しがない電気屋のおっさん、異世界で家電召喚ライフしてたら民から神格化され魔王から狙われる

長月 鳥

文字の大きさ
121 / 130

おっさん出発す

しおりを挟む
 城門の前。
 俺たちは、冷えた空気を切り裂くように立っていた。

 「……おじさま、わたくしも」
 エネッタが震える声で呟く。
 その背後には王様が立っていて、険しい表情で娘の肩を押さえていた。

 「お前はここに残れ、エネッタ」
 「……また監禁ですか? お父様、わたくしもみなの役に……」
 エネッタの言葉を遮るように王様は首を横に振った。
 「伝えたであろう……」
 王の低い声は、いつもよりもさらに重かった。

 エネッタは唇を噛み、俯いた。その指先は白くなるほど強く握られている。俺は何か声をかけようとしたが、結局言葉は見つからなかった。
 王様が言いたかったのは、きっとミカちゃんのことだろう……守るべき者たちのため、誰かが導かないといけない、それが姫様の肩に乗っているということ……。

 「すまぬ、電のじ。わしも共に行ければよかったのじゃが……この結界が崩れれば、城下は一瞬で異形に呑まれてしまう」
 「分かってるよ、ミカちゃん。ここは任せた」
 俺は拳を軽く突き出した。ミカは細い手でそれを受け止め、小さく笑った。

 「必ず帰ってこいよ」
 その言葉に、胸が熱くなる。
 「もちろんだ」
 帰ったら今度はミカちゃんを外に連れ出す。
 今は言葉にできないけれど、必ず。

 ジェダくんが乗せられるのは、せいぜい五人だろう。
 超電磁砲の威力も、六人くらいの人手は欲しい。
 クレアに相談すると、騎士団員を一人貸してくれるとのことだった。
 「お供させていただきます。フリッツ・ワットです」
 懐かしい顔だった。
 クレアと二人で、コイルの村の危機を救ってくれた若者だ。
 初めは頼りない感じだったが、見ないうちにずいぶんと逞しくなったな。心強い。

 討伐隊が揃うと、ジェダくんが一歩前に出る。そして、その身体を黒い光が包んだ。骨が軋むような音とともに、巨大な影が地を覆う。次の瞬間、そこに現れたのは鱗に覆われた紅の竜だった。
 「乗ってください。魔王城まで一気に行きます」

 俺たちはジェダくんの背にまたがった。クレアが騎士らしい所作で真っ先に乗り、シービーは必死に尻尾を掴みながらよじ登る。サンダルは無言で腰を落とし、俺はその中央に座った。フリッツも黙って隅に収まる。

 竜が翼を広げた瞬間、地面に亀裂が走り、強風が吹き荒れる。次の瞬間、俺たちは宙に浮かび、夜の空を切り裂いていた。


 下を見下ろすと、世界はもはや地獄そのものだった。
 城下から遠くに広がる草原は、黒い靄に覆われている。無数の異形がうごめき、互いに絡み合いながら地を蝕んでいた。その光景は、まるで大地そのものが腐り果てているようだ。

 「……まるで、地上を食い荒らしているみたいだな」俺は呟いた。
 サンダルが険しい声で答える。
 「急ごう、この大陸すべてが闇に沈んじまう」
 クレアが唇を噛み、シービーは目を覆った。

 空ですら安全ではなかった。黒い羽を持つ異形が群れを成して襲い掛かってくる。
 「来るぞ!」ジェダの咆哮。
 俺は即座に腰からスタンガンを引き抜き、スイッチを入れた。青白い光が闇に弾ける。
 サンダルの剣が閃き、クレアの槍が閃光を描く。シービーは火の粉を撒き散らし、竜の背から応戦した。

 だが、どれだけ斬り払っても、次から次へと湧き出してくる。
 「キリがねぇ……!」
 俺の叫びに、サンダルも歯を食いしばる。
 「本体を絶たねば、何度でも増える……」

 それでも竜の速度は衰えなかった。黒雲を突き抜け、稲妻の中を駆け抜け、やがて彼方に漆黒の城が見えてくる。魔王城だ。

 その周囲もまた、地獄と化していた。
 崩れた城壁に異形が群がり、塔の上からは魔王軍の兵たちが必死に応戦している。炎と雷光が夜空を裂き、悲鳴と咆哮が交錯する。

 「魔王様っ……!」シービーが叫んだ。
 確かに、城門前ではルクスを先頭にした魔王軍が必死に防戦していた。だが敵は減らない。
 そしてその背後──闇を切り裂くように、あの“厄災の獣”が姿を現した。

 巨大。
 ただそれだけの言葉で足りる。
 城をも超える巨躯が蠢き、その身から溢れる闇が大地を腐らせている。目も口もなく、ただ形容し難い影の塊。世界を喰らうためだけに存在するような異形の王。

 俺の喉が鳴った。恐怖で言葉が出ない。だが、背中に仲間の気配を感じる。
 クレアが剣を握りしめ、サンダルは竜の背で歯を食いしばり、シービーは涙をこぼしながら魔王城を見据えている。フリッツもただ沈黙しながら必死にしがみついていた。

 「──行くぞ」
 俺は呟いた。震えは止まらない。けれど、逃げる理由はどこにもなかった。

 ジェダくんの竜翼が再び空を裂き、俺たちは魔王城へと降り立つ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~

於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。  現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!  の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては…… (カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています) (イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)

異世界に転生したので幸せに暮らします、多分

かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。 前世の分も幸せに暮らします! 平成30年3月26日完結しました。 番外編、書くかもです。 5月9日、番外編追加しました。 小説家になろう様でも公開してます。 エブリスタ様でも公開してます。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者

哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。 何も成し遂げることなく35年…… ついに前世の年齢を超えた。 ※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。 ※この小説は他サイトにも投稿しています。

異世界ほのぼの牧場生活〜女神の加護でスローライフ始めました〜』

チャチャ
ファンタジー
ブラック企業で心も体もすり減らしていた青年・悠翔(はると)。 日々の疲れを癒してくれていたのは、幼い頃から大好きだったゲーム『ほのぼの牧場ライフ』だけだった。 両親を早くに亡くし、年の離れた妹・ひなのを守りながら、限界寸前の生活を続けていたある日―― 「目を覚ますと、そこは……ゲームの中そっくりの世界だった!?」 女神様いわく、「疲れ果てたあなたに、癒しの世界を贈ります」とのこと。 目の前には、自分がかつて何百時間も遊んだ“あの牧場”が広がっていた。 作物を育て、動物たちと暮らし、時には村人の悩みを解決しながら、のんびりと過ごす毎日。 けれどもこの世界には、ゲームにはなかった“出会い”があった。 ――獣人の少女、恥ずかしがり屋の魔法使い、村の頼れるお姉さん。 誰かと心を通わせるたびに、はるとの日常は少しずつ色づいていく。 そして、残された妹・ひなのにも、ある“転機”が訪れようとしていた……。 ほっこり、のんびり、時々ドキドキ。 癒しと恋と成長の、異世界牧場スローライフ、始まります!

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

処理中です...