6 / 130
副団長困惑す
しおりを挟む
♦-/-/-//-/-ボルトリア騎士団:副団長クレア・ヴォルト視点/--/-/-/--/♦
コイルの村に到着した時点で、私はある程度の予測を立てていた。
それは、コイルの村から発せられる魔力の渦にある。
フリッツもそうだが、鍛錬を怠っている者、魔力に精通していない者には感知できないかもしれないが、これだけ強大な魔力を制御もせず垂れ流していれば、危険この上ない。
おそらく、あの魔道具を使ったのも、そいつだろう。
一体どんな奴なんだ?
まさか、魔物か?
いや、もしかすると──もう既に、コイルの村は魔物によって……。
「急ぐぞ、フリッツ!」
「へ? どうかしたんですか?」
「村が魔物の危険に晒されている可能性がある。あるいは魔王軍の残党かもしれん……」
「魔王軍? 勇者ジオ・ヒューズの制圧で、あいつら大人しくしてるはずじゃ?」
「大人しくなっているだけだ。またいつ動き出すか分からん。用心するに越したことはない」
この嫌な予感が、ただの杞憂であればいいが……。
村に着いた私は、愕然とした。
「まったくもって平和そうですね、副団長」
フリッツの皮肉めいた声が耳に付いた。
確かに、村は平和そのもの。いや、むしろ他の村よりも活気に満ちている。
どうしてだ?
「おいコラ、ガキどもぉー、エルナん家を汚すんじゃないよー。まったく……。まぁ楽しいのは良いことなんだけどさぁ、掃除する身にもなってくれよなぁ」
そんな嘆きが聞こえた方に目を向けると、一人の男が魔法を使った。
しかも、かなり高度な召喚魔法だ。
何もない空間から現れた“それ”は、子供たちが汚した家の前のウッドデッキを、みるみるうちに綺麗にしていく。
まるで、泥を吸い取るように──いや、実際に吸っていた。
素晴らしい魔道具だ……家に一台欲しいくらいだ。
──いや、感心している場合ではない。
あいつだ。
魔力を垂れ流している張本人。
「失礼、あなたはこの村の住人ですか?」
角が立たないように、静かに尋ねる。
「へ? 俺……違うけど」
男の年齢は、中年よりやや若く見える。かつて鍛えていた名残か、がっしりした肩幅に、やや緩みのある体型。 顎には整えられた髭。柔らかな目元には、不思議と安心感がある。 まるで、どこかで会ったことがあるような。そう、例えるなら近所のおじさんのような懐かしさすら感じさせた。
「では、どこから来た」
魔物が人間に化けている可能性もある。返答次第では、この場で──。
「えーと、地球ってとこから来たけど……わかんねぇよな。俺だってまだよく分かってねぇんだよ。すまねーな、ねーちゃん」
チキュウ? 聞いたことのない地名だ。
嘘をついているようには見えない。少なくとも、魔王領ではなさそうだ。
「ここで何をしている?」
「何って、飯食って、働いて、寝てるだけだよ。あ、そうだ。おにぎり余ってるけど、食うか? ってあれ? ねーちゃん誰だっけ? 会ってない村の人、まだいたんだな」
おにぎり? この白いふわふわした物体を食べるというのか?
「おっちゃん、それ俺が食べるー!」
近くで遊んでいた子供が、おにぎりを奪って口に放り込んだ。
実に美味しそうに食べている。大丈夫なのか……?
ぐぅぅ~。
──しまった。王都を出てから、まだ何も口にしていなかった。
「……まだあるぞ、ねーちゃん。どうだ? うめーぞ、俺の塩にぎりは」
くっ、なんという香り……。
粒の一つ一つが艶やかで、宝石のように輝いている。
子供が食べても平気そうだ。ならば……。
「かたじけない」
「おいおい、大丈夫かよ副団長……ったく不用心なとこあるよな~」
フリッツの小言を無視した。
私は人間だ。そして空腹では、いざというときに動けない。
おにぎりとやらを、恐る恐る口に運んだ。
「うっ……」
「どうだ? うめぇだろ?」
──なんという味だ。
これまでの人生で味わったことのない、美味。
口いっぱいに広がる甘み、そして後からじんわりくる塩気。
それらが見事に調和し、私の味覚は崩壊していく。
この男、一体何者なのだ。
汚れを一瞬で一掃し、信じられないほど美味しい料理を作り出す。
……こんな男が私の伴侶なら、家のことを任せて、私は騎士道に専念できる──
いかん、副団長としてあるまじき妄想だ。
私の心を乱す不届き者め。
「きゃああああっ!」
──そのとき、村の奥から悲鳴が響いた。
仲間がいたか? 正体を現したな、魔物め──!
______________________
お読みいただき、ありがとうございます。
みなさまの応援やブックマークが、電次郎のやる気スイッチに直結しております。
これからも、さまざまな家電を駆使して活躍する電次郎を、どうぞよろしくお願いいたします。
【追記】あちらの世界でも企業案件、随時承り中です。
コイルの村に到着した時点で、私はある程度の予測を立てていた。
それは、コイルの村から発せられる魔力の渦にある。
フリッツもそうだが、鍛錬を怠っている者、魔力に精通していない者には感知できないかもしれないが、これだけ強大な魔力を制御もせず垂れ流していれば、危険この上ない。
おそらく、あの魔道具を使ったのも、そいつだろう。
一体どんな奴なんだ?
まさか、魔物か?
いや、もしかすると──もう既に、コイルの村は魔物によって……。
「急ぐぞ、フリッツ!」
「へ? どうかしたんですか?」
「村が魔物の危険に晒されている可能性がある。あるいは魔王軍の残党かもしれん……」
「魔王軍? 勇者ジオ・ヒューズの制圧で、あいつら大人しくしてるはずじゃ?」
「大人しくなっているだけだ。またいつ動き出すか分からん。用心するに越したことはない」
この嫌な予感が、ただの杞憂であればいいが……。
村に着いた私は、愕然とした。
「まったくもって平和そうですね、副団長」
フリッツの皮肉めいた声が耳に付いた。
確かに、村は平和そのもの。いや、むしろ他の村よりも活気に満ちている。
どうしてだ?
「おいコラ、ガキどもぉー、エルナん家を汚すんじゃないよー。まったく……。まぁ楽しいのは良いことなんだけどさぁ、掃除する身にもなってくれよなぁ」
そんな嘆きが聞こえた方に目を向けると、一人の男が魔法を使った。
しかも、かなり高度な召喚魔法だ。
何もない空間から現れた“それ”は、子供たちが汚した家の前のウッドデッキを、みるみるうちに綺麗にしていく。
まるで、泥を吸い取るように──いや、実際に吸っていた。
素晴らしい魔道具だ……家に一台欲しいくらいだ。
──いや、感心している場合ではない。
あいつだ。
魔力を垂れ流している張本人。
「失礼、あなたはこの村の住人ですか?」
角が立たないように、静かに尋ねる。
「へ? 俺……違うけど」
男の年齢は、中年よりやや若く見える。かつて鍛えていた名残か、がっしりした肩幅に、やや緩みのある体型。 顎には整えられた髭。柔らかな目元には、不思議と安心感がある。 まるで、どこかで会ったことがあるような。そう、例えるなら近所のおじさんのような懐かしさすら感じさせた。
「では、どこから来た」
魔物が人間に化けている可能性もある。返答次第では、この場で──。
「えーと、地球ってとこから来たけど……わかんねぇよな。俺だってまだよく分かってねぇんだよ。すまねーな、ねーちゃん」
チキュウ? 聞いたことのない地名だ。
嘘をついているようには見えない。少なくとも、魔王領ではなさそうだ。
「ここで何をしている?」
「何って、飯食って、働いて、寝てるだけだよ。あ、そうだ。おにぎり余ってるけど、食うか? ってあれ? ねーちゃん誰だっけ? 会ってない村の人、まだいたんだな」
おにぎり? この白いふわふわした物体を食べるというのか?
「おっちゃん、それ俺が食べるー!」
近くで遊んでいた子供が、おにぎりを奪って口に放り込んだ。
実に美味しそうに食べている。大丈夫なのか……?
ぐぅぅ~。
──しまった。王都を出てから、まだ何も口にしていなかった。
「……まだあるぞ、ねーちゃん。どうだ? うめーぞ、俺の塩にぎりは」
くっ、なんという香り……。
粒の一つ一つが艶やかで、宝石のように輝いている。
子供が食べても平気そうだ。ならば……。
「かたじけない」
「おいおい、大丈夫かよ副団長……ったく不用心なとこあるよな~」
フリッツの小言を無視した。
私は人間だ。そして空腹では、いざというときに動けない。
おにぎりとやらを、恐る恐る口に運んだ。
「うっ……」
「どうだ? うめぇだろ?」
──なんという味だ。
これまでの人生で味わったことのない、美味。
口いっぱいに広がる甘み、そして後からじんわりくる塩気。
それらが見事に調和し、私の味覚は崩壊していく。
この男、一体何者なのだ。
汚れを一瞬で一掃し、信じられないほど美味しい料理を作り出す。
……こんな男が私の伴侶なら、家のことを任せて、私は騎士道に専念できる──
いかん、副団長としてあるまじき妄想だ。
私の心を乱す不届き者め。
「きゃああああっ!」
──そのとき、村の奥から悲鳴が響いた。
仲間がいたか? 正体を現したな、魔物め──!
______________________
お読みいただき、ありがとうございます。
みなさまの応援やブックマークが、電次郎のやる気スイッチに直結しております。
これからも、さまざまな家電を駆使して活躍する電次郎を、どうぞよろしくお願いいたします。
【追記】あちらの世界でも企業案件、随時承り中です。
86
あなたにおすすめの小説
神様転生~うどんを食べてスローライフをしつつ、領地を豊かにしようとする話、の筈だったのですけれど~
於田縫紀
ファンタジー
大西彩花(香川県出身、享年29歳、独身)は転生直後、維持神を名乗る存在から、いきなり土地神を命じられた。目の前は砂浜と海。反対側は枯れたような色の草原と、所々にぽつんと高い山、そしてずっと向こうにも山。神の権能『全知』によると、この地を豊かにして人や動物を呼び込まなければ、私という土地神は消えてしまうらしい。
現状は乾燥の為、樹木も生えない状態で、あるのは草原と小動物位。私の土地神としての挑戦が、今始まる!
の前に、まずは衣食住を何とかしないと。衣はどうにでもなるらしいから、まずは食、次に住を。食べ物と言うと、やっぱり元うどん県人としては……
(カクヨムと小説家になろうにも、投稿しています)
(イラストにあるピンクの化物? が何かは、お話が進めば、そのうち……)
異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~
きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。
前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。
ギルドの片隅で飲んだくれてるおっさん冒険者
哀上
ファンタジー
チートを貰い転生した。
何も成し遂げることなく35年……
ついに前世の年齢を超えた。
※ 第5回次世代ファンタジーカップにて“超個性的キャラクター賞”を受賞。
※この小説は他サイトにも投稿しています。
40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私
とうとうキレてしまいました
なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが
飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした……
スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?
異世界転生~チート魔法でスローライフ
玲央
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる