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風雅の都
第四話 闇に紛れて
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「瀬兎、闇市に着いたぞ。起きれるか?」
「んー、起きる」
もう真夜中だ。
真っ暗な道に街灯や妖火の赤い光が灯る、妖が妖に物を売る市場。妖達はみんなお面を付けている。万が一人間に見つかった時のために。
「歩けるか?」
さっきまで重かった身体がびっくりするほど軽いのはなぜだろう。きっと、あの死体の山から抜け出せたからだ。
「うん。多分」
「じゃあ降りてくれ、重い」
「あ、失礼しちゃうわ!乙女に重いだなんて」
「お前なんかが乙女であってたまるか!」
こいつちゃっかり「お前」って言ってるし。あんたの主人は私なのに…
「んじゃ、爺さんのところ行くか」
「そうね」
本調子に戻ってきた私の様子を見ながらそう言った。どうやらあの戦いも、稷が死んだ事も事実らしい。私の血塗られた着物がそう物語っていた。芹は本当に慣れているのだろう。私は今でも身体が震えているのに…
「言っておくけど、俺だって稷が居なくなったのは心苦しい。けどそれ以上に、瀬兎が生きていて良かったと思っている。瀬兎が居なければ、俺が旅に出る意味がないからな。」
そう言いながら芹は、震える私を慰める様に、優しく手を握ってくれた。きっと、この先も、そんな事を言ってくれるのは、芹だけなのだろうと、この時も思ったのだ。
「ありがとう。これからも一緒にいてね」
私はそんな芹に微笑みながら感謝した。でもまだ旅は始まってすらいない。この先何が起こるかはわからない。いつか芹も居なくなって、私の旅自体が終わる事だってあり得るかもしれない。そう思うと怖くて、芹と繋いだ手を強く握り返した。
「当たり前だろ。俺には瀬兎の側以外行くところなんて無い。瀬兎が俺を必要としなくなるまでずっと側に居てやるさ」
お互いを信頼しあっていれば、きっとこの先も同じ道を歩ける。
「おーい爺さんいるかー?」
「んー、なんじゃ?」
やってきたのは私達の目的の店。
店の中から少し背の高めな背筋のまっすぐ伸びたお爺さんが出てきた。
このお爺さん、見た目よりずっと歳をとっているのよね。妖の中で生きているから普通の人間より少し寿命が長くなってるみたい。
「おおおー瀬兎ちゃんか」
「久しぶりね。お爺さん」
「今日は何の用じゃ?」
「爺さん、瀬兎に新しい着物を、それから霊符を多目にくれ」
「着物?動きやすい方がええかのぉ」
「そうね。出来るだけ」
「うーん。まっとれ」
そう言って店の奥に入っていく。
「ん、あれ?瀬兎様?」
私に声をかけてきたのは、薬師の妖、水蛇だ。
「王様、変わったんだって?噂になってるよ。でもやだなー。俺らは瀬兎様のおかげで商売出来る様になったのに、新しい王様、妖に対して厳しそうだしなー」
そんな事を言いながら隣に座る。
「どうかしら、私もあんまり知らないから」
「え?そうなのかい?君の義妹だろ?」
「ええ…ほら私、人より妖が好きだし」
事実、私は華流亞の事を何も知らない。妖が好きでは無い事はすぐにわかるのだが…
確か、私がこの国の王になってから、妖達に商売をする事を認めたんだっけな?それまでは裏でひっそり暮らしていた妖達が商売を始めた。妖達は人間に無いものを作り出す事に秀でている。だから、人間達も助かっているはずなのに、昼間商売をしている彼らを誰も妖だと思っていないから、感謝できないのも仕方ないか…
「ほれ、これならどうじゃ?」
「お、いいじゃん!動きやすそうだな」
お爺さんが持って来てくれた着物はやっぱり、私の髪色に合う赤がベース。足の方が馬袴になっていて、足が動きやすいデザインね
「それにしてもどうして着物なんか?」
「え、それは…服に血がついちゃって」
驚いた顔をする水蛇、そりゃそうだろう。
「え!?怪我したの?どこ?」
「大丈夫よ。怪我をした訳じゃなくて、返り血だから」
「ふふふ。やはり、強くなりましたね。瀬兎」
聞き覚えのある声が近くで聞こえる。
近くにいた妖達が一斉に、「赤城様」と言い出した。
「赤城様!偵察ご苦労様です!」
偵察?なんの?
私がキョトンとしていると
「王が変わるので、彼女がどんな人なのか見に行っていたのです。そしたら、あなたが大変な事に巻き込まれているではありませんか」
この赤城様、この辺の妖達のリーダー。
そして、私の師匠であり、妖の王に並ぶ凄い方。上空からふわりと降りてきて、九本の狐の尾をゆさゆさと動かしている。
今王都はあなたを探す為に大変なことになっているわと、さっきから大事な話をしているはずなのにさらりとしている。
「ねぇ師匠、稷は!?」
「稷?あぁこれのこと?」
師匠が二つに切れた霊符を出してヒラヒラと見せる。
「式神…なの?」
「言ってなかったかしら」
聞いてないぞ?師匠。それならそうと早く言ってくれればよかったのに…
むすぅっと、頬を膨らませ、師匠を見た。
「そんな顔しないの」
「稷は師匠なら治せるって言ってたわ」
「あら、稷は本当にそう言った?」
師匠は、手を顔に当てながら不思議そうな顔をしていた。
私は稷の言った事を思い返す。稷が消えた記憶が邪魔してなかなか思い出せない中やっと出てきたのは、あの言葉
「あのお方ならって言ってたわ」
「そうでしょう。あの方って言うのは私じゃ無いわ。我らが王は稷の主人よ。稷を直せるのはあの方だけだもの」
「え、じゃあ…稷はもう一生…」
「あら?それをあなたが探しに行くのでしょう?瀬兎。」
師匠は少し食い気味に、私に近寄りながら言った。正直、探し出せる自信は無い。そもそも探しに行くと言っていたのは、私がこの国を早く出たかったからだ。ただの興味で探せるほど甘い訳が無い。だけど…
「…そ、そうよ!必ず探し出して、稷を私が治すんだから!」
稷のためならやってやる!
「治すのはあなたじゃ無いでしょ?」
「そうだけど…私が王様を探し出すんだから同じことでしょ?」
「そうね…ある意味ではね。じゃあ、期待しているわ。さぁ悠長にしてる時間はないわ!あと一日経てば門が開くから私の家に行きましょう」
そういえば武器を買ってない。
でもきっと闇市を出たら家に行くつもりだったのだろう。師匠は家で鍛治をやっているから、欲しい武器はそちらの方が手に入る。
闇市を離れ、森の中に入っていく。夜の森は暗くて何も見えない、だけど師匠や芹の出す狐火が明るくて夜の森だという事を忘れてしまった。
「さぁ、着いた。少し寝るといいわ」
…落ち着かない、眠れない。
芹はもう眠ってしまった。
「眠れないの?」
眠れないに決まっている。今日はいろんなことが起きすぎた。
それに、師匠に聞きたいことも沢山あるから
「そうねぇ、話してあげたい事は沢山あるけど、芹も起きてからではないと話を進められないから、寝てしまいなさい」
フッと急に眠気が襲ってくる。
きっと師匠が言霊か何かを使ったのだろう。すっと視界が暗くなり…
そのまま朝まで眠ってしまった。
「おはよう子供達」
師匠は寝たのか寝てないのかわからない。私達が王都から逃げて来たから、見張りをしていたのかもしれない。
「さて、今日は沢山話すことがあるわ」
そう言って棚の上にあった写真を見せる。
「これはね、妖の四人の王様、つまり四天王が結成した時の写真」
右から、鳥のような白い羽が生えた妖。
そして師匠、その隣に師匠そっくりな白い九尾狐。
そして一番左に赤髪の鬼だ。
この人達を私は見た事あるかもしれないとふいに思ってしまう。でもいつかはわからない。もしかしたら、この家でこの写真を見た時の記憶かもしれないし…
「この左の鬼が千年前の闘いの最中に死んでしまってね。でも死んでないかもしれないと噂が立っているの」
そう…ただの噂。王が復活すると予兆が起こるらしいが、ここでは何も起きていない。私はこれからこの本当かもわからない噂を探そうとしているの。
「この子はいるかわからないわ。でも、他の二人は今もどこかで生きてる。この二人を探し出せばきっとあなたを導いてくれるはずよ?」
「なぁ赤城様、この二人がどこにいるのかはわからないのか?」
ええ、それは私も聞きたかった。
「わからないわ。妖の国にいるのかもしれないし、人間と共にいるのかもしれない」
師匠はきっとこの人達に会いたいはずだ。
それでもここにいるのは、ここがあの鬼が死んだ場所、千年前の闘いがあった場所。そして今もなお、多くの妖がいるから、それをずっと守っているの。
「そうそう、瀬兎にこれを渡しておかなきゃ」
そう言って取り出したのは随分と大きな箱。その中に入っていたのは、また新しい着物、それの上に羽織る羽織りや、小さな宝石があしらわれた綺麗な指輪。
それともう一つ。水色の紙に赤い血で『風』と書かれた霊符。いつのものだか分からないくらい古い。それでもこの赤は鮮血な赤い色をしている。
「師匠この霊符何?」
「これはね。この鬼が持っていた霊符よ」
と、写真も指差しながら言う。
この鬼が持っていた霊符ということは、この赤い血はこの子のものだということ。普通、妖は霊符に字を書いてから使う事はない。白い札を使った時に自分の血で術が浮かび上がり術を使い終わった後切れて散っていくのだと聞く、私もやった事がある。いや、いつもやっている。なのにこの札は使った形跡があるのにまだ残っているの。おかしいの他に何も無いわ。
確か鬼は人間の憎悪の塊により、人間が鬼へと姿を変えたものだというから、人間の術の可能性はあるけれど、その人間のほとんどが、霊符を使わない。妖ですら、特別な術を使う時以外は使わないのだ。
「これはね、何回でも使える術もかかっているの。この子はそれほど優れた妖術が使えたのよ」
なるほど、それなら納得がいく。
「ねぇ、師匠それならどうして私に渡すの?」
「え?だって瀬兎はその子を探しにいくのでしょう?なら持っていて損は無いわ」
あ、確かにそうでした。他二人を探すということに意識を持ってかれて、本来の目的をすっかり忘れていました。
「赤城様はどうして俺らがこの妖を探す旅を許可したんだ?」
「私も聞きたい!」
「私もね。もう一度この子に会いたいし、きっと眷属達も会いたがってる。だけど、あれから千年。生きて何処かにいるのかも知れないと、何度思ったことか…
人間達の間で噂になるくらいだもの。私はここを離れるわけには行かないから、あなた達が適任だと思ったのよ」
師匠はそれほどこの鬼を心配しているんだね。
必ず探し出して妖の国に行くよ!
「あ、そうそうこれは瀬兎にあげるわ」
渡してくれたのは長い刀と槍。少し年季の入った刀だが、初めて使った時から不思議と手に馴染むのだ。
師匠に教えてもらったのは刀と弓、それから槍だった。
槍は、戦い用では無い為、折りたたみ式だ。私は、槍を地面に突きつけて、そこを中心に結界を張るのを得意としている。そのために必要なのだ。
「芹はこれね」
「あぁ、懐かしいな」
「ふふ、妖の王が直々に貴方にあげた刀。千年経った今でもその輝きは保たれている。本当に凄いわ」
芹が渡された刀は千年前からの自分のものだと言う。何か特殊な能力が有るらしいが、その時まで秘密と、二人に言われてしまった。
「さて、これで準備は整ったわね。門は今日の夕方から明日の夜までしか開いていないから、上手くいけば奴らは追って来れない。けど万が一の時があるかも知れないから気をつけなさい」
「分かってるわ。夕方までは大人しく待ってるわよ」
いよいよだ。これから始まる私の旅。何が起こるかはその時のお楽しみ。
「んー、起きる」
もう真夜中だ。
真っ暗な道に街灯や妖火の赤い光が灯る、妖が妖に物を売る市場。妖達はみんなお面を付けている。万が一人間に見つかった時のために。
「歩けるか?」
さっきまで重かった身体がびっくりするほど軽いのはなぜだろう。きっと、あの死体の山から抜け出せたからだ。
「うん。多分」
「じゃあ降りてくれ、重い」
「あ、失礼しちゃうわ!乙女に重いだなんて」
「お前なんかが乙女であってたまるか!」
こいつちゃっかり「お前」って言ってるし。あんたの主人は私なのに…
「んじゃ、爺さんのところ行くか」
「そうね」
本調子に戻ってきた私の様子を見ながらそう言った。どうやらあの戦いも、稷が死んだ事も事実らしい。私の血塗られた着物がそう物語っていた。芹は本当に慣れているのだろう。私は今でも身体が震えているのに…
「言っておくけど、俺だって稷が居なくなったのは心苦しい。けどそれ以上に、瀬兎が生きていて良かったと思っている。瀬兎が居なければ、俺が旅に出る意味がないからな。」
そう言いながら芹は、震える私を慰める様に、優しく手を握ってくれた。きっと、この先も、そんな事を言ってくれるのは、芹だけなのだろうと、この時も思ったのだ。
「ありがとう。これからも一緒にいてね」
私はそんな芹に微笑みながら感謝した。でもまだ旅は始まってすらいない。この先何が起こるかはわからない。いつか芹も居なくなって、私の旅自体が終わる事だってあり得るかもしれない。そう思うと怖くて、芹と繋いだ手を強く握り返した。
「当たり前だろ。俺には瀬兎の側以外行くところなんて無い。瀬兎が俺を必要としなくなるまでずっと側に居てやるさ」
お互いを信頼しあっていれば、きっとこの先も同じ道を歩ける。
「おーい爺さんいるかー?」
「んー、なんじゃ?」
やってきたのは私達の目的の店。
店の中から少し背の高めな背筋のまっすぐ伸びたお爺さんが出てきた。
このお爺さん、見た目よりずっと歳をとっているのよね。妖の中で生きているから普通の人間より少し寿命が長くなってるみたい。
「おおおー瀬兎ちゃんか」
「久しぶりね。お爺さん」
「今日は何の用じゃ?」
「爺さん、瀬兎に新しい着物を、それから霊符を多目にくれ」
「着物?動きやすい方がええかのぉ」
「そうね。出来るだけ」
「うーん。まっとれ」
そう言って店の奥に入っていく。
「ん、あれ?瀬兎様?」
私に声をかけてきたのは、薬師の妖、水蛇だ。
「王様、変わったんだって?噂になってるよ。でもやだなー。俺らは瀬兎様のおかげで商売出来る様になったのに、新しい王様、妖に対して厳しそうだしなー」
そんな事を言いながら隣に座る。
「どうかしら、私もあんまり知らないから」
「え?そうなのかい?君の義妹だろ?」
「ええ…ほら私、人より妖が好きだし」
事実、私は華流亞の事を何も知らない。妖が好きでは無い事はすぐにわかるのだが…
確か、私がこの国の王になってから、妖達に商売をする事を認めたんだっけな?それまでは裏でひっそり暮らしていた妖達が商売を始めた。妖達は人間に無いものを作り出す事に秀でている。だから、人間達も助かっているはずなのに、昼間商売をしている彼らを誰も妖だと思っていないから、感謝できないのも仕方ないか…
「ほれ、これならどうじゃ?」
「お、いいじゃん!動きやすそうだな」
お爺さんが持って来てくれた着物はやっぱり、私の髪色に合う赤がベース。足の方が馬袴になっていて、足が動きやすいデザインね
「それにしてもどうして着物なんか?」
「え、それは…服に血がついちゃって」
驚いた顔をする水蛇、そりゃそうだろう。
「え!?怪我したの?どこ?」
「大丈夫よ。怪我をした訳じゃなくて、返り血だから」
「ふふふ。やはり、強くなりましたね。瀬兎」
聞き覚えのある声が近くで聞こえる。
近くにいた妖達が一斉に、「赤城様」と言い出した。
「赤城様!偵察ご苦労様です!」
偵察?なんの?
私がキョトンとしていると
「王が変わるので、彼女がどんな人なのか見に行っていたのです。そしたら、あなたが大変な事に巻き込まれているではありませんか」
この赤城様、この辺の妖達のリーダー。
そして、私の師匠であり、妖の王に並ぶ凄い方。上空からふわりと降りてきて、九本の狐の尾をゆさゆさと動かしている。
今王都はあなたを探す為に大変なことになっているわと、さっきから大事な話をしているはずなのにさらりとしている。
「ねぇ師匠、稷は!?」
「稷?あぁこれのこと?」
師匠が二つに切れた霊符を出してヒラヒラと見せる。
「式神…なの?」
「言ってなかったかしら」
聞いてないぞ?師匠。それならそうと早く言ってくれればよかったのに…
むすぅっと、頬を膨らませ、師匠を見た。
「そんな顔しないの」
「稷は師匠なら治せるって言ってたわ」
「あら、稷は本当にそう言った?」
師匠は、手を顔に当てながら不思議そうな顔をしていた。
私は稷の言った事を思い返す。稷が消えた記憶が邪魔してなかなか思い出せない中やっと出てきたのは、あの言葉
「あのお方ならって言ってたわ」
「そうでしょう。あの方って言うのは私じゃ無いわ。我らが王は稷の主人よ。稷を直せるのはあの方だけだもの」
「え、じゃあ…稷はもう一生…」
「あら?それをあなたが探しに行くのでしょう?瀬兎。」
師匠は少し食い気味に、私に近寄りながら言った。正直、探し出せる自信は無い。そもそも探しに行くと言っていたのは、私がこの国を早く出たかったからだ。ただの興味で探せるほど甘い訳が無い。だけど…
「…そ、そうよ!必ず探し出して、稷を私が治すんだから!」
稷のためならやってやる!
「治すのはあなたじゃ無いでしょ?」
「そうだけど…私が王様を探し出すんだから同じことでしょ?」
「そうね…ある意味ではね。じゃあ、期待しているわ。さぁ悠長にしてる時間はないわ!あと一日経てば門が開くから私の家に行きましょう」
そういえば武器を買ってない。
でもきっと闇市を出たら家に行くつもりだったのだろう。師匠は家で鍛治をやっているから、欲しい武器はそちらの方が手に入る。
闇市を離れ、森の中に入っていく。夜の森は暗くて何も見えない、だけど師匠や芹の出す狐火が明るくて夜の森だという事を忘れてしまった。
「さぁ、着いた。少し寝るといいわ」
…落ち着かない、眠れない。
芹はもう眠ってしまった。
「眠れないの?」
眠れないに決まっている。今日はいろんなことが起きすぎた。
それに、師匠に聞きたいことも沢山あるから
「そうねぇ、話してあげたい事は沢山あるけど、芹も起きてからではないと話を進められないから、寝てしまいなさい」
フッと急に眠気が襲ってくる。
きっと師匠が言霊か何かを使ったのだろう。すっと視界が暗くなり…
そのまま朝まで眠ってしまった。
「おはよう子供達」
師匠は寝たのか寝てないのかわからない。私達が王都から逃げて来たから、見張りをしていたのかもしれない。
「さて、今日は沢山話すことがあるわ」
そう言って棚の上にあった写真を見せる。
「これはね、妖の四人の王様、つまり四天王が結成した時の写真」
右から、鳥のような白い羽が生えた妖。
そして師匠、その隣に師匠そっくりな白い九尾狐。
そして一番左に赤髪の鬼だ。
この人達を私は見た事あるかもしれないとふいに思ってしまう。でもいつかはわからない。もしかしたら、この家でこの写真を見た時の記憶かもしれないし…
「この左の鬼が千年前の闘いの最中に死んでしまってね。でも死んでないかもしれないと噂が立っているの」
そう…ただの噂。王が復活すると予兆が起こるらしいが、ここでは何も起きていない。私はこれからこの本当かもわからない噂を探そうとしているの。
「この子はいるかわからないわ。でも、他の二人は今もどこかで生きてる。この二人を探し出せばきっとあなたを導いてくれるはずよ?」
「なぁ赤城様、この二人がどこにいるのかはわからないのか?」
ええ、それは私も聞きたかった。
「わからないわ。妖の国にいるのかもしれないし、人間と共にいるのかもしれない」
師匠はきっとこの人達に会いたいはずだ。
それでもここにいるのは、ここがあの鬼が死んだ場所、千年前の闘いがあった場所。そして今もなお、多くの妖がいるから、それをずっと守っているの。
「そうそう、瀬兎にこれを渡しておかなきゃ」
そう言って取り出したのは随分と大きな箱。その中に入っていたのは、また新しい着物、それの上に羽織る羽織りや、小さな宝石があしらわれた綺麗な指輪。
それともう一つ。水色の紙に赤い血で『風』と書かれた霊符。いつのものだか分からないくらい古い。それでもこの赤は鮮血な赤い色をしている。
「師匠この霊符何?」
「これはね。この鬼が持っていた霊符よ」
と、写真も指差しながら言う。
この鬼が持っていた霊符ということは、この赤い血はこの子のものだということ。普通、妖は霊符に字を書いてから使う事はない。白い札を使った時に自分の血で術が浮かび上がり術を使い終わった後切れて散っていくのだと聞く、私もやった事がある。いや、いつもやっている。なのにこの札は使った形跡があるのにまだ残っているの。おかしいの他に何も無いわ。
確か鬼は人間の憎悪の塊により、人間が鬼へと姿を変えたものだというから、人間の術の可能性はあるけれど、その人間のほとんどが、霊符を使わない。妖ですら、特別な術を使う時以外は使わないのだ。
「これはね、何回でも使える術もかかっているの。この子はそれほど優れた妖術が使えたのよ」
なるほど、それなら納得がいく。
「ねぇ、師匠それならどうして私に渡すの?」
「え?だって瀬兎はその子を探しにいくのでしょう?なら持っていて損は無いわ」
あ、確かにそうでした。他二人を探すということに意識を持ってかれて、本来の目的をすっかり忘れていました。
「赤城様はどうして俺らがこの妖を探す旅を許可したんだ?」
「私も聞きたい!」
「私もね。もう一度この子に会いたいし、きっと眷属達も会いたがってる。だけど、あれから千年。生きて何処かにいるのかも知れないと、何度思ったことか…
人間達の間で噂になるくらいだもの。私はここを離れるわけには行かないから、あなた達が適任だと思ったのよ」
師匠はそれほどこの鬼を心配しているんだね。
必ず探し出して妖の国に行くよ!
「あ、そうそうこれは瀬兎にあげるわ」
渡してくれたのは長い刀と槍。少し年季の入った刀だが、初めて使った時から不思議と手に馴染むのだ。
師匠に教えてもらったのは刀と弓、それから槍だった。
槍は、戦い用では無い為、折りたたみ式だ。私は、槍を地面に突きつけて、そこを中心に結界を張るのを得意としている。そのために必要なのだ。
「芹はこれね」
「あぁ、懐かしいな」
「ふふ、妖の王が直々に貴方にあげた刀。千年経った今でもその輝きは保たれている。本当に凄いわ」
芹が渡された刀は千年前からの自分のものだと言う。何か特殊な能力が有るらしいが、その時まで秘密と、二人に言われてしまった。
「さて、これで準備は整ったわね。門は今日の夕方から明日の夜までしか開いていないから、上手くいけば奴らは追って来れない。けど万が一の時があるかも知れないから気をつけなさい」
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