いながら隣に座る。
「どうかしら、私もあんまり知らないから」
「え?そうなのかい?君の義妹だろ?」
「ええ…ほら私、人より妖が好きだし」
事実、私は華流亞の事を何も知らない。妖が好きでは無い事はすぐにわかるのだが…
確か、私がこの国の王になってから、妖達に商売をする事を認めたんだっけな?それまでは裏でひっそり暮らしていた妖達が商売を始めた。妖達は人間に無いものを作り出す事に秀でている。だから、人間達も助かっているはずなのに、昼間商売をしている彼らを誰も妖だと思っていないから、感謝できないのも仕方ないか…
「ほれ、これならどうじゃ?」
「お、いいじゃん!動きやすそうだな」
お爺さんが持って来てくれた着物はやっぱり、私の髪色に合う赤がベース。足の方が馬袴になっていて、足が動きやすいデザインね
「それにしてもどうして着物なんか?」
「え、それは…服に血がついちゃって」
驚いた顔をする水蛇、そりゃそうだろう。
「え!?怪我したの?どこ?」
「大丈夫よ。怪我をした訳じゃなくて、返り血だから」
「ふふふ。やはり、強くなりましたね。瀬兎」
聞き覚えのある声が近くで聞こえる。
近くにいた妖達が一斉に、「赤城様」と言い出した。
「赤城様!偵察ご苦労様です!」
偵察?なんの?
私がキョトンとしていると
「王が変わるので、彼女がどんな人なのか見に行っていたのです。そしたら、あなたが大変な事に巻き込まれているではありませんか」
この赤城様、この辺の妖達のリーダー。
そして、私の師匠であり、妖の王に並ぶ凄い方。上空からふわりと降りてきて、九本の狐の尾をゆさゆさと動かしている。
今王都はあなたを探す為に大変なことになっているわと、さっきから大事な話をしているはずなのにさらりとしている。
「ねぇ師匠、稷は!?」
「稷?あぁこれのこと?」
師匠が二つに切れた霊符を出してヒラヒラと見せる。
「式神…なの?」
「言ってなかったかしら」
聞いてないぞ?師匠。それならそうと早く言ってくれればよかったのに…
むすぅっと、頬を膨らませ、師匠を見た。
「そんな顔しないの」
「稷は師匠なら治せるって言ってたわ」
「あら、稷は本当にそう言った?」
師匠は、手を顔に当てながら不思議そうな顔をしていた。
私は稷の言った事を思い返す。稷が消えた記憶が邪魔してなかなか思い出せない中やっと出てきたのは、あの言葉
「あのお方ならって言ってたわ」
「そうでしょう。あの方って言うのは私じゃ無いわ。我らが王は稷の主人よ。稷を直せるのはあの方だけだもの」
「え、じゃあ…稷はもう一生…」
「あら?それをあなたが探しに行くのでしょう?瀬兎。」
師匠は少し食い気味に、私に近寄りながら言った。正直、探し出せる自信は無い。そもそも探しに行くと言っていたのは、私がこの国を早く出たかったからだ。ただの興味で探せるほど甘い訳が無い。だけど…
「…そ、そうよ!必ず探し出して、稷を私が治すんだから!」
稷のためならやってやる!
「治すのはあなたじゃ無いでしょ?」
「そうだけど…私が王様を探し出すんだから同じことでしょ?」
「そうね…ある意味ではね。じゃあ、期待しているわ。さぁ悠長にしてる時間はないわ!あと一日経てば門が開くから私の家に行きましょう」
そういえば武器を買ってない。
でもきっと闇市を出たら家に行くつもりだったのだろう。師匠は家で鍛治をやっているから、欲しい武器はそちらの方が手に入る。
闇市を離れ、森の中に入っていく。夜の森は暗くて何も見えない、だけど師匠や芹の出す狐火が明るくて夜の森だという事を忘れてしまった。
「さぁ、着いた。少し寝るといいわ」
…落ち着かない、眠れない。
芹はもう眠ってしまった。
「眠れないの?」
眠れないに決まっている。今日はいろんなことが起きすぎた。
それに、師匠に聞きたいことも沢山あるから
「そうねぇ、話してあげたい事は沢山あるけど、芹も起きてからではないと話を進められないから、寝てしまいなさい」
フッと急に眠気が襲ってくる。
きっと師匠が言霊か何かを使ったのだろう。すっと視界が暗くなり…
そのまま朝まで眠ってしまった。
「おはよう子供達」
師匠は寝たのか寝てないのかわからない。私達が王都から逃げて来たから、見張りをしていたのかもしれない。
「さて、今日は沢山話すことがあるわ」
そう言って棚の上にあった写真を見せる。
「これはね、妖の四人の王様、つまり四天王が結成した時の写真」
右から、鳥のような白い羽が生えた妖。
そして師匠、その隣に師匠そっくりな白い九尾狐。
そして一番左に赤髪の鬼だ。
この人達を私は見た事あるかもしれないとふいに思ってしまう。でもいつかはわからない。もしかしたら、この家でこの写真を見た時の記憶かもしれないし…
「この左の鬼が千年前の闘いの最中に死んでしまってね。でも死んでないかもしれないと噂が立っているの」
そう…ただの噂。王が復活すると予兆が起こるらしいが、ここでは何も起きていない。私はこれからこの本当かもわからない噂を探そうとしているの。
「この子はいるかわからないわ。でも、他の二人は今もどこかで生きてる。この二人を探し出せばきっとあなたを導いてくれるはずよ?」
「なぁ赤城様、この二人がどこにいるのかはわからないのか?」
ええ、それは私も聞きたかった。
「わからないわ。妖の国にいるのかもしれないし、人間と共にいるのかもしれない」
師匠はきっとこの人達に会いたいはずだ。
それでもここにいるのは、ここがあの鬼が死んだ場所、千年前の闘いがあった場所。そして今もなお、多くの妖がいるから、それをずっと守っているの。
「そうそう、瀬兎にこれを渡しておかなきゃ」
そう言って取り出したのは随分と大きな箱。その中に入っていたのは、また新しい着物、それの上に羽織る羽織りや、小さな宝石があしらわれた綺麗な指輪。
それともう一つ。水色の紙に赤い血で『風』と書かれた霊符。いつのものだか分からないくらい古い。それでもこの赤は鮮血な赤い色をしている。
「師匠この霊符何?」
「これはね。この鬼が持っていた霊符よ」
と、写真も指差しながら言う。
この鬼が持っていた霊符ということは、この赤い血はこの子のものだということ。普通、妖は霊符に字を書いてから使う事はない。白い札を使った時に自分の血で術が浮かび上がり術を使い終わった後切れて散っていくのだと聞く、私もやった事がある。いや、いつもやっている。なのにこの札は使った形跡があるのにまだ残っているの。おかしいの他に何も無いわ。
確か鬼は人間の憎悪の塊により、人間が鬼へと姿を変えたものだというから、人間の術の可能性はあるけれど、その人間のほとんどが、霊符を使わない。妖ですら、特別な術を使う時以外は使わないのだ。
「これはね、何回でも使える術もかかっているの。この子はそれほど優れた妖術が使えたのよ」
なるほど、それなら納得がいく。
「ねぇ、師匠それならどうして私に渡すの?」
「え?だって瀬兎はその子を探しにいくのでしょう?なら持っていて損は無いわ」
あ、確かにそうでした。他二人を探すということに意識を持ってかれて、本来の目的をすっかり忘れていました。
「赤城様はどうして俺らがこの妖を探す旅を許可したんだ?」
「私も聞きたい!」
「私もね。もう一度この子に会いたいし、きっと眷属達も会いたがってる。だけど、あれから千年。生きて何処かにいるのかも知れないと、何度思ったことか…
人間達の間で噂になるくらいだもの。私はここを離れるわけには行かないから、あなた達が適任だと思ったのよ」
師匠はそれほどこの鬼を心配しているんだね。
必ず探し出して妖の国に行くよ!
「あ、そうそうこれは瀬兎にあげるわ」
渡してくれたのは長い刀と槍。少し年季の入った刀だが、初めて使った時から不思議と手に馴染むのだ。
師匠に教えてもらったのは刀と弓、それから槍だった。
槍は、戦い用では無い為、折りたたみ式だ。私は、槍を地面に突きつけて、そこを中心に結界を張るのを得意としている。そのために必要なのだ。
「芹はこれね」
「あぁ、懐かしいな」
「ふふ、妖の王が直々に貴方にあげた刀。千年経った今でもその輝きは保たれている。本当に凄いわ」
芹が渡された刀は千年前からの自分のものだと言う。何か特殊な能力が有るらしいが、その時まで秘密と、二人に言われてしまった。
「さて、これで準備は整ったわね。門は今日の夕方から明日の夜までしか開いていないから、上手くいけば奴らは追って来れない。けど万が一の時があるかも知れないから気をつけなさい」
「分かってるわ。夕方までは大人しく待ってるわよ」
いよいよだ。これから始まる私の旅。何が起こるかはその時のお楽しみ。
0
あなたにおすすめの小説
「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある
柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった
王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。
リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。
「わかりました。あなたには、がっかりです」
微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く
ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。
5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。
夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…
好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】
皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」
「っ――――!!」
「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」
クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。
******
・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。
皆様ありがとう!今日で王妃、やめます!〜十三歳で王妃に、十八歳でこのたび離縁いたしました〜
百門一新
恋愛
セレスティーヌは、たった十三歳という年齢でアルフレッド・デュガウスと結婚し、国王と王妃になった。彼が王になる多には必要な結婚だった――それから五年、ようやく吉報がきた。
「君には苦労をかけた。王妃にする相手が決まった」
ということは……もうつらい仕事はしなくていいのねっ? 夫婦だと偽装する日々からも解放されるのね!?
ありがとうアルフレッド様! さすが私のことよく分かってるわ! セレスティーヌは離縁を大喜びで受け入れてバカンスに出かけたのだが、夫、いや元夫の様子が少しおかしいようで……?
サクッと読める読み切りの短編となっていります!お楽しみいただけましたら嬉しく思います!
※他サイト様にも掲載
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
つまらない妃と呼ばれた日
柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。
舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。
さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。
リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。
――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる