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魔法と罵倒と追放と

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 俺のキックを察知したゴブリンは咄嗟に持っていたこん棒で股間をガードした。
 
 「おいおいオークの頭を一撃で切り離した蹴りをそんな棒切れで防げると思ってるのか? 甘いぜ小鬼」
 「いいぞホズマ」
 「ホズマくーん、やっちゃってー」
 皆の声援が力になる。
 このままこん棒ごと蹴り抜いてやるぜ。
 
 ゴキッ。

 何かが折れる音が響いた。
 
 ゴブリンの方を見ると、こん棒を振り抜いている。
 これはあれだな、ガードと見せかけての打撃。バントと見せかけてのヒッティング。つまりバスターだな。
 そんな走馬灯のようなスローな考えの直後、今まで感じたことのない痛みが俺の脳を駆け巡った。
 「い、いってーーーー足がぁぁぁぁ」
 俺の足が脛から先が有り得ない方向に曲がっている。
 俺はバランスを崩しその場に倒れこんだ。

 キィィィィーーーー。
 俺が倒れたことを確認したゴブリン達は、こん棒を振り上げて一斉に襲い掛かってきた。

 「風の精霊の御名において命ずる」
 「火の精霊の御名において命ずる」
 エレナとローザが、そう叫びながら空中をなぞった後、その場所に魔法陣のような紋様が浮かび上がった。
 「ウインドウォール」
 「ファイヤーボール」
 続けて発せられたその言葉の後、緑色のモヤが俺の周りを取り囲んでゴブリンのこん棒を弾き返した。
 そしてすぐにバスケットボール大の火の玉が1匹のゴブリンに当たり燃え上がった。

 「これって魔法?」
 素直に感心できたのは、エレナの魔法に包まれて、骨折の痛みが和らいでいるからなのかもしれない。
 初めて見た魔法‼ 感動しかない。

 「ホズマくん大丈夫?」
 「あっはい、すみません」
 「どんくさ」
 声をかけてくれたエレナの後ろでローザが呆れ顔で次々にファイヤーボールを放ち、残りのゴブリンをいとも簡単に焼き払った。
 「魔法、凄いですね」
 「⁉」
 俺の言葉に皆が驚いている。

 「初歩の初歩だぞ、威力はどうあれ子供でも使える魔法だ。知らないのか?」
 エルドが眉間にシワを寄せて俺を見た。
 「そ、そうなんですか?」
 知らないものは知らないよ、だって転生してきたばっかりだし。

 「ホントに大丈夫かコイツ」
 オドドアさんがエルドに問いかけた。
 「エレナ、すまないけど回復魔法をホズマにかけてやってくれ」
 「オッケー」
 エルドに頼まれたエレナが魔法を唱えると、俺の足が暖かい緑色のモヤに包まれた。

 信じられない光景だ。全治に3ヶ月以上はかかりそうな骨折が完全に治ってしまった。
 痛みもない。
 「す、凄いっすね、もう動けるようになりましたよ。感動です」
 俺は痛みから解放された喜びと、魔法の興奮でその場でピョンピョンと飛び跳ねた。

 「油断したねホズマくん、ちょっと張り切り過ぎたんじゃない」
 エレナが笑顔で肩を叩いてくれた。
 「そうみたいっす」
 俺は苦笑いでそう返した。

 なんでだろ、オークの時は気持ちよく討伐できたのに。
 やっぱり油断したかな、調子乗るといつもそうなんだよな、動画撮影でも痛い目を見てきたのに、見てもらいたいって思うと興奮して後先考えなくなる癖は転生しても消えないな。気をつけなきゃ。

 「次は頼むぜホズマ」
 「了解っす」


 数時間後。

 「役立たず」
 「足手まとい」
 「詐欺師かよ」
 「無能め」
 「あんただけの為の回復魔法じゃないのよ」
 「おまけに自意識過剰」
 「生きるてる価値無しね」
 「お前をこのパーティから追放する」

 エルドもオドドアもローザも、あんなに優しかったエレナまでも、俺にありったけの罵詈雑言を浴びせてパーティから追い出した。
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