しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

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勇者降臨す

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 魔王城の大広間でルクス達が必死に戦っている。
 ボルトリアのような強力な結界がないから、異形がどんどん魔王城へと侵入してきて対応しきれない様子だ。すでに石化した魔物も多く、幹部の姿も少ない。
 魔法が効かない相手だから無理もない、へたすりゃ一瞬で全滅だ。
 けど、その交戦の中で、異様に目立つ影があった。

「あれは……」
 俺は思わず声を漏らす。
 白衣をひるがえし、長い髪を乱しながら異形を相手に立つ女。
 ライオネットだ。
 その手に握られていたのは剣でも杖でもなく──スタンガンだった。

 青白い光が火花を散らし、襲い来る異形の影を貫くたび、黒い肉片が光となって弾け飛ぶ。
「効いている……!」
 俺は思わず息を呑んだ。
 超電磁砲じゃなくて、スタンガン単体でも有効だったのか。

「……魔法は効かないはずだが……」
 隣に居たクレアが息をのむ。
「あれは魔法じゃない、俺が出した家電だ」
「家電……その魔道具は電次郎殿しか動かせないはずじゃ」
 あの様子だと、俺たちが来る前からスタンガンで応戦していたようだ。そう考えるとクレアの言葉通り、電力の供給源がなかったはず。なんで動いているんだろう。

「純粋な“電気”なら……あの異形を焼き払えます」
 その声に振り向くと、そこにはいつの間にかステラが立っていた。
「電次郎さんが来たと言うことは、私たちもスタンガンが使える。すぐに沢山のスタンガンを出してください」
 ステラは肩で息をしながら俺の腕を掴む。
 「分かった」
 ライオネットのことは後回しだ。
 俺はステラの言うとおりにありったけのスタンガンを出し、みんなに配った。

 効果は絶大だった。電圧を受けた異形は悲鳴を上げるように消えていく。
 だけど、俺たちの劣勢は変わらなかった。
 倒しても倒しても、偉業は這い出てくる。

「キリがねぇな……」
 サンダルが弱音になった。
「貴様に背中を預けるとは……」
 サンダルと背中を合わせるインスーラも肩で息をしている。

「やっぱり雑魚は無視だ。あれをいくら倒したってきりがない。本体を叩くしかねぇ」
 俺は叫んだ。
 その言葉にルクスが振り返り、息を切らしながらも力強く頷いた。
「同感だ! 魔王軍も力を合わせよう!」
 よし、ちょうど良いことに、みんながスタンガンを持っている。
 ここにいる全員で超電磁砲をぶっぱなせば、あの巨体だってひとたまりもないだろう。

 その時だった。
 風が切り裂かれる音が響き、誰かの叫びが夜空に轟いた。

「──あれは、勇者ジオ・ヒューズ!」
 誰かがそう叫んだ。
 
 崩れた塔の上に立つひとつの影。
 白銀の鎧を纏い、背に巨大な剣を担いだ男がそこにいた。

「勇者……」
 クレアが肩の力を抜き、大きく息を吐いた。
「一安心だな……」
 サンダルでさえ、硬い表情を緩めていた。
 俺は思わず聞き返す。
「勇者……って、そんなにすげぇ奴なのか?」

 隣でフリッツが声を上げた。
「ドラゴンが束になっても敵わないって噂です!」
「なんだよ、それ……」俺は苦笑する。
 でも、確かに全員の顔には安堵が広がっていた。
 これだけはっきりとした希望を見たのは初めてかもしれない。

 勇者がゆっくりと剣を構える。
 その姿には絶対的な自信と、積み重ねられた実績の重みがあった。
 空気が震え、周囲の兵士たちが歓声を上げる。

 ──その瞬間だった。

 闇の海のような厄災の獣が、微かに蠢いた。
 ほんの一振り。
 腕とも尾ともつかない黒い影が、ただ横へ流れた。

 次の瞬間、勇者ジオの体は音もなく弾け飛び、灰と化して散った。

 誰も声を上げられなかった。
 剣が地に落ちる音だけが響き、燃え残った灰が夜風に舞った。

 希望は一瞬にして奪われた。
 誰よりも信じられていた存在が、まるで塵のように掻き消された。
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