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おっさん出発す
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城門の前。
俺たちは、冷えた空気を切り裂くように立っていた。
「……おじさま、わたくしも」
エネッタが震える声で呟く。
その背後には王様が立っていて、険しい表情で娘の肩を押さえていた。
「お前はここに残れ、エネッタ」
「……また監禁ですか? お父様、わたくしもみなの役に……」
エネッタの言葉を遮るように王様は首を横に振った。
「伝えたであろう……」
王の低い声は、いつもよりもさらに重かった。
エネッタは唇を噛み、俯いた。その指先は白くなるほど強く握られている。俺は何か声をかけようとしたが、結局言葉は見つからなかった。
王様が言いたかったのは、きっとミカちゃんのことだろう……守るべき者たちのため、誰かが導かないといけない、それが姫様の肩に乗っているということ……。
「すまぬ、電のじ。わしも共に行ければよかったのじゃが……この結界が崩れれば、城下は一瞬で異形に呑まれてしまう」
「分かってるよ、ミカちゃん。ここは任せた」
俺は拳を軽く突き出した。ミカは細い手でそれを受け止め、小さく笑った。
「必ず帰ってこいよ」
その言葉に、胸が熱くなる。
「もちろんだ」
帰ったら今度はミカちゃんを外に連れ出す。
今は言葉にできないけれど、必ず。
ジェダくんが乗せられるのは、せいぜい五人だろう。
超電磁砲の威力も、六人くらいの人手は欲しい。
クレアに相談すると、騎士団員を一人貸してくれるとのことだった。
「お供させていただきます。フリッツ・ワットです」
懐かしい顔だった。
クレアと二人で、コイルの村の危機を救ってくれた若者だ。
初めは頼りない感じだったが、見ないうちにずいぶんと逞しくなったな。心強い。
討伐隊が揃うと、ジェダくんが一歩前に出る。そして、その身体を黒い光が包んだ。骨が軋むような音とともに、巨大な影が地を覆う。次の瞬間、そこに現れたのは鱗に覆われた紅の竜だった。
「乗ってください。魔王城まで一気に行きます」
俺たちはジェダくんの背にまたがった。クレアが騎士らしい所作で真っ先に乗り、シービーは必死に尻尾を掴みながらよじ登る。サンダルは無言で腰を落とし、俺はその中央に座った。フリッツも黙って隅に収まる。
竜が翼を広げた瞬間、地面に亀裂が走り、強風が吹き荒れる。次の瞬間、俺たちは宙に浮かび、夜の空を切り裂いていた。
下を見下ろすと、世界はもはや地獄そのものだった。
城下から遠くに広がる草原は、黒い靄に覆われている。無数の異形がうごめき、互いに絡み合いながら地を蝕んでいた。その光景は、まるで大地そのものが腐り果てているようだ。
「……まるで、地上を食い荒らしているみたいだな」俺は呟いた。
サンダルが険しい声で答える。
「急ごう、この大陸すべてが闇に沈んじまう」
クレアが唇を噛み、シービーは目を覆った。
空ですら安全ではなかった。黒い羽を持つ異形が群れを成して襲い掛かってくる。
「来るぞ!」ジェダの咆哮。
俺は即座に腰からスタンガンを引き抜き、スイッチを入れた。青白い光が闇に弾ける。
サンダルの剣が閃き、クレアの槍が閃光を描く。シービーは火の粉を撒き散らし、竜の背から応戦した。
だが、どれだけ斬り払っても、次から次へと湧き出してくる。
「キリがねぇ……!」
俺の叫びに、サンダルも歯を食いしばる。
「本体を絶たねば、何度でも増える……」
それでも竜の速度は衰えなかった。黒雲を突き抜け、稲妻の中を駆け抜け、やがて彼方に漆黒の城が見えてくる。魔王城だ。
その周囲もまた、地獄と化していた。
崩れた城壁に異形が群がり、塔の上からは魔王軍の兵たちが必死に応戦している。炎と雷光が夜空を裂き、悲鳴と咆哮が交錯する。
「魔王様っ……!」シービーが叫んだ。
確かに、城門前ではルクスを先頭にした魔王軍が必死に防戦していた。だが敵は減らない。
そしてその背後──闇を切り裂くように、あの“厄災の獣”が姿を現した。
巨大。
ただそれだけの言葉で足りる。
城をも超える巨躯が蠢き、その身から溢れる闇が大地を腐らせている。目も口もなく、ただ形容し難い影の塊。世界を喰らうためだけに存在するような異形の王。
俺の喉が鳴った。恐怖で言葉が出ない。だが、背中に仲間の気配を感じる。
クレアが剣を握りしめ、サンダルは竜の背で歯を食いしばり、シービーは涙をこぼしながら魔王城を見据えている。フリッツもただ沈黙しながら必死にしがみついていた。
「──行くぞ」
俺は呟いた。震えは止まらない。けれど、逃げる理由はどこにもなかった。
ジェダくんの竜翼が再び空を裂き、俺たちは魔王城へと降り立つ。
俺たちは、冷えた空気を切り裂くように立っていた。
「……おじさま、わたくしも」
エネッタが震える声で呟く。
その背後には王様が立っていて、険しい表情で娘の肩を押さえていた。
「お前はここに残れ、エネッタ」
「……また監禁ですか? お父様、わたくしもみなの役に……」
エネッタの言葉を遮るように王様は首を横に振った。
「伝えたであろう……」
王の低い声は、いつもよりもさらに重かった。
エネッタは唇を噛み、俯いた。その指先は白くなるほど強く握られている。俺は何か声をかけようとしたが、結局言葉は見つからなかった。
王様が言いたかったのは、きっとミカちゃんのことだろう……守るべき者たちのため、誰かが導かないといけない、それが姫様の肩に乗っているということ……。
「すまぬ、電のじ。わしも共に行ければよかったのじゃが……この結界が崩れれば、城下は一瞬で異形に呑まれてしまう」
「分かってるよ、ミカちゃん。ここは任せた」
俺は拳を軽く突き出した。ミカは細い手でそれを受け止め、小さく笑った。
「必ず帰ってこいよ」
その言葉に、胸が熱くなる。
「もちろんだ」
帰ったら今度はミカちゃんを外に連れ出す。
今は言葉にできないけれど、必ず。
ジェダくんが乗せられるのは、せいぜい五人だろう。
超電磁砲の威力も、六人くらいの人手は欲しい。
クレアに相談すると、騎士団員を一人貸してくれるとのことだった。
「お供させていただきます。フリッツ・ワットです」
懐かしい顔だった。
クレアと二人で、コイルの村の危機を救ってくれた若者だ。
初めは頼りない感じだったが、見ないうちにずいぶんと逞しくなったな。心強い。
討伐隊が揃うと、ジェダくんが一歩前に出る。そして、その身体を黒い光が包んだ。骨が軋むような音とともに、巨大な影が地を覆う。次の瞬間、そこに現れたのは鱗に覆われた紅の竜だった。
「乗ってください。魔王城まで一気に行きます」
俺たちはジェダくんの背にまたがった。クレアが騎士らしい所作で真っ先に乗り、シービーは必死に尻尾を掴みながらよじ登る。サンダルは無言で腰を落とし、俺はその中央に座った。フリッツも黙って隅に収まる。
竜が翼を広げた瞬間、地面に亀裂が走り、強風が吹き荒れる。次の瞬間、俺たちは宙に浮かび、夜の空を切り裂いていた。
下を見下ろすと、世界はもはや地獄そのものだった。
城下から遠くに広がる草原は、黒い靄に覆われている。無数の異形がうごめき、互いに絡み合いながら地を蝕んでいた。その光景は、まるで大地そのものが腐り果てているようだ。
「……まるで、地上を食い荒らしているみたいだな」俺は呟いた。
サンダルが険しい声で答える。
「急ごう、この大陸すべてが闇に沈んじまう」
クレアが唇を噛み、シービーは目を覆った。
空ですら安全ではなかった。黒い羽を持つ異形が群れを成して襲い掛かってくる。
「来るぞ!」ジェダの咆哮。
俺は即座に腰からスタンガンを引き抜き、スイッチを入れた。青白い光が闇に弾ける。
サンダルの剣が閃き、クレアの槍が閃光を描く。シービーは火の粉を撒き散らし、竜の背から応戦した。
だが、どれだけ斬り払っても、次から次へと湧き出してくる。
「キリがねぇ……!」
俺の叫びに、サンダルも歯を食いしばる。
「本体を絶たねば、何度でも増える……」
それでも竜の速度は衰えなかった。黒雲を突き抜け、稲妻の中を駆け抜け、やがて彼方に漆黒の城が見えてくる。魔王城だ。
その周囲もまた、地獄と化していた。
崩れた城壁に異形が群がり、塔の上からは魔王軍の兵たちが必死に応戦している。炎と雷光が夜空を裂き、悲鳴と咆哮が交錯する。
「魔王様っ……!」シービーが叫んだ。
確かに、城門前ではルクスを先頭にした魔王軍が必死に防戦していた。だが敵は減らない。
そしてその背後──闇を切り裂くように、あの“厄災の獣”が姿を現した。
巨大。
ただそれだけの言葉で足りる。
城をも超える巨躯が蠢き、その身から溢れる闇が大地を腐らせている。目も口もなく、ただ形容し難い影の塊。世界を喰らうためだけに存在するような異形の王。
俺の喉が鳴った。恐怖で言葉が出ない。だが、背中に仲間の気配を感じる。
クレアが剣を握りしめ、サンダルは竜の背で歯を食いしばり、シービーは涙をこぼしながら魔王城を見据えている。フリッツもただ沈黙しながら必死にしがみついていた。
「──行くぞ」
俺は呟いた。震えは止まらない。けれど、逃げる理由はどこにもなかった。
ジェダくんの竜翼が再び空を裂き、俺たちは魔王城へと降り立つ。
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