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泣き虫ライミ告白す③(ライミ視点)
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おじさんとの演習試合から、数日──。
……わたしは今日も、物陰から、そっと奴の様子を観察している。
校庭の隅、植え込みの影に身を潜め、耳をすませる。 昼休みの学園はにぎやかで、奴は中央の広場のベンチで、なにやら魔道具のようなものを組み立てていた。
「あれ、また何か出してる……なんだろうあれは」
真昼の陽射しの中、おじさんがその魔道具にカラフルな果物と氷を入れて動作させると、スクリューのような部分が回り始め、シャリシャリと音を立てて中のものが混ざっていく。
できあがったピンク色の液体を、奴は紙コップに注いで皆に配っていた。
「うまっ」「冷たい! 最高!」
他のクラスの生徒たちが、きゃっきゃとはしゃいでいる。
「だろ? これスムージーミキサーっていうんだ。んで出来たのがスムージーな」
おじさんは自慢げに言った。
スムージー……冷たくて美味しいのか?
その横では、別の魔道具を顔にあてている女子生徒。
「あったか~い」「肌に良さそう~」「なんか頬っぺたがピチピチしてきた気がする」
魔道具からは蒸気のような煙が吹き出し、女子生徒の顔を覆っている。
「美顔スチーマーっていうんだ。温度はここで調整できる」
美顔……スチーマー? お肌に良い煙なのか?
おじさんの隣には、あの気弱なスイラン。ルームメイトになったとか言ってたな。
スイラン……あんなに笑う奴だったっけ?
「……あれって……ライミじゃね?」 「ほんとだ、あの陰からめっちゃこっち見てる……」 「えっ、しかもめっちゃ尻尾振ってない?」 「うわ、可愛い、ネコみたい……いやでもあれ、暴れ獣人のライミだよな?」
私の後から聞こえる声。
獣人の耳をなめるな、全部聞こえているぞ。
だけど……ただの雑音だ。 気にしない。
わたしは、ただ観察しているだけだ。
──おじさんは絶対に強さの秘密を隠している。
わたしにはわかる。あの演習場のとき、やろうと思えばいつでもわたしを倒せた。 なのに、自ら負けを選んだ。
その理由が知りたい。
おじさんには、きっと──人に言えない何かがある。
だから、わたしは見ている。 それを、知りたいから。
だけど、おじさんはあれから誰とも戦わない。
魔道具を他人のために使い、悩みを聞いたり、楽しませたり、癒したりしている。
そして、その中心にはいつも──自然と笑っている奴がいた。
喜びとは、勝利の先にあるものではないのか?
勝つことが生きている証じゃないのか?
他人が喜ぶことをして、自分になんの得があるというのだ?
──でも。
おじさんを見ているわたしの瞳は、涙を流すことを一切しなかった。
他人の笑顔が、こんなに綺麗だったなんて……今まで見て見ぬふりをしていた。
私も笑いたい。
戦うこと、勝つこと、負けること、その全てが悲しい理由……。
わたしは……きっと、その全てが、嫌い──
だめだ。 それは、わたしには許されない感情。
強くあれ。 誰よりも速く、誰よりも獲れ。 獣人族の誇りを背負う者として、泣くな、甘えるな、弱さを見せるな。
父も家族も、村のみんなも、それを口癖のように……。
「……ライミ」
突然、声をかけられて、ビクッと身体が跳ねた。
わたしのすぐそばに立っていたのは、いつの間にかそこにいたおじさんだった。
「なっ、何を──っ」
「なにしてんだ?」
「…………っ」
尻尾が暴れ出すのを必死で押さえながら、わたしは顔を赤くしてうつむいた。
「なんでも……ない」
「お前も飲むか? スムージー、美味いぞ」
「……飲まない」
くっ、物欲しそうにしていたことを感付かれたか? 不覚だ。
「そうか、そういや最近あんま決闘してないらしいじゃないか」
「……」
確かに、おじさんの観察に夢中で鍛錬を怠っていた。
「トレスから聞いたぞ。俺が来る前は、最低でも二日に一回は誰かとやり合ってたってな」
「……別に」
「もしかして、なんか悩みでもあんのか?」
「……別に」
「実はよ、お前に謝りたいことがあるんだ」
おじさんがかしこまって言った。
「勝負もせずに、俺の負けだとか言って悪かった」
「……」
「いかんせん元の世界の常識で行動しちまう。お前の気持ちも考えずにプライドを傷付けてしまったんじゃないかって反省しきりなんだ。どうすれば許してくれる」
「……もう一度、真剣に勝負しろ」
「分かった。だが、その前に俺の言うことも一つ聞いてくれねぇか?」
「なんだ? 負けたらお前の奴隷にでもなれっていうのか?」
なんだ、お前も汚い大人の一人だったということか、ぶっ潰してやる。
「これ、飲んでくれ」
「なっ……」
スムージー……みんなが美味しそうに飲んでいた液体。
特に女子生徒が喜んでいた。
これを、わたしに飲めと……。
凄く冷たいのだろう、コップが汗をかいている。
「にゃ……」
「にゃ?」
しまった。喉が鳴ってしまった。不覚だ。
「頼むよ、騙されたと思って飲んでくれ」
「そ……そこまで言うのなら……ちょっとくらい」
その日、
そのスムージーを飲んでから、
わたしの心は泣かなくなった。
……わたしは今日も、物陰から、そっと奴の様子を観察している。
校庭の隅、植え込みの影に身を潜め、耳をすませる。 昼休みの学園はにぎやかで、奴は中央の広場のベンチで、なにやら魔道具のようなものを組み立てていた。
「あれ、また何か出してる……なんだろうあれは」
真昼の陽射しの中、おじさんがその魔道具にカラフルな果物と氷を入れて動作させると、スクリューのような部分が回り始め、シャリシャリと音を立てて中のものが混ざっていく。
できあがったピンク色の液体を、奴は紙コップに注いで皆に配っていた。
「うまっ」「冷たい! 最高!」
他のクラスの生徒たちが、きゃっきゃとはしゃいでいる。
「だろ? これスムージーミキサーっていうんだ。んで出来たのがスムージーな」
おじさんは自慢げに言った。
スムージー……冷たくて美味しいのか?
その横では、別の魔道具を顔にあてている女子生徒。
「あったか~い」「肌に良さそう~」「なんか頬っぺたがピチピチしてきた気がする」
魔道具からは蒸気のような煙が吹き出し、女子生徒の顔を覆っている。
「美顔スチーマーっていうんだ。温度はここで調整できる」
美顔……スチーマー? お肌に良い煙なのか?
おじさんの隣には、あの気弱なスイラン。ルームメイトになったとか言ってたな。
スイラン……あんなに笑う奴だったっけ?
「……あれって……ライミじゃね?」 「ほんとだ、あの陰からめっちゃこっち見てる……」 「えっ、しかもめっちゃ尻尾振ってない?」 「うわ、可愛い、ネコみたい……いやでもあれ、暴れ獣人のライミだよな?」
私の後から聞こえる声。
獣人の耳をなめるな、全部聞こえているぞ。
だけど……ただの雑音だ。 気にしない。
わたしは、ただ観察しているだけだ。
──おじさんは絶対に強さの秘密を隠している。
わたしにはわかる。あの演習場のとき、やろうと思えばいつでもわたしを倒せた。 なのに、自ら負けを選んだ。
その理由が知りたい。
おじさんには、きっと──人に言えない何かがある。
だから、わたしは見ている。 それを、知りたいから。
だけど、おじさんはあれから誰とも戦わない。
魔道具を他人のために使い、悩みを聞いたり、楽しませたり、癒したりしている。
そして、その中心にはいつも──自然と笑っている奴がいた。
喜びとは、勝利の先にあるものではないのか?
勝つことが生きている証じゃないのか?
他人が喜ぶことをして、自分になんの得があるというのだ?
──でも。
おじさんを見ているわたしの瞳は、涙を流すことを一切しなかった。
他人の笑顔が、こんなに綺麗だったなんて……今まで見て見ぬふりをしていた。
私も笑いたい。
戦うこと、勝つこと、負けること、その全てが悲しい理由……。
わたしは……きっと、その全てが、嫌い──
だめだ。 それは、わたしには許されない感情。
強くあれ。 誰よりも速く、誰よりも獲れ。 獣人族の誇りを背負う者として、泣くな、甘えるな、弱さを見せるな。
父も家族も、村のみんなも、それを口癖のように……。
「……ライミ」
突然、声をかけられて、ビクッと身体が跳ねた。
わたしのすぐそばに立っていたのは、いつの間にかそこにいたおじさんだった。
「なっ、何を──っ」
「なにしてんだ?」
「…………っ」
尻尾が暴れ出すのを必死で押さえながら、わたしは顔を赤くしてうつむいた。
「なんでも……ない」
「お前も飲むか? スムージー、美味いぞ」
「……飲まない」
くっ、物欲しそうにしていたことを感付かれたか? 不覚だ。
「そうか、そういや最近あんま決闘してないらしいじゃないか」
「……」
確かに、おじさんの観察に夢中で鍛錬を怠っていた。
「トレスから聞いたぞ。俺が来る前は、最低でも二日に一回は誰かとやり合ってたってな」
「……別に」
「もしかして、なんか悩みでもあんのか?」
「……別に」
「実はよ、お前に謝りたいことがあるんだ」
おじさんがかしこまって言った。
「勝負もせずに、俺の負けだとか言って悪かった」
「……」
「いかんせん元の世界の常識で行動しちまう。お前の気持ちも考えずにプライドを傷付けてしまったんじゃないかって反省しきりなんだ。どうすれば許してくれる」
「……もう一度、真剣に勝負しろ」
「分かった。だが、その前に俺の言うことも一つ聞いてくれねぇか?」
「なんだ? 負けたらお前の奴隷にでもなれっていうのか?」
なんだ、お前も汚い大人の一人だったということか、ぶっ潰してやる。
「これ、飲んでくれ」
「なっ……」
スムージー……みんなが美味しそうに飲んでいた液体。
特に女子生徒が喜んでいた。
これを、わたしに飲めと……。
凄く冷たいのだろう、コップが汗をかいている。
「にゃ……」
「にゃ?」
しまった。喉が鳴ってしまった。不覚だ。
「頼むよ、騙されたと思って飲んでくれ」
「そ……そこまで言うのなら……ちょっとくらい」
その日、
そのスムージーを飲んでから、
わたしの心は泣かなくなった。
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